ふるさと納税と牛乳、届いた質問の中身は?
この回のテーマは、ふるさと納税の返礼品に牛乳や乳製品が少なく見えるのはなぜか、というリスナーからの質問です。年末が近づき、ふるさと納税を考える人が増える時期に合わせた話題です。
川上さんはこの質問に対して、最初は正直に「知らなかった」と打ち明けています。そのうえで、調べてきた内容を紹介する形で配信が進みます。
私は知らないですそんなことは。なので(答えを)調べてきましたので、今日はここをお答えしていこうかなと思います。
本題に入る前に、川上さんは牧場の近況も話しています。この日は台風のあとで気温がぐっと下がり、11月に入ったら牛舎にコンパネを張って冬対策をする予定だそうです。
当日の仕事は、液体窒素を受け取っての調整交配 ── 牛の発情周期をホルモン剤などでそろえ、決めた日に人工授精を行う方法。精液の保存には液体窒素が使われますや、堆肥の切り返し、営業の方への対応と盛りだくさん。前日には牛の体型調査 ── 乳牛の体の形を専門の審査員が採点する調査。乳房や肢蹄などを評価し、改良の参考にしますもあり、初産で83点を取った牛がいたと報告しています。
頑張ってますね。個人的にはあんまり好きじゃない牛じゃないんですけど、いい点が取れたなと思って。
川上さんは、SNSで見かけた畜産農家の倒産ニュースにも触れています。地元の鳥取県で知られたブランド牛の肥育農家や、群馬県の大きな農家が倒産したと知り、餌代などの生産原価の高さから「悪い波が来ている」と感じているそうです。
「酪農はふるさと納税をやっていない?」への結論
お便りコーナーで取り上げられたのは、TikTokに届いた次の質問です。
最近、ふるさと納税について調べました。いろいろな返礼品がある中で、あまり乳製品を見かけなかったのですが、農業、漁業に比べて酪農はあまりふるさと納税をやっていないのでしょうか?
プロペラファクトリー さんから
川上さんは、ふるさと納税といえばお米、果物、野菜、魚介類や干物が目立ち、ランキング上位で牛乳や乳製品をあまり見ない、という意味の質問だろうと受け止めています。
川上さんが調べた結論は、酪農がふるさと納税をほとんどやっていないわけではないというものです。牛乳もヨーグルトもチーズもバターもアイスクリームも、返礼品として実際に出ています。
例として、北海道の八雲町はふるさと納税の公式サイトに「乳製品」の専用カテゴリーを設けており、熊本県でも地元酪農家の生乳を使ったヨーグルトが返礼品になっているそうです。ただし、牧場の牛乳そのものは、お米や魚介類と比べて返礼品にするハードルが高いといいます。
ふるさと納税は通販ではない、返礼品のルールとは
ふるさと納税の前提として、川上さんはまず「ふるさと納税は通販ではない」と説明します。自治体へ寄付し、そのお礼として返礼品が届く制度なので、1万円寄付したら1万円の商品が届くわけではありません。
今の制度では、返礼品の調達価格は寄付額の3割以下にすることが求められています。自治体の募集要項でも、商品代や包装代を含めて3割以下に収めるよう設定されていて、これが牛乳を返礼品にするときの1つ目のポイントになります。
さらに地場産品基準 ── ふるさと納税の返礼品を、その自治体で生産・加工されたものなど地域と関係のある品に限るルール。返礼品競争の過熱を受けて定められましたというルールもあります。その自治体で取れたお米や魚、育った牛など、地域とちゃんと関係のある商品であることが求められ、加工品ではどこの原料をどこで加工し、どこで付加価値が生まれたかまで見られます。
川上さんによると、2026年の月からは、区域内での加工を理由にする基準について、商品価値の過半が区域内で生じていることを証明し、自治体が公表する運用も始まっているそうです。
一方で、地元で牛を飼って搾った生乳は、地場産品としてかなりわかりやすい存在です。秋田市の例では、市内産の牛乳を100%使い、市外の工場で作ったジェラートも提供可能な例として示されているそうです。
川上さんは、この点を酪農家にとって重要だと話しています。自分の牧場に加工場がなくても、地元の生乳を使って委託製造するという道があるからです。
1つ目の壁、牛乳はなぜ返礼品にしにくい?
牛乳そのものが目立ちにくい1つ目の理由は、とても傷みやすいことです。畜産業振興機構も、牛乳・乳製品の多くは冷蔵・冷凍が必要で、保存期間が短いことを生乳流通の大きな特徴に挙げているそうです。
同じ牛乳から作った商品でも、保存できる期間はかなり違います。ふるさと納税に出ている美瑛の低温殺菌牛乳を例に、川上さんが紹介した日数を並べると次のとおりです。
返礼品ならではの悩みが、寄付者の不在です。牛乳を送っても寄付者が出張中なら再配達になり、そのあいだに賞味期限が迫って、最悪の場合は廃棄になってしまいます。お米や冷凍の魚介類なら数日の遅れは問題になりにくいのに対し、冷蔵牛乳は発送した瞬間から時間との勝負です。
実際、ふるさとチョイスの牛乳カテゴリーでは、北海道産や宮崎県の常温保存できるロングライフ牛乳 ── 超高温で殺菌し、無菌状態で特殊な容器に詰めた牛乳。未開封なら常温で長く保存できますが上位に並んでいるそうです。川上さんは、酪農が弱いというより、普通の冷蔵牛乳という商品の形が全国配送と相性がよくない、とまとめています。
2つ目・3つ目の壁、加工の許可と酪農独特の流通
2つ目の壁は、牛乳を牧場からそのまま送れないことです。たとえば川上牧場がバルククーラーから瓶に詰めて「搾りたて牛乳6本セット」を送る、ということはできません。
牛乳として売るには、ろ過、殺菌、小分け、密栓といった処理を、必要な許可を持つ施設で一貫して行う必要があります。お米農家なら精米して送れて、野菜農家なら箱詰めして送れますが、酪農家は搾った生乳をそのまま商品にはできないのです。
このため、牧場名の牛乳を返礼品にするには、自前の処理施設を持つか、乳業メーカーに殺菌・充填・包装を委託する必要があります。川上さんは、牛を飼っているだけでは返礼品になりにくく、その後ろに加工して商品にする人が必要だと話しています。
3つ目の壁は、日本独特の生乳の流通です。2024年度、指定生乳生産者団体 ── 酪農家から生乳を集め、乳業メーカーとの価格交渉や販売をまとめて担う団体。地域ごとに指定されていますを通した販売シェアは92.8%にのぼるそうです。
各牧場で搾乳
川上牧場や近隣の牧場がそれぞれ生乳を搾る
地域でまとめて集荷
指定団体が地域の生乳を集める
用途ごとに販売
牛乳・ヨーグルト・バター・チーズなどの用途へ乳業メーカーに販売する
お米なら「◯◯農園のコシヒカリ」、魚なら「◯◯の漁港で揚がったカニ」と見せやすいのに対し、スーパーの牛乳を見ても「この20%が川上牧場」とはわかりません。農水省も、酪農家が個々に販売戦略を打つのは難しいと説明しているそうです。
ただし、返礼品がないわけではありません。八雲町の町内産生乳から作るチーズ、熊本県のヨーグルト、北海道の森高牧場の牛乳やチーズなどがあり、酪農の返礼品は乳業メーカーや地域・自治体のブランドとして見えていることが多いといいます。
4つ目の壁、重くて安い牛乳と送料の関係
4つ目の壁は、牛乳が重いことです。牛乳1リットルはおよそ1キロで、12本なら中身だけで12キロ。そこへ箱や保冷材、容器が加わり、普通の牛乳なら冷蔵便で送ることになります。
船橋市のように送料の実費を自治体が負担する例もありますが、川上さんは、誰が払っても冷蔵で重いものを全国へ送るコストは消えないと指摘します。牛乳は単価が低く、物流費が高い商品なのです。
ふるさと納税では、1回の配送にどれだけの価値を乗せられるかが大事になります。カニやウニ、ホタテのような魚介類は一箱の単価が高く冷凍もでき、お米は保存が利いて定期便にでき、果物には旬の楽しみがあります。
単価が高い、冷凍や長期保存ができる、旬の楽しみがあるなど、返礼品に向いた条件がそろう
毎日作られて毎日傷み、冷蔵が必要で重く、単価が比較的低い
加工すると相性が変わる?返礼品向けの発想
牛乳もヨーグルト、チーズ、バター、アイスクリーム、ジェラートに加工すると話が変わります。保存期間を伸ばせて、単価を上げられ、地域独自の味や「この牧場の牛乳だからこの商品になった」というストーリーも作れるからです。
川上さんが紹介した考え方では、普段の商品をそのまま載せるのではなく、返礼品向けに設計することが大切だといいます。たとえばヨーグルト6個、チーズ3種類、バター1個のセットや、季節ごとに違う乳製品が届く3ヶ月定期便です。
返礼品の提供事業者になるメリットとして、自治体側も全国への販路拡大、商品のPR、事業者名の認知を挙げているそうです。ふるさと納税は、牧場を初めて知ってもらう入り口にもなります。
返礼品で出会う
東京の人がふるさと納税で島根県の牧場のヨーグルトを初めて食べる
ファンになる
おいしいと思い、次はネットショップで普通に買う
現地を訪れる
旅行で島根へ行き、牧場を訪ねる
川上牧場ならふるさと納税で何を出す?
川上牧場がふるさと納税に参加するなら何を出すか、という問いについては、AIが考えた案が紹介されています。
AIの回答の要旨は、最初から牛乳だけにせず、川上牧場の生乳を使ったアイス、ジェラート、チーズ、お菓子、冷凍食品などを、許可を持つ事業者と組んで作るというものです。地元産の生乳が原料なら、市外での加工でも地場産品基準に合う可能性があるため、加工場がないから無理とは限らないとしています。
AIの回答の続きでは、乳製品セットに牧場のオンライン体験、牛の紹介動画、商品を作っている牛たちの配信、牧場見学などを組み合わせ、「チーズをもらった」で終わらず「島根県出雲市の酪農を知った」まで持っていくことを提案しています。
この案では、牛乳の弱点が逆に強みになると考えます。スーパーで牛乳を買う人のほとんどは、誰が作ったかを知りません。だからこそ、牛の名前や牧場の風景、餌、季節、酪農家の考えを見せられれば、200円、300円の牛乳の向こう側に人と牛が見えるようになる、という発想です。
牛乳そのものを送る。重く傷みやすく、牧場の名前も見えにくい
加工品に牧場や牛、地域の物語をのせて、牧場そのものを知ってもらう
結局、酪農の返礼品は少ないの?
最初の質問に戻ると、川上さんが調べた答えは「乳製品の返礼品はかなりあるが、酪農家個人や普通の牛乳という形では見えにくい」というものです。
全国で農産物・水産物・乳製品の掲載件数を同じ基準で比べた公的な統計は、今回確認できなかったそうです。そのため、酪農が圧倒的に少ないとは言えない、と慎重に締めています。
そのうえで、保存期間、冷蔵、物流、重量、単価、加工施設、食品衛生、生乳の共同販売、牧場のブランドが表に出にくい構造が重なり、乳製品が目立ちにくくなっていると整理されています。
番組からは、リスナーへの問いかけもありました。もし牧場から何か1つ届くなら、牛乳、ヨーグルト、チーズ、アイス、それとも牧場体験か。酪農家としてぜひ知りたいので教えてほしい、という呼びかけです。
川上さん自身はふるさと納税をやる?
調べた内容を紹介したあと、川上さんは自分の言葉で、ふるさと納税に対するスタンスも語っています。実際に取り組む人からは、自治体の担当職員によってできることが大きく違うとよく聞くそうです。
いきなり電話かかってきて、「百個欲しいんだけど」みたいな。いやいや、事前に言ってもらわないと準備できるわけないだろみたいな。
返品を求めるクレームの話も聞くそうです。乳製品は戻ってきても賞味期限が短くなっていて、どうしようもないといいます。利益があまり出ないという声もあり、地域を盛り上げたい、人を呼びたいという思いで自治体と一緒に取り組まないと難しい、というのが川上さんの見方です。
本当に熱意のある方が来られたら、まあ(ふるさと納税を)やってもいいかなと思いますけど。僕のスタンスとしてはそんな感じでございます。
川上さんが望んでいるのは、商品を送って終わりではない関係です。酪農体験やストーリーを通じて、消費者と牧場がつながることに期待を寄せています。
まとめ
ふるさと納税で牛乳や乳製品が少なく見えるのは、酪農がやっていないからではなく、牛乳という商品が保存・加工・流通・送料の面で返礼品向きの条件を満たしにくいからです。加工品や牧場体験と組み合わせれば、牧場を知ってもらう入り口にもなる、というのが今回の答えでした。
- 乳製品の返礼品は実際にあり、乳業メーカーや自治体・地域のブランドとして出ていることが多い
- 牛乳は傷みやすく、許可施設での加工が必要で、地域でまとめて流通し、重くて単価が低いという壁がある
- 地元の生乳を使えば、市外で委託加工した商品でも地場産品として認められる可能性がある
- 加工品に牛や牧場、地域の物語をのせることで、返礼品が牧場とのつながりの入り口になる
- 川上さん自身は、自治体の対応や利益の面から慎重で、熱意ある相手となら取り組みたいという立場


