土地勘のない業界を、怖がりながら読む
ヤマトホールディングス、SGホールディングス、福山通運、セイノーホールディングス、NIPPON EXPRESS ホールディングス、鴻池運輸、丸全昭和運輸。陸運・物流の7社を取り上げて、利益率や売上成長を見てきました。
今回のテーマは、この業界のどこに高付加価値の勝ち筋があるのか、です。
正直に言うと、自分の土地勘のない領域についてあれこれ書くのは、かなり怖いんです。
四季報を読んで、業界のレポートも読んで調べてはいます。それでも「読み方合ってるのかな」「ちゃんとした人が読んだら笑われるんじゃないか」という不安はあります。
ただ、間違えることも含めて勉強かなと思っているので、開き直りつつ進めていきます。間違っていたら、ぜひ教えてください。
利益率が高い会社は「運ぶだけ」じゃない
まず、営業利益率をざっと並べてみます。
- ヤマトホールディングス:1.51%
- SGホールディングス:5.5%
- 福山通運:2.74%
- セイノーホールディングス:4.74%
- NIPPON EXPRESS ホールディングス:3.70%
- 鴻池運輸:6.34%
- 丸全昭和運輸:10.38%
『会社四季報』の業種で「陸運」になっている会社は、どうしても6%を切るところが多いんです。
一方で「倉庫・運輸関連サービス」になっている会社は、5%、6%を超えてきています。単なる陸運だけでなく、倉庫の付帯サービスや請負、流通加工をやっている会社ほど、利益率が高くなりやすいようです。
鴻池運輸は、工場や空港などの現場請負のような「中に入る物流」が特徴です。創業時から請負と物流を一体にしていて、顧客の事業に深く入り込んでいます。
丸全昭和運輸は、港湾、重量物、化学品の周辺など、専門性の高い領域が武器です。事故のコストが高い領域ほど、専門知識が参入障壁になるんじゃなかろうか、と考えています。
3PL・工場請負・流通加工は本当に利益率を上げるのか
前回は、広く浅く取るより、業界や地域に深く入り込んで顧客との適合度を高める方が勝ちやすいのでは、という話をしました。
そこに加えて考えたのが、利益率上昇のストーリーは単純輸送ではなく、サードパーティーロジスティクス ── 荷主企業の物流業務を、物流の設計から運用まで外部の事業者がまとめて請け負う形態。3PLとも呼ばれます、工場請負、流通加工のような「設計・運用・加工を含むサービス」にあるんじゃないか、という仮説です。
半ば答えを言っているようなものですが、改めて調べてみました。
サードパーティーロジスティクスは王道。ただし設計まで含めて
サードパーティーロジスティクスが利益率改善の王道だというのは、いろいろな資料に書かれていました。
国土交通省の米国サードパーティーロジスティクス調査でも、アセット系の物流業者が参入することで利益率が上がる、という見方になっていました。日本でも市場規模は2035年まで年5.9%の成長が予測されています。
調べてみると、自前で倉庫や物流センターを持つ「アセット型」と、倉庫は持たずに設計やシステム、在庫最適化の考え方を売る「ノンアセット型」があるそうです。今回取り上げた会社は、ほとんどがアセット型です。
ただ、倉庫のスペースを貸すだけだと、固定費の負担が重いんですよね。稼働率が落ちた瞬間に逆回転してしまいます。
国交省の調査でも、倉庫スペースだけを提供する事業者は、稼働率の変動で利益率が不安定になるリスクが指摘されていました。倉庫を持っているから強いのではなく、設計まで任せてもらえる事業者が顧客をグリップできる、ということだと思います。
工場請負は想像以上に粘着性が高い
工場請負は、顧客の工程に入り込み、安全教育や品質管理まで担います。だから置き換えのコストが大きいんです。
正直、請負がどこまでやっているのか、読んだだけではあまり想像がつきませんでした。完全に工程に入り込んでいるので、業界特性ごと別の事業にも活かせる。鴻池運輸のような会社の大きな強みになっているんだと思います。
流通加工は人手に依存しやすい
流通加工は、小規模・中規模の事業者をまとめて自分たちのサービスに乗せられるので、有効っちゃ有効っぽいんです。
ただ、調べてみると人手にかなり依存することがわかりました。これはちょっと盲点でしたね。
多種多様な荷物が入ってきて、パターンはあるとはいえ一つひとつ加工する。人手依存になりやすいのは当然かもしれません。標準化できる加工かどうか、顧客ごとに都度対応するのか一挙に対応するのかで、収益性が分かれるようです。
コンパクトに言い換えると
ここまでをまとめると、利益率を上げる本質は、ただ高付加価値化することではなく、標準化できる高付加価値を切り替えにくい形で提供することなんじゃないか。そんな結論に至りそうだと思いました。
よくある「魚をあげるより釣り方を教えよう」「水をあげるより井戸の掘り方を教えよう」みたいな話です。バリューチェーンの重要な部分に入り込んで、継続的に提供し続ける。
毎回登場していますが、VRIO分析 ── 経営資源を価値・希少性・模倣困難性・組織の4つの観点から評価し、競争優位を分析するフレームワークで見るとわかりやすいと思います。価値があって、真似しにくくて、組織として回せるかどうかが、より一層大切になる業界なんだと理解しました。
PBRが1倍前後に張り付く理由
もうひとつの仮説は、財務指標の話です。物流各社のPBRを見ると、1倍前後に落ち着いている会社が多いんです。
PBRは、資産に対して株価がどの程度評価されているかの指標です。1倍を割れていると、持っているものより評価の方が低いという、由々しき状態です。
物流は倉庫、車両、土地、システム、人員を抱えるので、総資産の回転率がそこまで高くなりません。資産が重くてROEが下がると、投資家からの評価もどうしても下がってしまうんじゃないか、と考えました。
例えば、純利益率3%、総資産回転率1.0回、財務レバレッジ1.5倍なら、ROEは4.5%にしかなりません。日本ではいま8〜10%が目安なので、利益率も回転率も低い業界は、投資家からの目がかなり痛いんですよね。
つまり、利益率が少し改善しただけでは資本効率は大きく上がらず、市場からの評価も上がりづらい。まあ、仮説というより感想に近いんですが。
ヤマトとSGを比べると見えるROEの差
検証してみると、ここはおおむね仮説どおりでした。
物流が低PBRになりやすいのは、利益率の低さだけでなく、ROEの構造の問題なんです。純利益率が低めなうえに、倉庫や車両を持つと資産回転率も伸びにくい。
だからPBRの改善は、営業利益率を良くするだけでなく、資産の効率的な活用、さらに自己株買いを含む資本政策まで、セットで見ないとつながりにくいんです。
ヤマトは人が重要なBtoC中心のビジネスで、コストが増えると利益が削られやすいですよね。一方でSGホールディングスは、利益が出る案件の選別とロジ拠点の整備が効いています。
実際、ROEはヤマトホールディングスが2.6%なのに対し、SGホールディングスは11%もあります。純利益率の違いもありますが、効率の良さがROEに表れて、PBRもSGホールディングス1.72倍、ヤマトホールディングス1.02倍と、数字に出てくるんだなと思いました。
ROEが資本コストを超えるかどうか
投資家からの見られ方でいうと、営業増益だから、営業利益率が高いから評価が上がる、というわけではありません。ROEが資本コストを超えるところまでいくかを考えることが、経営戦略につながってくるんです。
資本コストは、お金を出している人が「この会社にお金を預けるなら、最低これくらいは儲けてほしい」と思うハードルです。銀行などの金融機関が貸しているお金と、株主が出資しているお金、その両方を合わせたものなんですね。
ROEが資本コストを下回ると、「頑張っているけど期待ほど稼げていない」と見られます。逆に上回ると、投資のリスクに見合うだけ稼げていると評価されやすくなります。
しかも株主の資本は、要求されるリターンが高い。だから借り入れもバランスを見て活用しながら成長させることが肝要で、最適資本構成という言葉のとおり、何事もバランスなんだと思います。
利益率改善は、どんな業界にも宿命づけられたものだと思います。それでも、いつも働いてくださっている物流業界の方には頭が上がりません。いろいろな方の知恵と工夫で社会が成り立っているんだなと、しみじみ思いました。
全然知らない業界について考えてみるのは、怖いけれど結構大事なことなんだなと感じています。ROEの分解はざざっと書いてしまったので、どういう構造になっているのか、もう少し時間を取って考えてみてもいいかなと思っています。
まとめ
物流で利益率を上げる鍵は、単純輸送ではなく、標準化できる高付加価値を切り替えにくい形で提供することだと私は考えています。ただ、資産が重い業界なので、利益率を少し上げてもROEやPBRは上がりにくく、資本政策までセットで見る必要があります。
- 倉庫・運輸関連サービスの会社ほど利益率が高く、丸全昭和運輸は10.38%
- 3PLは設計まで任される事業者が強く、工場請負は粘着性が高い一方、流通加工は人手依存が課題
- 物流の低PBRは利益率だけでなく、資産回転率の低さを含むROEの構造の問題
- ROEはヤマトホールディングス2.6%、SGホールディングス11%と差があり、PBRにも表れている





