去り方をデザインできるのは、良い経営をしてきた証
この回のテーマは、創業者や経営者が引退や引き継ぎをどうデザインするかという問いです。宇尾野さんは、経営を「どう手放していくか」の在り方を探求したいと切り出します。
池原さんは、そもそも去り際をデザインできること自体が価値あることだと受け止めます。起業して長く続けられた経営者だからこそ考えられるテーマだ、という見方です。
去り際をどうデザインできるかって考えられる創業者、経営者の方って、それなりの年月経営してるってことなので、これは素晴らしいことだなって思うんですよね。
池原さんは、起業して5年残る人が8割、10年残る人が6〜7割ほどという実感を挙げます。10年ほど経営した人が「どうしようかな」と考えるからこそ、去り際は良い経営の延長線上にあると話します。
経営者の平均年齢60.7歳、後継者不在は半分という現実
去り方のデザインは、特別な話ではなく社会全体の課題になりつつあります。宇尾野さんは、中小企業庁のデータとして、全国の経営者の平均年齢が60.7歳(2年前のデータ)であることを紹介します。
さらに宇尾野さんは、後継者が不在だと答えた経営者が半分ほどいたことにも触れます。あと10年ほど経つと、多くの会社が引き継ぎの局面を迎える構図です。
宇尾野さんによれば、帝国データバンクのデータでは、後継者候補の最多は非同族が4割ほどとのことです。家族に継がず、M&Aによる第三者承継が増えつつあると説明します。
池原さんは、廃業の理由として業績の次に多いのが後継者不在や将来性のなさだと指摘します。将来を見越して、継ぐ・辞める・残るを含めた去り方のデザインが重要なテーマだと述べます。
退職届とは質が違う、去り際は普段からシミュレーションする
宇尾野さんは、支援先が広がってきたことに触れます。地方の地場産業や、学校・病院のように地域に根差す経営、同業を次々買収してグループ化するロールアップ企業など、経営者交代が話題になる場面が増えているといいます。
そのうえで宇尾野さんは、去り方に唯一の正解はないと前置きします。この回は、どうデザインするかの選択肢を提供する回にしたいと話します。
池原さんは、創業者・経営者の去り方は、会社員が退職届を出して3ヶ月後に辞めるのとは質がまったく違うと強調します。普段から去り際をシミュレーションしておかないと大混乱になる、という指摘です。
創業者、経営者の去り方は、退職届出して3ヶ月後に辞めますっていうこととは全く質が違うので、普段からどこかで去り際をシミュレーションしておかないと大混乱になりますよね。
そうですね、明日辞めたってできないですからね。
全権委譲、会長として残る、宣言だけで実務に居続ける
宇尾野さんは、実際に見てきた去り方のパターンを挙げます。「あとよろしく」と全権を渡すケース、会長として少し残るケース、売却後に一部資本として残るケースなどがあると説明します。
一方で宇尾野さんは、「離れます」と宣言したのに、業務にがっちり関わり、毎日オフィスにも来ているケースもあると話します。宣言と実態がずれる例です。
池原さんは、自身が見てきたパターンとして、二代目に引き継ぐ人、60代70代でも「死ぬまでやる」という現役社長、若い起業家でバイアウト後1年ほどで次の起業に移る人などを挙げます。
若い起業家だとバイアウトして1年ぐらいですっぱり辞めて次の起業しますみたいな人たちもいるので。
そのうえで宇尾野さんは、この回の前提を整理します。想定しているのは10年20年、あるいはそれ以上経営してきた人が、次にどう引き継ぐかを考えるときの頭の中だと述べます。
後継者は「この人」と決めて10年かけて育てる
池原さんは、自分の周りにも託す側と継ぐ側の両方が多いと話します。50億や100億規模の会社では、次に継ぐことを数年単位でプランニングしているケースがほとんどだといいます。
池原さんによれば、最も多いパターンは、自分の子どもを一度別の会社に就職させ、途中から自社に戻すやり方です。
宇尾野さんは、ファミリービジネスの承継研究に触れ、後継者選びに成功する会社は10年以上かけていると紹介します。後継者を「この人」と決め、他社での修行や家族間の合意形成、顧問の導入を丁寧に進めるプロセスです。
池原さんは、先代と次期社長に同じ経営顧問をつけるケースが多いと補足します。先代のDNAをどこかで引き継ぎたいという思いがあるのだろう、という見方です。
引き継ぎすぎると次の経営者が身動きできない
宇尾野さんは、引き継ぎには両面があると整理します。会社の資産や資本をうまく継続させることが成功の鍵なら丁寧に引き継ぐべきですが、経営環境が激しく変わる場合、引き継ぎすぎると次の経営者が硬直化して身動きできなくなると指摘します。
具体例として宇尾野さんは、先代が去っても経理部門に先代からの番頭が残り、新しい社長が決裁を取りにくくなる状況を挙げます。硬直化したまま渡してしまう事例をよく聞くといいます。
池原さんも、次世代を経営幹部に招いても急には渡せず、必ず並走期間があると言います。先代のやり方と新社長のやり方、先代につく役員陣と新社長との溝など、リアルな揉め事が起きると話します。
先代のやり方とこちらのやり方、先代にくっついている役員陣と新しい社長との溝であったりとか、まあまあ大変そうですね。
宇尾野さんは、事業承継の前に相談を受けたときの支援を紹介します。新旧のチームで何が変わり、どんな問題が起きそうかをあらかじめ「予言」し、今のうちに仕込みをしておく手法です。
その仕込みは、次の経営者本人だけでなく、周りで支える人にも共有します。宇尾野さんは、二代目が働きやすく事業を推進しやすいよう、最初の段階から準備しておくと話します。
株を持ったまま抜ける、意思決定権は徐々に渡す
池原さんは、承継以外のパターンとして、M&Aで出ていく以外の選択肢を尋ねます。宇尾野さんは、株を持ったまま経営から抜けるケースがあると答えます。
宇尾野さんは、株の保有と経営の執行を分けて考えます。最もややこしいのは、執行はしないのに株主として発言できる状態だといいます。
一番面倒くさいのは、経営はやらない、執行はやらないんだけど、株主として残っててものが言える状態なんですよね。
宇尾野さんは、実権としては執行だけでなく意思決定権も渡さないと推進が難しいと述べます。ただし、経営を先に渡し、意思決定の根幹は残しておいて、それも徐々に引き渡していくやり方もあると説明します。
30代40代から去り際を考えると属人化を防げる
池原さんは、視点を若い世代に移します。40代や30代で事業を伸ばそうとしているフェーズでは去り際を想像しづらいものの、去り方をデザインすると権限委譲や意思決定の設計が変わってくるのではないかと問いかけます。
宇尾野さんは、最も変わるのは創業者依存、つまり属人化を手放せるかどうかだと答えます。創業者がいる間だけ成立する条件が抜けると回らなくなるものは多く、それを整理することが去り際を考える鍵だといいます。
池原さんは、これを「創業者マジック」と表現します。特に創業経営者の影響力は大きく、残すべき部分と手放さないと回らない部分があると整理します。
池原さんは自社を例に挙げます。会社を作った意味やストーリーは引き継がないとアイデンティティが失われる一方で、「池原じゃなきゃ営業ができない」といった部分は減らしていくイメージだといいます。
顧客・財務・物語――引き継ぐべきレガシーを分ける
宇尾野さんは、去り際のデザインで「レガシー」を整理すると話します。顧客との関係性もレガシーの一つで、新規営業は引き継ぎやすい一方、昔からの取引先や金融機関との関係はうまく引き継がないと承継が成立しないと述べます。
さらに宇尾野さんは、人事制度や社内ガバナンス、お金の使い方もシステムとしてレガシー化すると指摘します。実務からは去ったのに、財務や経理の考え方だけ創業者が残り続ける会社もあるといいます。
最後に宇尾野さんは、ナラティブのレガシーを挙げます。なぜ創業したのか、どんな価値観が大事か、今後どうやっていってほしいかという物語の引き継ぎは、言語化も含めて重要だと話します。
昔からの取引先や金融機関との関係。新規営業と違い、うまく引き継がないと承継が成立しない
人事制度やガバナンス、お金の使い方。経理の考え方だけ創業者が残るケースもある
なぜ創業したか、大事な価値観、今後の方向性。言語化して引き継ぐべき会社のアイデンティティ
池原さんは、これらを5W1Hで考えないと整理しようがないと言います。いつから準備するか、誰に引き継ぐか、なぜやるか――なかでも「誰に」が最も大事だと強調します。
去った後のキャリアプランも一緒に描く
池原さんは、子どもに引き継ぐ以外の選択肢を取る人は、早め早めに考えないと去りようがないと述べます。後継者を誰にするかを決めることが、去り方の出発点です。
宇尾野さんは、経営者も一人の人間であり、去った後にも人生が続くと話します。渡すものだけを考えても、その先に何をするかがないと大きな虚無感に襲われるといいます。
宇尾野さんは、引退するのか、別の経営を始めるのかも含めて、自分自身のキャリアを考えることが大事だと述べます。社員のキャリアを考えるのと同じように、経営者自身のキャリアも設計すべきだという指摘です。
渡した後にどう生きていくか、人生はまだ長い中で何を目指すのか。仕事だけで邁進してきた方が多いはずなので、折れちゃいますよね、ポッキリね。
宇尾野さんは、新しい趣味を見つけて余暇を楽しむこともぜひやってほしいと言います。そのうえで、社会に果たしたい役割が本当にあるなら、会社を引き継ぐ前に仕込んでおくことも、事業を伸ばすのと同じくらい大事だと話します。
経営者の最大の作品は、経営者交代である
池原さんは、去り際の美学が大事だと切り出します。美しくない去り方はしたくない、という思いから、宇尾野さんに去り際の美学を問いかけます。
宇尾野さんは、一橋大学の楠木健さんの言葉を挙げます。経営者の最大の作品は経営者交代だという言葉が、自分の一つの自負になっていると話します。
自分の組織は一個の作品だと思ってやってるんで、その瞬間どんな作品作るかっていうのを意識的に頑張ってるんですよね。
宇尾野さんは、その瞬間の最高傑作だと思えるものを作るのが去り際の美学だと述べます。中途半端なものは作らず、引き継ぐ人や仕組みが出来上がったと思えたときが去り際だといいます。
宇尾野さん自身は、まだ引き継げる状態を完全にはイメージしきれていないと明かします。その状態がイメージでき、今いる人たちがそこに到達していたら「作品が出来上がった」と感じられる、という感覚です。
人事や社員から、無邪気に「去り方」を聞いてみる
宇尾野さんは、経営者それぞれに理想の去り方が根底にあるはずだと言います。それを言葉にできていなかったり、準備できていなかったりするだけだと述べ、この回をきっかけに言葉にする時間を取ってはどうかと提案します。
一方で宇尾野さんは、人事や周りで支える人が、直接「いつ去りますか」とは聞きにくいことにも触れます。池原さんも、なかなか聞けないと同意します。
どうやって去るんですかとかっていうのは聞きづらいかもしれないんですけど、こういうポッドキャストを聞きまして「考えてるんですか」みたいなのを無邪気に質問してみるのも面白いんじゃないかなと思いますね。
池原さんは、去り際の美学は生き方の美学や会社に貫く哲学に通じると受け止めます。何を美しいと思うか、何を許せないと思うかが、経営や意思決定に表れると話します。
宇尾野さんは、自分自身も置いている自負の言葉を改めて考えたいと語り、続きは次回に委ねます。番組は、リスナー自身の去り際の美学についても投稿を呼びかけて締めくくられます。
まとめ
創業者・経営者の去り方は、退職とは質の違う、長い準備を要するデザインです。後継者を早くから決めて育て、属人化を手放し、顧客・仕組み・物語といったレガシーを整理しながら、自分自身のその後のキャリアまで含めて描くことが求められます。
- 去り方をデザインできること自体が、長く良い経営をしてきた証と言える
- 経営者の平均年齢は60.7歳、後継者不在は半分ほどで、引き継ぎは社会的な課題になりつつある
- 後継者は「この人」と決めて10年ほどかけて育てるが、引き継ぎすぎると次の経営者が硬直化する
- 30代40代から去り際を考えると、創業者依存(属人化)を早く手放せる
- 去り際の美学として、宇尾野さんは「経営者の最大の作品は経営者交代」という言葉を挙げた




