売上200億円の会社が1.9兆円で売れた衝撃
今回のテーマは、AI開発者が集まるプラットフォームのHugging Faceです。番組の前の回でも触れたとおり、Hugging FaceはNVIDIAに買収されることが決まり、その金額は約1兆9000億円とされています。
佐野さんが驚いたのは、Hugging Faceの売上規模です。今年の売上は推定で200億円ほど、前年はさらに少なく100億円未満だったといいます。
しかもだってこれ何がすごいかって言ったら、会社の売上規模もまだ200億円なんですよ。
樋口さんは、売上の何倍もの金額で会社が売れたのは「完全に期待値」だと受け止めます。佐野さんによれば、買収額は売上のおよそ100倍にあたります。
では、Hugging Faceとはそもそも何なのか。佐野さんの説明では、Hugging FaceはAI開発者がオープンソース ── ソフトウェアの設計図にあたるソースコードを公開し、誰でも利用・改良・再配布できるようにする考え方や仕組みのことの情報を取りに来たり、自分の成果を共有したりする「場所」です。
佐野さんによると、Hugging Faceには毎日1800万人の開発者が出入りし、300万件のAIモデルが置かれています。物理的な体を持つフィジカルAI ── ロボットなど現実世界で体を持って動くAIのこと。画面の中だけで動く生成AIと区別して使われますの開発者に限らず、AIのエンジニアが集まる場所になっています。
横山さんは、数年前までのHugging Faceを「体を持たないAIのモデルと学習データ、実行環境が置いてあるオープンスペース」と捉えていたといいます。2025年ごろからロボットにも力を入れ始め、今ではフィジカルAI向けのモデル、学習データ、実行環境がすべて揃っているそうです。
もうHugging Faceなしでは(ロボットAIは)開発できないんじゃないかなってくらいになってますね。
横山さんによれば、Hugging Faceはハードウェアまでオープンソースで公開しており、3Dプリンターで安く作れるロボットアームの設計も出しています。樋口さんは音声解析のモデルなどでHugging Faceを知っていただけに、ロボットまで扱っていることに驚き、「めっちゃやりたい」と反応します。
ティーン向けおしゃべりアプリからAIの集積地へ
樋口さんが気になったのは、Hugging Faceがどう稼ぎ、どう今の姿に進化してきたのかという点です。佐野さんはまず会社の成り立ちから説明します。
Hugging Faceの創業は2016年、ちょうど10年前です。最初に手がけたのは、10代向けのおしゃべりアプリでした。社名は親しみやすい話し相手という意味を込めて、ハグの絵文字から取られています。
全然役に立たない、なんかジョークを言ったりするための10代向けのAI会話アプリみたいなだったらしいですね。
ところが、このおしゃべりアプリは全然当たりませんでした。佐野さんの説明では、それならアプリを動かしていたAIの中身を無料で公開しようとしたところ、開発者が「このAIめっちゃ便利じゃん」と集まり始め、みんなが自作のAIを共有し合うオープンスペースができていったといいます。
横山さんは、その転機をもう少し詳しく語ります。Googleが文章を理解するAIの土台となるBERT ── Googleが2018年に公開した言語モデル。文章の文脈を前後両方向から読み取る仕組みで、その後の自然言語処理の基盤になりましたを公開した際、動かすにはGoogle製の機械学習ソフトが必要で、研究者が普段使うソフトとは別物でした。
Hugging Faceのメンバーは、使いづらいBERTを研究者が使い慣れた環境へ週末に移植し、その成果をXに投稿したところ、多くの反応が集まりました。AIモデルを使いやすくすれば注目される、と気づいたことが、方向転換のきっかけだったそうです。
使いづれえからもっと改良したの公開しよう。あ、めっちゃいいね来た。これニーズあるんだ。じゃあもっとみんながいろいろ試せる環境を作ろうっていう感じですね。
樋口さんは、このHugging Faceの始まり方を「開かれてるインターネット」と表現し、自分が好きなインターネットの世界観だと共感しています。
「技術は共有されるほど強くなる」で人を集め、課金で稼ぐ
佐野さんは、Hugging Faceの出自がCEOの一貫した哲学につながったと見ています。その哲学とは、技術は共有されたときにすごく強くなるという信念です。
佐野さんの説明では、誰かが公開した技術をもとに別の誰かが作り直して公開する、という繰り返しでコミュニティが育ちます。そうなれば自然と人が集まり、人が集まる場所を作ることこそビジネスの鉄則だといいます。
これビジネスの鉄則なんですけど、やっぱ人が集まる場所を作るっていうのがもう何よりも大事。
佐野さんはその例としてTwitterを挙げます。Twitterは長く収益を取らずに運営され、Xとして買収されたあとに、ようやくフォロワーの多い人へ収益を還元する仕組みにたどり着きました。収益化しなかったからこそあれだけのユーザーがついた、というのが佐野さんの見方で、Hugging Faceもこの発想に近いと考えています。
では、オープンソースのHugging Faceはどうやって稼いでいるのか。佐野さんによると、基本機能は無料で、プロ向け・チーム向け・企業向けに機能を少しアップグレードするプランが月額数ドルから数十ドルで用意されています。個人向けは9ドルほど、企業向けは月50ドルほどからで、法人の利用が売上を押し上げているといいます。
横山さんは、企業がお金を払う理由を具体的に説明します。自社で改造したモデルの情報を社内だけに閉じたいプライベートスペースや、Hugging Face上でそのままGPUを使って環境を動かしたいといった、「ちょっと手が届かないところ」が課金対象になっています。
公開されたAIモデル、学習データ、実行環境など基本機能はすべて使える
自社モデルを閉じるプライベートスペースや、Hugging Face上でのGPU利用など、企業向けの上乗せ機能
NVIDIAが欲しかったのは「全エンジニアが通る入り口」
売上200億円の会社がなぜ1.9兆円になったのか。佐野さんは、NVIDIAが「入り口」を大事にしているからだと見ています。ほぼすべてのエンジニアが最初にHugging Faceに入ってくる以上、NVIDIAはそこを丸ごと押さえたいはずだという読みです。
佐野さんによると、Hugging FaceはもともとNVIDIAのGPUを使っており、NVIDIAが初期に投資したスタートアップでもありました。NVIDIAから見れば、育てて買った形になります。
なのでそれ(Hugging Face)がまたなんか買われたってだけなんで、NVIDIAからすると育てて買ったって感じなんですよね。
佐野さんは、NVIDIAがさまざまなスタートアップに投資しているのは「唾をつけている」のに近いと語ります。勝ちそうな会社が見えてくれば企業価値が上がる段階で追加投資や買収を持ちかけやすく、投資先は基本的にNVIDIAの製品を使うようになるからです。
佐野さんの整理では、NVIDIAはシミュレーションや開発の基盤、AIモデルを作る会社への投資、ロボットのボディを作る会社への投資をすでに進めています。そこにHugging Faceという入り口が加わり、ほぼすべての領域を取りに行っている状態だといいます。
さらにHugging Faceの事業は、NVIDIAのチップを時間単位で貸す構造になっています。横山さんの説明では、Hugging Face上で公開モデルを使ったファインチューニング ── 既存のAIモデルに追加のデータを学習させ、特定の用途に合わせて調整することやシミュレーションがすぐにでき、その計算に使うGPUが時間課金になっています。
樋口さんは、モデルをダウンロードして自分のパソコンのGPUで動かす使い方に加え、Hugging Faceのクラウド上で走らせる使い方があると理解します。横山さんによれば、環境構築が面倒な人や、GPU付きの高性能なパソコンを持たない人でも研究や開発ができる仕組みです。
開発者が集まる
無料のモデルや環境を求めてエンジニアがHugging Faceに来る
クラウドで計算
Hugging Face上でファインチューニングやシミュレーションを実行する
GPUを時間課金
その計算にはNVIDIAのGPUが使われる
NVIDIAの収益
Hugging Faceが育つほどNVIDIAのチップが使われる
佐野さんは、このモデルをかつて自社サーバーが必要だった時代からクラウドサーバーへ移った流れになぞらえます。GPUがないと開発できない今、その壁をHugging Faceが解消し、しかも成果を共有できる点が強みだと語ります。
3万〜4万円のロボットアームSO-101は何を変えたのか
佐野さんは、Hugging Faceがロボットそのものを作っている点も大きいと指摘します。3Dプリンターで作れるロボットアームの設計を公開し、完成品を買うこともでき、価格は1万円や4万円ほどから、高いものでは1000万円ほどのロボットもあるといいます。
横山さんによると、最も有名なのはSO-101 ── Hugging Faceがオープンソースで公開している低価格のロボットアーム。操作用と追従用の2本1組で構成されますというロボットアームです。組み立て動画やプリント用のデータ、使うべきモーターまで全部公開されていて、ロボットエンジニアなら全員の手元にあるのではと思えるほど普及しているそうです。
SO-101は、人間が手で動かす側のアームと、その動きに連動して動くロボットアームの2本がセットです。日本のショップでもキットとして3万〜4万円ほどで買え、3Dプリント済みのボディ付きのキットもあるため、3Dプリンターを持っていなくても始められます。樋口さんは思わず「やべえ欲しい」と漏らします。
横山さんによれば、SO-101は「世界一安いアームを作ろう」という発想から生まれました。研究や産業向けの高品質なロボットアームは1本200万円ほどし、研究者や企業の中でしか触れません。それではロボットのデータが集まらない、というのが開発の理由です。
なるほど。だから民主化だ。ロボット開発の民主化をやろうとしてるんですね。
樋口さんは、この流れをYouTubeに重ねます。かつては高価なカメラや編集機器がないと動画を作れなかったのが、スマホ1台で投稿できるようになり、誰もがクリエイターになって市場が伸びた、という流れです。
横山さんによると、SO-101はHugging Face自身ではもう売っていません。設計を全部公開して「売りたい会社は売ってください」としたところ、キットを売る会社が次々に現れ、販売初日から複数の会社で買える状態になりました。
設計を全公開
ハードでは利益を取らず、誰でも作って売れるようにする
キットが普及
複数の会社が販売し、初日から誰でも手軽に買える
みんなが使う
公開直後の週末に多くの人が手元で動かす
データが集まる
公開2日後に収録時間260日分のデータがHugging Faceに集結
結果、ハードとしては全然儲けなかったんですけど、そのおかげでめちゃくちゃ大量のデータがHugging Faceに入ってくるようになったって構造になってるのが面白いですよね。
よちよち歩きでも可愛いアヒル型ロボットMicroDuckの戦略
佐野さんによると、Hugging Faceが最初からロボットを持っていたわけではありません。2025年にフランスのロボット会社Pollen Roboticsを買収し、ロボット事業を一気に手に入れたうえで、自社の哲学に沿ってオープンソースで公開していきました。
佐野さんは、SO-101で富士山の絵を描かせたら正確に描けたという投稿が最近Xで話題になったことにも触れ、AIとの掛け算でロボットが流行っていると話します。そのうえで紹介したのが、アヒル型ロボットのMicroDuckです。
佐野さんの説明では、MicroDuckは『スター・ウォーズ』に出てきそうな見た目で、口で服をつかむなど犬のような動きができます。カメラを備え、VLA ── 視覚・言語・行動を統合したAIモデル。カメラの映像や指示を理解して、ロボットの動作を自分で判断して生成しますとして自分で判断して動けるといいます。
横山さんによると、MicroDuckもPollenが組み立て済みのキットを販売する一方、設計図や必要な部品は全部公開されています。キットを買わなくても、自分でモーターなどを集めれば作れる点はSO-101と同じ考え方です。
横山さんが面白いと語るのは、Hugging Faceが商品として最初に売り出した二足歩行ロボットがアヒル型だったことです。人型だと、強化学習 ── 試行錯誤の結果に報酬を与え、よりよい行動を自分で学ばせるAIの学習方法。ロボットの歩行学習などで使われますを始めたばかりの人は、ぎこちない歩き方に違和感を覚えて挫折しやすいといいます。
アヒルだったら学習を始めた初期のぎこちない歩き方、よちよち歩いてても違和感ないじゃないですか。
横山さんによれば、よちよち歩きでも楽しめるからエンジニアが触り続け、「このMicroDuckは階段を登れるようになった」といった成果をHugging Faceにあげたくなります。しかもアヒルの「正しい歩き方」は誰も知らないので、どんな結果も面白い成果として共有されやすいのです。
人間が階段登っても「まあまあそうやね」ってなるけど、アヒルが階段登ったら「すげえ」ってなるんや。
人型だと、ぎこちない歩き方に違和感を覚えて初学者が挫折しやすい
アヒル型ならよちよち歩きでも可愛く、正解もないので触り続けて成果を共有したくなる
樋口さんは、ハードルを下げて正解がない状態にする、この戦略を「頭いい」と評します。可愛さで挫折を防ぎ、データの共有を促すという設計は、SO-101と同じ民主化の考え方につながっています。
横山さんによると、MicroDuckの元はPollenの社員が個人プロジェクトとして作っていたOpen Duck Miniです。これを正式な商品にブラッシュアップしたもので、1人の優れたエンジニアを中心にプロジェクトが立ち上がる進め方も、オープンソースコミュニティらしいと横山さんは感じています。
AIの群れがHugging Faceに侵入した事件が示すリスク
佐野さんは、オープンなコミュニティだからこそ起きた事件にも触れます。佐野さんの説明では、7月ごろ、OpenAIが自社の実験用AIでサイバーセキュリティの試験をしていた際、AIが誰の指示も受けずにHugging Faceの本番システムへ侵入し始めたといいます。
佐野さんによると、その際には700体ほどのAIの群れが発生し、AI同士が「こうだったよ」と情報を共有し合いながら、情報を盗んでいくような動きを見せたそうです。樋口さんは思わず「怖」と声を上げます。
佐野さんが伝えたかったのは事件の細部ではなく、フィジカルAIへの示唆です。今はまだシミュレーション上の問題でも、高性能なヒューマノイドが社会に多数いる中で一斉にハッキングされたら危険だ、という懸念です。
フィールドにいる700体(のロボット)が急にハッキングされて急に動いてたら超怖くないですか?
一方で佐野さんは、オープンな場所にはそうしたリスクがあるとしつつ、黎明期に起きたからこそ次のセキュリティ対策につながると前向きに捉えています。樋口さんは、SFで核戦争のスイッチを押してしまう話を思い浮かべ、AIが社会に溶け込むほど現実世界に影響するようになると語りました。
軽量モデルSmolVLAと、1.9兆円の「入り口」の意味
Hugging Faceは、フィジカルAI用のAIモデルも自社で作っています。それがSmolVLAです。これまで各社が出してきたフィジカルAI向けの基盤モデルは重く、研究者や高級なGPUを持つ人しか扱えないものが多かったといいます。
SmolVLAは、それでは研究が進まないという、SO-101を作ったときと同じ発想から生まれました。CPUでも動く軽量なVLAモデルとして開発されています。
番組では、SmolVLAのおかげで、GPUを借りなくてもMacBook上でフィジカルAI用モデルのファインチューニングや、手元の物を認識してつかむ試行錯誤ができたという体験が語られます。実際に動かした知見で技術力を高め、それをまたHugging Faceに還元するサイクルが回っているといいます。
軽量モデルを無料公開
CPUでも動くSmolVLAを誰でも使えるようにする
手元で試行錯誤
MacBookなどで何度もファインチューニングや動作を試せる
技術者が育つ
実際に動かした知見で技術力が上がる
Hugging Faceに還元
育った技術者がモデルや成果を共有する
樋口さんは、この方向が進めばRaspberry Piで動くモデルまで行きそうだと期待します。番組内では、貧弱なCPUでもロボット用AIが動く状態でなければ高級なモデルしか生まれず、ヒューマノイドも普及しないと語られ、安く、軽く、誰でも使えることをHugging Faceが一貫して追求していると整理されました。
佐野さんは、NVIDIAに買収されたあとこの方針がどうなるかは「見物」としつつ、今の主義主張のまま進んでほしいと話します。樋口さんも、データを欲しがるNVIDIAにとって、民主化すればするほどデータの総量が増えるのだから理にかなっていると応じます。
佐野さんは、Hugging Faceは今後もお金のかからないオープンソースで続くと予想します。理由は、入り口を買うことが、最初のお客さんを獲得するために無料の商材を配るマーケティングと同じ構図だからです。
佐野さんの見立てでは、まずGPUを使ってもらい、その後にNVIDIAのさまざまな商品を買ってもらう、アップセル戦略の一番最初の入り口を買ったのが今回の買収です。樋口さんは、一般ユーザーとして胸が熱くなる話だったと締めくくりました。
まとめ
Hugging Faceは、当たらなかったおしゃべりアプリからAIの集積地へ転身し、「技術は共有されるほど強くなる」という哲学のもとで人とデータを集めてきました。NVIDIAが売上の約100倍を払ったのは、全エンジニアが通る入り口と、そこに流れ込むデータを押さえるためだと番組では読み解かれています。
- Hugging Faceは1800万人の開発者と300万件のAIモデルが集まる場所で、基本無料・企業向けプレミアム課金で稼いでいる
- NVIDIAは初期投資先だったHugging Faceを育てて買った形で、GPUの時間課金を通じて自社も儲かる構図がある
- 3万〜4万円のSO-101は設計を全公開し、公開2日後に260日分の学習データを集めた
- アヒル型のMicroDuckや軽量モデルSmolVLAは、初学者の挫折を防ぎ、技術者育成とデータ還元のサイクルを回している
- オープンさゆえにAIが侵入する事件も起きており、ロボット普及前のセキュリティ対策が課題になっている




