初開催のハッカソンで見えた「AIで誰でも作れる時代」
本題の前に、桺本さんが前日に初めて主催したハッカソンの話から雑談が始まります。
場所は関西。知り合いの会社と組み、ハッカソン ── 限られた時間で集中的にサービスやアプリを開発するイベント。もともとエンジニア向けの催しとして広まった。を大阪で開催してみたといいます。
昨日はAIのオペレーション人材をマッチングさせる会社と一緒に、関西では珍しいハッカソンを大阪でやってみました。探り探りでしたけど、初めて自分で開催してみました。
どうでした。結構いいビジネスモデルとかが生まれたりするんですか。
桺本さんによれば、通常は1〜2日かけるところを、この日は3〜4時間ほど。ClaudeCodeのレクチャーから始めて、その場でサービスを作ってみる形だったといいます。
驚いたのは、初心者の参加者でもアプリをVercelでリリースするところまで到達できた点でした。
今までハッカソンってエンジニアの中でのイベントみたいなところがあったんですけど、AIのおかげで、一般層というか誰でも参加できるイベントになってきてるなと感じました。
小平さんも、思いつきをそのまま形にできる時代になったことでハードルが下がったと応じます。
AI時代って、自分の目的を伝える、こういうことをしてほしいっていう願望を伝えるのが大切だと体験できるのがすごく良くて。
一人だとVercelへのデプロイなどでつまずきやすい部分も、隣で助言しながら短時間で進められた点が良かったと振り返ります。
そもそも「出島戦略」とは何か
ここから本題へ。桺本さんは、前回「出島戦略」をデジタルマーケティングと勘違いして話してしまったと断りつつ、今回は新規事業としての出島戦略を扱うと切り出します。
聞き慣れない言葉のため、まず小平さんが定義を説明します。
跡継ぎ企業における出島戦略は、跡継ぎが既存組織のルールから切り離した半独立の法人を作って、そこで新規事業や変革を走らせる打ち手のことです。
なぜ切り離すのか。本体のど真ん中で新しいことをやると、長年最適化されてきた組織の反発や免疫反応が起きてしまうからだといいます。
たとえば優秀なエンジニアを雇いたくても、既存の給料体系では対応できない、といった具体的な壁があります。
小平さんは、出島で重要なのは「本体とどのくらいの距離感を示すか」と「資本戦略をどうするか」の2点だと整理します。
本体から切り離す
既存組織のルールや反発を避けるため、半独立の法人を作る
別法人で走らせる
新規事業や変革を、本体とは別の環境で実行する
距離感と資本を設計
本体との距離感と資本戦略の2点を決める
桺本さんが作った「しくみスタジオ」の株の持ち方
今回このテーマを設定した背景には、桺本さんが自分の会社を作ったことがあります。
今年の4月に、AIやDXを支援する株式会社しくみスタジオを、一人企業みたいな形で立ち上げてます。
本体のアナテック・ヤナコは環境計測機器という、かなりインフラ寄りのメーカーです。AIやDXとはかけ離れた本体の中で、どう新事業を立ち上げるか。ここで株の持ち方に気を遣ったといいます。
結果として、桺本さん自身が過半数以上を持ちつつ、グループのホールディング会社にも一部の株を持ってもらう形にしました。
今の事業とは全然独立してるので100%でやってもいいなと思いつつ、ヤナコグループを大きくしたい目的もあるので、一部はヤナコ側にも株を持ってもらう形になりました。
それを元々ヤナコグループ内の新規事業でやらないことにしたのは、どういった理由があったの。
最大の理由は「人材が回せない」ことだったといいます。
AIのコンサルをやりますと言っても、できる人間は社内にいないですし、給料体系も全然違う。AIだとコロコロ変わるので、雇用より業務委託で回したりします。
同じ人を同じ仕事で雇い続ける前提の本体事業とは真逆で、人材の流用性が効かない点が、切り離しの決め手になったと語ります。
資本戦略は3種類——小平さんが全部やってみた
小平さんは、すぐ会社に戻って新しいことを始めたり、いきなり会社を変えようとすると大体失敗すると指摘します。まず名刺代わりになる事業を別会社で持つのがいい、というのが実感です。
小平さん自身、跡継ぎとして入った際に資本戦略の3パターンをすべて経験したといいます。
農業法人の立ち上げは、本体の100%子会社として実行した
農業流通の会社は自分が株主で、一部だけコビラに持ってもらった
さらに農業ITの会社は、最初から自分が持ち、外部資本からエクイティ調達して規模を拡大する形にしたといいます。
ショウダイくんの会社はエクイティ調達とかするの。
する気はないですね。売上が10億、20億とかのレベルで、上場しようと思えばできるけど、めちゃくちゃスモールなので、あんまり意味ないよなと。
跡継ぎのエクイティ調達は「不可能」だった
小平さんは、本体で調達することはないとしつつ、かつて農業の会社でコビラの信用を使って調達した経験を明かします。
当時は承継もうまくいってなくて、こっちがうまくいったら辞めちゃえと思いながら、コビラの信用を使って調達する、割とずるいやり方をしてました。
ただし調達をすると、本体の仕事とスタートアップ的な仕事の両方が求められ、完全にオーバーワークになったといいます。
桺本さんもエクイティ調達には否定的です。何十億、何百億を投じて世界を変えるような事業や、資本がない学生などにはありだとしつつ、跡継ぎの強みは別のところにあると語ります。
借り入れでファイナンスが回せるため、本体でも出島でもエクイティに頼る必要はあまりない、というのが二人の見立てです。
名刺代わりと学びの還流——出島がもたらす組織的なプラス
話は、出島があること自体の組織的なメリットに移ります。本体側の人から「面白いことをやっているな」と見られる効果もあると小平さんは言います。
外部からすると名刺代わりとしてめちゃくちゃ生きるのと、本体では関わらない人やスキルが身につくので、それを本体事業に還元できる部分があると思ってます。
直接的ではなくても、間接的に本体事業の成長に生きる、というのが桺本さんの考えです。
小平さんは、本体の中で新規事業をやるのは難しいので、10万円の合同会社でもいいから別で作るべきだと勧めます。
本体の保証をつけて政策金融公庫の創業支援を使ったり、連帯保証のつかない借り入れで一発やってみる。地方でも多い新規創業向けのイベントでピッチし、ガンガン出ていくと違う人脈ができるといいます。
桺本さんがしくみスタジオを作った動機も、この「今やる意味」にありました。
今のタイミングでAIの事業をやらないとヤバいんじゃないかと。AIかける地方で掛け算するとほとんどプレイヤーがいなくて、トップを取れる確率が高いドメインなんです。
撤退しやすさが最大の保険——出島の勝ち筋を設計する
出島のもう一つの利点は、撤退時のダメージを小さくできることだと小平さんは言います。
桺本さんは、自分は勢いよく動くように見えて実は石橋を叩くタイプだと明かし、事業設計の指針を挙げます。
堀江貴文さんが言う、小資本で、利益率が高く、在庫を持たず、撤退がすぐできる事業をやるべきという考え方に共感しているといいます。
本体事業の方に手がかかる時に、出島でやったやつができなくなる可能性も考えられるので、撤退がしやすいのはめちゃくちゃ重要だと思ってます。
しくみスタジオは社員ゼロで、桺本さんの給料も本体から支払われているため、出島側のコストはほとんどかからない構造です。
小平さんは、出島の勝ち筋を次のように整理します。本体の資本や信用、顧客基盤、人材を出島に流し込み、出島で得た学びや価値を本体に戻す。その経路を設計しつつ、出島側がキャッシュアウトしないようにする、という考え方です。
本体から流し込む
資本・信用・顧客基盤・人材を出島に投入する
出島で試す
小資本・在庫なし・高単価の事業で新規挑戦する
本体に戻す
得た学びや人脈、価値を本体へ還流する
桺本さんは、拡大もできて合流も可能な状態を作っておくのが大切だと言います。AIは最悪、本体に合流させやすいソフトな領域であり、将来のM&A後のPMIにも生きると見込んでいます。
畳んだ経験こそ財産——後継ぎに出島をすすめる理由
新規事業は成功しない確率が高い。だからこそ、本体が致命的な打撃を受けない設計が要になると小平さんは言います。
小平さん自身は、コロナと自身の体調不良による1年の離脱が重なり、スタートアップを畳んだ経験があります。
桺本さんも、新規事業はリソースを取られ、本体の売上や安定性に影響を及ぼすことがあると応じます。出島なら、リソースを振れなくなったらやめればよく、本体への影響を抑えられるため、リスクヘッジとして有効だといいます。
最後に小平さんが、出島戦略の要点をまとめます。
まずは軽めで資本もコストもかからない業態を選び、本体との資本関係は作っておく。可能なら本体の顧客基盤や信用が使える形にし、新しい技術や人脈を本体へ還流できる設計にする。そうすれば親にも将来のプラスを説明しやすいといいます。
桺本さんは、親と同じ組織内でやるより、いったん外に出てやってみる経験そのものに価値があると加えます。
まとめ
跡継ぎの出島戦略は、本体を守りながら新規事業を試すための現実的な打ち手として語られました。資本や撤退のしやすさ、そして本体への学びの還流まで設計することで、失敗しても軽い傷で済み、成功すれば本体の成長にもつながるという二人の実感が共有された回です。
- 出島戦略とは、本体の組織ルールから切り離した半独立の法人で新規事業を走らせる打ち手
- 切り離す理由は資本より人材で、給料体系や雇用の前提が本体と真逆になりやすい
- 跡継ぎの強みは資本があること。借り入れで回せるためエクイティ調達に頼る必要は少ない
- 小資本・在庫なし・高単価で撤退しやすい設計にすれば、本体への打撃を抑えられる
- 外に出て挑戦した経験や人脈、そして畳んだ経験までもが本業と心の余裕に生きる






