テーマは「読むと後悔する怖い本」、3人は何を持ち寄った?
本つまみぐいラジオは、司会の幸あれこさん、イケハヤさん、しゅうへいさんの3人が、テーマに沿って本を1冊ずつ持ち寄って語る番組です。今回のテーマは「読むと後悔する怖い本」で、幸あれこさんは冒頭から少しテンションが下がっている様子でした。
本は買うけど一切読まない、そういう読書スタイルを貫いて、かれこれ36年です。
しゅうへいさんの自己紹介に対し、幸あれこさんが「今日も全部は読んでないけど紹介する」とツッコみ、イケハヤさんが「頑張って読んだ形跡がある」と返すなど、序盤はいつもの軽いかけ合いで始まります。
イケハヤさんは今回、例外的に3冊を持ってきました。理由は、紹介はしたいけれど中身は紹介したくない1冊があり、その1冊だけでは話ができないと考えたためです。
1冊本当に嫌で、紹介はしたいんだけど、中身を紹介したくない本があるから。だからこれ(その本)は最後にちょっと置いといて。
イケハヤさんが選んだのは、ヒグマによる三毛別羆事件 ── 1915年(大正4年)に北海道苫前村三毛別の開拓集落で起きた、ヒグマによる日本史上最悪とされる獣害事件を描いた『羆嵐』、北関東の幼女連続誘拐殺人を追った『殺人犯はそこにいる』、そして北九州の連続監禁殺人事件を扱った『消された一家』です。
ほかの2人の本も予告されました。しゅうへいさんは、元皇族の竹田さんが書いた『怨霊になった天皇』を持参し、崇徳天皇などの怨霊から天皇の裏の歴史が見えてくると話します。幸あれこさんは「この世で一番怖いのは人間」として、無意識の人間心理を扱う『隠れた脳』を選びました。
大正の北海道で起きた獣害、『羆嵐』はなぜ怖くて面白い?
イケハヤさんは「まずはライトに」と言いながら、『羆嵐』から紹介を始めます。題材の三毛別羆事件は、100年以上前の大正時代に北海道で起きた、史上最悪の獣害事件といわれる実話です。
イケハヤさんが本から紹介したヒグマの大きさは、体重340キロ、体長2.7メートル。スタジオの天井ほどの巨大なヒグマが、胎児を含めて7人の命を奪ったとされています。
イケハヤさんによると、三毛別羆事件は現地に資料館があるほど有名で、小説、漫画、映画、テレビドラマ、ドキュメンタリーにもなり、Wikipediaでも人気のページだといいます。
『羆嵐』の怖さとしてイケハヤさんが挙げたのは、ヒグマのしつこさです。一度襲って去ったと思ったら、夜になって再び現れ、一家を襲うということが2回、3回と繰り返されたといいます。
もうやっぱりその人の(肉の)味とか多分覚えてしまって、一回襲いかかっていなくなったと思ったらもう夜ブワーって来て一家皆殺しにするみたいな感じの。超怖い。
イケハヤさんは、事件の背景に北海道開拓の歴史があることにも触れます。人間が森の奥へ入り込んでいった開拓集落で、こうした生き物と向き合っていた当時の空気がリアルに伝わる点も、この本の価値だと話しています。
読み物としての面白さを支えているのが、最後にヒグマを仕留めた猟師の存在です。イケハヤさんは山本兵吉さんという猟師を、生涯で300頭ほどのヒグマを退治した伝説的な人物として紹介し、作中ではヒーローとして描かれていると話します。
一方で、イケハヤさんは「あれこさんは読まない方がいいかな」とも付け加えます。被害の様子が資料として残っているため描写はかなりリアルで、Wikipediaの記事ですら「ぶっちゃけグロい」といいます。
しゅうへいさんは、最近クマのニュースが多いことに触れ、四国はツキノワグマがほとんどおらず、身近なのはイノシシや猿だと話します。イケハヤさんも、ヒグマの話題が増えている今はある意味タイムリーな1冊かもしれないと締めくくりました。
警察より先に真犯人へ、『殺人犯はそこにいる』の著者は何をした?
2冊目の『殺人犯はそこにいる』は、ジャーナリストの清水さんによる事件ノンフィクションです。イケハヤさんは本の内容に入る前に、清水さんが以前に手がけた桶川ストーカー殺人事件 ── 1999年に埼玉県の桶川駅前で女子大学生が殺害された事件。被害者が事前に警察へ相談していた対応が問題視されたでの仕事を紹介します。
イケハヤさんによると、清水さんは週刊誌の記者として現地で調べ続け、警察よりも先に真犯人にたどり着きました。さらに、警察がストーカー被害の相談に取り合わなかったことも明らかにし、それがストーカー規制法の成立につながったといいます。
今ジャーナリストって多分そういう意味でいなくなっちゃってる(職業で)。この清水さんなんか本当にジャーナリストで、警察よりも先に真犯人にたどり着いたんですよ。
『殺人犯はそこにいる』は「調査報道のバイブル」と評される分厚い1冊で、足利事件 ── 1990年に栃木県足利市で女児が殺害された事件。逮捕された菅家利和さんは服役後、DNA再鑑定で2010年に再審無罪となったと深く関わっています。イケハヤさんは、菅家さんが17年間獄中にいたのちに無罪となった事件だと説明します。
清水さんが最初に気づいたのは、足利事件が5つある事件のうちの1つではないか、という点でした。同じエリアの短期間に、幼い女の子がパチンコ店で誘拐され、殺害されて河原に遺棄される事件が5件起きていたといいます。
どう考えてもこれ同一犯じゃないの?みたいな事件が5つ短期間であったんですね。でも、それ(5つの事件)はその当時、連続殺害事件として捉えられてなかったんです。
しかも、菅家さんが逮捕されたあとにも同様の事件が起きていたといいます。イケハヤさんは、ミステリー小説のように話が進んでいくのに、実話だから超怖い、とこの本の読み味を表現しました。
真犯人「ルパン」はなぜ野放しのままなのか?
『殺人犯はそこにいる』の中で清水さんは、通称「ルパン」と呼ばれる人物を真犯人らしい存在として突き止めています。イケハヤさんは、桶川事件で実際に警察より先に犯人を見つけた人の調査だからこそ、説得力が大きいと話します。
それでもルパンは捕まっていません。足利事件が冤罪だった以上、5人を殺害した犯人は今もどこかにいるはずだ、というのが本のタイトルの意味だとイケハヤさんは説明します。
捜査が進まない理由として本が示唆するのは、もう1つの冤罪の可能性です。イケハヤさんによると、連続事件として捜査を始めると、冤罪が強く疑われながら犯人とされた人がすでに死刑になった飯塚事件 ── 1992年に福岡県飯塚市で女児2人が殺害された事件。死刑が執行された元死刑囚について、遺族による再審請求が行われているとの関係が浮かび上がってしまうといいます。
足利事件の冤罪
菅家さんの無罪で、5件の幼女殺害の真犯人がいないことになる
ルパンの特定
清水さんの調査で、真犯人らしい人物が浮かぶ
飯塚事件への波及
連続事件として捜査すると、死刑執行済みの事件の冤罪にも及びかねない
捜査が動かない
取り返しがつかない間違いを認めることになるため、検察も動かない
この構図に、しゅうへいさんは「自分たちが間違ったってことを証明しないといけない」と理由を読み解きます。幸あれこさんは強く憤りました。
メンツなんかより真実だろう。間違ったんなら謝るだろう。私は信じられないよ。
イケハヤさんは、真実はわからないとしつつ、本自体もそうした憤りのトーンで書かれていると話します。本の結びでは、清水さんがルパンに向けて「お前の存在だけはここに書き残しておく」「逃げ切れるなどと思うな」と記していると紹介しました。
しゅうへいさんは、清水さんのような動きは組織の中ではできないかもしれないと指摘します。
文庫版は平成28年刊行で、菅家さんの無罪も比較的最近のニュースです。イケハヤさんは、真犯人が野放しで、捜査機関も動かないという現在進行形の怖さがある一方、グロテスクな描写はないので幸あれこさんでも読めるはずだと勧めています。清水さんの方法は、現地に行って地道に人の話を聞くことだといいます。
イケハヤさんが「本当に読まない方がいい」と言う『消された一家』
3冊目は、イケハヤさんが冒頭から「中身を紹介したくない」と話していた『消された一家―北九州・連続監禁殺人事件』です。多くの本を読んできたイケハヤさんが、一番嫌な気分になった本だといいます。
イケハヤさんは10年ほど前に読み、今回紹介するために買い直したそうです。ホラー耐性がありそうだと言うしゅうへいさんに対しても、この本は別物だと語ります。
イケハヤさんがかいつまんで説明した事件の概要は、よそから来た男が一家に入り込み、拷問などで家族を完全に支配し、家族同士で殺し合わせたというものです。資料が残っているため、殺害や拷問の様子も本の中でたどられているといいます。
(この本は)読めば読むほど、もう途中できつくなるでしょうね。普通に読まない方がいいけど、でもこれがマジの話だから。
犯人はすでに捕まっていて、イケハヤさんは「確か死刑になっているのでは」と話しています。犯人の名前は松永太と挙げられましたが、生い立ちよりも、一家を支配して殺し合わせた事実の強烈さが印象に残っているといいます。
それでもイケハヤさんは、純粋な悪意に触れること自体は経験になるとも語ります。この本で、本当にサイコパスがいると知ったといいます。
フィクションのホラーとノンフィクションの怖さは何が違う?
3冊を紹介し終え、幸あれこさんは「ノンフィクションだから怖い」と感想を漏らします。イケハヤさんも、ノンフィクションにはものによってフィクションとは「レベチ」の怖さがあると応じました。
| 本 | 題材 | イケハヤさんの評価 |
|---|---|---|
| 羆嵐 | 大正時代の三毛別羆事件 | 怖いが読み物として面白い。描写はグロい |
| 殺人犯はそこにいる | 北関東の幼女連続誘拐殺人と足利事件 | 名著。グロさはなく、未解決の怖さがある |
| 消された一家 | 北九州の連続監禁殺人事件 | 一番きつい。本当に読まない方がいい |
イケハヤさんは犯罪ノンフィクションが好きで、逆にフィクションのサスペンスは読まないそうです。実際にあった事件だからこそ興味を持ってしまう、というのが理由です。ただしホラー漫画も大好きで、いつかホラー漫画回をやりたいと話していました。
霊感の有無を聞かれたイケハヤさんは「全くない」と答え、ホラーは物語として純粋に面白いといいます。怖いものを見たあとにトイレやシャンプーができるかという幸あれこさんの質問にも、大人なので大丈夫だと答えました。
一方の幸あれこさんは、しゅうへいさんによると、Netflixで少し怖いものを見ただけで「トイレ、待ってて」と頼むそうです。幸あれこさんは、古民家のトイレまでの道が15メートルほどあり、獣道のようで一人では行きにくいのだと弁明しました。
しゅうへいさんがホラーなら作り話と割り切れるのでは、と聞くと、幸あれこさんは「ビジョンが膨らんでいく」ので割り切れないと答えます。最後にイケハヤさんは、3冊とも名著だが、特に『消された一家』はおすすめしないと念押ししました。
本当に読まない方がいいよ。これ(消された一家)は本当に読まない方がマジで煽りじゃなくて。
次回は、しゅうへいさんが『怨霊になった天皇』を紹介します。怨霊を歴史として暴く本で、読んだあと歴史観が変わり、日本史をまた勉強したくなったと予告しています。
まとめ
今回の3冊はいずれも実話を扱ったノンフィクションで、実際に起きたからこそ逃げ場のない怖さがある点が共通しています。獣害、未解決の冤罪、人間の悪意と、怖さの種類はそれぞれ異なります。
- 『羆嵐』は大正時代の三毛別羆事件を描き、開拓の歴史や伝説の猟師も含めて読み物として面白いが、描写はかなりリアル
- 『殺人犯はそこにいる』は、足利事件の冤罪の陰で真犯人「ルパン」が野放しになっている構図を、ジャーナリストの調査で追う
- 『消された一家』は、イケハヤさんが一番嫌な気分になったと語り、繰り返し「読まない方がいい」と念押しした1冊
- イケハヤさんはフィクションのサスペンスより犯罪ノンフィクション派で、ホラー漫画回の開催も話題に上った



