理念づくりの話に入る前に、AIの使い分け雑談から
この回は、パーソナリティ2人がまずAIの近況を雑談するところから始まります。
小平さんは後継ぎ合宿の雑談会をきっかけに、ClaudeCodeを触り始めた後継ぎがいたことを喜びます。
雑談会を聞いてくれて、ClaudeCodeを触り始めたっていう後継ぎがいて、すごく嬉しかった。
小平さん自身はこの日から、ノートパソコンに加えてモニターを増やし、合計4画面の環境にしたと話します。
それぞれの画面でQwark、ClaudeCode、Slack、Manasを立ち上げ、指示を出し続けるスタイルだといいます。ちょうど上の画面では合宿のメンター代の請求書を、金額の間違いのため作り直してもらっている最中でした。
使い分けについて聞かれると、小平さんは厳密なルールはないとしつつ、ツールごとの役割を挙げます。
- 途中の確認がいらない簡単な作業はManas
- 複雑なMCPやスキル化して作り込むものはClaudeCode
- 請求書や返信メールのルールはClaudeMDやQwark、ClaudeCodeで
柳本さんは、以前はVSCodeでClaudeCodeを使っていたが、最近はデスクトップアプリ中心になったと応じます。
ただ、この話題を続けると2時間かかると2人で笑い、ここで区切って本題の理念経営へ移ります。
なぜ理念を作ったのか、2社それぞれのきっかけ
まず話題になったのは、理念を作ったきっかけです。
小平さんの場合、会社の方向性や日々大事にしたいことの言語化が社内になかったことが出発点でした。
皆で決めた一つの方向性がないと、結局は「社長が言ってるから」っていうのになってしまって、人の問題になってしまう。
その背景には、組織的に会社がひどく混乱し、立て直しプロジェクトが必要になったという事情がありました。
なんか「もうこの会社ダメかな」みたいな感じに、特に組織的な面でなってしまった。
一方、柳本さんのきっかけは、もっと軽い気持ちで始めた人事制度づくりでした。
ところが作り込むうちに、会社の方向性そのものを変えたいと考えるようになります。
今までの延長線ではなくベクトルを変えたいと思ったとき、MVVや人事制度が必要だと気づいたといいます。
ミッション・ビジョン・バリューの役割分担と作り方
小平さんの会社では、これまでに2回、理念を作っています。
1回目は「第四創業」と呼ぶ大きな転換のタイミング、2回目は今年8月にグループ会社と合併するための理念です。
小平さんは、ミッション・ビジョン・バリューをそれぞれ抽象度の違うものとして整理します。
大きくこちらへ行きたいという方向性で、最も抽象的なもの
特定の時期にこうなっていたいという、少し具体的な姿
ビジョン達成の過程で大切にする行動規範やルール、文化
1回目は、ミッションを役員合宿で、ビジョンを社長と副社長を中心に、バリューを社員全員から意見をもらいながら作りました。
2回目は「歴史から作ろう」という方針でした。114年目の会社が40年前に一度分裂し、それが合流するため、両方の歴史を踏まえる必要があったからです。
20メートルほどの巻物に創業からの出来事を付箋で貼り出し、途中で二手に分かれた歴史もたどりながら、最後を2050年として空白を残しました。
これまでをこう全て踏襲した上で、ここからやってることって何だっけっていうのを考えて、それを言語化したのをミッションにした。
柳本さんの会社も3年前に作りました。60年前に作られた「公益・施政・躍進」という社是があり、社長が年数回口にするほど浸透していたといいます。
ただ、今の時代に即しておらず、バリューのような使い勝手のよさもないと感じ、変えることにしました。
作り方は、まず経営陣で方向性を決め、その後に管理職以上の社員とワークショップを行い、「アナテック・ヤナコらしさ」を言語化していきました。約3か月をかけてミッションとバリューを作ったといいます。
理念は何のためにあるのか、判断のOSと妄想
小平さんは、ミッション・ビジョン・バリューが必要な理由を2つ挙げます。
1つ目は、経営判断や日々の事業判断のよりどころになることです。ないと個人の価値観による判断になってしまい、わけがわからなくなるといいます。
2つ目は、ビジョンが持つ意味です。小平さんは『理念経営2.0』の著者の話にふれ、ビジョンとは日本語で言えば「妄想」だと紹介します。
今はまったくないものをどう実現し形にするかがビジョンであり、それを会社として示すことが、未来へのポジティブなエネルギーを生むと小平さんは考えています。
競合とか、日々のなんか細かい勝ち負けばかりに気を取られていると、なかなかモチベーションが生みづらいし、共感して入社してくれる人も少ない。
法人が公益性のある立場になってきた今、社会や人、企業のあるべき姿という妄想を示すことも、理念の大きな役割だと語ります。
コビラのビジョンと、田舎だからこそ数字を追う理由
小平さんの会社の全社ビジョンは、現在4つあります。
- 持続的・連続的な成長を続ける
- 社員一人一人とチームのウェルビーイングと成果を両立する
- 創造性あふれる街をつくる
- 知恵を出してイノベーションを生み出す
以前の合併前ビジョンは2032年に向けた6つの具体目標でしたが、グループ経営で事業が増えたため、ある程度解釈の余地があるものに変えたといいます。
なかでも大きいのが、連続的な成長を明確にビジョンへ組み込んだことです。以前は「数字は追わなくていい」と言っていたところからの転換でした。
そういう会社が地域地域にあって、ある程度地域のウェルビーイングとか、環境とかに対して責任を持たないといけないんで、そのためにやっぱり一定売上の成長いるよねと思い始めた。
小平さんは、京都のように支える人が多い地域なら数字を追わなくてよいが、田舎であるほど数字を追う必要が出てくると話します。
この転換は、経営戦略そのものをガラッと変えたビジョンになったといいます。
うちにはあえてビジョンがない、という選択
これに対し柳本さんは、自社にはビジョンがないと明かします。
MVVはセットで語られがちですが、ビジョンは妄想を語るものであり、3年前の段階では妄想が膨らまなかったといいます。
そこであえてミッションとバリューだけにしました。柳本さんは、ここに中小企業への一つの示唆があると話します。
妄想語るって、ある程度組織が一体じゃないと、あんまり逆効果になる可能性あるなってちょっと思って。
会社の状態がまだ不安定だったため、ミッションとバリューに絞ったのは一つのありな選択だと柳本さんは考えています。
小平さんは、影響する層の違いから補足します。ミッションは経営ボード、ビジョンは役員から部長以上、バリューはスタッフ層に主に影響するといいます。
ビジョンを全員に接続できるか、Willとロールの使い分け
問題は、ビジョンをスタッフ層まで完璧に接続できるかです。小平さんは、これが実はかなり難しいと語ります。
会社のビジョンと個人のWill(人生で成し遂げたいこと)が合致しているのが理想ですが、必ずしもそうならない人がいます。
人生は人生、仕事は仕事なんで、私は与えられた仕事を完璧以上にやるけど、Willの開示はしたくない、というパターンもある。
柳本さんも、そもそも夢がない人はいると応じます。
小平さんは、そうした人には「ビジョン駆動」ではなく「ロール(役割)」を与えるほうが機能する場合が多いと説明します。後輩の面倒を見たいといったコミュニティへの貢献も、その人を動かす力になるといいます。
ビジョン駆動でマネジメントするパターンと、ロールを与えてしっかり仕事をしてもらうパターンをどのように分けるか。
同じ会社でも、年間何日も海外に行く部署と、毎日同じルートでガス配送をする部署があります。8月の合併に向けて、その使い分けを今まさに設計しているところだと話します。
抽象度への「訓練」と、階層ごとに変える理念設計
小平さんは、ビジョン駆動が難しい理由を「抽象度」に求めます。
ビジョンの抽象度を理解できる訓練を受けてるかどうかっていうのがすごくある。
具体の中だけで生活してきた人には、抽象をどう咀嚼して具体につなげるかが難しい。これは賢いかどうかではなく、訓練の有無だと強調します。
そのため小平さんの会社では、理念を階層化しています。グループ全体で一つ作り、それがM&Aや事業売却などの大きな決断に影響します。
さらに、ガスエネルギーなど「カンパニー」ごとにも段階的な理念を設計しようとしています。抽象性に対処できるキャパシティに応じて、言葉の使い方を変えるのが狙いです。
たとえば「人ではなく事に向かう」というバリューも、より具体的に「人の悪口より、自分のできることを見て考えよう」と言い換えることがあります。
方向性は社長や経営陣が決めてよいが、実際にどう伝わり、どう伝えるかが理念の設計ではすごく重要だと小平さんは語ります。
「ねじ曲げる」から「安心と希望の火を起こす」へ
柳本さんは、外部人材を入れずに作ったため、言語化を自分たちだけで咀嚼しきれなかったと振り返ります。
一方、小平さんの会社は外部のムスビという会社や、デザイナーの久保さんが伴走していました。
そのおかげで生まれた修正のエピソードがあります。1回目に挙げた理念は「地域の未来をねじ曲げる」というものでした。
バッドシナリオを力づくでグッドシナリオに変える意図でしたが、久保さんに「全然ダメだ」と言われたといいます。
理念っていうのはもちろん社内への方向付けもあるけど、会社の顔だ。
トップページに「ねじ曲げる」と書いていては、地域の安心と希望というポジションには決していかないだろう、という指摘でした。年表ワークの直後で変なテンションになっていたと小平さんは笑います。
考え直した結果、今は「地域から安心と希望の火を起こす」になりました。「火」は初代の鍛冶屋のメタファーも含み、より分かりやすく伝わるようになったといいます。
地域の未来をねじ曲げる(語感がネガティブで会社の顔に合わない)
地域から安心と希望の火を起こす(初代の鍛冶屋のメタファーを含み伝わりやすい)
理念を物語として外に届ける広報チーム
柳本さんは、抽象化した理念を社内外にどう伝えるかが難しいと感じつつ、それを助けるのが「物語」ではないかと投げかけます。
小平さんも、最近作った広報チームは理念を物語として発信する狙いがあると認めます。
ガスや電気は品質面で差がつきにくく、どこから買っても物自体は同じです。そこで共感や指名買いをどう生むかが課題になります。
自分たちがどういうことを成したい会社で、それに対して一歩一歩こういうことをやってますよっていう発信の積み重ねによって共感が生まれる。
そのエピソードの集合体を資産として社内に持てるかが大事だと小平さんは語ります。広報チームに加え、BIOTOPEや元Forbes編集者にも関わってもらい、理念に基づくアクションの伝え方に取り組んでいます。
理念をClaudeMDに入れ、経営判断をAIにレビューさせる
話は再びAIに戻ります。小平さんは、日々の経営判断に理念を強く生かしていると語ります。
具体的には、AIの挙動を定めるClaudeMDというルールファイルに、自社の理念を入れているといいます。
全ての自分の経営判断に対して、この理念に対して沿ってるかをちゃんと見てね、というのを入れてる。
これにより、AIは理念に基づいて経営アドバイスをくれます。さらに固定化したプロセスで日々のやりとりのログをレビューし、理念にどれだけ沿えているかを自己採点しているといいます。
ある採点では、可能性の拡張や事業の調子は良いものの、「チームで動いていないからダメ」と言われたそうです。
できることばっかり拡張して、それをもう少し周りにギブしましょう、と言われた。ごもっともと。
AI時代は行動や判断、メールのやりとりをログとして貯められるため、それと理念の整合性を照らすことができる。小平さんは、これを経営者自身の振り返りにも使えると話します。
柳本さんも、自分らしさをMDファイルでAIにどう渡すかはClaudeCode界隈でよく語られる話題だと応じ、面白いアプローチだと評価します。
理念は「合う人」を明確にし、判断を自律的にする
終盤、2人は理念が組織にもたらす効果を整理します。
柳本さんは、理念をしっかり作ると会社の方向性や考えが明確になり、働く人の合う・合わないもはっきりすると話します。
以前、小平さんが理念を船の航海にたとえていたことにもふれ、ビジョンが向かう方向、バリューが乗組員の模範的な行動を定めると振り返ります。
小平さんは、社員レベルでの効果を挙げます。チームで働くのか個人で働くのか、バリューが示していれば、社員が自律的に行動を判断できるようになります。
昔だったらいちいち社長に「明日この人が育休って言うんですけど、休ませてもいいですか」って聞いてたのが、「もうこれ会社でこう言ってるからこれでいいよね」ってなる。
判断が自律的になると、会社の運営スピードが一気に上がると小平さんは語ります。会計システム入れ替えの提案資料が「理念から考えるとこっちがいい」となっていたことも、面白い実例として挙げます。
柳本さんは、経営者はある程度の考えを持っているから自分で判断できるが、社員は判断基準がわからないことが多いと補足します。理念を持つことは、会社を変える第一歩になり得ると語ります。
小平さんは、バリューを行動を縛る鎖ではなくお互いが怪我をしないためのガードレールだととらえるよう促します。生まれも育ちも違う人が集まれば、放っておけば衝突するからです。
柳本さんは、うまく作れなくても「作ってみる」というプロセス自体に価値があると締めくくります。棚卸しや言語化が進み、そこで生まれる経営陣や従業員との会話に意味があるからです。
まとめ
この回は、理念を「意思決定のOS」であり「自律的行動のガードレール」ととらえ、2社が自社の作り方や使い方を具体的に語り合った内容でした。抽象度の扱い方や伝え方、AIとの組み合わせまで、理念を実務に落とし込む視点が並びました。
- 理念は個人の価値観に頼らないための判断基盤であり、ミッション・ビジョン・バリューは抽象度と影響する層が異なる
- ビジョンは「妄想」を示すもので、組織の状態によってはあえて持たない選択もあり得る
- ビジョン駆動が難しい層にはロール(役割)を与え、抽象度に応じて理念の言葉を階層ごとに設計する
- 理念は物語として発信することで共感や指名買いにつながり、外部の伴走者が言葉の質を高める場合がある
- 理念をClaudeMDに入れて経営判断をレビューさせるなど、AIと組み合わせて振り返りに使える
- 理念があると社員が自律的に判断できてスピードが上がり、合う人・合わない人も明確になる






