2025年の映画市場は東宝の一人勝ち
2025年(令和7年)の映画興行収入は2744億円で、歴代最高になったそうです。
単純計算で1億8000万人以上が映画館に足を運んだことになり、記事には「世界でも有数の映画大国なんじゃないか」と書かれていました。
昨年のヒット作を思い浮かべてみてください。『国宝』、『鬼滅の刃』、『チェンソーマン レゼ篇』、『8番出口』などがありましたよね。
実はこれ、全部『東宝』が配給しているんです。
毎年ヒットしている『名探偵コナン』も東宝です。ジャンプ作品もあれば邦画の名作もあって、2025年は東宝の一人勝ちのような状況だった訳です。
この大きな市場を引っ張っているのが、東宝、『東映』、『松竹』の3社です。ここからは、それぞれの売上の中身を見ていきます。
3社のセグメントを比べると、不動産が見えてくる
まずは東宝です。売上高の約7割を占めるのが映像関連、いわゆる映画事業です。
ただ、その中身は映画館のチケット代だけではありません。『東宝アニメーション』が、グッズや配信といったIPの利用許諾による収益を得ているんです。
みんなでアニメを作って、そこから生まれるグッズ収益や、Amazonプライム・ビデオやNetflixのような配信サービスに出す分の許諾を取る。
そうやって、水物の収益をストックの収益に変えていっているのが強いところだと思います。
『四季報』に書かれているセグメントの内訳を並べると、こうなっています。
- 映画事業:売上の約67%、利益率24%
- 不動産事業:売上の約25%、利益率20%
- 演劇事業:売上の約7%、利益率18%
売上の25%が不動産事業なんですよね。老舗の箱物エンタメ企業として映画館や関連施設を持っていて、それが売上の土台になっています。
不動産は利益率が比較的安定して推移することが多いと思うので、キャッシュの土台にもなっているんじゃないかと考えています。
次に東映です。こちらも売上の約75%を映像関連が占めていて、これが大きな柱になっています。
ただ東映は、『仮面ライダー』や『プリキュア』といった自社のIPを持っているので、制作会社としての顔も一定あるのかなと思います。
劇場運営もしていて、自社作品が振るわなくても、他社のヒット作を上映して稼ぐことができます。悔しいところではあるとは思いますが、箱物を有効活用して利益を確保できる構造なんです。
四季報ベースでは、映像関連事業が売上の約74%で利益率25%、映画館などの興行関連事業が売上の11%で利益率4%です。
残りの15%ほどが、催事、観光不動産、建築内装などのその他です。東宝と近くて、箱物とのシナジーから発展させて、安定的な収益を手にしている形ですね。
最後に松竹です。映画配給に加えて歌舞伎などの演劇事業もやっていますが、こちらの利益率はいまは高くない状況です。
では松竹の利益を支えているのは何か。もうお分かりですよね。そう、不動産事業なんです。
- 映画関連事業:売上の約52%、利益率約1%
- 演劇事業:売上の約28%、利益率マイナス5%(赤字)
- 不動産事業:売上の約17%、利益率37%
東宝の不動産の利益率が20%なので、松竹はそこからさらに17ポイント高いことになります。
銀座の一等地にビルを持っていて、不動産会社がエンタメをやっているという見方もできるのかもしれません。ちょっとうがった見方だとは思うので、そこまで強調することではないと思いますが、、
安定的な収益で得たキャッシュを何に変えて、企業を雪だるま式に大きくしていくのか。いまの時代はそこが大事になっていると思います。
本業にあまり関係のない不動産は、株主から売却を求められることもかなり増えてきています。なのでポジティブに評価するのは難しいかなとは思いますが、ここはフラットに見ていただければと思います。
なぜ製作委員会方式が使われるのか
ここで気になったのが、東宝の映画事業の売上約67%に、チケット代以外のIP収益やグッズ、配信の収益が入っていることです。
よくよく考えると、なんでなんだろうと思うんですよね。全部を自前でやっている訳ではないし、外注していたらその売上がトップラインに出てくる訳でもありません。
もし東宝がグッズの事業主体だったら、グッズの売上が全額売上高に入ってきて、PLもいびつになるはずです。でもサイズ感を見る限り、どうやらそうではなさそうなんです。
では、どういう形で利益の分配をもらっているのか。その答えが、製作委員会という方式なんです。
映画やアニメを作るには、数十億円規模の大きな予算が必要です。これを1社で背負うと、こけたときに会社が傾きますよね。
そこで、映画会社、テレビ局、原作を持つ出版社、玩具メーカー、広告代理店などが共同でお金を出し合います。リスクを下げて、ヒットが生まれればレベニューをシェアする仕組みです。
法的には、民法上の任意組合 ── 複数の当事者が出資して共同の事業を営むことを約束する契約で成り立つ組合。会社のように法人を設立する必要がありませんで組成している場合が多いんじゃないかと思っています。
新しく会社を立てると、設立や維持に費用も手間もかかりますし、株主全員が同意しないとできないことが会社法上で決められてしまいます。
契約1本でいろいろ決められる任意組合のほうが機動的に動けますし、それぞれの業界の商慣習にもフィットしやすいメリットがあるんじゃないかと考えています。
メリットは「リスク分散と利益分配」と「プロによるバリューチェーン」
1つ目のメリットは、リスク分散と利益分配です。赤字のリスクをみんなで分けるだけでなく、利益が出たときには出資比率に応じて柔軟に分けられます。
たとえば原作の版権元はグッズを作る能力を持っている訳ではありません。それでも一定の割合が取り決められていることで、版権元にも利益が落ちるんです。
2つ目は、各業界のプロによってバリューチェーンが作られることです。お金を持ち寄るだけでなく、業界のトップが集まるので役割分担ができます。
出版社は原作漫画を雑誌で宣伝し、テレビ局はCMを流したり、前作や同じ監督の作品を「なんとかロードショー」で放送したりして、新作の販促ができます。
玩具メーカーはぬいぐるみやおもちゃを作り、広告代理店は施策を考える。製作委員会には基本的に同じ業界からは1社しか入らない仕組みだと私は聞いています。
それぞれの領域で役割を持ち合って、1つの作品をどんどん広げていく訳です。
東宝のような配給会社は、製作委員会の幹事として上映のコントロールや商品化権の窓口を担います。だからこそ、映画館以外の場所からも大きなIP収益を得られるんです。
誰からお金をもらい、誰に払っているのか
IPエンタメ系の企業の決算をしばらく読んできて、私が考えたことがあります。分析するときは、誰からお金を手に入れていて、誰に費用を払っているのかをきちんと考えるべきだ、ということです。
原作を作っているのか、届けているのか、見せているのか、広げているのか。サプライチェーンの視点で見ることが大事だと思います。
さらに、一般の顧客から直接お金を得ているのか、サブスクのサービスを通しているのか、物販や流通業者を通しているのかで、利益の規模が変わってきます。
売上がいくら立っていても、利益が小さい可能性もあります。
逆に業界の天井が決まっているなら、サプライチェーンのこの位置にいる以上、だいたいこれくらいの利益率でこれくらいのサイズになるだろう、という勘所がつけられる訳です。
映画会社の強さは、何を上映するかももちろん大事ですが、それ以上に製作委員会を通じてIPの川上から川下までどれだけ関われているかだと思います。リスクを下げた形で、その収益を手に入れられているかが大事なんです。
業界の特性を見るときには、皆さんもサプライチェーンの分析ができるといいんじゃないかと思います。
次回は、東宝の組織再編と、強いIPを持ちながら構造的な課題があるんじゃないかと私が考える、東映のLTVの難しさについて書く予定です。
『四季報読みまくって脳ムキムキRADIO』は、Spotify、Amazon Music、Apple Podcastで毎週火曜朝7時に配信しています。
まとめ
四季報で東宝・東映・松竹の売上の中身を比べると、映画事業の中身や不動産の存在感など、3社の稼ぎ方の違いが見えてきました。そして私は、映画会社の強さは製作委員会を通じてIPにどれだけ深く関われているかにあると考えています。
- 2025年の映画興行収入は2744億円で歴代最高。ヒット作の多くを東宝が配給していた
- 東宝・東映は映像関連が売上の柱で、不動産などの箱物が収益の土台になっている。松竹は不動産が利益を支えている
- 製作委員会方式は、リスク分散と利益分配、各業界のプロによる役割分担という2つのメリットがある
- 企業を分析するときは、誰からお金をもらい誰に払っているのか、サプライチェーンの位置で見るのが大事




