なぜマーケとブランディングは混同されるのか
この回のテーマは、マーケティングとブランディングの違いです。番組はブランドコミュニケーターの片山光祐さんと、ブラボーワークス代表の保呂田直行さんの2人で進行しています。
保呂田さんは、この2つがよく混同されているものの、実は全然違うものだと切り出します。海外で和牛を広める仕事をするなかで、その違いを強く実感していると話します。
よくこれ(マーケとブランディング)って混同されていると思うんですけど、実は全然違うんですよね。
片山さんは、界隈では「ブランディングやってます」と言いながら実際は広告を打っているだけ、というケースが語られがちだと応じます。経営者と話していても、この2つがごちゃ混ぜになっているケースが多いといいます。
うちブランディングにめっちゃ力入れてるんですよと言いながら、実際やってるのは販促のキャンペーンだったりするんで。
そこでこの回では、2つの違いを一度きちんと定義して分けることを目指します。ただし学術的になりすぎても面白くないため、恋愛の比喩を交えて整理していくと片山さんは話します。
マーケは「出会いの設計」、ブランディングは「関係を続ける理由」
なぜ違いが分かりにくいのか。片山さんは、マーケティングもブランディングも「売るための活動」という括りにすると同じに見えてしまう点を挙げます。
そのうえで片山さんは、2つを恋愛に例えて整理します。マーケティングは出会いの仕組みを設計すること、ブランディングは関係を続けてもらう理由を積み上げること、という切り分けです。
さらに片山さんは、マーケティングは短期的な成果に直結し、ブランディングは長期的な信頼関係を育てるイメージが強いと補足します。キャンペーンを打って売上を上げるのがマーケティング、「この会社の商品だから安心」と思ってもらう関係づくりがブランディングだといいます。
マーケティングが単月とか今年の目標みたいな短期の目標に対して、ブランディングって言ったら3年とか5年とか10年とか、時間軸が全然違うってことですよね。
出会いの仕組みを設計する。単月・今期など短期の成果に直結する活動。
関係を続けてもらう理由を積み上げる。3〜10年の長期で信頼を育てる活動。
ブランディングが敬遠される理由と、この番組の狙い
片山さんは、ブランディングが敬遠されやすい理由にも触れます。長期スパンで短期の結果が見えにくいため、投資しにくいと感じる人が多いという指摘です。
これ作ったからすぐ売れないじゃんみたいな話になってしまうと、あ、ちょっと見てるところが違うのかなって感じる時はありますね。
片山さん自身も10年ほど前にブランドコンサルティングのメニューを開発し、企業研修を行っていた時期があったものの、うまくいかなかったと振り返ります。
今うちそれ(ブランディング)やる意味ないみたいに思ってる人たちが結構多い。それよりもすぐ売り上げにつながる活動をしたいよねみたいな感じで。
一方で保呂田さんは、その気持ちも分かると共感します。経営者は長期に真剣に取り組もうとすると社長としての時間が奪われるため、どうしても今月・来月・今期の売上に意識が向いてしまうといいます。
そうした背景から、片山さんはこのPodcastを始めた理由の1つに「ブランディングとは何かを一度世の中にインストールしたい」という思いがあると語ります。理解したうえで長期的な活動に取り組めるようにしたい、という狙いです。
マーケティングの定義が34年ぶりに変わった
ここから片山さんは、マーケティングの中身を整理します。製品・価格・流通・宣伝という4つの要素をどう組み立てるかが基本だと説明します。
そのうえで片山さんは、2024年に日本マーケティング協会が34年ぶりに定義を変更した点を紹介します。保呂田さんは初耳だと驚きます。
新しい定義では「顧客や社会とともに価値を創造し、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセス」とされました。
新しい定義では、単に「売る」ことから「社会とともに作る」ことへと範囲が広がりました。保呂田さんは、SNSなどソーシャルメディアの発展で、企業と顧客が一緒に作り上げていく流れが増えた影響ではないかと解釈します。
片山さんは、企業と顧客と社会が三位一体で価値を提供していく時代になってきたとまとめます。
最初は受け入れられなかった和牛
保呂田さんは、自身が手がける和牛の世界展開を例に挙げます。日本から海外へ持っていくものは「日本の製品すごいだろう」という姿勢になりがちだが、それだけでは通用しないといいます。
そもそも和牛は、海外で最初はまったく受け入れられなかったと保呂田さんは明かします。赤身が中心の海外では、サシの多い和牛は脂っこすぎると敬遠されたのです。
脂がバッチバチに入ったこのサシっていうのが、こんなの食べれねえよっていう外国の人の方が多かった。
そこで保呂田さんたちは、和牛が文化と密接に結びついている点から丁寧に伝えていきました。たとえば脂の多い和牛は薄く切って食べる、という日本では当たり前のすき焼きやしゃぶしゃぶの文化を、海外の人は知らなかったといいます。
分厚いステーキで食べれば胃がもたれるのは当然で、その受け入れられなかった状態を、作り手と社会が一緒になって市場を作ることで乗り越えてきた、と保呂田さんは説明します。
「神戸ビーフ」は明治時代に生まれたブランドだった
片山さんは、神戸ビーフはもともと有名だったのではないかと尋ねます。保呂田さんは、神戸ビーフが明治時代に生まれたブランドだと語り始めます。
保呂田さんによれば、江戸時代に黒船が来て横浜などに外国人居留地ができたものの、当時の日本では四つ足の動物を食べる習慣がなく、国内で牛肉を供給できませんでした。そのため外国人向けの牛肉は中国から輸入していたといいます。
一方で、但馬牛など一部の牛は殿様に薬として献上されていました。そうした牛が神戸の港から外国人居留地へ運ばれるようになったのが始まりだと保呂田さんは話します。
決して神戸で作られたビーフが神戸ビーフではなく、神戸から出荷されたビーフが神戸ビーフになっていったんです。
居留地にいたアメリカ人などが母国に帰り、「日本で食べた神戸ビーフが美味しかった」と噂が広がった結果、「日本の牛イコール神戸ビーフ」という認識が定着していったと保呂田さんは説明します。
保呂田さんは、ティッシュのクリネックスやおむつのパンパースのように、神戸ビーフが日本の牛肉の代名詞として定着していった、とたとえます。もちろん実際の味の良さも、その定着を支えていたといいます。
和牛全体のブランディングと「出会いの設計」
保呂田さんが現在手がけているのは、神戸ビーフに限らず和牛全体のブランディングです。日本各地で作られる和牛を世界に発信する仕事だといいます。
その過程では、日本から来た和牛をすべて「神戸」と呼んでしまうアメリカ人がいたことが、むしろ障害になったと保呂田さんは振り返ります。神戸は和牛のトップブランドの1つであり、和牛全体とは違う、と伝え続けたといいます。
ノーノーノー違うよと。神戸はパートオブ和牛だよ。和牛の中のトップブランドの一つとして神戸ビーフがありますよって、ずっと言ってた。
片山さんは、その取っ掛かりの部分がマーケティング的な手法にあたるのではと確認します。和牛にどう出会ってもらうかを設計していったイメージか、という問いです。
保呂田さんはこれを肯定し、喫食の回数やどんなレストランでどんな感動体験をしてもらうかを、影で演出していたと明かします。人前で大きな声で言ったことはこれまで一度もない、とも語ります。
片山さんは恋愛にたとえ、どこで出会い、どんな服を着て、最初にどんな話題で話すかを考えるのが「出会いの設計」であり、それは和牛の発信にも通じると整理します。ただし保呂田さんは、それは10年前の話で、今は別のフェーズに来ていると補足します。
ブランディングは「ずっと一緒にいたい」と思ってもらうこと
話題はブランディングのフェーズに移ります。片山さんが改めて定義を尋ねると、保呂田さんは恋愛の比喩で答えます。
出会いがあって好きになって、もっとこの人と一緒にいたい、一生一緒にいたいみたいになっていくのが、もし仮にブランディングだとしたら。
保呂田さんは、物珍しいものは最初みんな飛びつくため、そこはマーケティングでいくらでもできると話します。一方で、本当にそのブランドを好きになる段階はブランディングだといいます。
たとえば産地に行き、どんな思いで牛が育てられているのかを知りたくなる、マニアのような気持ちになる段階です。映像やイベントなど、さまざまな活動を通じてファンになってもらい、ブランドを確立していくフェーズだと保呂田さんは説明します。
本質・エビデンス・表現という3つの要素
片山さんは、ブランディングを本質・エビデンス・表現の3段階で整理します。まず本質は、その商品やサービスが持つ革新的な価値、いわばエッセンスです。
和牛の本質について、保呂田さんは迷わずサシだと答えます。筋肉と筋肉の間に脂がつくという、その特別な個体そのものがユニークだといいます。
次にエビデンスは、その本質が本当だと裏付ける部分です。保呂田さんは、和牛の脂はオレイン酸の含有量が高く、脂肪の融点が低いため口溶けが良い、と科学的に説明できると話します。
保呂田さんは、日本人には当たり前でも海外の人には初めての情報だからこそ、分からない人に向けてきちんと説明できるよう準備しておくことが大事だといいます。片山さん自身も、エビデンスの話を聞くだけで理解度が深まったと実感します。
本質(エッセンス)
その商品・サービスが持つ革新的な価値。和牛ならサシという特別な個体そのもの。
エビデンス
本質を裏付ける科学的根拠。和牛ならオレイン酸が多く融点が低いため口溶けが良い、など。
表現(エクスプレッション)
本質と根拠をどう伝えるか。ストーリーテリング、コラボ、SNSなど無数の手法から設計する。
和牛の上のウニは「逆輸入」だった
保呂田さんは、エビデンスの具体例として和牛とウニの組み合わせを挙げます。レストランで肉の上にウニが乗っているのを見たことがある人もいますが、これは海外のシェフが考えた逆輸入だといいます。
日本人はシンプルに味を楽しむ分いじくり倒さないけど、海外の人はいじくり倒して、これめっちゃ合うって言ったのが和牛とウニだったんだって。
保呂田さんによれば、この組み合わせにもエビデンスがあります。和牛はラクトンという乳脂肪分が他の牛肉より多く、ミルキーでシルキーな味わいになるため、ウニのシルキーな食感とマッチして美味しさが増すのだといいます。
だからこそ、旨味に敏感な日本人が食べても感動できる。海外的な調理法が日本に入ってきていることから、保呂田さんは今後、日本国内への逆輸入的なプロモーションもできると考えていると話します。
保呂田さんは、和牛にウニを乗せてバズらせる短期的なマーケと、なぜ美味しいのかをエビデンスで説明してブランドを定着させるブランディングの両方が必要だとまとめます。それを国内外で両立できるようにするのが目標だといいます。
表現は無数にあり、続けることが難しい
3つ目の表現について、片山さんは、本質とエビデンスがあっても最後にどう表現するかが必要だと指摘します。ストーリーテリング、シェフとのコラボ、パッケージデザイン、SNS活用など、手法は無数にあると2人は挙げます。
保呂田さんは、これらの表現を複合的に、そして継続的に続けなければならない点を強調します。ここが非常に大事だといいます。
もうコンティニュアスに、あの、やり続けないといけない。これすごい大事なところだなって思ってます。
ただし、続けるには時間もコストもマンパワーもかかります。それに対して短期的な売上がついてこない場合、経営者は心が折れる、と保呂田さんは語り、片山さんも強く共感します。
組織の規模とブランディングの難しさ
保呂田さんは、大きな企業では1つの部署だけがブランディングを担わされる状況も多いと指摘します。企業全体が理解していないのに、現場の部署だけが意識して頑張っているケースもよく見かけるといいます。
本来は組織が一体となって同じ理解を持って取り組むのが理想ですが、大きな組織になるほど難しいと2人は話します。逆に、コンパクトな会社ほどやりやすいという見方も出ます。
マーケティングの専門部署がある会社では、グランドデザインを部署が担い、各部署に落とし込めるためうまくいくところもあります。一方で、部署があってもできていない会社もたまに見かけると保呂田さんは述べます。
ここで2人は、新しいマーケティングの定義に出てくる「ステークホルダー」を確認します。片山さんは、これは株主だけでなくベンダーを含む関わる人全員を指すと理解を示します。全員を巻き込んで取り組むよう促す定義になっている、というわけです。
一体で同じ理解を持つのが難しい。1部署だけが担い、全体が理解していないこともある。専門部署が機能すればうまくいく。
関係者が少ない分、同じ理解を共有しやすく、取り組みやすい傾向がある。
まとめ:初デートばかり繰り返していないか
最後に片山さんは、この回の整理を恋愛の比喩でまとめます。マーケティングが最初のデートなら、ブランディングはその後の関係だという切り分けです。
体系的に考えることで、今自分がマーケ脳みそなのかブランディング脳みそなのかを理解しながら計画を立てられると、すごく使いやすいのかもしれない。
片山さんは、マーケティングは短期的な成果を生む活動、ブランディングは長期的な資産を作る活動だと改めて述べます。経営者は目の前の売上に目が行きがちだが、10年後も選ばれ続ける会社になるにはブランディングへの投資も両輪で必要だと強調します。
和牛についても、最初は「どう売るか」というマーケのアプローチだったのが、今は「どう根付かせるか」というブランディングのフェーズに移っているとまとめられます。
片山さんはリスナーへの問いかけで締めくくります。あなたの会社は初デートばかり繰り返していないか、それとも長い関係を築けているかを考えてほしい、という投げかけです。今日の売上だけでなく、明日も選ばれる理由を作ることを見直すだけでビジネスの景色が変わるかもしれない、と話します。
まとめ
この回は、混同されがちなマーケティングとブランディングを、和牛の世界展開と恋愛の比喩を使って切り分ける内容でした。出会いを設計する短期の活動と、選ばれ続ける理由を積み上げる長期の活動、その両輪の必要性が語られています。
- マーケティングは出会いを設計する短期の活動、ブランディングは関係を続ける理由を積み上げる長期の活動
- 2024年、日本マーケティング協会が34年ぶりに定義を変更し、「社会とともに価値を創造する」方向へ範囲が広がった
- 和牛は当初脂の多さで海外に受け入れられず、食文化から丁寧に伝えることで市場を作っていった
- ブランドは本質(エッセンス)・エビデンス・表現(エクスプレッション)の3要素で支えられる
- 表現は継続が要で、短期の売上がついてこないと経営者は心が折れやすい。だからこそ両輪の理解が大切





