山奥にたどり着くまでの、くねくね道と怖い橋
今回の取材先は、前原さんが住む池田町の中でも、さらに奥まった陸郷地区です。同じ山間部でも、北側の広津地区とは雰囲気が異なると語られています。
前原さんも陸郷地区にはあまり足を踏み入れたことがなく、広津よりもうっそうとした印象を持っていたようです。
広津地区よりもすごい道幅が狭いのと、結構くねくね道が続きます。
道中には、池田町のちょっと怖い民話に登場するという渡張橋も現れます。その先には桜仙峡という桜の名所もありますが、取材は夏から秋にかけての時期で、まだ見頃ではありませんでした。
目的地に着くと、そこには自然に囲まれた素晴らしい環境が広がっていました。鶏が放し飼いにされている様子に、前原さんも驚いています。
こういうのってどうやって見つけたんですか?
いやもうここは紹介ですね。不動産にはこんなの出てこない。
85万円は「激安」?和太鼓の値段と素材の話
教室にはレッスン用の太鼓が並んでいます。堀江さん自身の演舞用とは別に、教室用の楽器が用意されているとのことです。
前原さんが太鼓の費用感を尋ねると、意外な言葉が返ってきました。オーダーメイドで作ってもらった台込みの太鼓が、85万円だというのです。
その太鼓とかはオーダーで作ってもらって、まあ85万ですね。台と込みでね、安いですね。激安。
一方で、レッスン用に使われている安価な太鼓は、木ではなく樹脂でできていると聞き、前原さんは驚きます。ずっと木だと思っていたそうです。
樹脂胴に年輪っぽくつけて色塗ったっていうやつですね。革は牛ですね。
木をくり抜いて作る胴は高価なため、普及用に安く上げるためのつくりだと説明されています。太鼓の値段は、この胴の素材で大きく変わるようです。
一本の木材をくり抜いて作る。高価。
樹脂胴に年輪模様をつけたもの。普及用で安価。
牛と馬、見た目では分からない革の違い
和太鼓の革は、大体が牛の革だと堀江さんは言います。ただし、担いで打つ軽い太鼓には、反応のよい馬の革が使われることもあるそうです。
牛と馬では性質が違うので音が変わるんですね。
見た目では区別がつかない違いも、音を聞けば分かるといいます。太鼓の状態は湿度にも左右され、湿りすぎるとウェットな音に、乾燥しすぎるとカンカンとした音になると語られています。
むしろあんまり湿ってるといかんということで、ボヨボヨしちゃうんですね。
三味線のように繊細な革は雨の翌日に割れることもある一方、太鼓の革は厚いためそうした心配はほぼないとのことです。日本の環境では、乾燥より湿気のほうが問題になりやすいと説明されています。
大きな太鼓は昭和以降?和太鼓文化の意外な歴史
太鼓にはそれぞれ役割があり、担いで打つもの、神社やお寺に置かれる宮太鼓、お囃子や獅子舞で使うものなど、地域性を持って発展してきたと語られます。
担いで打つ太鼓の中には、もともと青森・津軽のお囃子で使われていた太鼓を応用したものもあるそうです。
もともとこれとかは津軽のお囃子で使われていた太鼓。
興味深いのは、大きくて平べったい大平胴の歴史です。こうした大きな太鼓が普及したのは、実はそれほど古いことではないと堀江さんは指摘します。
結局こういう大きい太鼓が普及したのって、和太鼓音楽の文化が発展してきてからの話なので、昭和以降ですね。
大太鼓を正面から打つ文化を始めた人物も特定されていて、和太鼓奏者の林英哲だと語られています。
祭りが派手になっていくのも昭和以降の傾向だと、御柱祭などを例に話が広がっていきました。
「美しい打つ姿」に惹かれてプロを目指す研修生
レッスンには研修生の女性が参加していました。彼女は東京から2020年に移住し、堀江さんと出会ったといいます。太鼓経験はまったくの初心者でした。
関東にいた時は全然太鼓はもう見てるだけ。堀江さんの太鼓演奏を見たのが堀江さんが初めてで。
東京で見た堀江さんの打つ姿の美しさが、強く印象に残ったそうです。移住後、最初は気軽に楽しむつもりで始めた太鼓でしたが、途中から本気で取り組みたいと思うようになりました。
最初はちょっと簡単に打てればいいかなみたいな感じでやってて、途中からなんか本気でやりたいなってなって。
2022年ごろから本格的に始め、今はプロを目指して太鼓も笛も学んでいると話されています。
前原さんがプロとアマの境界を尋ねると、彼女自身も最初は分からなかったと認めつつ、はっきりとした違いがあると語ります。
でもやっぱり音違うんですよね。プロとアマのどこがって言われるとあれなんですけど。
目指すゴールは「彼が出している音の領域」
研修生が目指すゴールについて、前原さんが問いかけます。ゴールに終わりはないとしつつも、たどり着きたい場所があると彼女は答えます。
どこら辺をゴールに据えているのか気になった、と。
前原 誉宜 さんからの質問
ゴールに終わりはないけれど、堀江さんが出している音の領域まで行きたい、なんなら超えたいくらいの勢いがある、と語られています。
音のとことか、彼が出してる音、音の領域まで行きたいなっていうのはあります。
同じ舞台で同じように打ち、それぞれの音からまた違う音を想像していきたい。そんな思いが語られました。
その音の違いは、太鼓を聞いたことがない人でも一発で分かるレベルだといいます。シンプルな楽器だからこそ、奏者のすべてが音に出てしまうのだと彼女は言います。
太鼓もマイクも同じ。奏者の状態が音に出る
音を通して奏者の状態が分かる、という話に、前原さんは自身のポッドキャスト制作と共通点を見出します。
人が喋ってると体調悪いとかもわかるんで、なんか面白いな。ちょっと共通点が。
声にまとう雰囲気やエネルギーから相手の状態を感じ取る感覚は、太鼓の音を聞き分ける感覚と近いのかもしれない、と語り合われました。
言葉の中に含まれる、変な話、エネルギーだったりとか、その人のまとってるその雰囲気だったりとか、多分それでさらってるのかな。
「まともな音」を出すとはどういうことか
堀江さんに、プロのような音を出すとはどういう領域なのかを尋ねると、シンプルな言葉が返ってきました。「まともな音を出す」ことだと言います。
ちゃんとその楽器のポテンシャルをそのまま素直に出してあげるってことですね。
「大きい音を出そう」「こんな感じで打とう」と余計なことを考えると、かえって楽器のポテンシャルが発揮できなくなる。それをやめることが大事だと堀江さんは説明します。
自分がやりたいことと、楽器の持つポテンシャルが相乗効果として出る状態にしていくことが目指すべき姿だと語られました。
前原さんは、これをマイクでの録音にたとえて理解します。いい音が録れないと思ったら、自分の録り方が間違っている、というのと同じだと感じたようです。
堀江さんは、普通の人の運転とF1レーサーの運転の違いにもたとえます。車は同じでも、扱う人によって引き出せるものが全く違うという話です。
普通の人がスポーツカー運転してそんなのできるわけないじゃん。でも車は一緒でしょっていう、そういう話です。
「楽をするための努力は惜しまない」という哲学
実際のレッスンでは、体の使い方が丁寧に指導されていきます。堀江さんは、ストレッチも力任せに伸ばすのではなく、体が行きやすい方向を探すよう促します。
ここが硬いから伸ばしたれっていうのだと、なかなか伸びないけど、もうちょっとこっちだといくよねっていうのを探しながらいくと、思ったよりも行きやすいです。
腕の重さをそのまま使って打つ、手の内に力みをなくす。指導の中心にあるのは「楽に打つ」という考え方でした。
前原さんが「エンジニアと同じことだ」と反応すると、堀江さんは体の構造に即した打ち方をすれば楽に打てるのに、なぜみんな無理して頑張るのか、と続けます。
体の構造に即した打ち方をすれば楽に打てるのに、なんでみんな無理して頑張ってんの?っていうところがある。
前原さん自身も、力んだ音と響く音の違いを実感します。力むと音が耳障りになり、響く音は痛くない、という感覚が伝わったようです。
表面的にバーンって当たると痛いわけですよね。これがファンって浸透して振動する音は痛くない。
鶏の生態観察と、1年ぶりの合奏
休憩中には、教室の環境に欠かせない鶏たちの紹介もありました。放し飼いにされた烏骨鶏やその他の鶏は、ペットが第一、卵が第二という位置づけだそうです。
前原さんは、鶏が足で土を削って餌を探す様子を観察し、その生態を初めて知ったと語ります。
なるほどね。知らなかった君たちの生態を私は。
その後、3人での合奏が行われます。ただし、この曲は1年ぶりということもあり、メロディを忘れている場面もありました。
これね、1年ぶりでみんな忘れてる状態ね。
前原さんの目には、堀江さんの打ち方が「踊っている」ように映ったといいます。
堀江さんのは踊ってる感じに見えたんですよ。なんかふわって。
11月の本番へ。課題との向き合い方
演奏を終え、前原さんは11月の本番に向けた練習だったのかと尋ねます。堀江さんは、課題は常にあるものだと語ります。
本番までに克服しなければならない課題というより、その時点での最高のものを持ってこられて、曲がきっちり形になっていればいい、という向き合い方が示されました。
課題は常にあるので、本番で現時点での最高のところを持ってこれて、あと曲がある程度きっちり形になってればいいかなという感じ。
まとめ
山奥の和太鼓教室への潜入取材は、シンプルに見える楽器の奥深さを浮かび上がらせました。素材や歴史の話から、奏者の状態がそのまま音に出るという感覚、そして「楽をするための努力を惜しまない」という哲学まで、太鼓を通した学びが語られた回でした。
- 和太鼓の音は胴の素材や革の種類、湿度で変わり、見た目では分からず音を聞けば分かる
- 大太鼓を正面から打つ文化は昭和以降のもので、和太鼓音楽の発展とともに広がった
- シンプルな楽器だからこそ、奏者の人間性や状態がそのまま音に出てしまう
- 「まともな音」とは、余計なことを考えず楽器のポテンシャルを素直に引き出すこと
- 楽に打つために、体の構造に即した努力を惜しまないことが大切にされている






