足の指まで羽毛に覆われた、寒さに特化した鳥
前回の放送では、世界でおそらく最も寒いところに適した鳥がライチョウだと紹介されました。今回は、その導入となる紹介から話が始まります。
長野さんは調査のため、特別な許可を取ってライチョウを捕獲し、足輪をつけたことがあると言います。そのとき驚いたのが足の様子でした。
足の指の先ぐらいまで、鳥の場合は毛ではなくて羽毛という羽根が生えていて、それにこうびっしり覆われていて、もう何じゃこりゃっていうぐらい毛むくじゃらな感じなのよ。
ニワトリの素足を思い浮かべると違いがよくわかります。鳥が苦手な人は、あのウロコのような足の生身感を嫌うことが多いのだそうです。
ところがライチョウは指の先まで羽毛にびっしり覆われ、いかにも暖かそうな格好をしています。ネット上にも写真が多く出ているので、目にする人も多いかもしれません。
靴下も履いてないし、サングラスもしてないし、レインウェアとかアウターシェル着てないし。すごいよね。彼らは体一つで生きてますからね。
野生動物は裸一貫で生きているからこそ、環境に適応した独特の進化を遂げてきました。その姿形や生態、行動に表れる工夫が、ライチョウを見る面白さでもあると話されています。
世界共通の名前「ラゴプス・ムータ」の意味
ライチョウは日本語の呼び名です。しかしアメリカ人に「ライチョウ」と言っても通じません。そこで、生き物には全世界共通の名前が付けられています。
この共通の名前が学名です。人間なら「ホモ・サピエンス」がその例にあたります。そしてライチョウの学名は「ラゴプス・ムータ」といいます。
ラゴプス・ムータ。ライチョウ感が全くない気がしますけど。
一見ライチョウらしさを感じませんが、ラテン語にはきちんと意味があります。ラゴプスは「ウサギみたいな足」、ムータは「声を出さない、静かなやつ」という意味だそうです。
ライチョウはじっとしていると気づかれにくく、登山道で足元がふと動いて初めて存在に気づくこともあります。足の指の先まで羽毛が生えた姿とあわせて、昔の人はよく見て名付けたと感心させられます。
ライチョウは一種類、でも十五の亜種に分かれる
前回、ライチョウは寒いところに住む鳥だと紹介されました。分布は広いものの、地域が違うと体の大きさや色、形態に違いが出てきます。
人間の目で見てわかる違いがある場合、種の下にある「亜種」というレベルで分けられることがあります。ライチョウは全世界で十五の亜種が知られています。
日本のライチョウは、北半球の中でも一番南に分布し、ポツンと隔離されて取り残された集団として知られています。ただし種類としてはライチョウ一種です。
亜種というのは、種で分けるほどではないけれど、一緒とは言えないレベルの違いということですか。
グッさん さんからの質問
そのとおりです。別の種類かどうかは、基本的に雑種ができないメカニズムができたグループ同士かどうかで分けられます。これが別種の考え方です。
たとえば釣りに行って、コイとフナの合いの子が釣れることはまずありません。自然界には雑種ができないメカニズムがあり、それぞれ独立した繁殖集団として存在しています。
一方で亜種は、あくまで人間が便宜的にグループ分けして名前を付けたものです。ノルウェーのスヴァールバル島のライチョウと日本のライチョウも、交配すれば理論上は子が生まれるはずですが、実証されたわけではありません。
ニホンジカで分かる、亜種というグループ分け
亜種のイメージをつかむために、長野さんはニホンジカを例に挙げます。奈良公園で鹿せんべいを食べている鹿も、北海道から屋久島までの鹿も、種類としてはすべてニホンジカです。
ただし北海道の鹿は体が大きくて色が薄め、南の屋久島の鹿は体が小さくて色が濃い、といった違いがあります。日本は海で隔てられているぶん、境界がわかりやすいのが特徴です。
その境界ごとに分けられた亜種の名前が、エゾシカ、ホンシュウジカ、キュウシュウジカ、ヤクシカです。呼び名は違っても、すべてニホンジカという一つの種類にまとまっています。
一つの種
ニホンジカという共通の種類がある
地域で隔てられる
北海道や屋久島など海で分断される
見た目の違いが出る
大きさや色に地域差が生じる
亜種として命名
エゾシカ、ヤクシカなどに分けられる
ライチョウも同じで、世界中に広く分布する中で地域ごとに違いが出て、十五の亜種に分けられています。日本のものは学名の末尾に「japonica(日本のもの)」が付き、そのグループに属しています。
岩手・早池峰山に残る、東北のライチョウの痕跡
現在、日本のライチョウは本州中部のアルプス周辺に生息しています。では昔は北海道や東北にもいたのではないか。長らくよくわかっていませんでしたが、最近になって面白いことがわかりました。
学校や博物館には、理科の教材として鹿やライチョウの剥製が残っていることがあります。日本全国のそうした剥製を調べた人がいたのです。
その調査で、明治三十八年、つまり千九百五年に岩手県の早池峰山で採集されたライチョウの剥製標本の存在が明らかになりました。今から百二十年ほど前のことです。
さらに、山に入る人や猟をする人への聞き取りから、昭和中期の一九六三年ごろに早池峰山でライチョウを見たという人も現れ、最近論文として発表されました。
見間違いではないかという問いに対し、その目撃者はかなり自信を持って答えたと言います。
見間違いじゃないですかねって言ったら、いやいやいや、俺が見間違うわけないだろってちょっと叱られてしまった。
猟をしたり山を登ったりする人は自然に詳しく、信憑性は高いと考えられます。寒い時期に南下し、温暖化で北に帰れなくなったライチョウが、昔は北海道や東北にもいた時代があったと想像されます。
ただし、寒さや気象条件だけが鳥の住める条件ではありません。餌があること、身を隠す隠れ家があることなど、いろいろな環境がそろわないと、彼らは子孫を残していけないと話されています。
温暖化は悪いことばかり?ピレネーの意外な研究
ライチョウは特別天然記念物として国レベルで保護されており、中央アルプスに移植して個体群を復活させるプロジェクトも進んでいます。グッさんも番組「ダーウィンが来た」で目にしたそうで、ある意味身近な鳥でもあります。
ここで長野さんは追加情報を紹介します。温暖化の影響は日本だけの話ではなく、世界中で同じ現象が起きています。ピレネー山脈やフレンチアルプス、イタリアのアルプスにも、日本と同じくポツンと取り残されたライチョウの集団がいます。
これらの集団は絶滅の危機が心配され、現地の研究者によって詳しい調査がされてきました。ところが、その論文には意外な結果が書かれていたと言います。
過去三十年間すごい詳細な調査がされていて、当然その間も地球温暖化が進んできたとされてるわけよ。繁殖成績が悪くなったかとか、個体数が減ってしまったのかを解析してみたところ、いや、何も変わってませんけどっていう論文が出てて。
その理由を探ると、さらに面白い研究がありました。植物は気温がやや高く、二酸化炭素濃度が高く、日光を浴びると光合成が盛んになります。高山帯は寒くて条件が悪い場所ですが、温暖化で気温と二酸化炭素濃度が上がり、条件がそろってきたのです。
つまり、ライチョウの餌となる植物の栄養が充実したと考えられます。実際に餌の植物の成分を調べると、昔よりも栄養素が充実していたそうです。
もともと、雪解けが早い年ほどライチョウの繁殖成績が良い傾向が知られていました。その理由は餌となる植物の質ではないか、という仮説が立てられていたのです。
温暖化が進む
気温と二酸化炭素濃度が上がる
雪解けが早まる
植物が早く繁茂する
餌の質が高まる
植物の栄養素が充実する
繁殖成績が向上
生き残り率が高まると考えられる
直接的な因果関係が実証されたわけではありません。ただし、雪解けが早い年に繁殖成績が良くなること、その年に餌の栄養が充実することという二つの状況証拠から、温暖化が必ずしも悪い影響だけを及ぼすわけではないと報告されています。
もっとも、これはピレネーやフレンチアルプスの事例です。日本のライチョウに当てはまるかまでは言えません。
日本のライチョウが本当のところどうなってるかは、ちゃんとした調査をやって、現状をきっちり把握しないと、彼らのために良かれと思ったことが実はマイナスに働いてた、なんてことがあるかもしれないので。
だからこそ、きちんと調査をすることが大切だと話されています。グッさんは、成長が良すぎると葉が硬くなって食べる期間が短くなるのでは、と直感的な疑問を投げかけます。柔らかい新芽を食べるイメージがあったからです。
今回の結果は、必ずしもそうではなく、しっかり育った栄養状態の良い植物を食べているという内容でした。ただし、どんな植物かまでは長野さんも確認しきれていないとのことです。
関連して、一年ほど前に出版された「温暖化に負けない生き物たち」という本の存在を最近知り、思わずAmazonで購入したそうです。読んだらまた番組で紹介する予定だと話されています。
まとめ
今回は、学名や亜種といった基礎から、かつて東北にもいた可能性、そして温暖化の意外な一面まで、ライチョウの立ち位置を幅広くたどる回でした。次回はライチョウの一年の生活が紹介される予定です。
- ライチョウは足の指の先まで羽毛に覆われ、寒さに特化した鳥として知られています。
- 学名は「ラゴプス・ムータ」で、ウサギのような足と、声を出さない静かな鳥という意味を持ちます。
- ライチョウは一種類ですが十五の亜種に分かれ、日本のものは北半球で最も南に取り残された亜種です。
- 1905年に岩手県・早池峰山で採集された剥製が残り、昭和中期まで目撃情報もあり、東北にもいたと考えられます。
- ピレネーなどの研究では、温暖化が餌の質を高め、必ずしも悪影響だけではない可能性が報告されています。


