薩摩会議で「ポッドキャスト聞いてます」が続出?
鹿児島で開かれた地域カンファレンス「薩摩会議」に、ローカル企業経営ラジオのMC2人が参加しました。小平勘太さんは主催する側として、桺本頌大さんは参加者として、この回で会議の感想を語り合っています。
桺本さんが会場でまず驚いたのは、「このポッドキャストを聞いています」と声をかけてくる人の多さでした。桺本さん自身も10人以上から言われたといい、番組の広がりを実感する場にもなったと話しています。
僕でも10人以上ぐらいに言われて、結構このポッドキャストの広がりを感じることができた薩摩会議でもあったなって思ったんですけど。
ただし番組は顔出しをしていないため、名前だけでは気づかれないこともあります。桺本さんはDAY2の志布志で、隣の席の人と30分ほど話した後に「もしかして柳本さんですか?」と気づかれ、ハッとしたそうです。
小平さんによると、小平さんの妻もこの番組のヘビーリスナーです。「章大さん来てんの?」と桺本さんを見に行こうとしていたほどで、普段から頻繁にフィードバックをくれるといいます。
薩摩会議とは何か。3日間と700人の構造
薩摩会議を知らない読者のために、小平さんが会議の全体像を説明しています。薩摩会議は年に1回開かれる地域カンファレンスで、今年で5回目を迎えました。
薩摩会議は3日間で構成されています。小平さんの説明を、日ごとの役割で整理すると次のようになります。
小平さんは、会議を運営する薩摩リーダーシップフォーラム(SELF)の3人の共同代表の一人です。今年は会議の設計のごく初期から関わったといいます。
参加規模も拡大しました。チケットの販売数は599枚で、ゲストが110人あまり、スタッフが30人ほどいることから、小平さんは重複の可能性も踏まえて「約700人」と表現しています。
桺本さんも、会場で話した相手に「今回が初めて」という人が多く、参加者が増えている実感があったと話しています。
「居心地が悪い」から「居心地が良い」へ。何が変わった?
今年の薩摩会議の3日間を貫く大きな問いは、「150年後の世界に私たちは何を残すのか」でした。そのうえで今年の問いとして「私とは何者か」が掲げられ、延べ150人を超える登壇者が集まりました。
今年は台湾との交流もあり、10〜20名ほどの台湾の要人が参加しました。小平さんは、台湾側の先生が寄せたお礼の寄稿文があまりに名文だったため、自分のnoteの感想文が書けなくなったと笑っています。
小平さんが挙げる今年の特徴は、音楽や文化を意識したパートの多さです。「とにかく踊らされた」と表現するほど、文化色の強い構成でした。
参加者の感想にも変化がありました。小平さんによると、去年の感想で一番多かったのは「居心地が悪い」「気持ち悪い」でしたが、今年は「あれ、居心地悪くなくない?」という声が出ていたそうです。
去年は「居心地が悪い」「気持ち悪い」が感想の一番だった
今年は「居心地悪くなくない?」という声が出た
2回目の参加だった桺本さんも、今年はとても居心地が良かったと話します。慣れた影響もあるかもしれないとしつつ、その理由が不思議だったといいます。
いや、何なんだろうね。だからまだそれ(居心地の良さの理由)があんまり答えは出てないけど。
小平さんは、理由のひとつとして「鹿児島でやる意味」を打ち出したことを挙げます。たとえば「億」の話は鹿児島で話す必然性がないため、会議そのものは鹿児島で開く意味があるものにしようと、音楽や土着性 ── その土地に根ざし、土地の風土や暮らしから生まれた性質のこと。外から持ち込んだものではなく、地元で育まれた文化や感覚を指しますを今年のテーマに据えたといいます。
今年から演出にはアーティストの坂口修一郎さんが加わりました。鹿児島の土地を感じられる演出として、初日のレセプションでDJを入れるなど、五感から緩めるような取り組みが用意されていました。
運営の裏側。共同代表が担った「仕組みづくり」とは
薩摩会議の準備について、小平さんは「相当大変」だったと振り返ります。中でも一番大変だったのは共同代表の野崎さんで、約5ヶ月間、自分の会社をほとんど置いてこちらにコミットしていたそうです。
小平さん自身の貢献は、裏側の事務の仕組みづくりでした。今年からクレジットカード決済が可能になったほか、会計ソフトとの連携や契約まわり、会計の整合性まで整えたといいます。
(会計周りの)いろんなこう、それこそ会計系の整合性とかまでちゃんとやったんで、だいぶ今年は軽くなるんじゃないかなと。
登壇者に請求してもらう手続きは残っているものの、AIも使えるため、後処理はだいぶ軽くできたと小平さんは見ています。小平さんによると、ほかの共同代表は事務作業が得意ではないため、小平さんが裏方を担ったそうです。
もうひとつの小平さんの役割は、演出の坂口さんを口説いたことです。坂口さんは小平さんの地元の先輩で、会議がビジネスカンファレンス化していくなら関わらなくてもいいかと考えていた時期がありました。
小平さんは元編集長の久能さんらと東京で坂口さんに会い、「もう一回カルチャーを取り戻しましょう」と伝えて参加が決まったといいます。小平さんはこれを「代表らしいムーブ」と表現しています。
ビジネスからカルチャーへ。DAY1の登壇者設計
桺本さんは前回の参加時にも、薩摩会議がビジネス寄りになってきたという話があったと感じていました。その流れをカルチャーに戻すことは、最初の設計から考えていたのかという桺本さんの問いに、小平さんは「そうです」と答えます。
基本フェスにして、フェスの合間に話があるぐらいの感じがいいかなと思ってる。
DAY1の基調セッションでは、思想家の出口先生やYAMAPの晴山さん、石倉先生など、思想系の登壇者が続きました。そこに3つ目として住吉小糸さんらを迎えたセッションの評判が特に良かったと小平さんは話します。
小平さんは、思想の話から地に足のついた話へとつながっていく流れを、設計としてうまくいった点に挙げています。
思想・哲学
出口先生、晴山さん、石倉先生らが、答えの出ない問いを扱う
地に足のついた話
住吉小糸さんらのセッションで、話が具体へとつながる
踊りで締め
鹿児島の太鼓や三味線の文化を紹介する住吉社中の踊りで終わる
桺本さんが印象的だったと語るのは、初回のセッションで掲げられた問い「Who am I」が「Who am We」に切り替わったことです。会場ではその後、みんなが「We」と口にするようになったといいます。
元々のこのWho am Iで掲げてるやつがWho am Weに変わったんで、なんかあれすごい良かったですね。全体的に。
小平さんによると、当初はヨーロッパから別の哲学者を招く予定で、その仲介を出口先生に頼もうとしていました。ところが「出口先生自身が良くない?」という話になり、先生本人に登壇を依頼したそうです。
DAY2の湯本と志布志。「養生」と「テロワール」は何をもたらした?
小平さんは今年、毎日8時間眠れたといいます。DAY2に小平さんが受け入れ側を務めた湯本のテーマが「養生」で、体のケアも受けて元気な2日目を迎えられたそうです。
DAY2は参加者が15の地域に分かれます。桺本さんが訪れた志布志のテーマはテロワール ── もともとはワインの用語で、ブドウが育つ土地の気候・土壌・地形などの環境的な個性を指す言葉。転じて、その土地ならではの風土が産物に与える影響を表しますや文化資本 ── フランスの社会学者ブルデューが提唱した概念。教養や趣味、身につけた振る舞い、所有する文化財など、お金以外の形で受け継がれ、蓄積される文化的な資源を指しますでした。堀口省吾さんや若潮酒造さんを訪ね、地域で何を考えて何をしているのかを聞いて回ったといいます。
小平さんが担当した湯本の「養生」は、小平さんがいま手がけている猫狐馬ノ杜のテーマでもあります。自然と人と企業が互いを養生し合う仕組みを、地域でどう実装するかがテーマでした。
湯本では午後のワークショップを2班に分けて行いました。一方は身体と向き合う養生のワークショップで、もう一方は800年ほど続く神社の裏の森で野草や薬草を摘み、持ち帰ってカクテルを作って飲むという内容でした。
桺本さんによると、前回の湯本は「地域経営」がテーマで、ビジネス寄りの話が中心でした。今回は身体性に振った構成になり、小平さんは「すごく好評だった」と話しています。
地域経営がテーマで、ビジネス寄りの話が中心
養生がテーマで、身体のワークショップや薬草摘みなど身体性に振った構成
ワークショップの後はみんな酔っていたため、難しい話はせず「こんな養生があったらいいね」を付箋で貼ってもらったそうです。夜のご飯会には住吉社中さんも来て、最後はまたみんなで踊って終わりました。
やっぱり身体性に振るのいいなと思って。わざわざね、鹿児島の田舎まで来て難しい話しなくてもいいなと思って。
桺本さんも、記憶に残るのは結局身体的なことだと応じています。小平さんの言うわざわざ鹿児島まで来て難しい話をしなくていいという感覚は、今年の薩摩会議を象徴する言葉かもしれません。
志布志で知った、ポッドキャストが縮める距離
桺本さんはもともと、志布志の若潮酒造の焼酎「GROW」が大好きでよく飲んでいました。事前にあまり調べていなかったため、訪問先が「GROWの蔵だったのか」と現地で気づいたそうです。
酒造の上村さんもこの番組のリスナーでした。番組で話したGoogle Workspaceの導入の話を聞いて、実際に会社に導入したと桺本さんに伝えたといいます。小平さんも以前、神村さん経由で焼酎組合の講演に呼ばれたことがあると話します。
(上村さんが番組を)聞いてくれてるから。めちゃくちゃやっぱ話しやすくて。
桺本さんは、ポッドキャストのおかげで初対面でも話しやすくなるという点に、ある種の身体性があると感じています。小平さんも「ポッドキャストってやっぱりいいね」と同意しています。
DAY2の夜には、COTENの深井龍之介さんとCFOの羽田さんも湯本の飲み会に来て、一緒に踊ったそうです。深井さんは「次回は3日とも出たい」と話していたといいます。
小平さんの地元の首長が、例年の名物だったエアギターを今年は「卒業」した話も出ています。初日の能から始まり、DAY2の朝一にみんなでエアギターをやったことで、結果的にちょうど良いバランスになったと小平さんは振り返ります。
桺本さんは志布志の夜、十数人で「志布志銀座」と呼ばれる場所に繰り出し、スナックやバーで午前2時ごろまで飲んだといいます。登壇者向けの前夜祭も朝まで続いたそうで、小平さんは多くの登壇者がヘロヘロでDAY1に来ていたはずだと笑います。
DAY3の「企業は文化を経営できるか」。1杯1万円のお茶は何を問う?
DAY3で桺本さんがまず参加したのは、「企業は文化を経営できるか」というセッションでした。同じ時間帯のほかの部屋では、ローカルLLMが地域の神社のような存在になるという話も出ていたと、小平さんは伝え聞いています。
小平さんはモデレーターとして動いていたため、ほかのセッションはほとんど聞けていません。小平さんは、ほかの部屋の話を噂やキーワードだけで知ることになるのも、薩摩会議の良さだと話します。
小平さんがモデレートした1つ目のセッションは、資本主義とトランスフォーメーションがテーマでした。能登から来た森山さんは、経済的に重要でない場所で起きた震災を復興させることは経済合理性から外れるとしたうえで、それを社会がどう受け入れるかが日本のこれからを占う道になると話したそうです。
小平さんは、福島で復興に取り組む高橋大典さんが事前番組で語った言葉にも共感しています。
辺境だから厳しくていいって言うんだったら、日本が世界とアジアの辺境だから、全員北京に移動しろって言われて、うんとお前は言うのかって。
桺本さんの参加した「企業は文化を経営できるか」では、山本先生が文化資本の話をしました。「なんとか資本」がいくつも出てくる内容で、桺本さんは「マジでわかんなかった」と率直に振り返り、もっと勉強が必要だと感じたそうです。
一方で、桺本さんがハッとさせられたのは和多屋別荘さんの話でした。お茶を1杯1万円で売るという取り組みで、土地の歴史や茶農家の営みを価格に転化する考え方だったといいます。
最終的なアウトプットに対する工業的な価格付けが中心
土地の歴史や茶農家の営みといった背景を価格に転化する
僕ってやっぱ製造業で生きてるんで、最終的なアウトプットのところの工業的なやっぱ価格付けが多いんですよね、どうしても。
桺本さんは今回、文化資本系のセッションを多く聞き、どの登壇者も同じ考え方をしていたことで、文化資本を「身体的に理解できた」と話しています。小平さんも、数年前にあった「ビジネスカンファレンス化しそう」という空気は、今年はすっかりなくなったと感じています。
深井龍之介さんの講演と「全員バグらせろ」の結末
DAY3の2つ目、深井さんのセッションも盛り上がりました。小平さんは、深井さんにいかにノリノリで話してもらうかを考え、控室でランチを一緒にとりながらいろいろな話をしたそうです。
そのときすでにギアがかかっていた深井さんは、その勢いのまま登壇しました。桺本さんは「あの時間であれだけ喋れるか」というほど深井さんが話し切ったと振り返ります。
桺本さんは普段から深井さんのYouTubeやコテンラジオを聞いていて、内容は断片的には知っていました。それでも一気に聞くことで理解が深まったといいます。
深井さんは「参加者を全員バグらせよう」と意気込んで来ていました。ところが終わった後の深井さんの感想は、小平さんによると次のようなものだったそうです。
終わった後に、いやもう全員バグってましたわみたいな。そもそもこんな場所でそもそもそんなに話が通じる場が普通ないみたいな。
桺本さんは、会場のみんなが深井さんの話に「だよね」と共感していたことこそ、普通はない状況なのだと受け止めています。セッションの後には招待者5人ほどの裏セッションも開かれ、次のアクションも決まったそうです。
「億セッション」はなぜ物議を醸したのか
DAY3の最後は、小平さんが今年一番やりたかったという「億セッション」です。去年の中小企業とトランスフォーメーションのセッションで、クロスローカルの坂本さんが「売上億いかないのは意識が低い」と煽り、小平さんも同調したことが物議を醸したのがきっかけでした。
そこで今年は、関係者を全員集めて話してしまおうという企画になりました。登壇者は坂本さん、坂本さんが連れてきた中馬さん、ベンチャー型事業承継の山野さん、京都の老舗の後継者の岡村さん、元Forbes編集長の久能さん、億宣言などの中小企業政策を作る先生、中小企業庁の赤松さんです。
本当は中小企業庁の長官にお願いしていたものの、都合が合わず担当の赤松さんが来たそうです。小平さんとブランド会社のタカミさんがモデレーターを務め、アメトークのようにひな壇を2段組んで7人が並びました。
議論の軸は、企業のあるべき姿と、そこへの変容をどう起こすかでした。小平さんは、成長を目指す「成長企業」と、社会的な意義や意味を重視する「成熟企業」の2軸があり、両方とも達成できるものだという話をしたといいます。
売上や規模の成長を重視する企業
社会的な意義や意味を重視する企業
最前列で見ていた桺本さんは、坂本さんや中馬さんが話しているときの山野さんの表情が印象的だったといいます。「ん?違うけどな」という空気を身体的に感じられたそうです。
小平さんは、立場の違いを幕末にたとえています。
幕末のさ、あの公武合体派か、もう徳川家潰しちゃおう派かみたいな話だから。結局大枠は一緒で。
桺本さんも、方向は同じでアプローチが違うだけだと応じます。小平さんは、最初にそれぞれがどんな思いで取り組んでいるかを話してもらえたら、もっと良かったと振り返っています。
議論をまとめるのは大変だったようで、小平さんは途中で一度諦め、タカミさんに振ったところ「何の話をしてるのかよくわからない」と返されたそうです。最後は「成熟企業」のネーミングを考え直す必要があるという話も出つつ、それぞれ頑張ろうという結論に落ち着きました。
山野さんはセッション後もXで1日ほど連投を続けたといいます。小平さんは、ロールアップという言葉を嫌う山野さんの感覚はよくわかるとし、山野さんは山野さんなりに跡継ぎを中心とした「愛のある経営」をやっていけばいいと話しています。
来年の薩摩会議は?跡継ぎにもっと来てほしい理由
小平さんは、薩摩会議に来ればこうしていろいろなことを語れるので、来年は跡継ぎの人たちにもたくさん来てほしいと呼びかけます。桺本さんも、知り合いの跡継ぎの参加は意外と少なかったと感じていました。
去年は「行く」と言っていた人も、今年は運動会の時期と重なって来られなかったケースがあったそうです。来年の日程は何も決まっていないものの、同じくらいの時期になる見込みだといいます。
開催の継続についても話が出ました。小平さんらが「4年に1回でいいのでは」と話したところ、共同代表の一人が「10回までやります」と言い切ったそうです。
みんなのこう、会う場所、プレースメイキングみたいな場になってるんで、これ続けないといけないって言い切ったので。
今年が5回目なので、少なくともあと5年は続く見込みです。例年4〜5月にキックオフがあり、去年は8月に発表されたため、来年の情報も夏ごろに出てくるだろうと小平さんは話しています。
まとめ
5回目の薩摩会議は、ビジネスカンファレンス化しかけた流れをカルチャーと身体性へ引き戻し、「鹿児島でやる意味」を打ち出した回でした。主催と参加の両方の視点から、居心地の良さの理由や、文化を価格に転化する発想、立場の違う人が同じ場に集まる意義が語られています。
- 今年の薩摩会議は約700人が参加し、去年の「居心地が悪い」から「居心地が良い」へと感想が変わった
- 音楽や土着性、養生など身体性を重視した設計が、鹿児島で開く意味をつくった
- 和多屋別荘の1杯1万円のお茶は、土地や歴史を価格に転化する考え方を製造業の桺本さんに示した
- 億セッションでは、成長企業と成熟企業という2軸が示され、方向は同じでアプローチが違うだけだと整理された
- ポッドキャストのリスナーとの出会いが、初対面の会話を話しやすくしていた






