初対面の相手は、GLAYのサポートも務めたキーボーディスト
今回の会議には、これまでEeLに関わってこなかった新しい人物が加わります。ボーカルレコーディングのディレクションとコーディネートを担当するHAJIMETALです。
冒頭はRyoma Maeda以外全員が初対面で、あいさつから始まります。EeLは「本当に初めましてですね」と切り出し、HAJIMETALも「すいません。突然」と応じます。
Ryoma Maedaが、HAJIMETALの経歴を簡単に紹介します。かつてミドリというバンドでキーボードを担当し、今は音楽プロデューサーやメスコランサでの活動、ソロ楽曲などを手がけているといいます。
金子理江さんをフィーチャリングしたソロ楽曲「GIRI GAL 」はYouTubeで100万回以上再生されているとのこと。さらに、GLAYのライブサポートキーボーディストも務めた経歴が紹介されます。
Howeverのイントロとかを弾いたってことですよね、何万人の前で、、、
弾きましたね。それはやばかったですよ。めちゃめちゃ緊張しました。
そのHAJIMETALに、今回はEeLのボーカルレコーディングのディレクションと、収録まわりのコーディネートを依頼した。そうした経緯で、この日のミーティングが始まっています。
仮タイトル3曲、まず決める「録音する順番」
今回レコーディングするのは3曲です。呼びやすいように仮タイトルがつけられており、Sandouが作った「Minie」、坂本が作った「踊りましょう」、Ryoma Maedaが作った「ロマンティシズム」の3曲だといいます。
このうち「踊りましょう」だけは、坂本とのデュエットを想定しているとのこと。まず最初に確認するのは、どの曲から録音するかという順番です。
なんとなく俺の考えでは、(Minieが)一番歌いやすいので、これを最初に録った方がいいかなと思ってます。
Ryoma Maedaの案は、歌いやすい「Minie」から始め、一番歌いにくい「ロマンティシズム」を声が温まってから録り、坂本の録音もある「踊りましょう」を最後に回すという流れです。
ところがEeLは、順番そのものよりも「Minie」への不安を口にします。原因は、AIで作った仮歌バージョンと、自分がもともと歌いたいメロディの違いにありました。
(録音)順番は全然これでOKなんですけど、自信ないです。
AIの方を聴きながら練習しようと思うと、つられちゃって、元が自分が歌いたいやつとこっちとの間の、なんか変な感じになっちゃう。
Ryoma Maedaは、レコーディングでは仮歌なしのオケも渡してあると説明します。AIの歌が入ったバージョンは、迷ったときに聴く参考にとどめてよいとのことです。
「仮歌なし」でないと多分無理です。無理だし、「仮歌なし」でもちょっと自信がないから、もしかしたらちょっと時間かかっちゃうかもしれないです。
Ryoma Maedaは、それなら楽に歌えそうな曲から始めては、と提案します。しかしEeLの考えは逆で、一番不安なところを先に片づけたいというものでした。
逆にこの難問をクリアして、あとノっていくっていう。
最終的に、HAJIMETALが「本人が一番やりやすい順番でいいんじゃないですかね」と引き取ります。EeLは、順番は当初案のまま「ミニ」から始めると決めます。一番不安なところから手をつける、という判断です。
「Minie」のコーラスは、EeLと坂本で大人数の掛け声感を作る
曲が決まると、次はコーラスをどこで録るかの話に移ります。Ryoma Maedaは事前に全曲の歌詞とブロックを起こし、コーラスが必要そうな箇所を書き込んでいたといいます。
「Minie」で狙うのは、大人数で声を合わせる掛け声のような感じです。ハモリは不要で、同じメロディでよいものの、人数感は欲しいとのこと。
具体的には、左右に2個ずつと真ん中に2つで、EeLが6本重ねるイメージです。加えて、坂本の男性の声も2個ほどあると嬉しいと伝えます。
同じコーラスが後半にも出てきますが、わざわざ分けて録る必要はなく、前半で録ったデータをそのまま使い回すとのこと。ワンセクション録れていれば十分だといいます。
Sandouからのリクエストは、細かい指示よりも歌い方の空気に関するものでした。
歯切れよく歌っていただけたら、もうノリが生まれるんじゃないかなとは思いますけど。歌いやすいように歌ってくれたら大丈夫やと思います。
全体的に楽しい感じで。
AI仮歌とデモでメロディが違う問題を、どちらで歌うか
ここでEeLが、「Minie」のAメロについて悩みを持ち出します。もともとSandouから受け取ったデモのメロディと、AIが歌った仮歌のメロディが違うのです。
AIの方は、ちょっとノってる感なメロディーになってて。私がボーカルで歌おうとしてるやつだと、ワッショイ感が足りなくなっちゃうかもしれないから、どうしたらいいんだろうと思って。
Ryoma Maedaは、2つの譜割りの違いをその場で口ずさんで確認します。SandouのデモとAI仮歌では、ノリや譜割りが微妙にずれているようです。
ちょっとベタついてるよね。どっちが歌いやすいですか?
EeLは、自分で歌詞をつけたときからSandouのデモで歌ってきたため、本番もその感じで歌うつもりだと答えます。ただ、後半のワイワイ感が減るかもしれないと不安が残ります。
結論として、メロディはSandouのデモのものを採用することになりました。ノリはアレンジ側で調整できるからです。
Sandou君の方のメロでいいです。なんかアレンジでノリとかは変えられると思うんで。
さらにHAJIMETALは、具体的なレコーディングの進め方も提案します。曲全体を通しで録るのではなく、ブロックごとに分けて録る方法です。
一回そのレベル取りでサラッと歌ってもらって、セクションで一番スッと入れそうな、例えばサビやコーラスから先に取りますとかでやってもいいのかなと。
Ryoma Maedaも、EeLの歌はいつもブロックごとに録るパターンが多いと応じ、この進め方で合意します。
「ロマンティシズム」は歌い上げず、EeLのキャラのままで
続いて、Ryoma Maedaが作った「ロマンティシズム」に移ります。この曲のAI仮歌はかなり歌い上げていますが、EeLのキャラクター的にそれはできないため、あくまで参考でよいと確認します。
サビ前で声を伸ばしている箇所も、無理に忠実になぞる必要はなく、さらっと歌えばよいとのこと。加工は後から行う可能性があるといいます。
ハモリは、サビの頭の部分だけ入れる方針です。ハモリのメロディは別途考えて個別に渡すとのこと。人数は左右1本ずつで、後半の同じ箇所はワンブロック録って使い回します。
EeLの不安は、Ryoma Maedaが先回りして拾っていました。
不安な部分は前田くんが言ってくれてて、伸ばす声量が自信ないのと歌い上げれないのがあれだったんで、多分大丈夫です。
自分のキャラで大丈夫です。
HAJIMETALからは、ボーカルダブルの有無についての質問が出ます。Ryoma Maedaは、Bブロックだけダブルが欲しいと答え、サビの伸ばす箇所もダブルにすると決めます。
HAJIMETALは、当日スムーズに進めるために、ダブルなどの情報を事前に全曲分そろえておいてほしいと依頼します。Ryoma Maedaはメモに書いておくと応じました。
「踊りましょう」は坂本とのデュエット
3曲目は、坂本とのデュエットを想定した「踊りましょう」です。サビは基本的に坂本とEeLの2人が同じメロディで歌うイメージだといいます。
Aメロは、A1をEeL、A2を坂本が歌う構成です。HAJIMETALは、先にEeLが録り終えてから坂本が歌う流れで考えておくと確認します。
EeLは、曲の最後の転調部分について質問します。歌の上手い人がやるような、伸ばすフェイクを自分が入れるのかどうかという点です。
「どこの誰だか知らない女の子」の後、なんか伸ばしてみたいな感じのやつは、あれ私がファーみたいな感じで歌うってこと?
Ryoma Maedaは、慣れていないなら無しでもよいとしつつ、できたらやってほしいと伝えます。EeLは余裕があれば挑戦する構えです。
メロディは、坂本が歌った弾き語りバージョンのものに忠実に歌う方針です。構成は坂本版より短くなっているといいます。
ここでHAJIMETALが、この曲もAIが誇張したメロディがあるのかと確認します。EeLは、全曲で元のデモがあり、それに合わせて歌うと説明しました。
今回初めて。AIで渡されたから、自分でもどっちかわかんなくなってきちゃって。こういうやり方をしたことがなかったんで。
AIの仮歌が、かえって練習を難しくしていたことがうかがえます。キーは、EeLの希望で3種類渡されたうちの2番目に決定。坂本もオクターブを下げず、そのままのキーで歌える見込みだといいます。
ピッチよりニュアンス、4時間で3曲を録り切る段取り
曲ごとの方針が固まると、全体の時間配分の話になります。スタジオは4時間で押さえてあり、後ろに延ばすことも可能ですが、その分だけ費用がかかるといいます。
HAJIMETALの見立てでは、1曲あたり1時間ほどで4曲分、いや3曲を想定しつつ、1曲目はレベル取りや声の調子で時間がかかりがちだといいます。1曲目を越えれば、あとは階段を登るように進められるとのこと。
初めてEeLに関わるHAJIMETALは、判断の基準をあらかじめ知っておきたいと尋ねます。凝りすぎて抜け出せなくなるのを避けるためです。
ピッチよりもニュアンスが合ってればOKとか、そういうのが僕は初めて関わるので、ちょっと知っておきたいです。
EeLに関してはピッチよりもニュアンスかなと思います。そこまで正確なピッチはなくても大丈夫です。
ピッチの微調整は後からRyoma Maedaが処理するため、当日は良いテイクが一本まとまっていれば十分だという整理になりました。
録音の経緯についても補足されます。当初はスタビーレコードの島田さんのところで録る予定でしたが、機材トラブルで急遽HAJIMETALが手伝うことになり、スタジオの手配も依頼したといいます。
録音場所は、フィッシュマンズ ── 1990年代に活躍した日本のロックバンド。独自のダブやレゲエを取り込んだサウンドで、解散・メンバーの逝去後も国内外で高く評価されていますなども昔使っていた三軒茶屋のCROSS ROAD STUDIOに決定。スケジュールをすり合わせ、10月中旬ごろの録音となりました。
海外へ届くミドリの音楽
段取りが済むと、話はHAJIMETAL自身のことへ移ります。EeLは、連絡のやり取りが丁寧なHAJIMETALに感心し、これまでのメンバーにはいないタイプだと話します。
EeLがRyoma Maedaとの出会いを尋ねると、HAJIMETALはまずRyoma Maedaの兄World's end girlfriendと知り合い、その後「弟が新しいことを始める」という流れで知り合ったと説明します。Ryoma Maeda & Romantic Suicidersというバンドで一緒に活動した仲だといいます。
話題は、HAJIMETALがAIを積極的に使っていることにも及びます。この日のZoomの背景も、AIで生成したクリエイター風の部屋だったと明かされ、EeLは「最初、すごいところにいると思った」と驚きます。
AIも取り入れてますっていうのをちゃんとアピろうと思って。ちょっと括弧笑いも入れてるんで。
HAJIMETAL自身も、自分のバンドのデモやコンペ提出時にAIボーカルを活用しているとのこと。Ryoma Maedaを「積極的にAIを取り入れているのは、Ryoma Maedaかコーネリアスか」と評します。
さらにRyoma Maedaは、最初に話題に出たGLAYのライブに話を戻します。何万人もの観客の前で弾いた体験です。
一番最後にサポートしたのが幕張メッセのセンターステージで、Howeverのイントロを弾くっていうのは、多分人生で一番緊張したんじゃないですかね。
イヤモニ越しでもなんか聞こえてくるんですね。そのプレッシャーが。
もう一つ話題に上ったのが、HAJIMETALが以前やっていたミドリというパンクバンドです。20年近く前に解散したバンドですが、海外で局地的なファンコミュニティが今も残っているといいます。
驚いたのは、世界的アーティストのザ・ウィークエンドが来日時にミドリを聴いていたという出来事です。半年ほど前からInstagramのストーリーで使っていた形跡もあったといいます。
20年近く前に解散したバンドのことを未だに語り合ってるみたいな雰囲気があるぐらい。海外の人がなぜか解散してから知ってくれた。
Ryoma Maedaが「現代の(THE WEEKENDが)マイケルジャクソンみたいなもんじゃないですか」とたとえると、HAJIMETALも「まさか知ってるとは」と、いまだ信じきれない様子で応じました。
最後にHAJIMETALから告知があります。自身のバンド、メスコランサが11月8日に渋谷サイクロンでワンマンライブを行うとのこと。10年続くバンドで、今年のメンバーチェンジを機に活動を定期的なものにしたと話します。
会議は、EeLの「レコーディングを楽しみにして、頑張ります」という言葉で締めくくられます。初対面の雑談を通して、当日への期待が高まったやり取りでした。
まとめ
ボーカルレコーディングを前に、3曲それぞれの録音順、コーラスの人数、AI仮歌との付き合い方、キーや時間配分までを一つずつ確認する制作会議でした。初参加のHAJIMETALを迎え、実務的な段取りと、キャリアをめぐる雑談の両方が詰まった回になっています。
- 録音する3曲は「Minie」「ロマンティシズム」「踊りましょう」。EeLの希望で、一番不安な「Minie」から録り始めることになった
- AI仮歌とデモでメロディが食い違う問題は、デモのメロディを採用し、ノリはアレンジで調整する方針にまとまった
- EeLの歌は「ピッチよりニュアンス」が基準で、当日は良いテイクが一本まとまっていればよいと確認された
- 録音は10月中旬、フィッシュマンズも使ったクロスロードスタジオで、4時間・1曲1時間を目安に進める
- 雑談では、HAJIMETALがGLAYのサポートでHoweverのイントロを弾いた体験や、解散した緑がザ・ウィークエンドに届いた話が語られた


