荒木さんと濱町さんはどう出会ったのか
今回のジャンクフィッシュは、東京都文京区にある魚屋「すなお水産」からの収録です。ゲストには、高知県の水産振興に長年携わってきた濱町さんが招かれました。
まず話題になったのは、店主の荒木さんと濱町さんの出会いです。きっかけは3年ほど前、コロナ後の時期でした。
(すなお水産に)熱い魚屋がいるからぜひ行ってこいという話があり、ちょうど東京に行く出張の機会がありましたので、お話をお伺いしに行こうかなというところで。
店で話し、その夜には一緒に飲みに行ったといいます。濱町さんが「高知にも来てください」と誘い、荒木さんはその年の10月に本当に高知を訪れました。
高知での滞在は2泊3日、濱町さんによるフルアテンドでした。軽トラで朝から晩まで、高知県の漁業の現場を見て回ったといいます。
水揚げのところから全部あちこち見せてもらって、本当に勉強になりました。
高知県庁に「外商」部局がある理由
濱町さんによると、県外の人をここまで手厚く案内するのは高知でも珍しいそうです。その背景には、高知県庁ならではの部局があります。
高知県庁、外商っていう部局がありまして、県外の方を招いて、高知のお魚どうですかって紹介したりする業務を担ってたりするんです。
この出会いがきっかけで、その後も交流が続いています。安田川の天然アユを送ってもらうなど、高知の魚が荒木さんの店にも届くようになりました。
高知出身のゲストが選ぶ「印象的な魚食トップ3」
ここからが本編です。濱町さんに、高知県の印象的な魚食エピソードを3つ挙げてもらいます。
濱町さんは高知県の四万十出身で、川で育ち海も近い環境で過ごしてきました。それだけに、選ぶのにはかなり悩んだといいます。
(高知は)本当に魚づくしで過ごしてきたので、印象的な魚食と言われると、やばほどある。
1つ目は緑色の調味料「葉ニンニクぬた」
1つ目に挙げられたのは、魚そのものではなく薬味でした。高知の「葉ニンニクぬた」です。
一般的な「ぬた」は酢味噌の茶色いものを指しますが、高知のぬたは特殊です。ニンニクの葉である葉ニンニクを練り込んでいるため、色が真緑になります。
高知のぬたってまた特殊で、葉ニンニク、ニンニクの葉っぱを練り込んだ酢味噌なんです。
高知県はもともとニンニクを食べる文化が根強い土地です。この葉ニンニクぬたは、一般的にはブリにつけて食べられます。
ぬたと出会った県庁時代のエピソード
濱町さんが葉ニンニクぬたを知ったのは、高知県庁でブリのブランド化に取り組んでいた頃でした。高知県産の天然ブリは春に脂がのり、桜ブリと呼ばれる時期の魚です。
濱町さんの担当した天然ブリは、旬が3月から4月です。それを「ムロと春ブリ」という名前をつけて売り出していきました。
ブリをイベントで販売しようとしたとき、先輩漁師たちから思わぬ助言を受けます。当時まだ入庁2、3年目で、濱町さんはぬたを知りませんでした。
(イベントに持っていくリストで)醤油とわさびしか書いてなかったので、ぬたは必須だと言われて。その時までぬたを知らなくて、なんだ、ぬたはと。
見せてもらったぬたは、ほぼわさびのような真緑の見た目でした。味噌でねっとりしながらもニンニク感が強く、脂ののった魚をさっぱりさせる調味料だといいます。
(ぬたは)めちゃめちゃニンニク感が強くて、魚が全てさっぱりになるんです。
一方で、食べた次の日にはニンニクの香りが残るとも話しています。
マグロやしらすで試す葉ニンニクぬたの実食
この日は、濱町さんが銀座の高知アンテナショップで仕入れた葉ニンニクぬたが用意されました。作っているのは、ぬたをほぼ専業とするアースエイド社です。
濱町さんによると、社長はぬた一筋で、商談のときもネクタイを緑色にしているといいます。用意されたのは、ブリに合うタイプのぬたでした。
まずは荒木さんが用意した高知産の生しらすで試します。高知では生しらすにぬたをかけて食べる文化もあるそうです。
さっぱりしてるけれど、ニンニクの風味もわーってくる感じで。美味しいですね、これすごい美味しい。
続いて、荒木さんが天然の本マグロの大トロを出しました。脂ののった赤身と合わせると、より相性のよさが際立ちます。
うまい。めちゃくちゃ美味いわ。
濱町さんは、ぬた単体で食べるより、醤油と併用する食べ方を勧めています。醤油で味わいつつ、飽きたらぬたでさっぱりさせるという使い分けです。
高知では、この葉ニンニクぬたが醤油以上に人気の薬味だといいます。イベントで小袋を配ると、醤油より先になくなるほどだそうです。
冷凍が効くため使いやすく、飲食店のメニューにも取り入れやすい点も特徴です。最近ではパスタに和えて出す店もあると紹介されました。
高知の水産業は天然と養殖どっちが多い?
1つ目の話題の合間に、高知の水産業の全体像も語られました。高知は天然の漁獲と養殖業の、どちらが多いのかという問いです。
濱町さんによると、高知は天然の割合の方が多い土地です。カツオの一本釣り漁が盛んで、マグロ漁なども多いためです。
養殖もクロマグロ、ブリ、真鯛を中心に行われており、いずれも生産量の上位に入るといいます。ただし、養殖が盛んな隣の愛媛県などと比べると、高知は天然の比率が高いという整理です。
カツオの一本釣り漁やマグロ漁などが盛ん。比率としては天然の方が多い。
クロマグロ・ブリ・真鯛が中心。いずれも生産量の上位に入る。
2つ目は一本釣りで獲る「マルソウダ」
2つ目に挙げられたのは、魚種名でした。ソウダガツオの一種、マルソウダです。
(マルソウダは)汎用性が高すぎるんです。
ソウダガツオは一般に、ソウダ節という削り節にして出汁用に使われることが多い魚です。ですが高知は、このソウダガツオに強いこだわりを持っています。
高知はマルソウダの漁獲量が日本一を長く保っています。さらに漁法も独特で、出汁用になることが多いこの魚を、あえて一本釣りしています。
(ソウダガツオを)あえて一本釣りで丁寧に釣り上げて、鮮度のいい状態で持ってくるという文化があって、ソウダガツオに対する熱意は凄まじいんです。
メジカの新子とぶしゅかん醤油の衝撃
高知でのマルソウダ、いわゆるメジカの食べ方として紹介されたのが「新子」です。新子はメジカの赤ちゃんで、100グラム前後の小ぶりな魚を刺身で食べます。
これほど小さい魚を、高知では一本釣りしています。効率とは別の価値観で、丁寧に鮮度を保って水揚げする文化です。
メジカは血合いが多く鮮度落ちが早いため、一般には生食が難しいとされます。それを一本釣りとキンキンに冷やした水での鮮度保持で、刺身として成立させています。
食べ方は、柑橘を丸ごと絞ってかけるのが定番です。使うのは高知でぶしゅかんと呼ばれる柑橘で、正式名称はモチユといいます。
新子1匹に対してぶしゅかんを丸ごと1つ絞り、さらに同量ほどの醤油を混ぜます。漬けのような状態にして食べるのが、高知流だといいます。
新子の食感がもう言い表せないんですけど、すごいもちもちといいますか、グビグビといいますか、難しい。
メジカの新子はなぜ関東で食べられないのか
メジカの新子が獲れるのは8月と9月だけで、その日のうちに食べる必要があります。漁師が朝方に水揚げし、市場で仕入れてすぐ提供する流れです。鮮度の壁から、関東で味わうのは難しいとされます。
その人気ぶりを示すのが、行列です。濱町さんの知人が先週、新子を出す店に食べに行ったところ、2時間半待ちだったといいます。
(メジカの新子は)多分高知県で最も並んでる場所かなと。それぐらい人気なんですよ。
一方で、ぶしゅかんと醤油を混ぜる食べ方自体は、メジカ以外の魚にも応用できます。濱町さんは真鯛などの白身や、カツオでも美味しいと話しています。
ぶしゅかん醤油をマグロとスズキで実食する
この日はぶしゅかんも用意されました。銀座のアンテナショップで、ちょうど旬のものが手に入ったそうです。見た目はゴルフボールを少し大きくしたようなサイズで、ゆずやカボスに似ています。
まずかにへーがぶしゅかんをそのまま口にすると、レモンとは違う穏やかな酸味が印象に残りました。
程よいですね、この酸味が。レモンとかだとウーってなりますけど、目つぶんないぐらいの酸っぱさ。心地よい酸っぱさですね。
続いて、ぶしゅかんを絞って醤油と混ぜた「ぶしゅかん醤油」を大トロにつけて味わいます。
大トロと部首感醤油。こりゃ美味しいっすわ、これめっちゃ美味しいですね。
濱町さんは、ぬたと違ってぶしゅかん醤油は万人向けだと考えています。ニンニクの効いたぬたが人を選ぶのに対し、こちらはさっぱりして誰にでも合うという整理です。
さらに荒木さんが日本海のスズキを用意し、ぶしゅかん醤油とぬたの両方で試しました。赤身とも白身とも合う懐の深さが確かめられます。
ニンニク愛が強すぎる高知の魚食文化
高知の食べ方の工夫について、濱町さんは県外に出て改めて特徴を感じたといいます。メジカのような普段食べにくい魚を、いかにうまく食べるか研究してきた土地だと話します。
高知を離れて気づいた違いもあります。高知ではスズキをほとんど食べず、量販店にもあまり並ばないのに対し、東京では普通に売られている点です。
高知は基本、スーパーに置いてるってほとんどカツオなんですよ。
高知はとにかく赤身好きで、スーパーの主役はカツオです。白身ではシイラを刺身で並べる店が多いのも、高知独特だといいます。
そして繰り返し語られたのが、ニンニク愛の強さです。カツオのたたきの薬味も、生姜より先ににんにくが出てくるといいます。生姜も高知の名産ですが、魚の薬味としてはにんにくが優勢だという話です。
(カツオのたたきには)にんにくしかついてこないんですね。
アジフライにも「ガリアジ」というガーリックアジの略の商品があるほどで、高知のにんにく好きが徹底していることがうかがえます。
印象的な魚食トップ3のうち、3つ目は次回に持ち越しとなりました。前編はここで一区切りです。
まとめ
前編では、高知の水産振興に携わってきた濱町さんが、印象的な魚食トップ3のうち2つを実食とともに紹介しました。緑色の葉ニンニクぬたと、一本釣りのメジカの新子・ぶしゅかん醤油という、いずれも高知ならではの食べ方が語られました。
- 高知のぬたは葉ニンニクを練り込んだ真緑の酢味噌で、脂ののったブリやマグロをさっぱりさせる薬味
- 高知はソウダガツオ(メジカ)の漁獲量が日本一で、出汁用の魚をあえて一本釣りするこだわりがある
- メジカの新子はぶしゅかんを丸ごと絞り醤油と混ぜて食べる、8月と9月限定の高知でしか味わえない魚食
- ぶしゅかん醤油はメジカ以外の白身や赤身にも合い、ぬたより万人向けの食べ方
- 高知はカツオを中心とした赤身好きで、薬味は生姜よりにんにくが優勢というニンニク愛の強い食文化




