京都の甘納豆屋4代目はジェラートを1500円にすべきか?
今回のお悩み相談は、京都で甘納豆屋の4代目を務める種の木モチさんからのものです。お店は今年で創業100年を迎え、前年には川原さんとこんまりさんも来店しています。
廃業が相次ぐ甘納豆業界の中で、種の木モチさんは甘納豆を日本の食文化として残し、世界に誇るものにしたいと考えています。その思いから、コロナ禍の2022年に新ブランド「種菓」を立ち上げました。
京都で甘納豆屋4代目をしています。今年創業100年を迎えました。伝統的な豆類だけではなく、グローバルに食されるナッツ類も取り入れ、「種を楽しむ」をコンセプトに多様な種の個性を生かしたお菓子を創作しています。そんな新ブランド種菓として新規事業がジェラートです。
種菓のジェラートは、牛乳や卵を使わず、豆やナッツを使った植物性ジェラートです。きっかけは2018年、アメリカで開催されたスローフード ── その土地の伝統的な食文化や食材を守ろうとする国際的な運動。イタリア発祥で、生産者や料理人が集まる世界大会も開かれていますの世界大会に甘納豆を出展し、まったく受けなかったことでした。
現状、シングルで700円、ダブルで900円(おまけ一口付き)。プレミアムフレーバーはプラス100円。これでも相場よりは少し高めだと自覚しています。目標は、現状4300万円の売上を1億にしたいです。祖父の代の元気な頃の売上がそのぐらいで、先代たちに元気な姿をもう一度見せたく目標にしています。
今年1月、本場イタリアの世界ジェラートコンテスト(健康部門)で世界4位に入賞し、イタリア人以外では最高位でした。イタリア製の最新マシンや冷凍設備に計700万円を投資しているのに、販売価格は業界相場通りの1個600円から800円です。京都のかき氷(ただの氷とシロップ)は一杯2000円が相場で、職人が人生と700万円をかけて作った世界4位のジェラートが700円なのは安すぎると思っています。
世界4位のレシピへ全面リニューアルするタイミングで、価格をすがけんさん流の2倍(1500円前後)に一気に引き上げるべきでしょうか。また、甘納豆への接点を増やすために手頃な日常品として守るべきか、世界4位の価値を認めてもらう高級品へ振り切るべきか、答えを出せていません。
「誰に食べてほしいか」が抜けた値決めの何が問題か
すがけんさんが最初に指摘したのは、相談文に「誰に食べてほしいか」が書かれていないことでした。そのうえで、700万円の設備投資から価格を考える発想そのものを問題にしています。
結局誰の話しないでしょ?やっぱみんな。そう、誰に食べてほしいかとかないじゃない?
すがけんさんによれば、700万円は今のジェラート機材の相場ではそれほど高くありません。一方で、かき氷はかき氷を削るマシンと氷だけで成り立つ商売です。それでも、設備の金額から値段を考えること自体が違うと話します。
すがけんさんは、600円でも1000円でも1400円でも、食べる人は食べると話します。大事なのは、どこで売り、どんな人が来るのかです。
京都の店舗で売る前提なら、客数は最初は人通り以上にはなりません。すがけんさんは、値段を上げるならインバウンド客が対象になると考えます。先月パリで食べたジェラートも、軒並みそのくらいの価格だったといいます。
700万円を投資したから、かき氷が2000円だから高くしたい
誰が、どこで、なぜ食べたいのかから価格を決める
ピスタチオで呼び、甘納豆をどう試してもらうか
すがけんさんは、蒸し暑い京都の夏に食べたいものは、ねっとりした甘納豆ではないと見ています。お客さんは甘納豆の価値を知らない一方、ピスタチオが高いことは知っています。
高いから高いものを買いたいわけじゃないんですよね。お客さん別に甘納豆知らないから。ピスタチオが高いのは知ってるんで。
川原さんも、この店のピスタチオのジェラートを食べて「すげえ美味しかった」と振り返ります。すがけんさんは、お客さんの中にはピスタチオは高いもの、ジェラートで一番食べるべきものという相場観があると説明します。
そこで提案されたのが、ピスタチオで来店してもらい、甘納豆を試してもらう導線です。参考になるのが、パリの人気店にある9種類の食べ比べセットでした。
ジェラートは1スクープが大きいので、3つ食べたくても2つにしたり、シェアしたりしがちです。パリの店では、小さなカップに一口分ずつ9個並べてトレーで出し、量に比べて高くても人気だといいます。
(食べ比べで)一個決めたら買って帰るっていうムーブも生まれそうだもんね。
すがけんさんも、ピスタチオは持ち帰れなくても甘納豆なら買って帰れると応じます。1択にするとピスタチオで終わるため、甘納豆を「ついでに」食べてもらう仕組みが必要だという考えです。
ピスタチオで呼ぶ
お客さんが価値を知っている味で来店理由を作る
食べ比べで試す
小さなカップで甘納豆系の味も一緒に味わってもらう
お気に入りを見つける
来たからには自分の好きな味を探したくなる
甘納豆を持ち帰る
ジェラートは無理でも甘納豆なら買って帰れる
ミラノのレモン氷はなぜ「食べないと死ぬ」のか
すがけんさんはここで、イタリアのミラノで見たレモンのシャーベットのような冷たい飲み物の話をします。普段は乳脂肪分が多いほど正義だと考え、シャーベット系は一切食べない人だといいます。
あんなもんに金を払う、果汁に金を払うなんて馬鹿げてるって思って、一切食べない人間も。
あんなに眩しくて、あんなに暑くて、あんなに汗かいたら、それはねっとりしたもんなんか食べれないし。
白と青の景色に黄色を添えたくなった。
すがけんさんによれば、世界で流行っているものは、往々にして必然的に売れています。甘納豆は売れないのではなく、今はまだ必然になっていないだけだという見方です。
歌舞伎とNetflix、甘納豆に必要な「現代の必然」とは
川原さんは、甘納豆が過去に何の必然で食べられていたのかを紐解く必要もあると指摘します。すがけんさんも、歴史はちゃんと見たほうがいいと同意します。
でも今もうショートケーキもあるし、パフェもあるし、全部あるんで。なんでNetflixがある時代に歌舞伎見なきゃいけないんですかって話と一緒だから。
すがけんさんは、昔は他にお菓子が少なかったから甘納豆が食べられていた、という事実を素直に認めるべきだと考えます。そのうえで、夏なら塩味を足してさっぱり感じさせる、ねっとり度合いを減らすなど、現代の必然に合わせる工夫を挙げました。
他に商品が少なかった時代に食べられていた、ねっとりした甘いお菓子
夏に塩味を足す、ねっとり度合いを減らすなど、今の暮らしで欲しくなる形
すがけんさんは、多くの作り手が作っているものは基本的に不要不急なものだと話します。だからこそ、お店の前を通ってビジュアルを見た瞬間、本能的に欲しくなる必然性をどう加えるかが問われます。
京都の夏に必然的に欲しくなるのは、どんな見た目で、どんなストーリーで、塩味や酸味がどう入ったものなのか。すがけんさんは、抹茶にはすでに京都で食べる必然性があると例を挙げます。
健康にとかじゃなくて、もう世界中で楽しんできたあの抹茶の総本山がここにあるんだぞみたいな。
2000円のジェラートが鎌倉で売れる理由
川原さんは相談の答えを、値上げも可能だが、そのための必然性を作れるかどうかだとまとめます。すがけんさんも、価格は2000円でもまったく問題ないと答えています。
例に挙がったのが、鎌倉で日本一と言われるジェラート店のイルブリガンテ ── 神奈川県鎌倉市にあるジェラート店。番組内では、食通の間で日本一と言われる店として紹介されていますです。ピスタチオやチョコレートで2000円を払う客がいて、夏には食べにくいほどねっとりしているそうです。
あれを食べに鎌倉には行かないけど、鎌倉に行ってなんかちょっと甘味用ってなったら、もうもうもうもうあれしかないっすみたいな感じになってる。
川原さんは、鎌倉の店がなぜそうなったのかを紐解けば、真似できる部分があるかもしれないと話します。すがけんさんはイタリアの本場感も理由に挙げ、世界4位を取っている種菓でも、やり方次第だと応じました。
甘納豆を売りたい気持ちは、客に押し付けられない
すがけんさんは、相談者と面識があることを踏まえ、本人も聴くからこそ「あえて」伝えると前置きします。指摘の中心は、売り手の事情と買い手の気持ちのずれでした。
要は甘納豆を売りたい気持ちはわかるんですけど、食べる側が甘納豆を食べたい気持ちがないんで。
でもやっぱそれ(家業の必然)を押し付けられないんで。今まで学んできたから美容師をやり続けますとかって言ってるのと一緒だから。
すがけんさんは、お客さんのニーズを作るほうを頑張るべきだと話します。一方で、うまくいく余地はいくらでもあり、前例も多いので「難しいなー感は一切しない」とも評しました。
すがけんさんはさらに、かき氷を「ただの氷とシロップ」と表現した点にも触れます。夏に食べたいのは絶対にかき氷であり、原価よりもニーズが優位だという指摘です。かき氷には「ゴーラー」と呼ばれる熱狂的なファンもいます。
アマムダコタンの平子さんに学ぶ「市場に素直」な商売
すがけんさんは、パン屋「アマムダコタン」や「アイムドーナツ」を手がける平子さんの例を挙げます。パリ1号店のオープン時期に現地で会い、その後、表参道のプレオープンに誘われたといいます。
そのプレオープンは、ゴーラーとして知られるEXILEのNAOTOさんが監修したかき氷の店でした。パンで成功した平子さんが、夏はかき氷だと言ってかき氷を出したのです。
市場に素直だな。
そう、市場に素直じゃん。で、バックグラウンド別になんもないから。
すがけんさんは頼まれてもいないのに、パリでアマムダコタンが出るエリアのパンをほとんど食べ比べたそうです。そのうえで、圧倒的に美味しかったと評価しています。
川原さんは、この勝手な市場調査を「すがけんさんっぽい動き」と笑います。すがけんさんにとっては、後で結果を聞いたときの答え合わせのための行動でした。
「日本一詳しい人」の店なら、なぜ信用されるのか
すがけんさんは、実行は難しいと断ったうえで、最もわかりやすい方法を挙げます。それは相談者自身が、ジェラートに日本一詳しいインフルエンサーになることでした。
でもお客さんが知りたいことっていうのはそういうことですよね。信用する人がおいしいと言ったものを食べたい。
ただし、すがけんさんは話しながら壁にも気づきます。ジェラートに日本一詳しい人なら売れても、甘納豆や豆に日本一詳しい人では売れないと考えたのです。
なんかもうそのジャンルに、その甘納豆とか豆とか種とかのジャンルにファンがいないんで。だから他のジャンルの中で豆として勝っていかないといけないんですよね。
すがけんさんは、甘納豆だけでは絶対にうまくいかないので、ジェラートを選んだことは悪くないと評価します。足りないのは、お客さんがこの人を信じる理由です。
自分の店以上に他店のジェラートを紹介し、みんなに頼られるようになれば、京都ならこの人の店に行ってみようと思ってもらえます。人に信じてもらう理由が、高くても買いたいという気持ちにつながるという考えです。
一方で、すがけんさんは「世界4位だから買ってください」だけでは弱いとも話します。おいしいジェラートを食べたいだけの人には「知らんがな」となりやすく、いろんな大会にいろんな4位があるからです。
詳しくなる
ジェラートに日本一詳しい存在になる
他店も紹介する
自分の店以上に他店のジェラートを発信する
頼られる
みんながその人の評価を参考にする
店に来る
京都ならこの人の店に行ってみようとなる
激渋抹茶×甘納豆で京都の夏の必然を作れるか
川原さんは、ジェラートが美味しいことは知っているとしたうえで、京都滞在中に欲しくなる必然性が鍵だと話します。すがけんさんは「美味しいだけじゃダメなんです。昭和じゃないんで」と応じました。
そこから二人は、ピスタチオではなく抹茶で一番を目指す案を考えます。ピスタチオではピスタチオの名店に勝てませんが、京都なら抹茶が欲しくなるからです。
激渋抹茶、あの、もう超高級になっちゃいますけど、激渋抹茶ジェラートと甘納豆のセットみたいな。
確かに。ど緑にあの白い甘納豆のってんの可愛いわ。
すがけんさんは、甘納豆をジェラートの味にしてもよいし、お茶請けのように上に乗せると一番引き立つかもしれないと話します。川原さんも、甘納豆の背景としての抹茶は「めっちゃいい」と評価しました。
何かを得るには、何かを手放さなければ変われない
番組の最後には、次回の相談者として、小中学校の教員から独立し子ども向け運動遊び教室を運営する辰巳純介さんが紹介されました。テーマは、会員数100名を集めながら直面する多忙感と労働集約からの脱却です。
すがけんさんは、有料note「起業の教科書」を紹介しました。厚利少売について書くうちに、多くの人がもっと手前の起業の段階でつまずいていると気づいたといいます。無料部分も1万字ほどあるそうです。
川原さんは、自著『人生はステージ。自由に生きるための47の秘訣』に絡めて、今回の相談への感想を語りました。何かを得るには何かを大きく手放す必要があるという考えです。
みんなね、そこに対してだけすごい欲張りなんだよね。今あるものを手放さないまま変えようとするから無理なんだよね。
川原さんは、すがけんさん自身もこの番組を続ける中で大きく変わり、今では著者や講師になっていると例に挙げます。そのくらい変わっていいというのも一つの事実だと話しました。
お便りについては、目標数値などに加えて、お客さんにどう喜ばれているかというリアルな声も書いてほしいと呼びかけています。そのほうが価値の源泉が具体的にわかるからです。
まとめ
世界4位のジェラートを1500円にするかどうかについて、二人の答えは「値上げは可能。ただし、その価格を払う必然性を作れるか次第」というものでした。原価や売り手の歴史ではなく、京都の夏に訪れる人が何を欲しがるかから考えることが出発点になります。
- 700万円の投資やかき氷との比較など、原価から値決めするのは薄利多売病の表れ
- ピスタチオで呼び、9種食べ比べで甘納豆を試してもらい、持ち帰りにつなげる
- 甘納豆は売れないのではなく、今は必然になっていないだけ。現代の必然に合わせる
- 京都で必然性のある抹茶と甘納豆を組み合わせる案が、価値を伝える一手になりうる
- 何かを得るには、今あるものを手放す覚悟が必要

