各指標は暗記するものじゃなくて、体系で理解する
まず訂正からです。以前、PBRを「株主資本を効率的に使えてますか」を測る指標だとお話ししていたんですが、これは不正確でした。
資本の効率性を直接的に示すのはROEです。PBRはあくまで、過去の蓄積と時価の割り算という結果に過ぎないんですよね。
なので、各指標を単独の用語として暗記するんじゃなくて、体系的に理解していこうというのが今回のテーマです。
今回は、ミクロを投資家の視点、マクロを経営者の視点として固定してお話ししていきます。
投資家が見たいのは、一株当たりに縮小した指標
株を買うとき、最初は100株、200株と単位株から買っていきますよね。だから投資家にとって、会社全体の総額って自分のリターンには直結しないんです。
そこで見たいのが、一株当たりに縮小した指標です。ここで出てくるのがEPSとBPSですね。
EPSは一株当たり純利益で、当期純利益を発行済み株式数で割った数字です。一株が一年でどれだけ稼いだかを示すフローの指標ですね。
BPSは一株当たり純資産で、純資産を発行済み株式数で割った数字です。会社が解散したとき、一株当たりいくら返ってくるかという解散価値、ストックの数字になっています。
一株当たり純利益。当期純利益を発行済み株式数で割った数字で、一株が1年間でどれだけ利益を稼いだかを示すフローの指標です。
一株当たり純資産。純資産を発行済み株式総数で割った数字で、会社が解散したときに一株当たりいくら返ってくるかを示すストックの指標です。
PERは「回収年数」に翻訳すると腑に落ちる
次がPER、株価収益率です。株価をEPSで割った数字ですね。
これは、一株の利益に対して市場が何倍の値段をつけたか、つまり将来の成長期待がわかる指標です。とはいえ、これだけだと直感的にはピンと来ないですよね。
そこでおすすめなのが、回収年数に翻訳して考えるやり方です。今の利益水準が続くなら、株価という投資元本を何年で回収できるか、という年数に置き換えられるんですよ。
PERが10倍なら、10年あれば元が取れる。でも今の平均は15倍くらいで、高い業界だと20倍、30倍、100倍なんてこともあります。
じゃあPER100倍は「100年経っても回収できない」のかというと、そうじゃないんです。今の利益水準のままなら、という話なので、裏を返せば将来的に利益がめちゃくちゃ伸びることに投資家がベットしている状態なんですよね。
たとえば純利益が損益分岐点トントンで1000万円しか出ていないのに、株価は何百億もついている。こういうときPERは爆発的に高くなります。
これを単なる記号として捉えると「元取るのに100年かかるんかい」となりますが、時間軸に直してみると、市場がいかに非現実的なレベルの成長を織り込んでいるかを冷静に判断できるわけです。
PBRは「今この時点」の最終評価
一方でPBRは株価純資産倍率、株価をBPSで割った数字です。BPSは解散価値なので、一株の純資産に対して市場が何倍の値段をつけているかという、市場からの最終評価になります。
PERとPBRは見ている方向が違うんですよね。PERは将来を見ていて、PBRは今この時点を見ている。簿記をやったことがある方は、PLとBSのイメージで捉えてもらうといいかもしれません。
将来を見た指標。一株の利益に対して市場が何倍の値段をつけたか、という将来の成長期待を表します。
今この時点を見た指標。一株の純資産に対して市場が何倍の値段をつけたか、という最終評価を表します。
このPBR、2023年に東証から「1倍割れを改善しなさい」と非常に強い言葉で出まして、かなり注目されています。
1倍を割れているというのは、すべての資産をキャッシュに変えて借金を返し、残りを配当した方がお得という状態なんですよ。全部売り払ってみんなに返した方がお金が返ってくるじゃん、という悲しい状態ですね。
従来は、重厚長大産業のように多額の固定資産を動かして利益を生む企業はPBRが低くなりがちで、設備投資のいらないIT企業は高くなりがちでした。一時は重要性が下がった感じもあったんですが、東証の一言で再注目されたわけです。
1倍割れを「お宝」と思って買うのは、ちょっと罠
PBRが1倍割れだと、100万円入った財布が90万円で買えるみたいな話なので、お宝銘柄だと言って探す人もいます。普通ありえない状態ですからね。
ただ、これはちょっと罠でして。純資産って、資産から負債を引いた簿価上の数値なんですよ。
だから、陳腐化した有形固定資産とか、簿外の負債を全く織り込めていないんです。足りない退職金とか、未払いの残業代とか、訴訟リスクとか、そういうものがあるかもしれない。
PBRは最終評価なので、そこに落ち着いているということは、本当はめちゃめちゃやばいんじゃないのとプロの投資家が考えているのかもしれないわけですよね。
100万円入った財布が90万円で売ってる。でも装備したら二度と外れなくて教会でお祈りしてください、みたいな話になるかもしれない。まあ、そんな例えですが、リスクを察知せずに買い集めるのは危険ということです。
ROEはミクロとマクロをつなぐ、面白い指標
ここからROEです。定義は当期純利益を自己資本で割ったもの。株主が持っている金額の何パーセントの利益を生み出せたか、という指標ですね。
これ、読み替えるとEPS割るBPSでもあるんですよ。分子と分母に発行済み株式総数をかけたら純利益割る自己資本になるので、当たり前といえば当たり前なんですが。
つまり、ミクロの指標とマクロの指標が本当は同じ数字なんですよね。発行済み株式総数をかけているかいないかだけで、指標の役割が変わってくる。ここがROEの面白いところです。
ちなみに厳密には、純資産を使うBPSと自己資本は若干数値が異なるんですが、今回は単純化して考えています。
さらにROEは、PBRイコールPER掛けるROE、という形で分解できます。PBRが低い企業を分析するとき、市場の期待が低いのか、稼ぐ力が低いのかを切り分けられるんですよ。
整理すると、PERは期待、PBRは結果、ROEは実力です。
デュポン分解で、投資家の期待を現場のアクションに変える
ROEを考え出すと、投資家視点から経営者視点への変換ができるようになります。
投資家は自分の利回りが上がることを要求しますが、それはイコール、経営者に求められる全体最適に変わっていくんですよね。投資家が自分のことを考えて指標を上げろと言うと、経営者は全体を改善せざるを得ない。
ただ、ミクロの指標だと現場に直接の指示は出せません。従業員に「EPSを改善するぞ」とは言えないですからね。
そこで、ROEを3つの項に分解します。売上高純利益率、総資産回転率、財務レバレッジ。これをデュポン分解 ── ROEを、収益性・効率性・資本構成の3つの要素に分けて分析する手法と言います。
売上高純利益率は収益性です。付加価値向上による値上げ、原価の低減、販管費の削減。これなら現場でもできることがありますよね。
総資産回転率は効率性です。資産がだぶつくと売上を出せても効率が悪い。不要な在庫の圧縮、遊休資産の売却、売掛金の早期回収といったアクションになります。
財務レバレッジは資本構成です。自己資本は負債と違って返す義務がない分ハイリスクなので、投資家は銀行より高いリターンを求める。だから適切な負債を使って最適な資本構成を考える。これは現場では無理なので、CFOや経営者が議論する部分です。
企業は事業と財務で中身を作り、市場がそれを評価して値札をつけます。EPS・BPS・ROEは結果として出るもので、それを評価した値札がPER・PBRなんですよね。
だから、株価やPBRに一喜一憂するんじゃなくて、分解を通じて現場の事業活動や財務戦略のどこに改善余地があるかを見極める。これが企業評価の本質になるんじゃないかと思います。
数式が多くて複雑な部分もあったと思うので、ぜひ復習してみてくださいね。
最近このポッドキャスト、YouTubeでもアップするようになりました。YouTube Premiumに入っている方は、そちらで聞いてみていただけるとありがたいです。それではまた、火曜の朝に。
まとめ
PER・PBR・ROEは単独で暗記する指標じゃなくて、投資家のミクロな視点と経営者のマクロな視点をつなぐツールとして体系で捉えると、企業の中身が見えてきます。
- PERは期待、PBRは結果、ROEは実力。見ている方向が違う
- PERは「今の利益水準で何年で元が取れるか」の回収年数に翻訳すると腑に落ちる
- PBR1倍割れは簿価ベースの数字なので、簿外リスクを見ずに買うのは危険
- ROEをデュポン分解すると、投資家の期待を現場と経営の具体的なアクションに落とし込める





