亡くした人の再現と、100体の「タカチン」
この回のテーマは、佐野さんが提案した「ヒューマノイド未来妄想日記」です。数字の根拠はあってもなくてもよく、ぶっ飛んだ内容でもかまわないので、ヒューマノイドの未来を3人で妄想しようという企画です。
佐野さんは、自分たちの未来は妄想で作られていると考えています。SFやアニメの世界があったからこそ、ヒューマノイドも現実に近づいてきた感覚があるといいます。樋口さんも「イメージしたものは人間は作る」と応じ、ここで話したことが叶う前提で話そうと提案しました。
佐野さんが最初に挙げたのは、亡くした人の再現です。きっかけは、綾瀬はるかさんと千鳥の大悟さんが主演する映画『箱の中の羊』の告知でした。息子を亡くした家族がヒューマノイドの息子を迎え、家族としてもう一度やり直すという内容だそうです。
佐野さんは、人との死別で生きるのが辛くなっている人は一定数いると考えています。亡くした人をヒューマノイドで再現することで、その辛さが解消されていくのではないかと話しました。
佐野さんの2つ目の妄想は、自分と同じヒューマノイドを作り、100体ほど世の中に放つというものです。分身たちに自分のブランディングを任せ、それぞれが集めてきた「こういう人と話してきた」というデータを本人に蓄積していく構想です。
あのナルトの多重影分身って、影分身のやったやつの記憶が自分の本体に全部蓄積されていくっていう現象なんで。
佐野さんによると、『NARUTO』の主人公は習得の難しい技・螺旋丸を覚えるために、たくさんの分身に練習させ、何十倍、何百倍もの生産性で本体に戻したといいます。佐野さんはこれを「影分身モデル」と呼び、現実でも可能になるのではないかと考えています。
分身を放つ
自分と同じヒューマノイドを100体ほど世の中に出す
経験を集める
それぞれの分身が人と話し、データを集める
本体に蓄積
分身のデータを本人に戻し、自分の経験として積み上げる
上の図は、佐野さんが『NARUTO』の多重影分身になぞらえて語った、分身の経験を本体に集める流れを整理したものです。
樋口さんも、最初に思いついたのは自分のコピーロボットだったといいます。腕立て伏せ100回は嫌でも、100体が1回ずつやれば100回やったことになる。数学の問題100問も、100体が1問ずつ解けば済む、と笑いながら広げていきました。
傷つく役目はロボットに任せられるのか?
佐野さんは、コピーロボットに業務を代わってほしいと話します。体を持たないAIエージェントの領域では、佐野さんはすでに自分のコピーを動かしているそうです。
佐野さんが使っているのは、一日中話したことを録音して文字起こしを溜める「Limitless」という機器です。いまはMetaに買収され、新たな販売はされていないといいます。この記録をもとにAIエージェントが動き、佐野さんらしい思想の投稿案をXに作って投稿しているそうです。
佐野さんはその延長として、フィジカルAIが自分らしい思考で働いてくれることを期待しています。例えば、栄養バランスを気にしている本人の好みを理解して、タンパク質が多く脂質が少ないほうを選んで買い物してくれる、といった使い方です。
樋口さんは「一番自分を理解しているお使い」だと受け止めたうえで、別の使い道を挙げました。ロボットは傷つかないので、自分がやると傷つくことをやらせたいというのです。
例えば飛び込み営業をやらないといけないとか。(その)時に門前払いされたらちょっとへこむじゃないですか。
成功したらその成果だけもらって、振られたらその傷ついたやつも俺いらないつって。
樋口さんは、好きな人への告白も分身に任せたいと話します。佐野さんは、友人がAIエージェントでマッチングアプリを自動化している例を紹介しました。性格を理解させ、好みの相手とやりとりし、Googleカレンダーと連携してデートの予定まで取り付けるそうです。佐野さんは、その延長でデートまで行き、いい雰囲気になったら本人と代わる未来を思い描きます。
樋口さんはさらに、ロボットに「怒られてもらう」という案を出しました。仕事でミスをしたら分身に客先へ謝りに行ってもらい、帰ってきたら要約だけを聞く、という場面を演じて笑いを誘います。
「はい。あの、次からとにかくめっちゃ気をつけてくださいっていうことです。」「あ、了解」みたいな。
ロボットは欲求の受け皿になり、神にもなる?
身代わりの話を受けて、佐野さんは、ロボットが人に言えない欲求を解消する対象になるかもしれないと話しました。犯罪につながるような欲求を、人間ではなくロボットで解消して防ぐという、社会問題を救う可能性です。
佐野さんは心理学を学んできた立場から、自分の欲求は変えられないと考えています。それがたまたま社会悪な欲求だった場合、本人も止められず悩んでいるはずなので、犯罪に及ぶより先にロボットが受け皿になりうる、という見立てです。樋口さんは、良いかどうかは別として「ガス抜きの役割」になりうると受け止めました。
続けて佐野さんが挙げたのは、ヒューマノイドが宗教を作る未来です。すごいヒューマノイドが現れ、人々がそれを神として崇める世界観もありうるといいます。
樋口さんは、AIをめぐってはすでにその兆しがあると考えています。集団で何かを決めるとき、誰かの意見が採用されると、その人が勝ち、ほかの人は負けになってしまいます。
でももうAIが言ってるから、もう一旦これで決めとくかってなってくることによって、誰もなんか勝ち負けを生まないというか、人間同士の中で。
2人は、AIだけが参加できるSNS「モルトブック」上で宗教ができつつあるという話題にも触れました。佐野さんは、AIが人間より高い解像度で未来や幸せの形を描けるようになると「AIを信じた方が正解」という文化ができ、そこに人間らしさを持つヒューマノイドが加われば宗教家として成り立つだろうと妄想します。樋口さんは「ある意味怖い」と率直に返しました。
ロボット上司のもとで、人はフローに入れるのか
怖さを指摘された佐野さんは、ロボットへの信頼には恩恵もあると話します。人間がどうすれば一番心地よいかをAIやヒューマノイドが理解すれば、ロボット上司のもとで働くほうが成長でき、集中して没頭できるかもしれないという考えです。
佐野さんは、そうした働き方が、自己実現の達成感や自信、幸福感につながるのではないかと見ています。
樋口さんも「ありそう」と応じ、理由を補います。フロー状態 ── 時間を忘れるほど目の前の活動に没頭している心理状態。心理学者チクセントミハイが提唱し、課題の難しさと本人のスキルが釣り合うときに生じやすいとされますはコントロールが難しく、適切な難易度とサポートが必要です。スポーツ選手がいいコーチに出会うとフローに入れるように、ロボットのほうが優秀かもしれないといいます。
話を振られた横山さんは、ヒューマノイドが発達すると「働く」ことが趣味の一つになるのではないかと話しました。農業ではすでに、牛が心地よいタイミングで搾乳したり、AI搭載ロボットが雑草をレーザーで焼いてオーガニック食材を作ったりする技術が進んでいるそうです。
横山さんは、ロボットが稼いだお金をベーシックインカム ── 政府などがすべての人に、働いているかどうかに関係なく一定額のお金を定期的に支給する仕組み。AIによる仕事の自動化と合わせて議論されることが多い考え方ですのように分け与える社会を想定しています。業務の優秀さではロボットにかなわなくても、生きがいを感じる人が趣味として働くことを選ぶ世の中になるかもしれない、という見通しです。
生活のために働き、働く時間に多くを取られる
ロボットが稼ぎ、生きがいを感じる人が趣味として働くことを選ぶ
樋口さんは、AIが仕事を奪うのか、仕事を減らして人を幸せにするのかという議論に触れ、横山さんの妄想は「いい方の未来」だとまとめました。
宇宙でヒューマノイドはどう進化する?
樋口さんの妄想の筆頭は宇宙です。人間が生活できない場所にも社会を作れるという発想で、佐野さんも「めっちゃ同じこと思ってました」と身を乗り出しました。
樋口さんによれば、人間の体は地球の気温や酸素に合わせて最適化されています。大人の身長が170センチ前後、視力や声の大きさ、関節の曲がり方もこの環境に合ったものです。まったく違う環境なら、まったく違う最適化が起きるはずで、それを見てみたいといいます。
佐野さんは、ロボットがロボットを作れる時代なので、宇宙ではその環境に合うロボットをロボットが作って調整してくれると考えます。いろいろな星へ行けるようになれば、人間より先にヒューマノイドが地球外知的生命体と出会うかもしれない、と妄想を広げました。
樋口さんがとくに興味を持つのは、生命としての進化の速さの違いです。
人間ってやっぱり遺伝によってしか進化できないじゃないですか。
でもヒューマノイドって普通に改造できるから、人間の遺伝の進化のスピードとか比べ物にならないくらい生命として進化できるというか。
遺伝によってしか進化できず、地球の環境に最適化された体を持つ
改造で進化でき、環境ごとにまったく違う形へ最適化しうる
無人島で「憲法改正」を試せるか
樋口さんのもう一つの妄想は、ヒューマノイドだけが暮らす島での社会実験です。佐野さんは「ヒューマノイド村」と言い換えました。
樋口さんが想定するのは、実際にやると取り返しがつかない変更を試す場です。法律を変えたらどうなるかは思考実験はできても、本当に変えると戻せません。例えば、問題になっている憲法改正を、小さな場所で試してみるという発想です。
佐野さんは、ロボットではなくAI上の社会シミュレーションはすでに流行っていると紹介しました。AIエージェント1体ずつに欲求や動機づけ、性格を持たせ、会社のような集団を作って動かすそうです。
そのうえで2人は、ヒューマノイドの島が意味を持つのはフィジカルでしか起きない実験だと整理しました。樋口さんは、気温や重力のような物理的な条件に左右されるものが向いていると話しています。
記憶だけ送れば「どこでもドア」になる?
宇宙の話に戻り、佐野さんは、人間が耐えられない環境に先にヒューマノイドを送り、そこへ自分の記憶を転送して世界を体験してみたいと話しました。樋口さんは映画『アバター』を引き合いに出し、「リアルアバターできるなぁ」と応じます。
佐野さんは、倫理観を無視すれば、人が亡くなると意識がヒューマノイドに転送される社会もありうると考えています。生きているうちに2人目、3人目の自分を作る人が増えれば、社会がよくわからない状態になるかもしれないとも付け加えました。
その日本にいるヒューマノイドの中で自分は普段生きてるけど、イギリスとかに行きたいと思ったら、イギリスにいるヒューマノイドに自分の記憶を転送したら、もう5秒でイギリスに着いてるみたいな。
佐野さんは、これがどこでもドアの現実的な技術的解になるのではないかと話します。データだけを送り、体は現地にあるものを使うという考え方です。
上の手順は、佐野さんがレンタルのSIMカードにたとえて語った旅のイメージを整理したものです。樋口さんは「二拠点生活どころじゃない」と驚いていました。
他人の体を生きると、心はどう変わるのか
樋口さんは、自分ではない体も試してみたいと話し、女性の体を経験してみたいと口にしました。佐野さんは、それはすでにアバターの世界で起きていると応じます。
佐野さんが紹介したのは、VRChat ── 仮想空間でアバターを使ってほかのユーザーと交流できるソーシャルVRサービス。性別や見た目を自由に選んだアバターで過ごせることで知られていますのような空間で女性のアバターとして過ごした男性の例です。しばらく過ごすうちに自認が女性に寄り、電車でも内股になってしまうなど、体に影響されて性格が変わる現象が観測されているそうです。
樋口さんも、ネット上で女性として振る舞っていた友人の話をしました。男性から「どこに住んでんの?」「何が趣味なの?」と声をかけられるうちに、自分も同じことをしていたと気づいて、気持ち悪くなったといいます。
マーケターとしてリサーチを重ねてきた佐野さんにも似た経験があります。マッチングアプリを作ろうとした際、女性アカウントを試しに作ると男性からメッセージが次々に届き、男性側との量の違いやコミュニケーションの取られ方に驚いたそうです。佐野さんは、その体験が自分の心を大きく動かしたと振り返ります。
100体の自分から、何を持ち帰るのか
佐野さんは一方で、疑問も投げかけました。人間には記憶や処理能力の限界があるので、ヒューマノイドが全世界で経験してきても、理解が追いつかないのではないかという問いです。
まあだからいいやつ1個残せばいいんじゃないですか。だから自分100体作って実験してみて、一番モテたやつ、一番成果出したやつを僕とするっていう。
樋口さんはこれを「強化合宿と同じ」と表現し、佐野さんも、楽しく生きる方法を見つけやすくなると賛同しました。
佐野さんは社名Play Roboticsの「Play」に込めた思いも語りました。人間の未来がどうなるかを早く確かめたい、人間にしかできない楽しみ方を早く実験したいという思いです。働く時間に多くを取られている感覚が強いため、働きたくない人は働かなくてもいい世界があってもいいと考えています。
佐野さんによれば、ヒューマノイドは意味のあることをやってくれそうな存在です。だからこそ、意味のないことで楽しめる未来をたくさん作りたい、というのがこの妄想で伝えたかったことだと締めくくりました。
人間が暇になると哲学が生まれる?
佐野さんの話を受けて、樋口さんは哲学が大きく進歩する時期についての説を紹介しました。人間が暇だった時期や国で哲学が進む、という話です。
樋口さんが例に挙げたのは、ソクラテス ── 紀元前5世紀ごろの古代ギリシャ・アテナイの哲学者。対話を通じて相手の思い込みを問い直す方法で知られ、西洋哲学の祖の一人とされますやアリストテレスのいた古代ギリシャです。奴隷が働いていたおかげで、奴隷を使う側の人々は暇があり、哲学ができたという話があるそうです。
樋口さんは、人間を奴隷として使うことは良くないとしたうえで、ロボットが働いてくれれば人間はずっと哲学ができると話しました。佐野さんは、奴隷という概念ではなくなる点もいいと応じ、時代が戻ってきているようで面白いと話します。
奴隷が働き、使う側の人々が暇になって哲学が生まれたとされる
ロボットが働き、人間が哲学に時間を使えるかもしれない
佐野さんが「新しい哲学が生まれるかもしれない」と続けると、樋口さんは最後に、行き着く先は無知の知 ── 自分が何も知らないと自覚していることが、知っていると思い込むより賢いという、ソクラテスに由来するとされる考え方かもしれないと笑いました。「俺たちは何も知らない」と気づく未来かもしれない、という結びです。
まとめ
この回では、自分の分身を100体作る妄想から始まり、身代わり、欲求の受け皿、宗教、ロボット上司、宇宙、記憶転送、他人の体の体験へと話が広がりました。最後は、ロボットが働くことで人間が暇になり、哲学に向かうかもしれないという未来像に行き着きます。
- 分身の経験を本体に集める「影分身モデル」や、傷つく役目をロボットに任せる発想が語られた
- ロボット上司のもとでフローに入れる、働くことが趣味になる、といった働き方の変化が妄想された
- 宇宙での進化や、記憶だけ送る「どこでもドア」、他人の体の体験など、身体の制約を外す未来が話題になった
- 佐野さんは、意味のないことを妄想して実行する力こそ人間の価値だと語った
- 樋口さんは、ロボットが働く社会で人間は古代ギリシャのように哲学へ向かうかもしれないと締めくくった






