あらゆる画像を不穏にするロゴ?
酒井さんが今回のテーマとして持ち出したのは、映画の作品そのものではなく、映画スタジオのA24です。島田さんも名前は聞いたことがあったといいます。
酒井さんによると、A24の作品だと気づかずに見ている人も多い一方で、冒頭に流れるロゴは印象的です。最近はXで、どんな画像でもA24のロゴを付けると不気味に見える、という遊びが広がっているそうです。
このマイクにもね、A24ロゴを足すと多分不気味、不気味なのか、なんかちょっと不穏な感じになるみたいな。
A24のロゴが「不穏さ」の記号として通じるほど、ブランドのイメージが浸透していることがうかがえるやり取りです。
セラノス事件のドキュメンタリーまで手がけるA24
酒井さんがA24に注目したきっかけの1つが、セラノス事件 ── 血液検査スタートアップのセラノスが、実現していない技術を掲げて巨額の資金を集めた事件。創業者は投資家への詐欺で有罪となりましたを扱うドキュメンタリーです。
酒井さんの説明では、エリザベス・ホームズは2003年、19歳でスタンフォード大学を中退してセラノスを創業しました。指先から採ったわずかな血液でさまざまな病気がわかるとうたい、高い企業価値がつきましたが、実際にはその技術は成り立っていなかったといいます。
ホームズはその後有罪判決を受け、2023年に服役しています。A24のドキュメンタリーは、本人が収監される前の姿を撮っているのではないか、と酒井さんは見ています。日本での公開時期はまだわからないそうです。
なんか、え、まじ一瞬ホラーかと思った、ドキュメンタリー。
酒井さんは、内容としてはホームズの弁明が多いのかもしれないとしつつ、「よく受けたよね」と驚きを口にします。島田さんも、めちゃくちゃ面白そうだと関心を示しました。
A24の話題はほかにもあります。最近はディオールとパートナーシップを組んだというニュースがあり、黄色い部屋が印象的な公開中の『バックルームズ』は酒井さんも鑑賞したといいます。
『ミッドサマー』からX三部作へ、二人が見たA24作品
島田さんがA24を初めて意識した作品は『ミッドサマー』でした。酒井さんも2019年に映画館で見たといい、監督はアリ・アスターです。
アリ・アスター監督は2018年にも『ヘレディタリー』を出しており、二人は「わりと連続して出している」と話します。ただし日本とアメリカで公開時期にずれがある可能性にも触れています。
島田さんが次に挙げたのは、『X』『パール』『マキシーン』のX三部作です。島田さんは「怖くて」と振り返り、酒井さんは主演の顔芸や、『パール』の最後の場面のすごさを挙げました。
「A24」の名前の由来と、金融出身の創業者
酒井さんは島田さんに、A24という名前の由来をクイズとして出します。島田さんは攻撃機の番号や24時間営業を連想しつつ、「イタリアの道路の名前らしい」と答えました。
酒井さんの説明によると、A24は映画の制作と配給を手がける、ニューヨーク発の会社です。テレビ向けの事業も行い、ニューヨークには自前の劇場もあるといいます。上場はしていません。
A24の創業は2012年で、『ミッドサマー』はその7年後です。買い付けた作品も含め、累計で100本ほどを手がけてきたそうです。酒井さんが調べた少し古い数字では、2023〜2024年ごろの年間売り上げは2〜3億ドル、日本円で数百億円規模です。
創業者は3人で、持ち分も創業者が多いといいます。そのうちの1人で名付け親とされるのがダニエル・カッツさんです。もともと映画のファイナンス部門のトップで、金融の知識を持つ人物だそうです。
酒井さんは、ダニエル・カッツさんの存在によって、A24がゴリゴリの制作会社ではなく、予算を低く抑えて当てにいく、ポートフォリオ的な運営をしているのではないかと見ています。初期は作家性の強い尖ったイメージがあり、今ではサブカルの代表格のような位置づけになっているといいます。
A24だから見に行くっていう人も多い。
島田さんも「ブランドとして確立している」と応じます。経営は3人が担い、監督は企画ごとに起用しているのではないか、というのが酒井さんの見立てです。
その例として酒井さんが挙げたのが『バックルームズ』です。監督は21歳ほどで、初めての映画制作だといいます。酒井さんは、セットの美術には費用をかけていても、キャスティングやCGにはそれほどかけていない印象だったと話しています。
『シビル・ウォー』『関心領域』から、タマゴッチが暴れる新作まで
A24作品をどれくらい見ているかと聞かれた島田さんは、『ミッドサマー』とX三部作のほかに、『エブエブ』を挙げました。酒井さんは『シビル・ウォー』『ムーンライト』『アフターサン』『関心領域』などを挙げます。
島田さんは、名前をよく聞く作品が多かったものの、それがA24の作品だとは認識していなかったといいます。冒頭で酒井さんが話した「気づかずに見ている人が多い」という状況を、島田さん自身が体現した形です。
酒井さんが今いちばん気になっているのは、アメリカでは公開済みで、日本ではクリスマスに公開されるという『Y2K』です。2000年問題 ── 西暦を下2桁で管理していたコンピューターが、2000年を1900年と誤認して誤作動するおそれがあるとされた問題を題材に、タマゴッチがキリングマシン化する内容だそうです。
酒井さんは、タマゴッチの商標の扱いがどうなっているのか不思議がります。そこから、著作権が切れた『くまのプーさん』を使ったホラー映画が量産されているという話題にも広がりました。
興行収入÷製作費、『バックルームズ』は40倍
酒井さんによると、『ミッドサマー』の日本での興行収入は推計で7億円ほどです。島田さんは「そのくらいなんだ」と意外そうに受け止め、酒井さんは『X』はもっと低いのではないかと話します。
ここで酒井さんが紹介したのが、興行収入を製作費で割った倍率で映画の当たり具合を見る考え方です。配信やグッズの収入が含まれるかはわからないとしつつ、1倍ではライセンス料などを考えると実際はマイナスだろうと話しています。
その物差しで見ると、『バックルームズ』は突出しています。製作費は1000万ドル、日本円で15億円ほど。一方、興行収入は4億ドルを超え、日本円で600億円ほどになるといいます。
酒井さんは、4〜5倍ならよいほうだとしたうえで、40倍は「めちゃくちゃすごい」と強調します。一方、酒井さんが日本のポップアップにも行った『スマッシング・マシーン』は、正確な数字ではないとしつつ1倍を割っているようだと話しています。
当たり外れが読めない映画で、どう事業計画を立てるのか
酒井さんが倍率にこだわった理由は、映画やゲームの会社が、当たり外れの読めない作品でどう事業計画を立てているのかに興味があるからです。
酒井さんによれば、『スパイダーマン』のようなシリーズ作品なら過去の実績から目安が立ち、それに合わせてプロモーション費や製作費を配分できます。一方、新しい作品は変動が大きく、計画の立て方が見えにくいといいます。アニメの製作委員会方式にも話は及びましたが、そこは深掘りしていないとしています。
A24の場合は、とにかく予算をできる限り抑え、若手監督を起用するやり方だと酒井さんは見ています。『バックルームズ』のケイン・パーソンズ監督も、もともとは都市伝説のバックルームズを題材にしたオリジナル動画をYouTubeに上げていたそうです。
それでもA24にとって新人監督の起用は博打だ、という見方が二人の間で出ます。A24ファンの底支えがあっても、外れる可能性は残るからです。インディペンデントで尖ってやっていくなら、外れも覚悟のうえという心意気なのかもしれない、と話は続きます。
A24は尖った実験をしつつ、ディオールとの提携のような展開も見せています。今後はブラッド・ピットやキアヌ・リーブスが主演する作品も控えていると酒井さんは紹介し、大作化していくのかという話題も出ました。
会員制度「AAA24」とグッズが支えるファンダム
A24にはファンダムを支える会員制度があり、名前は「AAA24」です。「オールアクセスA24」を意味し、2020年ごろから会員限定グッズなどを展開しているといいます。
酒井さんによると、AAA24にはショップ割引やSNSの特典などがあるようです。日本ではアプリなどは提供されていないかもしれない、とも話しています。
酒井さんは、A24の作品は画力が強く、不気味さを美しくクリエイティブに落とし込んでいるため、インスタ映えするといいます。そのためグッズや会員の収入も大きいのではないか、という見立てです。
酒井さん自身も、日本のイラストレーターが公認で手がけた『ミッドサマー』のTシャツを思わず買ったそうです。A24というブランドのグッズと作品ごとのグッズがあり、100作品ほどあることから、グッズは無限に作れると二人は話します。
さらにA24は劇場運営に加え、音楽も手がけているようです。具体的な内容はわからないとしつつ、A24の名前がこれだけ強ければ、所属アーティストが出てくる可能性もあると話しています。
酒井さんはここまでの話を、A24なりの「勝ちパターン」としてまとめます。
低予算
製作費を抑え、若手監督も起用する
口コミ
画力の強い作品がSNSで広がる
ファンダム
会員制度やグッズでファンを強くする
ブランド
「A24だから見る」人が増える
酒井さんは、A24は作家性や尖りを大事にした「ちょっと違う」ブランドで、たまに盛大に外すこともあると話します。大手なら謝罪では済まない金額になるところですが、A24では外れもご愛嬌になります。エンタメは外すものだ、という酒井さんの言葉を受けて、島田さんはこう続けました。
イタリアの高速道路で決まった社名
話の最後に、序盤で出たA24の名前の由来が本当かどうかを確かめることになります。島田さんが調べた結果、イタリアの高速道路、Autostrada ── イタリア語で「高速道路」を意味する言葉。ドイツのアウトバーンにあたり、路線にはAと番号の名称が付けられていますのA24から取ったという話は合っていました。
酒井さんによると、会社を立ち上げると決めたとき、3人の創業者がイタリアの高速道路を走っていて、道路標識を見て「これだ」と決めたという逸話があるそうです。
いや、なんでイタリアなんだろうなって思って。
なぜイタリアだったのかは謎のまま、島田さんは「いつかカッツさんに聞いてみて」と笑います。島田さんは今後もA24に注目していきたいと話し、回は締めくくられました。
まとめ
A24は、2012年にニューヨークで生まれた制作・配給会社です。金融出身の創業者のもとで予算を抑え、若手監督の起用で尖った作品を世に出し、会員制度やグッズでファンダムを育ててきました。その結果、A24は「A24だから見る」と言われるブランドになっています。
- A24は制作・配給に加え、テレビ、劇場運営、音楽まで手がける非上場の映画スタジオ
- 名前の由来は、創業者3人が走っていたイタリアの高速道路A24
- 『バックルームズ』は製作費約1000万ドルに対し興行収入4億ドル超で、約40倍という突出した倍率
- 会員制度AAA24やグッズで、不穏で美しい世界観をファンダムにつなげている
- 外れも覚悟で挑戦できることが、大手にはないA24の強み




