SNSで話題になった「ローカルゼブラ批判」とは何か
2025年9月の初めごろ、ローカルゼブラをめぐる批判がSNSで話題になりました。収録日の9月8日、桺本さんはこの話題を拾いながら、ローカル企業にとっての社会性をどう考えるべきかを話したいと切り出します。
批判を書いたのは、薩摩会議にも来たことのある、地方の事業を手がける木下仁志さんです。小平さんは個人的な面識はないものの、共通の知人は多いといいます。
小平さんはまず前提として、ゼブラ企業 ── 社会性と成長性の両立を目指す企業のあり方。急成長と高い評価額を追うスタートアップ文化への対案として、アメリカで提唱されましたの成り立ちを説明します。急成長して時価総額が大きくなったユニコーン ── 評価額が一定規模を超えた未上場のスタートアップを指す言葉。希少さを伝説の生き物ユニコーンにたとえていますを目指す文化に対し、社会性と成長性を両方持つ「シマウマのような会社」が必要だというムーブメントが生まれました。
急成長し、時価総額が大きくなることを目指すスタートアップ
社会性と成長性を両方持ち、一社ではなく群れで地域のエコシステムをつくる会社
このゼブラの考え方は、日本ではZebras and Companyのチームが輸入し、国の政策にも採用されました。ここ1〜2年でローカルゼブラ事業として補助金がつくようになり、群れる特徴を生かして、地方ごとに企業のエコシステムをつくろうとしています。
批判の論調は、社会起業家ムーブメントなど名前を付け替えて政策をやってきたが意味はあったのか、企業の社会性を政府が認定するのは気持ち悪い、というものでした。小平さんは有料記事の無料部分しか読んでいないと断ったうえで、こう要約しています。
結局これ意味あったんかと。で、またローカルゼブラかと。
小平さん自身は2年前にローカルゼブラ企業として採択された経験があり、ゼブラのチームとも親しい「半ば関係者」です。それでも、地方の中小企業が社会課題に向き合う意味を話すいい機会だと考え、この話題を取り上げたと説明します。批判には、Zebras and Companyの共同創業者である阿久津さんが丁寧な長文で応答していたといいます。
人口が減る地域で、なぜガス会社が街づくりに投資するのか
小平さんの考え方の出発点は、社会が成長していた時代と縮小する時代では、企業の前提が変わったという認識です。成長期の企業は、外のことをあまり考えず、雇用をつくり社員を幸せにし、富を再投資することが正解でした。
ただそれが社会が縮小する段階になって、労働力もすごい減るときになって、状況が変わったと思ってるんですね。
人口が減ると税収も減り、公共が担える範囲が狭くなります。小平さんの例えでは、道路のひび割れは行政が直せても、横の植栽をきれいにするところまでは手が回らなくなっていきます。
そこを誰が見るのかという問いに対し、小平さんは市民の共助に加えて、地域が維持されないと困る地方の中小企業がリソースを割くことに一定の合理性がある、と話します。
人口減少
労働力が減り、税収も減る
公共の縮小
植栽の手入れのような細かな部分まで行政の手が回らなくなる
企業の関与
地域が存続しないと困る中小企業がリソースを割く
事業への還元
住みやすい街になることで、自社の事業も栄える
小平株式会社のようなガス会社にとって、この話は具体的です。小平さんによれば、事業の拠点である鹿児島県日置に人がいなくなると、数千件から数万件の顧客を失ってしまいます。
そうならないために日置を住みやすい街に変えていくアプローチを取るのは、中長期的な合理性があるなと思っているところです。
ただし一社だけでは大変なので、インフラ、交通、組織づくりなど、さまざまな会社が集まって取り組むことになります。小平さんは、そうして動いていると勝手に「ローカルゼブラ」と呼ばれていくのだ、と少し照れながら語っています。
補助金と国の政策に意味はあったのか
桺本さんは、ローカルゼブラになりたい会社は自分で申請するのかと尋ねます。小平さんによれば、ゼブラ企業に認定制度があるわけではなく、ローカルゼブラ事業は複数企業が共同で申請する補助金だといいます。
初年度の鹿児島では、地域のインパクト戦略 ── 事業が社会や地域にどんな変化をもたらしたいかを描き、そこへ至る道筋を整理した計画のこと。社会的インパクトを意図的に生み出すための設計図です図を作るのがテーマでした。セルフのチームを中心に、外部から人を招いて勉強会やワークショップを重ねたといいます。
(インパクト戦略図は)複数の会社がそれを見ながら長期戦略を、地域をどうするか、長期戦略を作るっていうことに指針として使われてるので。
あれは正直あの国の補助金でやってもらえてすごいありがたかったなと思うし、それは返せてると思うよ。
桺本さんは、批判記事にある「看板の掛け替えで中身は18年変わっていない」という指摘はそう見えても仕方ないとしつつ、2つ目の「優良企業に余計な仕事をさせる政策」という指摘には疑問を示します。小平さんを見ていると、絶対に余計な仕事ではないと感じるからです。
小平さんの答えは、そもそも会社が一方的に認定されるわけではなく、メリットを感じた会社が自分で申請するものだというものです。一方で、今年行われたローカルゼブラツアーに合理的な意味があるのかと言いたくなる気持ちは「わからんでもない」とも認めています。
それでも小平さんは、国の政策としての意味は大きいと見ています。国の支援がスタートアップに寄る中で、こうしたソフト的な政策があること自体に価値があり、過去の社会起業家支援からはユーグレナ ── 微細藻類ミドリムシを使った食品や燃料で知られる日本の企業。社会課題の解決を掲げるベンチャーの代表例として語られることが多い会社ですなどのソーシャル系企業も生まれてきました。
何十兆円のうちのね、2、3千万だから。
補助金額は大きくないため、小平さんは個人的な感想として「結構コスパいいんじゃないか」と話します。桺本さんも、こうした事業はアウトプットが見えにくく短期で結果が出ないため、大きな予算がつけにくい背景があると応じました。
採用・イノベーション・ブランド、3つのサイクルとは?
小平さんは、会社のあるべき姿を国が認めることの意味に加えて、社会性のある活動が採用にとても効くと話します。そのうえで、猫魔や湯本の町に関わる取り組みを、時間軸の異なる3つのサイクルとして設計しているといいます。
1つ目は短期の採用です。広報チームを組成し、地域での活動と採用をつなげられるようにしています。
2つ目は中期のイノベーションです。建築資材の開発、猫魔を舞台にしたプロワーカー向けスクールの計画、さまざまな企業との共創を通じて、会社の中になかった新しい事業を3〜5年のスパンで生み出そうとしています。
3つ目は長期のブランドと町の活性化です。小平株式会社から物を買いたい、サービスを使いたいと思う人を増やし、街が良くなることで本業にリターンが返ってくるのは10年単位だと見ています。
| サイクル | 時間軸 | 中身 |
|---|---|---|
| 採用 | 短期 | 広報チームを組成し、地域での活動を採用につなげる |
| イノベーション | 中期(3〜5年) | 建築資材の開発、スクール、企業との共創で新事業の種をつくる |
| ブランドと町の活性化 | 長期(10年ほど) | 選ばれる会社になり、街の活性化を本業へのリターンにする |
この3つのサイクルを回す設計があると、社内のハレーションにも説明がつく、と小平さんは強調します。
「なんでこんな無駄なことに金使うんだ」って絶対言われるんで、いやこれこういうことっすよと。
小平さんの言う社会性は、寄付のような一方通行ではありません。中長期で事業に返ってくる設計があるからこそ、会社として続けられる活動になっていると考えられます。
地域と組みにくい会社はどうすればいいのか
桺本さんは、自身の立場から悩みを打ち明けます。桺本さんの会社がある京都の伏見は水の町で、京セラなど製造業の大企業や日本酒の業界が強く、中小企業が地域の中でブランディングしていくのは難しいと感じているといいます。
その地域との連携みたいなところを抜きにした場合に、なんかどういうアプローチがそのローカルゼブラとしてあるんだろうなっていうのがちょっと思ってる。
小平さんの答えは、地域固有の課題でなくてもいい、というものです。ゼブラ界隈では、世界中で同じようなことに取り組む「グローバルなローカル」の人たちとの連携を深めるのが一つの手だと話しているといいます。
例として小平さんは、今月末にベトナムでメコンデルタに関する研究会に参加する予定を挙げます。そこで自社の技術が役立つかもしれず、特に水に関わる課題は伏見の会社とも相性がよさそうです。
地域が困ってないんだったら別にやんなくていいし、伏見なんて残るだろうから。
地元が困っていないなら、海外のローカルや日本中のほかの地域に、外から関わる風の人 ── 地域づくりで、外部から訪れて新しい視点や刺激をもたらす人を指す言葉。その土地に根を張る「土の人」と対で使われますになる選択肢もある、と小平さんは話します。
そのうえで大事なのは、結果だけでなくプロセスをしっかり伝え、コミュニティをつくることです。お金はかかるものの、広報を雇ったり外注したりして発信できると、効果がとても大きくなると小平さんは考えています。
桺本さんは、美酒の岩田さんも地域全体をまとめ、地域のプレゼンスを上げるアプローチが上手だと話題に出します。小平さんは、自社だけが盛り上がるより、会社のある場所を巻き込んで良くするほうがかっこいい会社に思える、という感覚に触れます。
小平さんによれば、最初は経営者個人の価値観や思いからスタートしてもいいといいます。そこに金銭につながるポイントがあれば取り組み、本業へのつなげ方は考えながら進めていくと意外とできる、という見立てです。小平株式会社の場合は「インフラ」というテーマがあるので取り組みやすく、桺本さんの会社なら環境の文脈が強そうだ、と二人は話しています。
衝動ではなく計算で始める、新しいプロジェクトの判断基準
桺本さんは、小平さんが新しいことを始めるとき、結果がわからないまま始めることも多いのかと尋ねます。小平さんの答えは、バックキャスト ── 目指す将来の姿を先に描き、そこから逆算して今やるべきことを決める考え方。現状から積み上げるフォーキャストと対比されますで始めることが多い、というものでした。
若い頃は「絶対これ面白いはずだ」と衝動のままに突っ走り、最後はしょぼしょぼになることが多かった
目指す状態をイメージしたうえで始め、会社に利益が残るよう緻密に計算している
ただまあそれの反動でいって、会社に今はちゃんと利益が残るような緻密な計算は実はしているっていう。
ただし例外もあります。桺本さんに「はまポケ」は計算が難しいのではと聞かれると、小平さんは「計算ゼロでした」と認めています。一方で、その後の空き家の改修やNEKOMAは、数字をしっかり見ながら進めているといいます。
小平さんが力を入れているのは、自分も楽しく、会社も良く、地域も良くなる「正のぐるぐる」が回るシステムデザインです。4〜5個のサイクルを作って互いにプラスに回るかどうかを、やるかやらないかの判断基準にしているといいます。
その結果、小平株式会社では「共創祭り」のように、多くの会社が関わって同時多発的にプロジェクトが動いています。現在は小平さんと福永さんの2人で回しているため、NEKOMAの運営が始まると手が足りなくなりそうだと話しています。
英語で発信する日本のローカル企業という空きポジション
小平さんは来年、海外のアワードも取りに行くつもりだといいます。背景にあるのは、海外の人たちは日本に興味があるのに、日本のローカルの情報がなかなか出てこないという実感です。
英語喋れるし、日本で面白いことやってるやつがいると、今そのポジションって取りごろなの。
桺本さんも、ローカルでそうした発信をしている人は「ほぼいない」と同意します。小平さんは、英語のブログサービスのサブスタック ── ニュースレターやブログを配信できる海外のプラットフォーム。有料購読の仕組みを持ち、英語圏の書き手に広く使われていますに載せる方法や、ポッドキャストを翻訳して配信する方法を挙げ、日本のことを伝えるソーシャル系のインフルエンサーの席が空いていると見ています。
こうした海外とのハブを担っているのが、ゼブラのチームや、スペインのMondragon、小平株式会社とも一緒に仕事をしているRepublicなど、海外ネットワークの強い組織だといいます。
あの人たち(Republic)と一緒に仕事してると、突然LGのエグゼクティブ研修が湯本であったりするからね。
桺本さんが「おかしいおかしい」と笑うほど、地方の町と世界の企業が思わぬ形でつながっています。そのうえで桺本さんは、ローカルゼブラにはちゃんと価値があるという話ですね、とまとめにかかります。
小平さんは、昔は善意でやるしかなかった社会性のある取り組みが、今は中小企業でもやれるタイミングになったと話します。妻や妻の母、近所の人が喜んでくれるのは嬉しいとしつつも、計算したうえで成り立つからやっている部分がある、と線を引きます。
予算の決め方について、小平さんはPLベースだと付与率がわかりにくくなるため、最近は毎年純資産の何パーセントを割り当てるやり方がいいと考えているそうです。社内の理解を得ながら一定額の予算を取り、中長期的に間接的にでも返ってくる設計をする、というのが小平さんの結論でした。
まとめ
ローカルゼブラ批判を入り口にしたこの回では、人口が減る地域で中小企業が社会性に投資することが、善意ではなく事業を続けるための合理的な選択として語られました。地域と組みにくい会社にも、海外や他地域と関わる道があることが示されています。
- 人口減少で公共の手が届かなくなる中、地域に依存する中小企業が街づくりに関わることには中長期的な合理性がある
- ガス会社の小平株式会社にとって、日置に人がいなくなることは数千〜数万件の顧客を失うことを意味する
- 採用・イノベーション・ブランドの3つのサイクルを設計すると、社内の「無駄遣い」という声にも説明がつく
- 地元が困っていなければ、海外や他地域のローカルに「風の人」として関わり、英語で発信する道もある
- 社会性の予算は、純資産の一定割合を毎年割り当てるような決め方が考えられている







