ボキャブラ・エンタ世代の挨拶合戦
信州ひねくれポップ第49話は、本題の都市論に入る前に、北爪さんの「入り口の一発ギャグ」をめぐるやり取りから始まります。北爪さんはお便りでネタが届くのを待っている状態で、自分からは言わないつもりだったと話します。
藤原さんは、リスナーからも北爪さんの挨拶ギャグを楽しみにしているという声があると伝えます。百瀬さんも「むしろみんなあれしか楽しみにしてないかもしれない」と重ね、撮り直しで北爪さんがとっさにひねり出したのが「三平です」でした。
必死にひねり出しましたね。
そこから、松本ハウスのハウス加賀谷さんの「加賀谷です」など、3人が若い頃に見ていたお笑い番組のネタへ話が広がります。北爪さんは、ボキャブラ天国やエンタの神様、レッドカーペットを見直して、やりたいネタを探すのもありだと話しています。
移住した友人の「やっぱり都市いいな」に共感した理由
この回のテーマ「都市論」は、藤原さんの友人のインスタグラム投稿がきっかけです。長野県に移住したその友人が、仕事で東京に行った際にビル群の写真をストーリーに上げ、「やっぱり都市いいな」とコメントしていました。
藤原さんはそれに強く共感し、いいねだけでなく「わかる」とコメントを送ったといいます。3人とも東京に住んでいた経験があるからこそ、改めていま都市に感じることを話したい、というのが藤原さんの提案です。
最初に話を振られたのは北爪さんです。藤原さんや百瀬さんと違い、北爪さんは仕事のために松本へ移住しており、松本そのものに惹かれて来たわけではありません。
北爪さんが松本でやっていけると思えた理由は、渋谷時代の過ごし方にありました。渋谷でやっていたのは、いつもの酒場で、会社とは関係のない常連たちと飲むことだったといいます。
そこで飲んでるっていうのができればもういいかなと思ったんです。それができる場所かどうかっていう。松本は。それがもうできたから。
一方で北爪さんは、上京当初の憧れも社会人になってからの東京も十分楽しんだうえで、最近の東京には物足りなさがあると話します。再開発で下北沢や渋谷の様子が変わり、桜丘あたりの小さな店もなくなってしまったからです。
もうよくわかんない街になっちまったなって。
「競争社会OS」と東京のベンチマーク
百瀬さんは、たまに東京へ行くと刺激が多く楽しいと話します。新しい店や流行っているもの、見たことのない建築物、さらには工事現場やビルの中まで、松本では得られないものが東京にはあるといいます。
藤原さんは自分の場合を「競争社会OS」という言葉で説明します。部活、受験、ベンチャー時代と、物心ついた頃から勝つか負けるかの感覚が常に走っていて、前のほうにいないといけないという強迫観念があるそうです。
(東京に)たまにやっぱ東京に行って、今新しいところっていうのはこういうことなんだってことを得て安心してるっていうか。
ほんとサプリみたいな感じ。
百瀬さんが「摂取してるんですね」と返すと、北爪さんも、東京に行くなら1日や2日ではなく1週間ほどかけていろいろ見て回りたいと話します。再開発で消えた店がある一方、学芸大学のあたりや山手線の北側など、新しくできた場所も多いからです。
北爪さんが特に見たいのは、銭湯やサウナ、コワーキングスペースなど、面白い人たちが関わっている新しい店です。インスタグラムでウォッチはしているものの、まだ実際には行ったことがないといいます。
藤原さんが「それは何の心理なのか」と尋ねると、北爪さんは、変わっていく東京を確認したいのだと答えます。藤原さんはそれを、ローカルだけで満足する「ローカル独占おじさん」にはなりたくないということかと受け止めました。
北爪さんは、松本に来てから東京と地方の両方を知っておきたいという目線がより強くなったと話します。松本の店「KAGAYA」に東京や福岡など各地の店のステッカーが貼ってあるのを見ると、まだ行ったことのない場所が気になるそうです。
20代と今で変わった東京の「解像度」
百瀬さんは、東京で暮らしていた頃より、今のほうが東京を楽しめている気がすると話します。20代の頃はしゃかりきに働いて飲んで遊んで終わり、文化を摂取することはあまりしていなかったといいます。
常にそこに最先端のものがあって、ただただ乗っかってただけですけど、今はどっちかっていうと、摂取しに行くっていうか。
藤原さんはこの変化を「ハイコンテクストなものがわかるようになった」と表現します。20代の頃は銀座や中目黒のダイニングバーのような、わかりやすくラベリングされたステータスに憧れていたものの、今は銭湯や1軒のカフェで起きているムーブメントなど、表層的ではないものを見ようとしているといいます。
北爪さんも、群馬県桐生市から上京した当時は雑誌『Smart』に載っている場所が全てだと思っていたと振り返ります。今はその頃とは比較の軸が違い、東京のこの場所でこのコンセプトの店をやる凄さが、なんとなくわかるようになったそうです。
20代の頃は雑誌に載った店や、銀座・中目黒のダイニングバーのようなわかりやすいステータスを追いかけていた
松本に住む今は、銭湯やカフェで起きているムーブメントなど、ハイコンテクストなものを選んで摂取しに行く
北爪さんはこの変化を「解像度が違ってきた」と言い表し、東京にいたらわからなかったかもしれないと話しています。
ただし藤原さんは、松本に住んでいても、スタンスやカルチャーのある場所と触れていなければこうはならないと指摘します。百瀬さんも、道が違っていたら「東京なんか別に行かなくてもいい」と思っていたかもしれないと認めます。
百瀬さんの見方が変わったきっかけは、自社を変えようとしたことでした。数年かけて企業理念を変え、新規事業を立ち上げることになったとき、新しい方向性は見に行かないとわからないと考え、いろいろな場所を見に行くようになったといいます。
今まで自分たちの手に届くところで得ていた情報とか知識を、もっとこっち行かなきゃいけないんだっていって手を伸ばし始めた気がしますね。範囲外に。
人起点の「松本モデル」と多拠点で見る視点
藤原さんが松本で得たのは、店や場所の面白さは戦略やビジネスモデルから始まるのではなく、人から始まるという文脈でした。やりたいことのある人がいて、そこに人がつながり、その人が面白い、という見方です。
そのため藤原さんが東京で面白いと感じるのも、100店舗規模でフランチャイズ展開するビジネスモデルより、面白い人を起点に面白いことが起きている場所だといいます。百瀬さんはそれを「すごい洗練された」松本モデルだと受けています。
一気に100店舗ほどフランチャイズ展開するような、仕組みが先にある面白さ
面白い人を起点に面白いことが起き、洗練されつつも人のぬくもりを感じる場所
藤原さんは、人起点の場所には理解度もあり、つながれる感覚もあるからこそ楽しいと話します。美術館や美味しいレストランよりも、ムーブメントが起きている場所を見に行きがちで、都市は離れたほうが楽しめるかもしれないというのが藤原さんの実感です。
北爪さんも、松本に来ていなければ、東京で子育てをしながら、たまに有楽町あたりへ出てただ帰るような生活をしていたかもしれないと振り返ります。そこまでディープな東京を体験せずに過ごしていただろう、という実感です。
藤原さんはさらに、東京と松本の2拠点より、3拠点、4拠点と視点を増やしたほうが、松本も東京も違う目で見られるのではないかと話します。百瀬さんは、経営者仲間と香川や秋田へ視察に行くのがとても楽しく、以前なら行かなかった都市にもフットワーク軽く行くようになったと応じました。
北爪さんは、前職のCCCが東京・桜丘の再開発エリアに地方の産品を集めたローカル店舗を出していた例を挙げ、東京もローカルに興味を持ち始めているのではと話します。百瀬さんも、大手資本が地方から面白いコンテンツを集める動きは今多いと同意しています。
一極集中のリスクと小布施のリンゴ農家
藤原さんは、東京のローカルへの関心を、一極集中ではない自律分散の流れとして捉えます。幕末の土佐藩や薩摩藩、会津藩のように、各地の特徴が逆に注目されているのではないかという見立てです。
北爪さんはここから、都市一極集中にはリスクがあり、地方がしっかりしないと国力が落ちると話を広げます。安全保障や治安維持の観点からも、地方の企業を承継させていく仕事はスタートアップとは役割が違うものの、もっと重視すべきだという主張です。
その支えるっていう仕事をもうちょっとあの、真剣に考えないといけないと思うんですよ。
藤原さんは、ゲーム事業で大きな利益を上げていたDeNAのような会社に対し、自分がやっていたら「社会のためになっている」と自信を持ってYESとは言えないと話します。そのうえで、地方にある面白い取り組みの例として、小布施町のリンゴ農園「フルプロ農園」を訪ねた話を紹介します。
藤原さんによると、フルプロ農園はサイゼリヤの社長と一緒に会社を作っています。250トン収穫できる農園では、摘果で落とす実も同じくらいの量になり、後半に摘む実はペーストに加工して使えるといいます。
摘果
収穫量250トンとほぼ同量の実を、栽培の途中で摘み取る
選別
後半に摘む酸味が強く形が不揃いな実は、使える状態になる
加工
サイゼリヤでも使われているという専用機械でペースト状にする
藤原さんが面白いと感じたのは、これが一農家の動きではなく、資本を入れながら課題を解決しようとしている点です。さらにフルプロ農園は、安曇野に多い整然と並んだ高密度栽培へ木を植え替えており、ロボティクスの時代に収穫や機械導入をしやすくする狙いがあるそうです。
一方で、辞めていく農家が多すぎて、農地の引き受けを逆に断っているほど課題は大きいといいます。藤原さんは、だからこそ応援したいと話しています。
【北爪の乱】ガチャの確率より社会課題を
小布施の話を受けて、北爪さんの持論が一気に噴き出します。北爪さんは、ゲームが好きな人には申し訳ないと前置きしたうえで、エンジニアはゲームを作るくらいなら地方の課題のほうに来てほしいと話します。
そんなこと(ガチャの確率)考えるぐらいだったら、それはそれで誰かやるから、もっとこう、そのあんたの技術をさ、社会課題の方に行かせれば。
藤原さんも「マジで才能の無駄遣いだよな」と同調し、北爪さんはショッピングカートを買いやすくする改善なども例に挙げます。北爪さんの主張は、それ自体を否定するのではなく、誰かがやればよいことで、優秀な技術はもっと違う場所に向けられるのではないかというものです。
藤原さんは、都市の人は身近にある課題や、リスクを取って頑張る若者に触れる機会が乏しいと指摘します。地域おこし協力隊のように、一度課題に接すると見過ごせなくなり、自分事として動き出す人もいるといいます。
そのため藤原さんは、会社紹介ではなく「大きな課題がある」と提起することが大事だと話します。そこで「お前はどんな課題に向き合っているのか」と問われたとき、自分の人生は何のためにあるのかと考えるきっかけになる、という見方です。
北爪さんの勢いはさらに続き、総務系の便利なサブスクツールも、結局どこかが買収して1つになるのだから、それを使う中小企業や苦労している農家を支える方向まで深掘りしてほしいと訴えます。百瀬さんは「どんどん出てくる」と笑いながら聞いていました。
藤原さんは、ここで何か感じた人は「ヤマサ採用」で検索してほしいと呼びかけ、百瀬さんも藤原印刷やアスピアでもいいと続けます。面白い会社や経営者を紹介するのがこの番組だとして、出演してほしい人の情報もお便りで募集しています。
最後に北爪さんは、池袋で行列ができているのは相変わらずQBハウスかパチンコ屋で、そこは変わらず安心すると話します。変わり続ける東京の中で、変わらない景色にほっとするという話で、この回は締めくくられました。
まとめ
松本に移住した3人は、東京を離れたことで、雑誌やステータスではなく、人を起点にしたムーブメントを見に行く楽しみ方を手に入れていました。その視点は地方の課題への関心にもつながり、優秀な才能を社会課題へ向けてほしいという提言へと広がっています。
- 藤原さんは、競争社会OSから東京の新しいものをサプリのように摂取していると話した
- 北爪さんと百瀬さんは、松本に来たことで東京を見る解像度が上がり、以前より楽しめていると語った
- 藤原さんが松本で得たのは、場所の面白さは人から始まるという視点だった
- 小布施のリンゴ農家の例から、地方には資本と技術が必要な大きな課題があることが語られた
- 北爪さんは、エンジニアの才能をガチャやカートの改善ではなく地方の社会課題に向けてほしいと訴えた





