中国のヒューマノイド出荷はどれほど突出しているのか
この回のテーマは、中国で進むヒューマノイド開発ラッシュと、その裏にある政府の巨額投資や量産化計画です。佐野さんは、次回以降でアメリカも取り上げるとしたうえで、まず「なぜ中国がこれほど盛り上がっているのか」を整理したいと話します。
佐野さんが示した論点は3つです。実際に何台売れていて、どの規模の国家投資が動いているのか。なぜ開発がこれほど速いのか。そして「中国すごい」だけでは済まない影の部分です。
あの中国、2025年時点では出荷台数が1万3000から1万6000台になってきてるって言われています。
佐野さんによると、この数字は調査会社によってばらつきがあり、配信時点でも変わっている可能性があります。それでも、数年前までほぼゼロだったものが一気に跳ね上がった、と捉えればよいといいます。
他国との比較では、2025年時点のTesla Optimusはまだ社内向けで商業販売をしておらず、出荷は150台ほどです。Figure AIやAgility Roboticsも150台レベルと発表されていて、中国勢の30分の1程度にとどまると佐野さんは説明します。
上の数字のとおり、現時点では中国が圧倒しています。ただし佐野さんは、Figure AIが2026年4月時点で年間1万2000台という規模も見えてきており、少しずつ中国に追いつきつつあるとも補足しています。
出荷ランキングのトップ5のうち4社が中国企業で、AgiBot、Unitree Robotics、UBTechなどが上位を占めています。ここが「中国が世界市場を圧倒している」と言われる背景の一つです。
なぜ中国だけが突出するのか。20兆円の国家戦略と高齢化
樋口さんの「なぜ中国だけこんなにすごいのか」という問いに、佐野さんは国家戦略になっていることが一番大きいと答えます。投資規模は1兆元、日本円で約20兆円とされています。
佐野さんによると、3月12日に北京の人民大会堂で第十五次五カ年計画 ── 中国政府が5年ごとに定める国家の経済・社会発展計画の第15期。重点産業や投資の方向性が示され、産業界への影響が大きい計画ですが正式に採択され、その中でヒューマノイドが中核の位置づけになりました。国家系のベンチャーキャピタルファンドを設立し、2030年までに製造業向けロボットを大量に作る計画が立てられたといいます。
中国がヒューマノイドに力を入れる背景には、人口動態の問題があります。佐野さんは、中国の60歳以上の人口が2035年には4億人を超えると紹介しました。
アメリカの総人口って約3.4億人って言われてるんで、アメリカ人全員が中国の高齢者になるみたいな状況らしいんで。
中国では日本よりも激しい少子高齢化が進み、働き手不足が日本とは比べものにならない規模で起きます。ヒューマノイドを入れなければ国が成り立たないという危機感が、国家戦略化の背景にあると考えられます。
目標設定も大胆で、中国は2027年までに世界のヒューマノイド製造で覇権を握る目標を掲げているそうです。佐野さんは「中国はやると決めたらやる」という印象を挙げ、補助金、税制優遇、VC、研究所といったあらゆる手段が動員されていると説明します。
中国では購入者向けの補助金も出始め、ヒューマノイドが買いやすくなっています。さらにロボット訓練センターが稼働し、そこで集めた訓練データを国が生成して産業界に供給する、という発想も生まれ始めているといいます。
人口動態の危機
2035年に60歳以上が4億人超、働き手が大きく不足
国家戦略化
第十五次五カ年計画でヒューマノイドが中核に、約20兆円を投資
総動員体制
補助金・税制優遇・VC・研究所・ロボット訓練センター
量産と普及
購入者補助金で買いやすくなり、訓練データも国が供給
(中国のような至れり尽くせりの環境は)もう日本はこれは無理だなって感じですよね。
天才エンジニアと「倒産しにくい」投資の仕組み
樋口さんは、今の中国でスタートアップを作るなら、まずロボットを考えるだろうと指摘します。大きく市場が動く方に乗るという起業の鉄則でいえば、多くの起業家がロボットに参入するはずだという見立てです。
佐野さんは、中国では幼少期からの教育も整っていて、天才エンジニアが多いと話します。AgiBotは共同創業者のCTOたちが天才と言われ、模倣学習・強化学習・世界モデル ── AIが周囲の環境の仕組みを内部で模擬し、行動の結果を予測できるようにする考え方。ロボットが現実世界で動くための技術として注目されていますを組み合わせて、作業成功率を99.9%まで引き上げたといいます。
ほかにも、前回紹介したようにロボットオタクが率いるUnitree Robotics、世界初の上場ヒューマノイド企業として成長するUBTech、さらにGalbotやFourier Intelligenceなど、多くの企業が生まれ続けています。
中国には150〜200社ほどのヒューマノイド企業があり、すべてが成功するわけではありません。それでもVCが資金を入れられる理由について、佐野さんは合併で買い取られる可能性が高く、倒産にはなりにくいからだと説明します。
倒産することそんなにない。人は買われるじゃないですか。だから究極、エンジニアとしての価値はずっとついてるはずなんで。
佐野さんによれば、評価額が下がることはあっても、合併を重ねて分散投資していけば、どこかが世界的に売れていきます。中国製ロボットが世界で買われれば外貨も稼げるため、投資モデルとしては最強だと佐野さんは評しています。
中国の工場ではヒューマノイドがどう働いているのか
佐野さんは、中国の現場での実装事例も紹介します。電池工場ではGalbotの「S1」が、重い電池部品の搬送や組み立て作業を担っています。
8時間のシフトが終わると、自分でバッテリー交換して次のシフトに入る自律性を持たせることができるんで、自分で交代できるっていうのがめっちゃ強いかなと思ってて。
Galbot S1のように自分でバッテリーを交換できれば、工場を24時間止めずに動かせます。樋口さんも、交換シフト制のような運用がすでに実装されていることに驚いていました。
AgiBotは半導体工場で稼働し、1ミリ未満の精度で作業できる点が強みとされています。またiPhoneの組み立てで知られる鴻海は、Unitree RoboticsやAgiBotのヒューマノイドを大量に導入し始めているといいます。
中国製ヒューマノイドは海外にも広がっています。佐野さんによると、Airbus社がUBTechのヒューマノイドを購入し、航空機の製造現場で試験運用しているそうです。
汎用型かタスク特化型か。中国メーカーの現場直結戦略
中国製ヒューマノイドがすでに実務で使われている背景として、佐野さんは中国メーカーの戦略を挙げます。それは、特定のタスクに特化してスキルを覚えさせる「タスク特化型のVLA ── Vision-Language-Actionの略。カメラで見た情報を言語で理解し、ロボットの動作に落とし込むAIモデルの総称です」を重視するやり方です。
佐野さんによると、アメリカのFigure AIなどは、幅広い業務で使える1つの汎用的な「脳みそ」を作り込む研究に投資する傾向があります。一方でGalbotやAgiBotは、小売りでのピッキングのような1つのタスクの動作をひたすら学習させ、1つのスキルとして公開していくといいます。
幅広い業務で使える1つの汎用的な脳を作り込むことに研究投資する
ピッキングなど1つのタスクの動作を学習させ、実業務単位で使えることを優先する
佐野さんは、このタスク特化の結果として、中国製ヒューマノイドがすでにいろいろな現場で使われていると説明します。樋口さんは、現時点ではタスクが1つできるだけでも十分に価値が出せるのだと受け止めました。
汎用型かタスク特化型かみたいなところの違いがあって、中国は結構タスク特化型を作り勝ちってところはありますね。傾向として。
「世界の工場」が蓄えた産業ロボット・ドローン・EVの技術
横山さんは、中国がリードする背景として、世界の工場としてさまざまなものを作ってきたサプライチェーンとハードウェア技術の蓄積を挙げます。腕型の産業用ロボットでは、日本のファナックや安川を含む日本・ドイツの「四強」が強いとされますが、中国も引けを取らないといいます。
2024年の世界の産業用ロボットの導入台数が54.2万台あるんですけど、そのうちの54%、29.5万台が中国のものだって言ったところが。
横山さんによると、産業用ロボットで培った姿勢制御などの技術が、ヒューマノイドにも流用されています。
さらに横山さんは、中国がドローン、EV、スマホを国策として進めてきたことも大きいと話します。ドローン開発では安価で高精度なモーターの技術が蓄積され、複数機を衝突させずに飛ばすための自己位置推定やマッピングの技術も育ってきました。
| 分野 | 蓄積された技術 | ヒューマノイドへの活かし方 |
|---|---|---|
| 産業用ロボット | 姿勢の制御など(2024年の導入の54%が中国) | 動作制御の技術をそのまま流用 |
| ドローン | 安価で高精度なモーター、自己位置推定、マッピング、群制御 | モーターと制御アルゴリズムのノウハウを転用 |
| EV | 電池を自国で作れる体制 | すぐに電池を調達してヒューマノイドを試せる |
樋口さんが中国のドローンショーを話題にすると、横山さんは何百機が交差しながら光を描く制御アルゴリズムやモーター技術が、ヒューマノイドのベースとして生きていると応じました。
EVの電池について横山さんは、ヒューマノイドが1日働くにはまだ容量が足りない発展途上の段階だとしつつ、自国で電池を調達してすぐ試せる点は強みだと説明します。BYDのように、EVメーカーがヒューマノイドに参入する例も多いといいます。
やっぱり普及の鍵を握るのはバッテリーの寿命というか、どのくらい稼働できるかみたいなところは結構変数として大きいかなと思いますね。
樋口さんは、EVの充電スタンドとヒューマノイドの普及は同じインフラでつながる可能性があると指摘します。横山さんも、出先でヒューマノイドがどう充電するかが社会インフラとして重要になると同意しました。
見えにくい中国のAI研究力とオープンソース文化
横山さんは、ヒューマノイドやフィジカルAIの「脳みそ」を担うAI研究者の質と量も、中国の強みだと話します。AI分野の論文発表数では、2017年以降、中国がアメリカを抜いて世界1位だといいます。
横山さんによると、清華大学、北京大学、上海交通大学などは世界トップ10のAI研究機関に常にランクインしています。そこで育った強化学習のノウハウや天才的な技術者が、ヒューマノイド業界の発展を支えているそうです。
僕ら日本人が日常的に触ってるのって、ChatGPT系ですよね。で、Claude、Gemini、で、Grokじゃないですか。
樋口さんは、日本で日常的に使われる生成AIはほぼアメリカ発で、中国勢はDeepSeek ── 中国のAI企業、またはその企業が開発した大規模言語モデル。モデルの重みを公開するオープンウェイト型で知られますがその後に続く程度だと感じていたため、中国の論文数の多さを意外だと受け止めます。横山さんは、DeepSeekのようなオープンウェイト系で中国の研究成果が使われているのではないかと推測しています。
横山さんは、中国在住の人から聞いた話として、技術をシェアする文化も紹介します。ヒューマノイド関連で誰かが新しい技術を見つけるとすぐオープンソースで公開され、子どもや高校生が気軽に使って遊ぶうちに次の技術が生まれ、それがまた公開されていくといいます。
この循環が国外にまで及ぶのかという樋口さんの問いに、佐野さんは、聞いた範囲では深センの中で起きている話で、海外までシェアしているかはわからないと答えました。
いやー、(技術が中国の)中だけで培養されて、気づいたらものすごい育ってること、外の世界を知らないみたいな。
満足度23%、黒字化は1社のみという影の部分
佐野さんは冒頭で予告した影の部分として、中国のヒューマノイドを導入したユーザーのうち満足しているのは23%にとどまるという数字を紹介します。
佐野さんの説明では、ヒューマノイドはまだ産業用として活用しきれず、使えない場面も多いのが現状です。研究用途がメインで、実際の現場では活用しきれていないことが、この満足度に表れているといいます。
収益面でも課題があります。黒字化しているのはUnitree Roboticsだけで、UBTechは上場済みながらヒューマノイド事業単体では赤字、AgiBotも未上場で赤字の段階だと佐野さんは説明します。
ただし佐野さんは、この数字を悲観的には捉えていません。中国にはまず作って出し、すぐ実用で試すマインドがあるため、むしろ23%まで来ていることがすごいと話します。
なんか作って試す速度が速い企業の方が、まあなんかスタートアップ的には伸びやすいと思うんですよね。
佐野さんは、健全に進めようとしているのはアメリカの企業だとしつつ、どちらがよいかはまだわからないとしています。中国の技術がオープンソース化されていることで、他国がそれを研究題材に使い、逆手に取る可能性もあり、そこが今後の注目点だといいます。
作る側か、データを集める側か。ビジネスモデルの行方
佐野さんは、中国でもアメリカでも、ヒューマノイドのビジネスモデルがどうなっていくのかはまだ見えないと話します。Play Roboticsとしても、作る側か、データを集める側か、ノウハウを売る側か、どこに一番の市場や伸びがあるのかに注目したいといいます。
まあどうせ全部来るだろうが、どの順番で来るかによって、初手でどこが勝つかが決まり、で、勝ったところがさらに伸ばすみたいなことが起きるから、マジでわかんないですね、これ。
佐野さんは、作れなくても儲かる企業が覇権を握り、儲かってから自社開発で内製化に乗り出すといった逆転現象も起こりうると見ています。最近は「何の株がいいのか」とよく聞かれるそうで、ヒューマノイドは株の話にもなっていきそうだと話して、この回は締めくくられました。
まとめ
中国のヒューマノイド産業は、深刻な高齢化への危機感を背景に、約20兆円規模の国家投資と総動員体制で急伸しています。産業用ロボットやドローン、EVで培った技術、豊富なAI研究者、タスク特化の現場直結戦略が強みになる一方、ユーザー満足度23%や黒字化1社という課題も残っています。
- 2025年の中国の出荷台数は1万3000〜1万6000台とされ、Tesla OptimusやFigure AIなどアメリカ勢の約30分の1を大きく引き離している
- 2035年に60歳以上が4億人を超える人口動態が、ヒューマノイドを国家中核戦略に押し上げた
- 中国メーカーは汎用の脳よりも、1つのタスクを実業務で使えるようにする特化型を優先している
- 産業用ロボット、ドローン、EVで蓄積された技術やオープンソース文化が開発スピードを支えている
- 満足度や収益性の課題をどう捉えるか、どのビジネスモデルが勝つかはまだ見えず、逆転現象も起こりうる


