山野さんが「本当は嫌」なさつま会議に、また巻き込まれる
この回は、山野千枝さんをゲストに迎えた3回シリーズの最終回です。桺本さんが山野さんと初めて会ったのは、去年の薩摩会議だったと振り返ります。
その薩摩会議に、山野さんは今年も参加することになりました。ただし本人いわく、人が多い場所は苦手だといいます。
本当、(小平)さんに言われたらノーって言えない。イエスかはいか喜んでって言うしかないんで。
本当はすごい嫌なんですけど。
今年の山野さんは、聴講者ではなく登壇するパネラーの側です。小平さんが半ば無理やり呼んだ、という経緯で参加が決まりました。
去年「炎上」したセッションで、何が起きていたのか
今年の話をする前に、小平さんは去年のさつま会議で起きた「炎上」を振り返ります。きっかけは、100億シンクタンクの坂本さんの主張でした。
坂本さんの立場は、企業は成長にコミットしないとダメだ、というものでした。バックキャストで成長の道を作るべきで、国も「100億宣言」を掲げているのだから、成長に向き合わないのはおかしいという論調です。
3つのセッションのうち3つ目に、山野さんが登壇しました。同席したのは元Forbesのウェブ編集長だった方や、京都の植田本社の岡村さんらです。
そのセッションの立場は、会社は文化や社会性も重視する多面的な存在であり、売上至上主義には意味がないのではないか、というものでした。オープニングで元編集長が放った一言が、場を大きく動かします。
彼が「僕はもう(1つ目の)話を聞いて怒りに震えてました」って。
小平さんによれば、この発言は本気の怒りというより、議論を面白くするための燃料投下のようなものでした。しかし結果として話が一人歩きし、「さつま会議が会社のことで炎上した」という受け止めが広がってしまったといいます。
今年は「山の登り方が違う」3団体を、あえてぶつける
今年のさつま会議で、小平さんが仕掛けようとしているのは、支援系の3団体による議論です。ベンチャー型事業承継、100億シンクタンク、そしてローカルゼブラを掲げるブランドカンパニーの3つを挙げます。
小平さんの見立てでは、この3団体は実は似たようなことをやっているものの、「山の登り方」が違います。だからこそ関係者を集めて議論させる会をやろう、というのが今回の狙いです。
会社をテーマにしたセッションも3部構成です。1つ目はブランドカンパニーによるアカデミックな中小企業論、2つ目は歴史の文脈からの中小企業論、3つ目は参加者も交えたディベートという流れです。
3つ目のディベートには、去年の登壇者や坂本さん、ゼブラの高take{要確認: 高目さん}さん、跡継ぎ席のフリー参加者などを含め、8人ほどを集めて1時間半議論する構想です。
(山野さんは)タッチができるってことにしよう。突然「タッチ」って言って、タッチで交代もできるようにしようかな。
(それなら)当日、(小平)さんと名刺合わせないようにしとこう。
「どういう会社を目指すべきか」と「どう300万社を変えるか」
小平さんは、このセッションで話したいことが2つあると整理します。1つ目は、どういう経営のあり方、会社のあり方を日本は目指すべきなのか、という問いです。
当日は、100億宣言を主導した衆議院議員の福田先生や、大手金融系の要職の人、学者も来る予定だといいます。行政、金融、学問、そして支援側と跡継ぎ側という多層的な立場から議論を重ねる構想です。
2つ目は、その方向性を、日本に約300万社ある中小・中堅企業のうちどれだけに広げられるか、という実装の問いです。
その3割が100万社を変えるにはどういうアプローチを取ったらいいのかっていう、この2つを議論できる。
答えを出すためのイベントではない、と小平さんは言います。それでも、300万社の何割かが行動変容のきっかけをつかめるなら意味がある、と山野さんも応じます。
(300万社の)何割かがまあ行動変容というか、自分はこのオプションを選んで、こうやっていこうって考えるきっかけになるんだったら、すごく意味のある議論だと思います。100億の是か非かとかじゃなくて。
1部
ブランドカンパニーによる、アカデミック側からの中小企業論
2部
歴史の文脈からの中小企業論
3部
参加者や登壇者8人ほどによる、1時間半のディベート
100億シンクタンク、ゼブラ、承継支援は「みんな似ている」
小平さんは、去年のように喧嘩別れのような形になったことを「悪かった」と振り返ります。坂本さんも山野さんも、対立しているわけではないと強調します。
坂本君とか山野さんが仲悪いと思われてるの変な話だし。仲悪くない。ちょっと熱が冷めてってるだけ。
(坂本さんとは)別のイベントとかでお会いすることとかあるので、私も率先して挨拶に行ってますもん。「こんにちは」って。
小平さんは、この3団体の関係を三国志に例えます。100億シンクタンクが魏、茶団(ちゃだん)が蜀、そしてゼブラが呉というイメージだといいます。
坂本さんについて小平さんは、あえて「バカみたいに100億」と分かりやすく言い切る、ムーブメントを作る人だと評します。数字だけの人ではない、という見方です。
(坂本さんは)上場したとしても、絶対に教育事業をこんだけお金を残すんだみたいなことを、条件付き上場みたいにしたいって言ってて。
山野さんが「なんだと」と思った、100億宣言への違和感
桺本さんが、去年の100億宣言をどう感じたかを山野さんに尋ねます。山野さんは、規模の拡大自体はむしろ推奨している立場だと前置きします。
山野さん自身、地方の豪族企業を、跡継ぎが目指すべきロールモデルの一つに掲げているといいます。引っかかったのは、規模を目指さない会社には価値がない、という論調のほうでした。
さらに山野さんは、去年の議論の最初に「どの尺で100億と言っているのか」を問い返したと振り返ります。時間軸の取り方で、話はまったく変わってくるからです。
(100億は)例えばこの次の世代で目指せるように少しずつ成長していくっていうことだって、100億企業を目指すことかもしれない。
もし数億の会社が今すぐ100億を目指すなら、M&Aを繰り返し、不採算事業を全部なくすような決断しかなくなる、と山野さんは指摘します。自分の代では届かなくても数代かけて目指すのか、今すぐなのかで、受け取られ方はまるで違うといいます。
100億を目指せない会社は、価値がないのか
山野さんが特に気にかけるのは、サプライチェーンの中で不可欠な役割を担う会社です。そこがなくなると大変だ、という位置にいる企業は少なくありません。
ここの会社がなくなっちゃうと大変みたいなことをやってる会社っていっぱいいるんですよね。で、そこって絶対100億目指せないですよ。
だからこそ山野さんは、そういう会社に価値がないように見える政策であってほしくない、と願います。その延長で語られるのが、100億宣言に対する「100年宣言」という発想です。
100年生き延びようと思えば、自分の代でも次の代でも足りません。今の地域のために何をするか、30年後の売上の種を今からどう準備するか。会社の生命力そのものを、会社の成長と捉えるという視点です。
規模の拡大を成長の指標とする。社会的・地域的インパクトは100億規模があってこそ生まれる、という発想
会社が生き延びる生命力を成長と捉える。今の地域への貢献や30年後の種まきを重視する発想
「150年後に何を残すか」というロングターミズム
山野さんは、規模の拡大は分かりやすい一方で、そこから取りこぼされる価値があると語ります。目指したくても目指せない領域の事業があるからです。
桺本さんは、100億宣言のもともとの意図を、100億規模の事業があれば地域に雇用が生まれ、周りも成り立つ、という地域のための発想だったと補足します。山野さんも、社会的・地域的インパクトは100億くらいないと生まれない、という出発点があったと応じます。
話は、薩摩会議のテーマ「150年後に何を残すのか」に及びます。山野さんは、これを非常に秀逸なテーマだと評します。
もうみんな死んでるわけじゃないですか、150年後って。誰もそれ確認できないけど、そこに向かって今生きてる私たち何残すんだっけ?っていう。
このテーマの由来は、薩摩会議が明治維新150年をきっかけに始まったことにあります。ただし、明治維新を賛美するのではなく、次の150年に向けて自分たちがどんな社会を作るかを考える機会にしよう、という転換がありました。
桺本さんは、これを完全にロングターミズムだと受け止めます。思考のタガを一度外し、長い時間軸で企業のあり方を考える視点です。
「10億宣言」に喝を入れる意味と、失われた30年
小平さんは、100億だけでなく「10億宣言」も掲げられる点に触れ、その狙いを推測します。デフレに慣れきり、成長せずコストカットだけを正解としてきた経営者に喝を入れる意味がある、という見立てです。
もうインフレの世界になったんで、ちゃんと値段も上げて、ちゃんと投資して、どんどん成長にも向き合わないといけないよねっていう。
デフレの世界ではコストカットが正解になってしまう、と小平さんは言います。今回はその「宣言」を作った本人が来る予定なので、狙いを直接聞いてみたいと語ります。
一体どういう狙いで作ってんですか?10億とか意味なくないですか?みたいな。
一方で山野さんや府能理さんらとも勉強会をしている相手であり、数字だけの人ではないだろう、とも小平さんは補足します。行政、金融、学問、跡継ぎが交わることで、議論が深まることを期待しています。
発信する後継ぎが、誰かの「教科書」になる
最後に、山野さんから後継ぎへのメッセージが語られます。まず伝えたのは、発信する後継ぎが増えることの意味です。
後継ぎが自らの事象やケースを言語化して発信すれば、それが積み重なって「誰かのための教科書」になっていく、と山野さんは言います。だからこそ、パーソナリティ2人を見習って発信してほしいと呼びかけます。
もう一つの理由は、後継ぎが「どこにいるか分からない」という支援側の根本的な課題です。会社のサイトには経営者の名前しか載らず、後継ぎが戻ってきているかも外からは分かりません。
山野さんは、後継支援が各地に広がっている現状も伝えます。「そんなものはない」と思い込んでいる人が多いものの、実際にはどこも後継ぎを探すのに苦労しているといいます。
先代や古参社員の目を気にして、昼間に外へ出ていくのは難しい。それでも、その勇気ある行動は無駄にならない、と山野さんは背中を押します。
「形から入って、後から自分を追いつかせる」
山野さんは、中小企業庁の後継支援のエントリーが始まっていることにも触れ、まず名乗りを上げること自体に意味があると語ります。
目瞑ってポンとエントリーして、後から考えるでいいんですよ。
家業の名前を背負って表に出ることは、後を継ぐ覚悟を決めていくプロセスそのものだといいます。だからこそ、形から入って構わないというのが山野さんの立場です。
チャレンジすれば、必ず見える世界が変わる、と山野さんは締めくくります。そこで出会う人や情報を通じて、今見えている世界がいかに狭かったかに気づくはずだ、というメッセージです。
まとめ
100億という規模の拡大と、100年続く生命力。この回は、その2つをどちらか一方ではなく「両方選べる」ものとして捉え直す議論でした。取りこぼされがちな価値に目を向けつつ、成長論も否定しない。そして後継ぎ自身が発信し、名乗りを上げることの意味が語られました。
- 山野さんは規模の拡大自体は推奨しつつ、「目指さない会社に価値がない」という論調に違和感を示した
- 「どの尺で100億か」という時間軸の取り方で、100億宣言の受け取られ方は大きく変わる
- 「100年宣言」は100億宣言と対立するものではなく、会社の生命力を成長と捉える両立可能な視点
- 薩摩会議の「150年後に何を残すか」は、長期の時間軸で企業のあり方を問うロングターミズムのテーマ
- 後継ぎは発信し、名乗りを上げることで支援とつながる。形から入り、後から覚悟を追いつかせてよい






