押し入れの向こうで醤油が金貨に化けたら?
今回、川地さんが持ち込んだテーマは「もし異世界に転移したら、確定申告はどうすればいいのか」という問いです。堀内さんは冒頭から「どっちがボケるの?」と戸惑いながら、この思考実験に付き合います。
川地さんはまず、異世界ものの「転生」と「転移」の違いを説明します。転生は一度死んで異世界で生まれ直すこと、転移は今の体のまま異世界へ行くことで、今回扱うのは転移のほうです。
トラックに轢かれるなどして一度死に、異世界で生まれ直す
死を挟まず、生まれ直しもせず、今の体のまま異世界へ行く
しかも今回の転移は、異世界と現代日本を自由に行き来できるタイプです。川地さんは例として佐々木とピーちゃん ── 異世界と現代日本を行き来しながら、両方の世界で商売や騒動に関わっていく作品。ライトノベルを原作に、漫画やアニメにもなっていますを挙げています。
川地さんが用意した設定では、堀内さんの自宅の押し入れが、ある日剣と魔法の異世界につながります。戦うためのチート能力はありませんが、日本の商品を異世界の店先に呼び出せる「お取り寄せ」というスキルを授かります。
お取り寄せはタダではなく、日本で買うのと同じ金額が堀内さんの銀行口座から引かれます。たとえば200円の醤油1本を呼び出すと、うまい調味料のない異世界では金貨1枚、つまり約1万円で売れるという設定です。
200円で仕入れて、1万円で売れる。
行き来できる設定なので、石鹸やマヨネーズの作り方を忘れても、日本へ戻って調べればいいという利点もあります。堀内さんは「めっちゃ俺それがいい」と乗り気です。
商売は順調で、堀内さんは迷宮都市の大通りに金貨1万枚、約1億円の店を買い、番頭も1人雇います。その番頭は手先が器用な元盗賊で、帳簿も任せているという、少し嫌な予感のする設定です。
そんな2月の夜、日本の自宅でテレビから「確定申告はお早めに」と聞こえてきます。堀内さんは住民票も抜いておらず、日本の家で寝起きして押し入れから異世界に出勤しているだけなので、どう見ても日本の居住者だと川地さんは指摘します。
日本に住んでる人は、世界中のどこで稼いだ儲けも日本で申告してねっていうルールなんですよ。
堀内さんは「ぶっちゃけ申告しねえわな」と本音を漏らします。しかし川地さんは、金貨を日本に持ち帰って円に変え、日本で使っていたら逃れられないと返し、堀内さんも「税務調査が来るよ」と認めます。
川地さんによれば、日本に戻れないタイプの転移なら、そもそもこの悩みはありませんでした。
金貨の売上は、いつ・いくらで計上する?
申告せざるを得ない前提で、最初の問題は売上の計上です。堀内さんは売上を金貨で受け取っていますが、確定申告書は円でしか書けず、「売上金貨2000枚」とは書けません。
異世界の通貨と円の為替レートは決まっておらず、自分で勝手に決めるわけにもいきません。そこで川地さんが出した答えは、金貨を貴金属の買い取りに出して、通貨ではなく金としての価格で評価するという方法です。
堀内さん一旦金貨1枚持って帰ってきて、買い取りのところに売ってみたら1万円で売れた。なので金貨1枚1万円としましょう。
ただし川地さんは、今の日本の相場だと1万円分の金は0.4グラムほどだとも補足します。本物の金貨ならもっと桁違いの値段になるはずなので、堀内さんは「混ざり物ばっかな金だった」と受け止め、ここは思考実験として置いておくことになりました。
次は、売上が生まれるタイミングです。お取り寄せで醤油1000本を出すと、口座から約20万円が減り、倉庫には売れば金貨1000枚、約1000万円分になる醤油が積まれます。
川地さんは、倉庫に醤油がある時点ではまだ売上ではないと説明します。売上になるのは、お金を受け取って商品を渡した瞬間です。
仕入れ
お取り寄せで醤油を呼び出し、日本の口座から代金が減る
在庫
倉庫に醤油がある段階では、まだ売上ではない
引き渡し
お金を受け取って商品を渡した瞬間に収入になる
円換算
受け取った金貨の枚数に、買い取りで確かめた1枚1万円をかける
そのためには、何をどれだけ売ったかを毎日数えるか、棚卸し ── 期末などに手元に残っている在庫の数量を実際に数え、帳簿と照らし合わせる作業。仕入れた量と残った量から、売れた量を割り出せますで仕入れた量と残っている量を数える必要があります。川地さんは、現実と近い作業ではあるものの、異世界ではパソコンもレジも使えないのが大変だと話します。
仕入れも給料も鎧も、どこまで経費にできる?
売上の次は経費です。川地さんは、収入から経費を引いた残りが儲けだと前置きしたうえで、経費の大きな部分は仕入れだと説明します。
ただし、醤油1000本の仕入額20万円をすべて経費にできるわけではありません。会計でも税務でも、商品の仕入れのうち経費になるのは売れた分だけだからです。
経費になる
商品として資産に残る
売ってないものは商品っていう形で資産に残ってるよね。
堀内さんは醤油だけでなく、マヨネーズなど売れそうなものを片っ端から試しています。品目が増えるほど、何が何個売れて在庫がどれだけあるかを把握する作業は重くなり、堀内さんは「めんどくさい、楽していきたい」とこぼします。
さらに番頭の給料や、行商のときに雇う護衛の代金も経費になります。川地さんによれば、このあたりは経費にしてよいとわかりやすい部類です。
難しいのは、商売と生活にまたがる出費です。日本でも、個人事業主が自宅を作業場にしている場合に、家賃をどこまで経費にできるかが議論になります。
異世界で同じ問題が起きるのが鎧です。仕入れた品を魔物から守る仕事着だとしても、魔物は休日に異世界を歩いているときにも襲ってくるので、私生活でも着ることになります。
これ(鎧の話)、スーツもね、同じ考え方なんですよ、日本において。
仕事用のスーツを普段も着られるなら100%経費にしてよいのか、という日本での議論が、異世界では鎧の問題に置き換わるわけです。
領収書のない世界で、税務調査にどう答える?
川地さんが経費の話で一番怖いと話すのは、それを証明できるかどうかです。経費には本来、領収書が必要になります。
仕入れは口座からお金が減るので証拠が残ります。一方で、番頭の給料、行商の宿代、荷馬車の代金などは、番頭が手書きの帳簿につけているかもしれない程度で、領収書をもらう文化もおそらくありません。
異世界ものには、身分や取引を記録する魔法の「ギルドカード」が登場することがあり、預金やクレジットカードのような支払いができる設定もあると川地さんは紹介します。ただし、それほど一般的な設定ではないとも話しています。
ギルドカードがなければ、税務調査が来たときに堀内さんは領収書の束を見せて説明するしかありません。川地さんはその姿を「満面の苦笑いで戦わないといけない」と表現します。
さらに、押し入れを通れるのが堀内さんだけなら、異世界の存在を示せず「だいぶ痛い人」になります。逆に他人も通れるなら国家問題になり、堀内さんの押し入れは重要拠点として囲まれかねません。
川地さんは、現実には申告しないのだろうと認めます。ただ、その場合も日本円で減っていく仕入れ代をどう補填するのかという問題が残り、口座の大きなお金の動きは銀行や税務当局に疑われうると話します。
インサイダー取引とか税務とかは俺らが思ってる以上にちゃんとしてるし。
結局、異世界には行きたいのか?
話を振り返って、堀内さんは異世界に行きたいと思っていたのに、あまり行きたくなくなったと打ち明けます。川地さんは、行きっぱなしならこの確定申告の問題は発生しないと改めて念を押します。
それでも二人とも、日本に帰りたいという気持ちは変わりません。堀内さんは『ドクターストーン』のように一人で行っても何もできないと言い、川地さんも現代知識で無双する作品の定番には乗れないと話します。
俺石鹸とか作れないし。あとよくあのマヨネーズが売れるとかあるけど、俺マヨネーズ嫌いだから。
二人の結論は、異世界は商売をせずに散歩してちょっと覗くくらいがいい、というものでした。
最後に川地さんは、異世界での確定申告や会計を題材にした漫画が実在し、小説の漫画版を読んだと紹介します。タイトルは思い出せなかったため、異世界作品のパターンに関するコメントと合わせて、リスナーからの情報を募って締めくくりました。
まとめ
異世界と日本を行き来できる商人は、日本の居住者である限り、異世界での儲けも日本で申告する必要があります。売上の換算、在庫の把握、生活と仕事にまたがる経費、領収書による証明と、現実の確定申告の論点がそのまま異世界にも持ち込まれることが見えてきます。
- 日本の居住者は、世界中どこで稼いだ儲けも日本で申告するのが原則で、異世界も例外にならない
- 金貨の売上は円で書く必要があり、貴金属の買い取り価格で評価するしかない
- 売上は商品を渡してお金を受け取った時点で計上し、仕入れは売れた分だけが経費になる
- 鎧は日本のスーツや自宅家賃と同じく、仕事と生活にまたがる経費の線引きが問題になる
- 領収書の文化がない世界では、経費の証明が最大の難関になる





