YouTubeを見ないガクトが、唯一毎週見ているYouTuberとは?
今回のゲストは、お笑いコンビ・おミュータンツの宮戸フィルムさんです。芸名の「宮」と「フィ」から、YouTube上では「ミヤフィ」と呼ばれています。
ガクトさんはYouTubeの仕事を長く続けていますが、実は仕事以外ではほとんどYouTubeを見ないといいます。
私、YouTubeの仕事して長いじゃないですか。ですけど、実は見ないんですよ、あんまり。YouTube。
ところが唯一プライベートで毎週楽しみに見てるYouTuberがミヤフィさん。
ガクトさんと宮戸さんはこの日が初対面です。以前、ガクトさんがXでフォローしてDMを送ったことはあったものの、関係はあくまで「ただのファン」だったといいます。
番組を私的に使うのは避けてきたガクトさんですが、アーチーさんの「好きな人呼ぼうよ」という一言を受け、真っ先に名前を挙げたのが宮戸さんでした。
塩対応の一言「ない」はどう生まれたのか
ガクトさんが好きなSupremeは、ニューヨーク発のスケートブランドです。宮戸さんは、このSupremeの店員の接客を真似たショート動画で大きな話題になりました。
収録では、宮戸さんがその場でモノマネを披露しました。まず一般的な服屋の丁寧なレジ対応を演じ、続けてSupreme店員の対応に切り替えます。店員同士で昼飯の話をしながら、客には「使えない」と一言で返すという流れです。
(Supreme店員の)この塩対応で、もう日本の接客とは思えない。タメ口だし、お客様精神も元々全然ないみたいな。
ガクトさんとの掛け合いでは、ガクトさんが客として「グレーのLありますか?」と尋ね、宮戸さんが「ない」と一言で返しました。「ございません」を一周させた「ない」は、このモノマネの有名なセリフです。
丁寧な敬語で「申し訳ございません、こちら使えないようでして」と説明する
店員同士で雑談しながら、タメ口で「使えない」「ない」と一言で返す
ガクトさんは、最近入る若いスタッフがこの動画を見て接客を勉強しているのではないかと思うほど、実際の店とそっくりだと話しています。さらに、細かすぎるモノマネが人気を集める流れの口火を切ったのは宮戸さんだと評価しました。
ガクトさんは40歳を超えてSupremeから離れていましたが、宮戸さんの動画を見て再び買いたくなり、SupremeとGoodEnoughのコラボをきっかけに「カムバック」したそうです。
なぜ塩対応のSupremeを好きになったのか?
宮戸さんがSupremeを買い始めたのは、Supremeとルイ・ヴィトンがコラボした2017年の2、3年前だといいます。当時は店員全員が塩対応で、その体験そのものが魅力になったそうです。
恐る恐る買う服が、苦行を乗り越えて買ってるじゃないですけど、普通の服なのにすごい宝物のようで。
こんな思いして買ったんだから大事に着ようみたいのが、体験としてすごい自分の中で新しくて、そこで好きになったんですよね。
アーチーさんは、商品そのものではなく体験全体が好きになったという話だと受け止めています。
宮戸さんは3年ほど前に、ニューヨークのSupremeの1号店も訪れています。店員は音楽に合わせて揺れていて、3回ほど話しかけないと気づいてもらえなかったそうです。
ただ、アメリカでは別れ際にフレンドリーな一言が添えられるのに対し、日本の店舗では塩対応だけが残るため、日本の客にはかなり不満がたまっていたといいます。
宮戸さんは芸人として、その接客を友達と「今日は何を言われるかな」と面白がっていました。この感覚がモノマネのもとになったと話しています。
ガクトさんは、宮戸さんのメインチャンネルとサブチャンネルの動画をすべて見ていて、最近お子さんが生まれたことまで知っているといいます。宮戸さんを通して、初めてYouTuberやTikTokerのファンの気持ちがわかったそうです。
そこでガクトさんは、Supremeという「A面」ではなく、映画好きになった理由や芸人を志した経緯といった「B面」を聞きたいと切り出しました。
ブラック企業をクビになり、キングオブコントで芸人の道へ
宮戸さんは大学卒業後、専門学校でグラフィックを学び、グラフィックデザイナーとして原宿の会社に就職しました。そこでは4、5日徹夜でグラフィックを描き続けることもあったといいます。
それで(夜中の原宿の)交差点行ってRedBullガーって飲んで、うわぁみたいな。発狂してたんですよ、前は。
当時は就職氷河期で、宮戸さんにとってはやっと入れた会社でした。そんな時期に、何もしていなかった同級生から「お笑いやろうよ」と誘われていましたが、宮戸さんは仕事を理由に断っていたそうです。
ところが宮戸さんは、社長の気分のような理由でその会社をクビになります。貯金はあったため、転職までの息抜きとして同級生とお笑いを始めました。
2人が出たのは、コントの賞レースであるキングオブコントです。何千組も出る中で200組ほどしか進めない2回戦に上がると、周りはパンサーなどテレビで見る芸人ばかりだったといいます。
その楽しさから、宮戸さんは転職活動をやめて芸人になると決めました。会社をクビになったのは23、24歳ごろで、お笑い歴は今年で12年目になります。
ガクトさんは、暇な友達の存在は社会人にとって大事だと話しています。ブラックな職場で働き続けていれば狭まっていた選択肢が、友達の誘いで広がったという見方です。宮戸さんも、クビになったことに今は感謝していると応じました。
吉本を選んだ不純な動機とは?
宮戸さんの芸風を見て、吉本以外の事務所もありえたのではないかとガクトさんは尋ねました。宮戸さんによると、当時の相方は今の相方とは別の同級生で、その相方はすでに芸人を辞めています。
フリーの頃、宮戸さんは所属先を探していろいろな事務所のライブに出ていました。決め手になったのは、渋谷の無限大ホール(現在の吉本漫才劇場)の前で見た光景だったといいます。
やっぱりなんですかね、女性のお客さんにチヤホヤされたいっていう、その気持ちがあって。
無限大ホールの前では、パンサーなどの芸人を目当てに女性客が列をなしていました。それを見て「これはモチベーションになる」と感じ、宮戸さんは吉本の養成所に入ったそうです。
でも結果、その女性のお客さんついたこといまだかつてないっていう。
養成所の期間は1年で、「0年目」として扱われます。成績によってABCのようにランク分けされるため、卒業後にスタートダッシュを切れるかどうかが決まるといいます。
Vlogで見られる芸人は、なぜ珍しいのか?
ガクトさんは、芸人として泣かず飛ばずだった宮戸さんが、Supreme店員モノマネで脚光を浴び、東野さんのYouTubeへの出演などを経て輪が広がっていったと振り返ります。再生回数の地力も上がり、YouTubeだけでも食べていけるレベルに見えるそうです。
ガクトさんが特殊だと感じているのは、ネタ動画ではなく日常のVlogで再生数を集めている点です。すでに売れている人を除けば、そうした芸人はほとんどいないと話しています。
だってやってるYouTubeのスタイル、どっちかというと俳優のスタイル。
宮戸さんは、映画や漫画、アニメなどのサブカルチャー全般が好きで、そうしたオタク会話が何より好きだから、そちらを前面に出していると説明しています。
ガクトさんは、趣味を切り口に購入品を紹介するスタイルを、本田翼さんや川口春奈さんと並ぶジャンルだとたとえました。宮戸さんの動画には美学とカルチャーの奥行きがあるのに、そのルーツはどこでも語られていない、というのがガクトさんの関心です。
映画好きのルーツは、両親の初デート映画『AKIRA』
宮戸さんの両親も映画好きで、2人が初めてのデートで見た映画は『AKIRA』だったといいます。ガクトさんはこれを「遺伝だ」と笑いました。
ビデオレンタルが盛んだった時代、宮戸さんの家にはシュワルツェネッガー、ブルース・ウィリス、ジャッキー・チェンの映画ばかりが借りてありました。
それを繰り返し見てたから、この3人しかハリウッドスターいないと思って。昔子供なんで。
宮戸さんは『ダイ・ハード』や『酔拳』を繰り返し見たあと、ほかにも多くのハリウッドスターがいることを知り、映画にのめり込みました。スポーツが苦手だったこともあり、中学・高校時代はほぼ映画を見ることに費やしたそうです。
10万円のETと「ディスじゃなくてラブ」
ガクトさんが宮戸さんの愛の深さを感じたのは、SupremeとETのコラボぬいぐるみです。Supremeのパーカーを着たETは10万円ほどもしたといいます。
宮戸さんは動画の中で、どうしても欲しいものがあるときにETに「頼む、頼む」とお願いして買っています。ガクトさんは、お金に余裕がなかった初期から無理をして買っている姿に、その愛はどこから来るのかと尋ねました。
宮戸さんによると、Supreme店員モノマネは当初、カルチャーをディスっていると受け取られ、「お前何も知らねえのにディスってんじゃねえよ」といったDMも届いたそうです。
わざわざハッシュタグに「ディスじゃなくてラブ」みたいな、全部の動画につけてやってて、1年ぐらい経ったらそんなのもなくなって。
企業からすればマイナスイメージになりかねないモノマネなのに、Supremeから「やめてくれ」と言われたことは一度もないといいます。宮戸さんは、その寛容さに応えるために、YouTubeで稼いだお金をSupremeに使うと決めています。
モノマネ
Supreme店員の塩対応をモノマネして動画にする
YouTube
動画が話題になり、収益が生まれる
寛容さ
Supreme側からやめてくれと言われたことはない
還元
YouTubeで稼いだお金をSupremeで使う
買い物は動画に支配されていないか?
Supremeには春夏と秋冬の年2回シーズンがあり、宮戸さんは毎シーズン、買ったもののまとめ動画を出しています。何年分も見ているガクトさんは、キャップだけで100ほどあるのではないかと驚いていました。
大量の服の行き場について、宮戸さんは冬布団のように圧縮袋に入れてクローゼットに押し込んでいると答えています。夏服を出すと3年前の服が出てきて驚くこともあり、着ないものは古着として手放すこともあるそうです。
ガクトさんがこの日聞きたかったのは、YouTuberの人生が動画に支配されていく問題です。本当はスポーツカーが好きでも、流行っているからミニバンを買うように、現実の意思決定が「動画ドリブン」になる例があるといいます。
動画的に伸びそうなやつ、やっぱ買っちゃうんじゃないのかなっていう。そこをちょっと正直どうなのかみたいな。
宮戸さんは、Supremeのロゴ入りアイテムであるボックスロゴを例に正直に答えました。長年買っていると特別ではなくなり、色違いも増えていますが、動画では映えるので買ったほうがいいと考えることはあるそうです。
いざこう出る出るってなると、シュプリーム煽ってくるんですよ。
発売前にはかっこいい着用写真が出て、海外では3日ほど先に発売されるため、外国人が着てスケートをする動画が流れてきます。それを見ると、結局「これは買わなきゃ」となるといいます。
ガクトさんがさらに面白がったのは、動画タイトルの言い回しです。宮戸さんは買った服を「ズッ友」や「親友」のように友達にたとえるため、毎年の売り文句が並ぶボジョレー・ヌーボーのように、どれが一番なのかわからなくなるというのです。
宮戸さんによると、「喋ったら意外といいやつだった友達」のような段階があり、本当にぴったりはまった服だけを「親友」と呼ぶそうです。さらに「ソウルメイト」という呼び方もあるといいます。
キザな言い回しと『ぐるりのこと』が育てた感性
ガクトさんは、宮戸さんの言葉選びに文学的でカルチャーっぽい味わいを感じています。何を芸風に取り入れているのかと尋ねると、宮戸さんはハリウッド映画のくどい言い回しを挙げました。
かなり切羽詰まった状況なのに、今日が休日でよかったぜとか、そういうハリウッド映画的なキザな言い回しとかがすごい好きで。
宮戸さんは、漫画『ジョジョの奇妙な冒険』のセリフ回しも同じ理由で好きだといいます。そうした言葉を自分の中に溜め込んでいるのかもしれない、と話していました。
邦画で一番好きなのは、リリー・フランキーさんと木村多江さんが夫婦を演じた『ぐるりのこと』です。宮戸さんは大学生のときにこの作品を見て、日本映画が大好きになったそうです。
海を越えた世界の話として、夢の中のように楽しむ
身の回りのことが描かれるので、没入感がある
ガクトさんも、最近はNetflixに面白い作品が少ないと感じていて、見損ねた昔の作品のDVDを買うことがあると話しています。
芸人を軸に、映画制作へ向かうのか?
吉本芸人の枠に収まらない活動をしながらお笑いを追求するのか、とガクトさんは尋ねました。宮戸さんは、今いちばん自由に活動しやすい立場が芸人だと考えています。
俳優の方が音楽とかに行くと、ちょっとこう、ん?とかいうのもあったりとかするじゃないですか。
次にやりたいことは、映画やアニメを作ることです。海外ではYouTuber出身の映画監督が台頭していて、ガクトさんも『Backrooms』の例を挙げました。昔のようにハリウッドを目指さなくても、YouTubeで発表すればよいという話です。
宮戸さんは、最初は20分ほどの作品を考えています。制限された中で作るほうがクリエイティブになると感じているそうです。ガクトさんは、ONE MEDIAとのコラボまで持ちかけました。
ガクトさんは、宮戸さんを新しいタレント像を作っている人だと見ています。その例として挙げたのが、幻冬舎の社員であることを辞めない編集者の箕輪厚介さんです。編集者という軸があるからこそ、ほかの活動にも意味が出るという考え方です。
宮戸さんの場合は、モノマネを含めて芸に昇華させた「芸人」という軸があるから、Vlogも楽しめて、好きな映画にも興味が湧くといいます。ガクトさんは、鬼滅やちいかわのように、シンプルに見えて予習・復習したくなる多重構造があると分析しました。
Supreme店員モノマネ自体も、今は単なる塩対応ではなく、「ない」という空間を好む生き物を描く哲学的な方向に進んでいます。たとえば、お盆に新幹線のチケットがないと、「普通に各駅で行くわ」と「ない」を美学として受け入れるような作品です。
ガクトさんは、宮戸さんに小説や脚本を書いてほしいと提案しました。それを20分の短編映画にしてYouTubeで公開し、話題になればクラウドファンディングにつなげるという構想です。宮戸さんも、ホラーなどのジャンル映画が好きだと話しています。
ガクトさんとアーチーさんは、邦画はジャンルをしっかりやろうとしないことが多いと指摘しました。アーチーさん自身も、中学1年生のときに『スター・ウォーズ』などを見てハリウッドを目指したといいます。宮戸さんは、30代のうちに何か1本撮りたいと語りました。
図工室の窓ガラスを頭で割った小学生時代
アーチーさんが子ども時代について尋ねると、宮戸さんは目立ちたがりではあったものの、クラスのカースト上位の男の子が人気を集めることには反発していたと振り返りました。
小学校の図工の時間、先生を待っている間に、カースト上位の男の子が前日に見た芸人のモノマネを繰り返して盛り上がっていたそうです。宮戸さんはそれが嫌で仕方なかったといいます。
何を思ったのか、その図工室の窓ガラス(を)頭でバンって割ったんですよ。
受けるかなと思って。
宮戸さんは、コロコロコミックのギャグ漫画で人物が窓から飛び出してくるシーンを、ボケとして再現したつもりだったそうです。しかし教室は騒然となり、宮戸さんは保健室へ連れていかれました。理由を聞かれても、何も言えなかった気がするといいます。
とにかくあいつ(カースト上位の子)が受けてるのを止めたくて。
アーチーさんは、子ども時代を聞かれてこのエピソードが出てくること自体が、極めて映画的だと評しました。
絵コンテで考える人が描く「しょぼいAKIRA」
ガクトさんは、宮戸さんを漫画のような場面をビジュアルで組み立てる人だと見ています。宮戸さんの動画は、ただ喋るだけではなく、絵として動くように作られた「建築的」な画面だといいます。
そのうえでガクトさんは、絵コンテを描くことを勧めました。ヒット作を撮る映画監督は皆絵コンテを描くらしく、実写でもドゥニ・ヴィルヌーヴのような監督がそうしていると話しています。収録では、頭の中の絵コンテで動画を撮っている感覚がある、という応答も出ていました。
アーチーさんは、又吉さんや松本人志さんのように、吉本の芸人がお笑いとは別の次元で小説や舞台、ドラマを作ってきた流れにも触れました。コメディアンには、まだほかの芸があるはずだという期待です。
作品のジャンルについては、予算の低いホラー、SF、AI映像を混ぜたハイブリッドなどの案が出ました。最終的には、ストリート寄りのサイバーパンクに、強い設定を1つ加える方向で盛り上がります。
そこで出てきた言葉が、すごいしょぼいアキラです。両親の初デート映画だった『AKIRA』につながる案に、スタジオは繰り返し反応し、宮戸さんも「描いてみます」と応じました。
ガクトさんは最後に、会いたい人を呼ぶのはこういう感覚なのだと振り返りました。2本撮りの2本目で普段なら疲れている時間でも、この日は純粋な気持ちで話を聞けたそうです。
まとめ
Supreme店員モノマネで知られる宮戸フィルムさんの背景には、塩対応すら体験として楽しむカルチャー愛と、幼い頃から積み重ねた映画愛がありました。芸人を自由に動くための軸として、YouTubeから映画制作へ踏み出す構想が、この回で具体的に語られています。
- Supremeを好きになったのは、塩対応を乗り越えて服を買う「体験」が新鮮だったから
- ブラック企業をクビになったことが、キングオブコント出場と芸人の道につながった
- YouTubeで稼いだお金をSupremeに使い、「ディスじゃなくてラブ」を示し続けている
- 両親の初デート映画『AKIRA』や『ぐるりのこと』が、映画好きの原点になった
- 芸人という軸を生かし、20分ほどの短編映画をYouTubeで作る構想が語られた




