東宝と東映、数字で並べるとこうなる
映画配給会社の『東宝』と『東映』を、組織論と顧客のLTVという視点で比べてみたいと思います。
気になっていたのは2つです。東宝はなぜここまで利益規模を拡大できているのか。そして東映は強いIPを持ちながら、どうして伸びきらないように見えてしまうのか。
まず東宝です。時価総額は1兆3662億円で、エンタメ企業としては群を抜いた超大型のサイズ感です。
売上(営業収入)は約3600億円、営業利益は650億円で、営業利益率は約18%。映画事業が売上の約67%、不動産事業が約25%で、映像とIPが成長エンジン、映画館跡地などの不動産が安定した第2の柱になっています。
変動の激しいエンタメ配給でこれだけ安定して稼げるのは、不動産とIPの力があるからと言っても差し支えないかなと思っています。
取引先には集英社の名前があります。『鬼滅の刃』や『チェンソーマン』など、集英社のIPがもう東宝の屋台骨になっている訳です。
一方の東映は、時価総額が約3913億円。東宝の3分の1から4分の1のサイズ感です。
売上は1790億円、営業利益は325億円前後で、営業利益率は東宝とほぼ同じ約18%。売上と利益はおおよそ半分なのに、時価総額は3分の1から4分の1なんです。
予想PERも東宝の約26倍に対して東映は14.7倍で、かなり割安なところで放置されているような評価感です。
ちなみに一人当たり営業利益は、東宝の1678万円に対して東映は1731万円。ここは東映に軍配が上がります。
東映の興行好調は「東映作品の強さ」とは限らない
東映の四季報コメントを見ると、映画館などの興行はヒット続出で伸びている一方、アニメの版権収入が一服し、映画製作・配給もやや低迷しています。
ここで気をつけたいのが、興行の好調が東映作品の強さとは限らない、という点です。東宝がヒットを飛ばせば、東映の映画館もそれなりに儲かる訳です。
投資家からすると、それは東映自身の作品の話ではないし、製作委員会にも入っていない。だから評価されづらいのは、仕方がないところなのかなと思っています。
これって、言わばプラットフォームビジネスみたいな考え方ができるんですよね。自分たちのオリジナル以外のものが売れていても業績が好調に見えると、その企業の実力を見誤る可能性があります。
業界を見るときは、ものの良し悪しだけでなく、サプライチェーンにどんな経路があって、何が相乗りしているのかを考えてあげたいところです。
材料記事では、スーパー戦隊シリーズの一時休止と特撮シリーズの刷新も書かれていました。長年の看板IPがありながら、テコ入れが必要な時期なんだなと感じます。
東宝のアニメ切り出しは「組織は戦略に従う」の実践
四季報のあと決算書を読んでいて、東宝がアニメを切り出して管理する方向にしていることに気づきました。
これまで映像事業の一部だったアニメの利用許諾や商品化を、切り出して見せるようにしているんです。
これは単なる開示上の見せ方、つまりセグメント変更だけではありません。IPアニメ事業として、組織再編までセットでやっているんです。
社内の体制がセグメントに紐付いていない会社も、あるっちゃあるんですよね。だから中身が伴っているかは一定見てあげないといけないのですが、東宝の場合は組織ごと変えています。
映画が当たった外れたで終わらせず、どうやってIPを長く回収するか、までがセットになった施策だと感じています。
経営学には「組織は戦略に従う」という有名な言葉があります。IPビジネスは制作・許諾・商品化・海外展開まで動きが速いので、従来の映画会社的な機能別の縦割り組織だと意思決定が遅れてしまいます。
だから利益が大きくなった領域に権限と責任を寄せて、攻めの再編を行っている訳です。
逆に「戦略は組織に従う」という言葉もあって、矛盾しているように聞こえますよね。
僕は、組織は経営戦略に従い、事業戦略は組織に従うと解釈しています。後者は、組織の能力や体制、文化、人材の限界が、策定できる戦略の幅を制約するという考え方なんです。
事業ポートフォリオの見直しの仕事をしていたとき、松田先生の事業ポートフォリオ入門のような本書名を読んでいて、そこにも似たようなことが書かれていました。あれは本当に名著なので、ぜひ探し出して読んでみてください。
切り出しの成否は「つなぎ」にかかっている
ただ、切り出しには連携の弱体化というデメリットもあるかなと思っています。
組織を分けると意思決定は早くなります。でも映画製作では、宣伝や商品化は本来横断的であるべきですよね(ここは僕の想像も入っています)。
映像を作っている人たちと、宣伝や商品の人たちが遠いと、どうしても足並みが揃わなくなるんじゃないかと思うんです。
その分断のリスクがどの程度あるのかは、正直まだわかりません。
ある部門に特権を渡すことはゴールじゃないんです。結局、組織間のつなぎという連携が本番になっていく訳です。
映像部門とIPアニメ部門の会議体、KPI、人事交流をどうするか。思っていることをぶつけ合ったりすり合わせたりする機会が減れば減るほど、会社全体の動きはぎこちなくなります。
これは大企業だけでなく、普通の会社や中小企業にも当然当てはまると思います。
こういうことは口を酸っぱくして言わないと、どうしてもサボっちゃうんですよね。みんなそんなに時間ないよ、という訳です。
なので、ここから先うまくいくかは、もうちょっと慎重に見極めてあげないといけないと思っています。
東映の課題は「卒業」が前提のIP
繰り返しになりますが、東映が弱い訳ではありません。プリキュア、仮面ライダー、スーパー戦隊と、誰もが知るIPを持っていて、ヒットのポテンシャルは毎年十分にあります。
ただ僕が思うに、子どもの成長とともに離脱しやすいコンテンツになっているんじゃないかと思うんです。
東宝の『名探偵コナン』やジャンプ作品は、年齢をまたいで大人が継続顧客になりやすい。何十回、何百回見に行ったというファンがいたり、作品で取り上げられた土地がファンでぎっしりになったり、推し活文化に完璧に直結しているんですよね。
一方で、生活年齢に応じた「卒業」が前提のIPは、常に新しい顧客を取り続ける必要があります。広告宣伝費で販管費が増え、作品ごとにファンがつくかどうかの波も出るので、利益率が高くなりづらい訳です。
いわばポートフォリオの年輪の差ですね。
もちろん、僕が思いつくようなことは東映も当然思いついています。調べてみると、大人向けのコスメブランドを出したり、昔の仮面ライダーを大人向けに配信やイベントにしたりしていました。
子どもが見ているからお金を出すのではなく、時代が一周二周したことで、親世代まで消費に引き込もうという話です。自分の趣味にハマったときの親世代の爆発力は大きいですよね。
こうした取り組みは「エバーグリーン化」と呼ばれるようです。時代や流行に左右されず、長く価値や集客力を持ち続ける状態にすることで、僕も知らなかった言葉ですが言い得て妙だと思いました。
東宝は組織の形を変えて次の成長に備え、東映はIPの顧客構造という課題にエバーグリーン化で応えようとしている。作品のヒットだけでなく、組織の形や顧客の構造で差がついていくんだと感じました。
次は松竹について書いていきたいと思っています。
まとめ
東宝と東映の差は、作品のヒットよりも組織の形と顧客の構造に表れていると僕は考えています。東宝はアニメを組織ごと切り出し、東映は年齢をまたいでファンを残すためのエバーグリーン化に動いています。
- 東宝はIPアニメ事業をセグメントだけでなく組織再編まで含めて切り出し、「組織は戦略に従う」を実践している
- ただし切り出しの成否は、映像部門とIPアニメ部門の連携を再設計できるかにかかっている
- 東映の興行好調は他社作品の相乗りもあり、東映作品の強さとは限らない
- 東映のIPは子どもの成長で「卒業」しやすく、大人向け展開でLTVを高めようとしている





