会員100名でも苦しい、元教員の運動教室が抱える4つの壁
厚利少売ラジオの今回の相談者は、辰巳順介さんです。辰巳さんは小中学校の教員を15年務めて2023年3月に退職し、現在は年少から小学6年生を対象にした運動遊び教室を運営しています。
辰巳さんの運動遊び教室は月謝5500円で、会員数は100名に達しています。番組の全放送を2周聞き直して、厚利少売 ── 高い利益を少ない顧客から得るビジネスの考え方。安く大量に売る「薄利多売」の逆で、この番組のテーマになっていますの考え方を取り入れている最中だといいます。
相談文は、川原さんが読み上げる形で紹介されました。
一見順調なのですが、人数を増やすほど業務が増え、コーチの管理や現場対応に追われ、集客や自分の時間が取れなくなり、多忙感が強くなってきました。さらに、大阪府教育委員会や学校から研修依頼をいただくものの、行政案件は単価が固定(1時間1万円ほど)で、どれだけ喜ばれても成果に見合う報酬にはならず、限界を感じていました。
私の強みは、人とつながる力、コーディネーターとして場を整える力、学んだことを分かりやすく教える力だと感じています。この強みを活かして、今の業態とは違う形で厚利少売で仕事を作るとしたら、どのような方向性が考えられるでしょうか。
辰巳さんの相談には、事業内容と数字も添えられていました。教室は50分フルに動いて基礎運動能力と非認知能力を育むプログラムで、1クラス最大16名をコーチ2人で見ています。月謝は相場がわからず、大手より少し安く設定したそうです。
辰巳さんは現在40歳で、教室と非常勤講師の掛け持ちで年収600万円です。目標は42歳で年商3000万円、45歳で年商1億円で、時間の切り売りでは無理なため横展開の仕組みを模索しているといいます。
辰巳さんの相談では、目標に向けて直面している壁が4つ挙げられていました。
| 壁 | 内容 |
|---|---|
| 地域の限界 | 子どもが減少し低所得世帯が多く、個人向けの高単価化は難しい |
| ToB転換の迷路 | 園や学校向けに移りたいがニーズが不明。行政案件は1時間1万円で固定 |
| 引っ越し不可 | 持ち家があり、妻と子ども3人がいるため移住できない |
| 強烈なジレンマ | 年商1億円を目指しつつ、家族の時間と毎朝3時半起きの自分磨きは死守したい |
最初の一手は、AIで自分の稼働を減らすこと
すがけんさんの第一声は「今はAIでしょ」でした。すがけんさんはまず、月謝5500円で会員100名なら月55万円になり、年収600万円と計算が合っていると確認します。
そのうえで、すがけんさんは運動遊び教室そのものを高く評価しています。子どもが運動をしなくなっている時代に100名も集まっているのは、何か秘訣があるはずだという見立てです。
だってもう今さ、運動なんか誰もしないのにこんなにいるわけでしょ。これ結構すごいことだと思うんですよ。
すがけんさんによれば、辰巳さんの教室の問題は、人数が増えるほど大変になる構造にあります。本来は人数が増えるほど良くなる仕組みを考えるべきだといいます。
要は今考えてることって、人数が増えれば増えるほど大変だ、なんですけど、人数が増えれば増えるほど良くなることを考えなきゃいけないんですよ。
すがけんさんが最初にやるべきこととして挙げたのは、AIでどれだけ省力化できるかを考えることです。何が大変なのかの解像度を上げれば、自動化できる部分が見えてきます。
すがけんさんが勧める具体的な方法は、メールやカレンダー、Slackなどのやりとりを全部AIに見せて「改善してください」と頼むことです。自分で頭を使わなくても、効率化の考え方をAIが出してくれるといいます。
なんで、時間が一番大事なんで、まず時間を減らしましょうと。
50人より100人のほうが良い教室にするには?
すがけんさんの次の提案は、会員が増えたことを辰巳さん自身が「大変になった」と感じるのではなく、親が「良くなった」と感じる状態をつくることです。
すがけんさんが挙げた例は、子ども同士のペアです。10人だとばらばらなペアになりがちでも、100人いれば体力やスキルに合ったいいペアが組める、という発想です。
すがけんさんは、こうした人数の利点を規模の経済 ── 生産や事業の規模が大きくなるほど、単位あたりのコストが下がったり価値が高まったりする効果のことやネットワークエフェクト ── 利用者が増えるほど、一人ひとりにとってのサービスの価値が高まる現象。SNSなどが代表例ですという言葉で説明しています。
だってこれ普通に見たら、「え、じゃあ10人専用にして僕やっちゃおうかな、隣で」とかってやる人が出てくるわけですよ。
人数の多さが価値にならなければ、少人数制をうたう競合に客を奪われかねません。すがけんさんは、10人専用より100人のほうがいい仕組みを作るべきだと話しています。
人数が増えるほど業務が増え、辰巳さんが「大変になった」と感じる
人数が増えるほどいいペアが組めるなど、親が「良くなった」と感じる
単価を上げて人数を減らすか、100人を守るか
普段のすがけんさんなら、会員を10人や30人に絞って値段を3倍にする案を考えるそうです。ただ今回は、その方向も検討はしつつ、別の判断をしています。
すがけんさんは、親が月謝にいくらまで払うかは調べる余地があると見ています。公立と私立のどちらに通う子か、親が何を払わずにこの教室に払っているのかがわかれば、1万円や2万円を出す家庭がいるかも見えてくるといいます。
わかんない。1万円は出すのか。まあ1万円は出しそうですね。
すがけんさんと川原さんは、目標の数字も確認しています。年商3000万円は今の約5倍で、それを2年で達成し、その後45歳までの3年で3倍にして1億円という計画です。
すがけんさんの結論は、まず100人を維持したまま効率化することでした。単価を上げて人数を減らすと、減った人数は戻ってこないからです。
普通の厚利少売のお話だと、「いやいや、1万円にして50人にすればいいじゃん」なんだけど、50人は返ってこないんで。
やっぱり人数減らしちゃうと、もう人数減らす方向にしかいかないんで、3000万はちょっとギリギリ。値段5倍にするしかなくなると、まあ相当きついんで。
すがけんさんの見立てでは、100人を保ったまま空いた時間でAIを使いこなし、そこから値上げや人数増を考えれば、年商3000万円には届くはずだといいます。
なぜ100人も集まるのか、その「異常値」に答えがある
すがけんさんは、年商3000万円から1億円へ進む段階が本当に大変だと見ています。その鍵として挙げたのが、地方の地域で会員100人を集めている理由を、辰巳さん自身が言語化することです。
「なんで子供はここに来たいんだっけ?」とか、「なんで親もここには5000円払ってくれるんだっけ?」っていうのを見つけたら、3000万から1億の道は開けると思います。
川原さんもこの点に強い違和感を覚えたと話します。オンラインでの存在感がそれほどあるわけでもないのに、どこからどう集客して100人と出会っているのか、現場を知りたいといいます。
すがけんさんは、もう1つの資産として、教室に通う子どもと親との関係を挙げています。この地域で100人の子どもと、下手をすれば200人の親と連絡が取れる、いわばデータベースを辰巳さんは持っていることになります。
この人たちに追加で何を買ってもらってる、何の役に立てるのかっていう中でいうと、僕はAIめちゃくちゃいいと思うんで、AIを教えるみたいなのは一つ手だと思ったんで。
すがけんさんは、会員の継続も重要だと指摘します。この事業は子どもが卒業していくため、上の子に続いて下の子も入るような、続けたくなる理由をつくることが参入障壁 ── 新しい競合が市場に入りにくくなる要因のこと。顧客との強い関係や独自のノウハウなどが該当しますにもなるといいます。
「いい人そう」と規律が、子どもを預ける信頼になる
川原さんは辰巳さんの名前を調べ、ネットで顔を見たそうです。その印象は、子どもに運動を教えてほしいと思えるような、爽やかでいい人というものでした。
特に子供をね、その預けようと思うといい人そうって大事なんだよね。
すがけんさんは、辰巳さんの毎朝3時半起きの自分磨きにも注目します。スポーツをしてきた人の規律や向上心は、親から見た信頼につながっていると考えています。
いや、だから子供に、じゃあどっちに教えさせたいですか?ですよ。すぐ冷蔵庫を開ける僕と、向上心の塊でストレッチをしてる先生と。
すがけんさんによれば、親が評価しているのは運動そのものだけではなく、辰巳さんの向上心など内面的な部分かもしれません。そのため、運動という括りにこだわらず、AIなど別の教えられるものを準備するのもありだと話しています。
フランチャイズ展開より「タレント・IP化」が向く理由
川原さんは別の角度から、教室のメソッド自体に価値があるなら、RIZAP ── パーソナルトレーニングジムを全国展開する企業。結果にコミットする高額プログラムで知られていますのような規模を目指してもおかしくないと話します。子ども向けに全国展開したり、カーブス ── 主に中高年女性向けの短時間フィットネスを展開するチェーンのような形を取ったりする道もあり得るといいます。
一方ですがけんさんは、辰巳さんはフランチャイズ展開をしないだろうと考え、あえて最初からその話をしなかったと明かします。社員が10人いて経営に追われる世界は、辰巳さんの求める人生には見えなかったからです。
あの、先生が悪いとかそういう話ではないんだけど、そのつけた筋肉が違うんで。
川原さんもこれに同意し、身軽なままやるなら「ブランド人」になる道を選ぶべきだと提案します。ブランド人になれば単価が上げられ、メソッド自体も売れ、オンライン教室もできるという考えです。
マニュアル化して全国展開。組織が大きくなり、経営の手腕が必要
SNSで発信し、本人の信頼を軸に単価を上げ、メソッドやオンライン教室を売る
すがけんさんは、辰巳さんの価値は現場で本人と触れ合うことにもありそうだと見ています。そのうえで、経営を学ぶよりSNSを学んでタレント化するほうが、3000万円から1億円へ進む確率は高そうだと結論づけました。
川原さんは2人の提案を整理しています。まずAIで業務の稼働を減らし、空いた時間で発信してタレント化し、のちに本やオンライン教材などで自分のメッセージを多くの人に届けて収益にする、という流れです。
運動×AIは、なぜ相性がいいのか
すがけんさんは、オンラインで展開するからこそ、運動以外のことを教えてもいいと話します。先生というIPを使い、AIなどを教えるという提案です。
川原さんは、教室に通う子の親との関係を一番の資産と捉えています。子どもに運動を教えたいと考える親が、すでに何かに払っているお金を辰巳さんのサービスに切り替えてもらうだけでも、売り上げは立てられるといいます。
すがけんさんが運動とAIを組み合わせる理由は、AIは望んだ人が使いこなせる道具だという考えにあります。望む力は向上心に近く、それを育てる運動とAIの相性はいいと見ています。
AIを使う時、こうなりたいってAIに言ったり、これをやってほしいってAIに言える人はできるんで。なんかね、望む力をつ強くするっていうのは結構向上心と近いと僕は思ってるから。
すがけんさんは、辰巳さんの教室の運動はモンテッソーリ教育 ── 子どもの自発性を重んじ、自分で選び考えて取り組む力を育てる教育法。イタリアの医師マリア・モンテッソーリが考案しましたに近いかもしれないとも話します。自分で考えてやる力を育て、その結果AIを使える人になるなら、文武両道になるという見方です。
運動
自分で考えて自分でやる力、向上心を育む
望む力
こうなりたい、これをやってほしいと言えるようになる
AI活用
望んだことをAIで実現できる人になる
すがけんさんによれば、親が子どもを大学に入れたいのは職に困らないようにするためです。ただこれからは大学を出ても職に困る時代になるため、そうならない教育が求められているといいます。
なんかAIと運動両方教えるっていうのは結構理にかなってるんで。なんならスクワットしながらAI触ってもいいし。
川原さんも、ウォーレン・バフェットが自転車のようなマシンに乗りながら企業情報を読んでいる例を挙げます。すがけんさんは、最後に人間に残されたのは健康寿命だと応じ、それを子ども時代から育てる事業を評価しました。
手放さなければ変われない、川原さんからのメッセージ
2人は最後まで、ある地域で100人もの子どもが運動をやりたがっていることに驚いていました。今は多くの子どもがYouTubeやゲームに夢中なだけに、この数字は「異常値」だといいます。
異常値、異常値。もうすでに異常値だから、これは絶対良くなりますよ。
お知らせのコーナーで、すがけんさんは有料noteの「起業の教科書」を紹介しました。厚利少売やAIのnoteを書いた結果、多くの人がもっと手前の起業の段階でつまずいていると気づいたことが執筆のきっかけだといいます。
川原さんは自著『人生はステージ。自由に生きるための47の秘訣』を紹介しながら、辰巳さんの相談への感想を述べました。今あるものを持ったまま変わろうとするから詰まる、という指摘です。
やっぱ何かを得るためには何かを大きく手放してないとスペースが空かなくて変えれないんですよね。
川原さんはすがけんさんを例に挙げ、番組を続けるなかで仕事を手放し、今では著者や講師になるほど変わったと話します。そのくらい変わっていいというのも1つの事実だと、リスナーに変化を呼びかけました。
川原さんは今後の相談者に向けて、お客さんにどう喜ばれているかというリアルな声も書いてほしいと付け加えています。それがあれば、もう少し具体的に価値の源泉がわかるといいます。
まとめ
元教員の辰巳さんの運動遊び教室は、人数が増えるほど忙しくなる構造に悩んでいました。すがけんさんと川原さんは、人数を減らして単価を上げるより、まずAIで省力化して100人を維持し、人数と本人の信頼を強みに変える道を示しました。
- 最初の一手は、メールやカレンダーをAIに見せて改善を頼み、自分の稼働を減らすこと
- 人数を減らすと戻らないため、100人を保ったまま「100人だから良い」仕組みを作る
- 地方で100人が集まる「異常値」の理由を言語化することが、1億円への道を開く
- フランチャイズ経営より、SNSで発信してタレント・IP化するほうが向いている可能性が高い
- 親との関係を資産に、向上心と相性のいい「運動×AI」など新しい教えを届ける

