技術ニュース1位とLINEオープンチャット開設
「ヒューマノイド最前線」は、ヒューマノイドのいる職場を当たり前にすることを目指す株式会社Play Roboticsの2人と、樋口 聖典さんが届ける番組です。今回は第5回で、4本撮りの後、久しぶりの収録になったと話されています。
収録の間の出来事として、まず番組がApple Podcastランキングの技術ニュースジャンルで1位を取ったことが報告されました。樋口さんは「完全に売れましたね」とおどけつつも、ランキングは変動するので引き続き応援してほしいと呼びかけます。
フォローが効くらしいんですよ。
樋口さんによれば、聴取に加えてフォローがポイントのように加算され、ランキングが上がるほど新しいリスナーの目に留まるといいます。SpotifyとApple Podcast、さらにYouTubeでのフォローも呼びかけられました。佐野さんはYouTubeやPodcastのコメント欄にもすべて目を通しているとして、扱ってほしいテーマの書き込みを募っています。
もう1つのお知らせは、LINEオープンチャットで誰でも入れるリスナーコミュニティができたことです。本編ではまだ正式に告知していなかったにもかかわらず、概要欄から見つけた人がすでに40人ほど参加していると紹介されました。
知ってる人だけたどり着ける秘密の場所みたいになってましたよね。
工場の自動化は、どんな順番で進んできたのか?
今回のテーマは、佐野さんが提示した「ヒューマノイド普及で消える仕事、もしくは生まれる仕事は何だろう」です。樋口さんは、AIの登場以来「仕事が奪われるのか、楽になって豊かになるのか」という議論がSNS上で延々と続いていると前置きします。
佐野さんは今回「斜め上からっぽいやつ」を用意したと明かし、先に横山さんに王道の見方を話してもらうことにしました。互いの台本は読んでいない、ぶっつけ本番の構成です。
もうなんか究極全部なくなるんじゃないかなとは思ってはいるんですけど。
横山さんは、最終的にはすべての仕事がなくなりうるとしつつ、そこには順番があると話します。根拠として挙げたのが、生産現場の自動化であるファクトリーオートメーション ── 工場の生産工程を機械やロボット、制御システムで自動化すること。FAと略され、横山さんは前職のオムロンでこの領域のロボットシステムや安全装置の開発に携わっていましたの歴史です。
横山さんの整理では、自動化は人のいない単純作業から始まり、徐々に人のいる空間へ広がってきました。その流れを並べると次のようになります。
横山さんによると、Amazonの倉庫ではすでに人間と同じ数、100万台ほどのロボットが動いているといいます。これがヒューマノイドになって柔軟性を得れば、工場のような特定の空間に限られていた自動化が様々な領域に広がる、と横山さんは見ています。
オフィスで人間がやっている簡単な繰り返し作業から少しずつ入り、ヒューマノイドが精密な動作を身につけるにつれて単純な業務は代替されていく。横山さんの話の流れでは、それは「普通に想像できる範囲」だとされています。
ルンバとヒューマノイドは同じ技術?負荷の高い現場から変わる理由
樋口さんがAmazonの倉庫の映像に驚いた話から、ルンバも同じ流れにあるのかという問いが出ます。返ってきた答えは、ヒューマノイドとルンバは同じ技術を使っているというものでした。
その技術がSLAM ── ロボットが周囲の環境の地図を作りながら、同時に自分の位置を推定する技術。掃除ロボットや自動運転、ドローンなどで広く使われていますです。赤外線レーザーの反射で周りのどこに物体があるかを把握し、ルンバは部屋の形やどこまで掃除すべきかを認識して動いていると説明されました。ヒューマノイドも同じ仕組みで、オフィスの空間や人の位置を認識できるといいます。
樋口さんが「風や天気の影響が少なく、物の位置が固定された屋内ほど置き換わりやすいのか」と尋ねると、話は導入スピードを決める要因へ移ります。答えは、心身の負荷の大きさによって入ってくる場所のスピードが変わるのではないか、というものでした。
例として挙がったのが介護現場です。腰への負担など人体への影響が大きい仕事ほど、ロボットで楽にしようとする動きが進んでいると紹介されました。
日本では北九州の介護施設で、入浴ケアや、介護が必要な方の状況の記録、配膳、掃除などにロボットが入っています。それによって人間の業務時間が35%短縮した事例も出てきているそうです。
樋口さんは、今大変なところほど先にイノベーションが起こるのは、歴史を見ても面白い現象だと応じます。AI導入のコンサルの経験からも、忙しすぎて手が回らない人ほどAIエージェントで楽をしようと考え、使いこなしが上手くなっていくという話が続きました。
なんか逆転する可能性がありますね。今ピンチの業界ほどチャンスみたいなね。
お皿洗いの動画で月10万円?ロボットを育てる新しい仕事
続いて佐野さんが用意した「斜め上」の視点は、1つの質問から始まりました。自宅でお皿を洗っている動画を撮るだけで、月10万円ほど稼げる仕事があるのを知っているか、というものです。
え、どういうこと?え?ちょっと待って、僕が?僕がお皿を洗うだけで?
佐野さんによると、頭にカメラを付けて家事をし、その映像を業者に送る仕事がアメリカなどにあり、日本円換算で時給3000円ほどが支払われているそうです。樋口さんはすぐタイミーで探したいと乗り気でしたが、日本にはまだないとのことでした。
この仕事の目的は、ヒューマノイドの学習に使う教師データ ── 機械学習でAIに正解の例として与えるデータ。ロボットの場合、人間が実際に作業する様子の映像や動きの記録などが使われますを集めることです。佐野さんは、機械学習のシミュレーションも大事だが、人間の目線で起きていることを撮り続けたデータがとても重要になると話します。
佐野さんの見解では、教師データを作る仕事がすでに生まれている以上、直近5年、10年は仕事が奪われるよりロボットを育てる仕事が増えるという現象がまず起きるといいます。
佐野さんはモルガン・スタンレーの「アメリカの職業の75%、労働者の40%がヒューマノイドに置き換わる可能性がある」という見立ても紹介します。そのうえで、この数字は「仕事」をどの粒度で見るかの違いではないかと問いかけました。
介護を例にとると、介護という仕事がまるごと消えるわけではありません。佐野さんは介護を分解すると、性質の違う6、7個の仕事が見えてくると説明します。
分解する
車椅子への移動や乗り降りの補助、食事の補助、薬の管理、話し相手、家族からの電話対応など
一部から代替
まずは車椅子の移動補助のような1、2個の作業から入る
いずれ広がる
将来的にはコミュニケーションの相手にもなっていく
加えて佐野さんは、ヒューマノイドは壊れやすいという技術的な課題も挙げます。特に手は関節の数が圧倒的に多く、指が1本増えるごとに壊れる確率が上がるため、いずれ仕事はなくなるとしても5年、10年は大丈夫ではないか、というのが佐野さんの見解です。
樋口さんが「現場の仕事は減るが、ロボット関係の仕事が増えて、総量は増えるのか」と確かめると、佐野さんは「一時的には増える」と答えました。
さらに佐野さんは、きつい・汚い・危険のいわゆる三K ── 「きつい」「汚い」「危険」の頭文字を取った言葉。労働環境が厳しく、人が集まりにくい仕事を指して使われますの仕事は、すぐに消えていくと見ています。人間がやりたくなかった仕事をロボットが引き受けるという見方です。
具体例は工場の暑さです。佐野さんによると、工場は熱がこもるため開けておく必要があり、冷房をつけてもなかなか冷えなかったり、逆に冷えすぎたりと、熱中症の心配も含めて大変な環境だといいます。
樋口さんは、介護施設で1日20人必要だった人員が18人、17人と減るような変化は局地的に起きるだろうと話します。重い物や人を運ぶために男手が必要だった役割がいらなくなれば、コストカットで人が減ることもありうる、という見立てです。
ヒューマノイドは仕事を奪う存在か、地方の中小企業を救う存在か
ヒューマノイドの導入で人員が減る一方、佐野さんは人の配置を考えるHR領域の役割が変わっていくと考えています。ここは人間が必要だからこの人の才能を生かして配置し、それ以外にはヒューマノイドをどう置くか、という組織設計が求められるという話です。
組織開発と人材配置を専門にしてきた佐野さんは、自身もそこのプロフェッショナルになりたいと話します。ロボットが入った瞬間に、エンゲージメントややりがい、心理的安全性がどう変わるのかが一番気になり、その変化の数字を追いたいといいます。
佐野さんがもう1つ、ヒューマノイドが助け舟になりそうだと挙げたのが地方の人材不足です。特に地方の中小製造業は、採用が非常に難しいと話されています。
佐野さんは先日、ある県の製造業の会社から人材不足の相談を受け、人材紹介会社の知人2、3社に聞いてみたそうです。BIZREACHで条件に合う求職者を調べたところ、0.5%しかおらず、対応できないと言われてしまったといいます。
しかもその企業は数十人規模の人材を求めていました。佐野さんは、こうなると中小企業は「ヒューマノイドを入れて延命するか、廃業するか」の選択を迫られると話します。
樋口さんも、人事関係の仕事をする人との対談で、10年後、20年後の労働人口の減少が想像の10倍ほど深刻だと聞いて驚いた経験を語ります。それなのに、世間はそこまで危機感を持っていないように感じるといいます。
樋口さんは、地方の製造業から人手不足が迫っている状況は一見怖いものの、「大変なところほど先にイノベーションが起こる」という先ほどの話に照らせば、日本、特に地方にとってはチャンスだと捉えます。佐野さんも「超チャンス」と応じました。
佐野さんは、地方の製造業には橋のようなインフラを作る企業もあり、橋を作る企業は日本に数社しかないと紹介します。そこに人が行かなければインフラが整わなくなるほか、公共の建物の塗装も人が足りないといい、こうした危険な仕事ではフィギュアAIやドローンが活躍するかもしれないと話しました。
人間の不完全さが必要になる仕事とは?竹とんぼ教室の話
消える仕事のイメージがついたところで、樋口さんは「では残る仕事は何か」と問いかけます。佐野さんは、よく言われる「責任を取る仕事」とは別に、人間の不完全性に依存する部分を挙げました。
佐野さんによれば、ロボットは完璧に動けてしまうため、ロボットとだけ関わっていると、世話を焼くのが好きな人や人を助けることに生きがいを感じる人の居場所がなくなり、自己肯定感が下がるのではないかといいます。だからこそ、わざわざ人間同士で助け合う仕事が一定残るのではないか、という見方です。
これはある気がする。いや、なんか地元とかでたまに竹とんぼ教室とかを地元のおじいちゃんとかが子供向けにやってるんですよ。
樋口さんは、竹とんぼ自体はおそらく機械でも作れるとしたうえで、竹とんぼ教室の価値はお互いの体験にあると話します。おじいちゃんが地域で役割を持ち、子どもたちは地域のおじいちゃんから教わる。その場がロボットの先生になれば、いろいろ変わってくるといいます。
佐野さんは、文化の完璧な保存はヒューマノイドが体験しながら学習することで可能になり、人間は文化の担い手という役割からは解放されるだろうと話します。それでも、不完全でも人から教わるぬくもりを感じたい人は一定数いるはずだといいます。
一緒に失敗することもあるだろうけど、なんかちょっといびつになっちゃうかも。だけど一緒に竹とんぼ作るみたいなところの体験性っていうのは残るような気がしますね。
一方で樋口さんは、そうした仕事は限られた場面かもしれないとも付け加えます。株式会社の感覚ではコスパや費用対効果の数字でいろいろなことが決まってしまうため、そこで何が残るのかは考えどころだといいます。
責任とマジョリティの問題、ロボットがCEOになる日は来るのか
佐野さんは、人間の感情に関わる仕事に加えて、残る仕事の観点をさらに2つ挙げます。1つ目は、責任を取れるかどうかの問題です。
佐野さんは、医者の仕事はかなり代替できるとしても「責任をどう取るのか」という問題が残ると話します。おそらく機械を導入した病院が責任を取ることになるものの、こうした責任の絡む仕事はまだ残るだろうという見立てです。
2つ目は、マイノリティとマジョリティの問題です。佐野さんは、ロボットがマジョリティになればすべてがロボットに変わり、人間がマジョリティのうちは大丈夫だとして、それは人間がどれだけ守りたいかの問題だと話します。
佐野さんは、ロボットの数が増えるより前に、ロボットがCEOを務める会社がまず生まれ始めると予想しています。その後の展開を、佐野さんは次のように描きました。
ロボットCEOの誕生
ロボットがCEOの会社が生まれ、ロボットが権力者になる
採用の判断
ロボットが、人を雇うかロボットを雇うかを判断し始める
ロボットのマジョリティ化
ロボットがロボットを雇う方がいいと判断すれば、ロボットが多数派の仕事が増える
転換期
その時点で、ほぼすべての仕事が残らなくなる可能性がある
佐野さんは「この前の妄想回みたいになってきましたけど」と笑いつつ、ずっとこう考えてきたと話します。
樋口さんが「業界によって違うのでは」と返すと、佐野さんは業界差はあっても、どこかで事例が増え始めればいずれマジョリティになると答えます。ガラケーを使う人がいなくなったように、より便利ならそちらを使うようになるという理屈です。
コンビニとヴィンテージギター、人に対応してほしい買い物の違い
樋口さんは、身近な例として小売店のレジ打ちや接客の仕事を挙げます。コンビニなら温かく対応してくれる店員がいても、セルフレジが空いていればそちらに行き、温かみより速さを求めてしまうといいます。
一方で、メダカ屋さんにメダカを買いに行くときは、聞きたいことがあるので人に対応してほしくなると樋口さんは話します。店の種類や業界のテイストによって、ロボットに任せられる度合いが変わるという見方です。
佐野さんも、普段はとにかく人と話したくないタイプで、無人のレジで買える店やタッチパネルで注文できる牛丼屋にしか行かないと明かします。それでも、ヴィンテージギターや家のような高級なものを買うときは事情が違うといいます。
セルフレジやタッチパネルで十分。温かみより速さと効率性を求める
聞きたいことがあり、専門の人と話しながら一緒に選びたい
ヴィンテージギター買いたいとか、家買いたいってなったら、なんかその専門の本当にギターを愛してる人と何か話した上で一緒に買っていきたいなっていうところはありますよね。
樋口さんは、ペットを人を介さずに買うことにはまだ抵抗があるものの、時代が進めばその感覚もアップデートされるかもしれないとして、「順番かもしれない」と話します。
佐野さんは、それは順番であると同時に文化の変容に近いと応じます。ロボット文化の強い国が1つか2つ生まれれば、それが継承されたり真似されたりして一般化していき、何十年、何百年かけて変わっていくだろうという見立てです。
最後に樋口さんは、仕事がなくなった世界が人間にとって幸福か不幸かという別の軸もあると提起します。「暇になって遊べる」のか「お金が稼げず貧困になる」のかはまた別の話として、今後掘り下げたいテーマに残されました。
まとめ
今回の「ヒューマノイド最前線」では、ヒューマノイドによって最終的には多くの仕事がなくなりうるとしつつ、その変化には順番があることが語られました。工場の単純作業から始まった自動化は、介護のような負荷の高い現場へ広がり、当面はロボットを育てる仕事や人の配置を考える仕事が生まれます。人手不足の地方の中小企業にとっては救いになる一方、人間の不完全さや責任、文化に根ざした仕事が残るかどうかは、人間がどれだけ守りたいかにもかかっていそうです。
- 自動化は1960年代の工場の単純作業から、人のいる空間での協働へと段階的に広がってきた
- 介護では業務時間35%短縮の事例があり、負荷の高い現場ほど導入が早く進む
- 直近5〜10年は、教師データ作りなどロボットを育てる仕事がむしろ増えると佐野さんは見ている
- 採用が難しい地方の中小製造業にとって、ヒューマノイドは延命の手段になりうる
- 不完全さを伴う人同士の体験や責任を取る仕事は残る一方、ロボットがマジョリティになれば状況は一変しうる





