清水も初対面、江口推薦のゲスト回
自然と地域とあいだラジオは、自然を活かした地域づくり、いわゆる地域循環共生圏 ── 環境省が提唱する考え方で、地域の自然や資源を活かしながら、地域同士が支え合って持続的に暮らしていく姿を目指すものですに関わる人や物事を取り上げる番組です。今回は、清水が知らないゲストを江口が推薦するという、番組で初めての形になりました。
(今回は)視聴者さんと同じ目線で聞けるかなっていうのと、僕の知らない人で江口さんの推薦で、初めてのパターンということで、楽しみです、非常に。
ゲストは一般社団法人ねばのもりの杉山泰彦さんで、江口とは以前、地域循環共生圏のプラットフォーム事業で一緒に仕事をした間柄です。杉山さんの回は3本立ての予定で、初回のこの回は自己紹介と活動紹介にあてられ、2回目で共生圏の掘り下げ、3回目で今後の展望を話す構成だと説明されました。
縁もゆかりもない根羽村に移住し、法人を立ち上げるまで
杉山さんは「マギー」さんと呼ばれており、長野県根羽村という人口800人を切るほどの小さな村に住んでいます。根羽村とはもともと縁もゆかりもなく、関わり始めてからしばらくは東京から通い、さまざまな縁や人生の転機が重なって移住しました。
マギーさんが最初に根羽村と関わった立場は、地域活性化企業人と呼ばれる、都会の企業から自治体へ出向する制度でした。本来の専門はマーケティングや企画、イベントプロモーションで、根羽村役場からも村のプロモーションを通じて魅力を発信してほしいというミッションを受けていました。
ところがプロモーションを進めるうちに、マギーさんは役場だけでは実行できないことがあると気づきます。地域が本当はやりたいと思っていても実現できていないことを形にするには、それを実行する組織、いわゆる中間支援組織 ── 行政と住民、地域の内と外などの間に立ち、人や資源をつないで活動を支える組織のことですが必要だと見えてきたといいます。
さらに、出向の制度には期限があったため、制度が終わった後も村に残るには自分の法人を作る必要があると、マギーさんは最初から考えていました。そこで任期の半分ほどの時期に、一般社団法人を立ち上げています。
出向で役場へ
地域おこし企業人として根羽村役場に入り、村のプロモーションを担う
限界に気づく
役場だけでは、地域がやりたいのにできていないことを実行できない
組織の必要性
実行役となる中間支援組織がないと、よりよいプロモーションもできない
法人設立
制度の期限後も残るため、任期の半分ほどで一般社団法人を立ち上げる
「村ごこち」を良くし続けるプラットフォーム
マギーさんは、壮大な未来を掲げたり計画を立てたりするより、目の前の課題から「こういう村になったらいい」と考えることを繰り返すスタイルだといいます。その中で浮かんできた言葉が、村ごこちを良くするというテーマでした。
僕が根羽村に惹かれたのは村っぽさ。例えば子供をみんなで見合うコミュニティ的な子育ての仕方とか、根羽村だと実は子供産まれると村内放送で流れるんですね。
マギーさんが挙げる根羽村の良さは、子どもの誕生を村内放送で知らせる習慣、お裾分けの文化、地域のお祭りなど、地域に根づいた暮らしの魅力です。こうした良さは人口が減る中で衰退していくため、残し続けるには必要な変化やアクションが要るとマギーさんは考えています。
ねばのもりは、マギーさんの言葉で言えば「プラットフォーム」です。地域の人たちの話を聞いて課題の整理や理想の実現を手伝い、村の水や森などの地域資源とコラボしたいと外から来る人の窓口にもなり、村の内と外、内と内をつないで新しいプロジェクトを生み出す、間に立つ組織だと説明されました。
子どもが8人誕生、15歳未満の人口増加率で全国上位に
マギーさんは成果として、日経新聞にも取り上げられた、15歳未満の人口増加ランキングで根羽村が全国上位に入ったことを紹介しました。エピソード説明によれば、その順位は全国6位です。
令和に入ってから、根羽村では転入が転出を上回る状態が続いているとみられるといいます。昨年は人口800人の村で子どもが8人生まれ、人口を1%増やしという話も出ました。
マギーさんは、村がとてもいい状態になっていることについて、ねばのもりも貢献できているのではないかと、最近は自信を持って言えるようになってきたと話しています。
そもそもなぜ根羽村へ?
江口が、縁のなかった根羽村になぜ行くことになったのかを尋ねると、マギーさんの答えはシンプルなものでした。
当時のマギーさんは、ローカルレターというメディアを運営する株式会社WHEREの立ち上げに関わり、約2年間で100ほどの地域を巡って仕事をしていました。
マギーさんの原点には、転勤族で故郷がなく、小中学校時代をアメリカで過ごした生い立ちがあります。成人式に行く場所がなかったことは、マギーさんにとって衝撃的な体験だったといいます。
なんか日本人なのに帰る場所がない。しかも転勤族って常によそ者みたいな気持ちで、かつ海外だとよりよそ者でみたいな。
一方で海外暮らしの経験は、日本への愛着や、日本人としてのアイデンティティを強く意識するきっかけにもなりました。そんなマギーさんにとって、根羽村のおじいちゃんおばあちゃんの暮らしは、ジブリで見たような、頭の中に描く「田舎」がぎゅっと詰まった場所に映ったそうです。
何もしなかったらこの暮らしって10年後、20年後にはなくなってる可能性高いなと思って。
それが8年前のことで、マギーさんは「今しかできないこと」だと感じたといいます。村側にもプロモーションで関わってほしいという思いがあり、マギーさんが貢献できる余白もあったことから、タイミングとご縁がつながって「根羽村に導かれたような感じ」だったと振り返っています。
渋谷区から根羽村へ、その前にあった「修行」
清水が移住前の住所を尋ねると、答えは東京都渋谷区でした。マギーさん自身も、渋谷区から根羽村へ移住した人は多分いないだろうと笑います。
清水が、100地域を回っていた頃から移住先を探す目線があったのかを尋ねると、マギーさんは「思ってました」と答えました。きっかけは社会人1年目の2014〜15年ごろ、奈良県東吉野村を訪れたときの出会いだといいます。
東吉野村でマギーさんが出会ったのは、オフィスキャンプ東吉野などを運営するデザイナー坂本さんら、40〜50代でとても楽しそうに生きている人たちでした。そこはデザイナーズビレッジ構想のもとクリエイターが集まる場所で、今では海外からの移住者もいる面白い場所になっているそうです。
(東吉野村の人たちは)手に職を持ってるというか、自分で仕事を作る力を持ってるわけですよ。
マギーさんは、その生き方に憧れつつも、思いだけではできないと痛感しました。そうした人になるには修行が必要だと考え、タイミングを待ちながらスキルを磨いてきたといいます。
東吉野村で楽しそうに生きる大人に出会い、こんな生き方をしたいと憧れる
自分で仕事を作る力がないとできないと気づき、修行とスキルアップを重ねてから移住する
田舎に暮らすことは「贅沢な行為」
清水が、これから根羽村に来たい若い人にも同じことを伝えるのかと聞くと、マギーさんは「伝えています」と即答しました。移住の窓口を担ってきた中で、特にこの3年ほどでその思いが強まり、隠さず伝えるようにしたといいます。
マギーさんによると、人口3万〜5万人ほどの地域なら、近くのスーパーや公共交通があり、合わないコミュニティから別のコミュニティへ移る選択肢も持てます。しかし800人の根羽村では、コンビニまで車で20分、駅もバスもなく、小さなスーパーが2つあるだけです。
根羽村では消防団など地域を回す仕事もほぼ住民自身が担う必要があり、マギーさんは「大変なわけですよ」と率直に話しました。その中で前向きに豊かに暮らすには、それなりの力と人間性が求められるので、そういうものだと割り切ろうと考えているそうです。
近くにスーパーや公共交通があり、合わないコミュニティから別の選択肢に移れる
コンビニまで車で20分、駅もバスもなく、地域の役割もほぼ自分たちで担う
清水が、それを聞いてひるむ人もいるのかと尋ねると、マギーさんは「いますいます」と認めます。移住してきた人から、「最初はすごく怖い人だと思っていた」と言われることもよくあるそうです。
なんか来れば幸せになるよなんて一言も言わないし。
マギーさんは「来てください」とも言わないといいます。その人がいないと地域が回らないような状態ではないからで、地域の人たちにも、移住者に対して下手に出ることはやめようと伝えているそうです。
村のお年寄りが持つ「面白がる力」
清水は次に、マギーさんが根羽村のどこに心地よさを感じたのかを掘り下げました。マギーさんが最初に印象に残ったのは、村のおじいちゃんおばあちゃんたちがとてもよく笑っていることでした。
なんか本当に些細なことでゲラゲラゲラゲラ笑ってるんですよ。
70〜80代の人たちが冗談を言い合って楽しそうにしている姿に、マギーさんは足るを知る ── 「老子」に由来する言葉で、自分の身の丈に満足することを知る者は心が豊かである、という意味ですを感じたといいます。大切なのはネタのクオリティより、そのネタをどれだけ面白がれるかという「面白がる力」だと考えたそうです。
何でもあるわけではない中で、限られた人、物、ことで、結局常に何かをやらなければいけないとした時に、一つ一つをどれだけ面白くしきれるか(が大事)。
マギーさんは、面白がる力が村ごこちの良さにつながっていると考えています。村の人に真面目なトーンで話すことはないものの、「○○さん面白いっすね」といつも伝えているそうです。
役場の総務課長からは、外の目線で地域の面白さを見つけ、村の人が当たり前だと思っていたものに価値があると伝え、人を連れてきたり値段をつけたりして価値を証明しているのはすごい、と褒められたこともあるといいます。マギーさん自身も、面白がる力だけで生きていると思うほど、この力が高いと自覚しています。
清水が「だからプロモーションやマーケティングが向いているんですね」と言うと、マギーさんは「めちゃめちゃ向いてます」と応じました。そして自分を「農業もできない林業もできない田舎人」と呼び、作れる人がこれだけいるならと、2年目ほどで「作る」ことを手放したと話しています。
800人だからこそ生まれる、つながりの生存戦略
清水は、100地域を見てきたマギーさんに、800人という人口規模だからこそのコミュニティ感はあるのかを尋ねました。マギーさんの答えは「あります、あります」でした。
根羽村が去年から掲げる総合計画には「繋がり」という言葉が入っています。マギーさんは、小さい規模で生き残るには点で戦うのではなく、つながって線にし、面にして一体で戦うしかないと語りました。
点
個々がばらばらに戦っても勝てない
線
人と人がつながる
面
地域が一体となって戦う
都会では人がつながるまでにさまざまな文脈が必要でコストが高い一方、根羽村は「根羽村を面白くするためにみんなでやろう」と呼びかけるだけで人が集まりやすいといいます。例として、5年ほど前から始めたハロウィンは、1年目から口コミで村の子どもの8割ほどが参加するお祭りになりました。
2年目からは主催側よりも参加者側のほうが楽しみにして、勝手に企画が生まれる状態になったそうです。マギーさんは、これも村の小ささならではだと考えています。
清水は、自身の著書のサブタイトルが「人口4000人の町の生存戦略」であることを明かし、出てくる言葉も解釈も近すぎてとても面白いと話しました。だからこそ江口がこのゲストを推薦したのか、と納得した様子でした。
全役場職員が全村民にヒアリングした「ネバーギブアップ宣言2.0」
江口は、根羽村が平成の市町村合併で合併を選ばなかった自治体であることに触れ、村の強さについて話を促しました。マギーさんは、合併を「選べなかった」と言い直しています。
根羽村は愛知県と岐阜県の県境に近いこともあって移住者が多く、役場職員の半分ほどは移住者です。最近は若い移住者が増え、地域の人たちを知らない役場職員が増えていることが課題になっていたといいます。
地域循環共生圏の事業に関わっていたアドバイザーと役場の人たちが話し合う中で、役場職員が村民を知っているかどうかで仕事の質が大きく変わる、という問題意識が共有されました。そこから、全役場職員が全村民にヒアリングに行くのがいいのではないか、という話になったそうです。
ヒアリングは2年半かけて行われ、村民の約88%に直接話を聞きました。その結果は、平成に一度出した宣言をバージョンアップした「ネバーギブアップ宣言2.0」となり、根羽村総合計画にも落とし込まれています。
清水が、それは共生圏事業の応募時に書いた内容なのかと尋ねると、マギーさんは「全然違います」と答えました。応募時のテーマは、根羽村が矢作川 ── 長野県から岐阜県、愛知県を流れて三河湾に注ぐ一級河川です。根羽村はその源流にあたりますの源流にあたることから、「流域は一つ」という流域交流の話でした。
2019年に事業が始まり、マギーさんが地域活性化企業人として入った初年度に、役場からこっちにも関わってほしいと言われたそうです。流域が一つにつながるには役場が柔軟に動ける組織であることが大事だ、という議論の延長線上に、役場のレベルアップという話が出てきたといいます。
(役場のレベルアップは)目に見えにくいことをやるんだって感じたと思うんですけど、でもそれはすごい効いているんですよ、今。本当に。
江口も、事業期間中にコロナ禍が重なり、取り組みは申請書の内容とはだいぶ違うものになったと振り返っています。
役場職員であり村民プレイヤーでもある
清水は、役場職員がそう思えること自体がすごいと感心します。マギーさんは、最初からみんながそう思っていたわけではないとしたうえで、面白い話として、根羽村の役場職員は1人を除いて全員が村内に住んでいることを紹介しました。
マギーさんによると、隣に大きな市がある村では、市に住む村職員が多いことも珍しくないそうです。根羽村の職員は村で暮らしているため、暮らしと仕事の境界線がとても曖昧で、いい面としては地域のことが自分ごとになりやすいと話しています。
800人の村だと役場職員は職員であり、同時に一人の村民っていう自覚を持つことがすごい大事。
マギーさんは、役場職員なんだけど村民プレイヤーでもあるという姿勢が大切だと、役場に関わる外の人たちとも話しているそうです。
江口は、役場と地域をつなぎ、役場を地域に開く存在としてのマギーさんを、ユニークな立ち位置にいるハブのような存在だと表現しました。マギーさん自身も、役場の全部の部署と仕事をしたことがあると話しています。
(役場の)縦割りを一人横串しに。
古民家の宿から始まった関わり、そして次回へ
清水が「泊まりで行きたい」と言うと、マギーさんは古民家の宿を運営していることを明かしました。実はマギーさんと根羽村の関わりは、この古民家の宿の改修から始まっていたそうです。
マギーさんは、つながりから人が泊まりに来ると、宿に地域の人たちも集めて飲み会をしていました。初年度は2週間に1回ほどのペースで開き、村の人たちが「もうこれ以上やらないでくれ」と一度疲れてしまうほどだったと笑います。
最後に江口は、根羽村の面白いポテンシャルについて話してもらえたとまとめました。今後の話は第3弾で、地域循環共生圏をどうイメージしていたかは次回で掘り下げる予定だと伝え、清水も次回が楽しみだと話して締めくくられました。
まとめ
今回は、渋谷から人口800人の長野県根羽村へ移住したマギーさんが、移住のいきさつ、「村ごこち」という考え方、小さな村ならではのつながりの力を語った回でした。根羽村の良さを残すための挑戦が、具体的なエピソードとともに伝わる内容になっています。
- 故郷のない転勤族だったマギーさんは、根羽村に「まだ残っている日本」を見て、今しかできないと移住を決めた
- 村ごこちの良さの核には、限られた人や物でも一つひとつを面白くする「面白がる力」がある
- 田舎暮らしは「贅沢な行為」で、小さな村ほど力と人間性が求められると、マギーさんは移住希望者にも隠さず伝えている
- 800人の村では点ではなく線や面でつながることが生存戦略になり、ハロウィンや全村民ヒアリングにもそれが表れている
- ほぼ全員が村内に住む役場職員は、職員であると同時に一人の村民プレイヤーでもある





