ヒューマノイドが「新卒総合職」として内定?
毎月恒例のニュース回は、まずPlay Robotics自身の近況から始まりました。佐野さんによると、株式会社カクイチのグループ3社が、ヒューマノイドのUnitree G1を導入したといいます。
カクイチでのUnitree G1の導入方法は、少し変わっています。ロボットを設備として入れるのではなく、「新卒の総合職」として内定を出し、2027年4月に入社させるという形です。
え、え、ちょ、え、(ヒューマノイドが)就職したってこと?
ヒューマノイドが就職しました。厳密にはこれから就職する、来年の4月に向けて、その新卒を内定させて。
このUnitree G1には「宮澤ノア」という名前も付けられました。性別がないため「宮澤ノアさん」と呼び、入社式では他の新入社員と同じように椅子に座り、名前を呼ばれたら立つことを目指しているそうです。
樋口さんが履歴書の中身を尋ねると、学歴や資格はなし、出身は中国の深セン、生まれは2023年ごろだろうという答えが返ってきました。
伸びしろしかない新入社員ですね。
新卒総合職という形を選んだ理由について、佐野さんは「G1の能力はまだまだだから」と説明します。今から覚えられる業務を少しずつ覚えさせればよい、という考え方です。
ただ新卒ってほら、仕事できないじゃないですか、最初は絶対。研修していくじゃないですか。
で、2、3年経って一人前になっていくと思うんですけど、このUnitreeのロボットも宮澤ノアさんもですね、2、3年かけてゆっくりゆっくりちゃんと育てていって。
ロボットを育てるうちに、育てる側が育つ
カクイチの新卒ロボットの話を受けて、樋口さんは人間の新人教育との共通点を指摘しました。新卒を育てているようで、実はマネージャーの側が育っていく、という見方です。
教え方とか、「あ、これはこう言ったらわかんないけど、こういう言い方をすればわかるんだ」とか。
ということは、(カクイチの人たちは)ヒューマノイドを使う第一人者になり得ますね。
佐野さんも、カクイチのエンジニアは日本でトップクラスのエンジニアになっていくだろうと応じます。佐野さん自身が毎週、カクイチのエンジニアにフィジカルAI ── 現実の物理世界で、センサーで周囲を認識し、ロボットなどの体を通じて行動するAIの総称。画面の中だけで動く生成AIと対比して使われますの扱い方を基礎から教えているそうです。
宮澤ノアさんに業務を教え込む土台として、まず人間の側がフィジカルAIエンジニアとして育つ。その人たちが来年以降は自律的にロボットへ教え、社内に技術が蓄積されていく、という構想です。
エンジニア育成
佐野さんが毎週の講座でフィジカルAIの基礎を教える
入社
2027年4月、宮澤ノアさん(G1)が新卒総合職として入社
業務の教え込み
育ったエンジニアが自律的にロボットへ業務を教える
知見の蓄積
2〜3年かけてロボットと組織の双方に技術力がたまる
課題を大企業が出す「リバースピッチ」とは?
Play Roboticsのもう1つのニュースは、富士通、GMO AI&Roboticsとの共同ハッカソンです。テーマは「リバースピッチ ── 通常とは逆に、大企業などの課題を持つ側がプレゼンし、それに対して解決策を持つ人や企業が手を挙げる形式のピッチイベント」と呼ばれる手法だといいます。
このハッカソンでは、東急不動産とエバラ製作所が自社の課題をプレゼンし、それを解決したいエンジニアが手を挙げます。スタートアップが大企業に売り込む通常の形より、課題にフィットした解決策が生まれやすいというのが佐野さんの説明です。
あわせて、ハードルとなる機体費用の問題にも手を打っています。Unitree G1は700万円ほどするため、GMOに2台を長期で貸してもらい、無料で使えるようにしたそうです。
G1が置かれているのは、富士通のオフィスにあるVISというイノベーションのコミュニティです。そこで横山さんが講師となり、勉強会も開いています。
スタートアップが開発してから大企業に売り込む。不要と言われると高額な開発コストが無駄になる
大企業が先に課題を示し、エンジニアが解決を申し出る。G1も無料で触れる
佐野さんは、この座組がスタートアップにとってどれほどありがたいかを、自社のリスクに引き寄せて語っています。
僕らがやっぱり700万の機体買ってめっちゃ開発して、大企業に当てに行ったら「全然それいらないわ」って言われた瞬間、もう開発コスト超高いじゃないですか。
樋口さんは、自分も軽くコードを書いた経験から共感を示しました。書くのは楽しいのに作りたいものがない、という状態によく陥るといいます。
だから作る作業は好きなんだけど、目的がないから誰か課題くれよってずっと思っちゃってるみたいな。
参加者たちはすでに独自の試行錯誤を始めていて、Slackには毎日のように新しい動かし方が投稿されているそうです。ロボットアームで麻雀牌を置く取り組みまであり、都内の有名な場所でパフォーマンスを開催する企画も進んでいるといいます。
佐野さんは最後に、手持ちで持てる低価格の個人向けロボットも完成間近だと明かしました。首からぶら下げて、いつも近くにある状態を作りたいそうです。
ロボットがボルトより速く走った北京の運動会
世界のニュースの1本目は、北京で開かれた世界ヒューマノイドロボット運動会です。佐野さんは、ロボットがウサイン・ボルトより速く走ったというニュースとして紹介しました。
大会は北京の国立の会場で5日間にわたって開かれ、日本からもGMOが参加しました。参加機体はUnitree製が比較的多かったようです。
話題になったのは、400メートル小型部門で優勝した機体の独特な走り方です。腕を横に振りながら走る姿は、『進撃の巨人』の「奇行種」になぞらえられてバズりました。
あれすごいですよね。[強化学習]の結果獲得したモーションなんだと思うんですけど。
佐野さんによると、この走法は強化学習 ── 試行錯誤を繰り返し、うまくいった行動に報酬を与えることで、AIが自ら最適な振る舞いを学ぶ機械学習の手法の結果として生まれたものと考えられます。人間のアスリートの走り方をそのまま移植していたら、この結果は出なかっただろうという見立てです。
逆にこの横向きの動きをボルトに移植したら世界新記録が出るのでは、という議論も起きているそうです。佐野さんは、ヒューマノイドの開発が人類の能力を先へ進める希望が見える事例だと話しています。
人間の常識は「極大値」にすぎないのか?
ロボットの奇妙な走法を見て、樋口さんは囲碁AIが初手で盤の真ん中に打ったというニュースを思い出したといいます。人間なら絶対に打たない手だったそうです。
結構囲碁って端っこ、四隅から打つっていうのがもう定石で、四隅は打つでしょっていう、そもそも。
人類の囲碁は、四隅のどこからどう攻めるかを考える方向で進化してきました。ところが常識をいったん取り払ったら、真ん中に打つのが意外と良いと分かった、という話です。
樋口さんはこれを数学の言葉で表現します。人間の到達点は極大値であって、最大値ではないかもしれないという見方です。
人間の発想の周辺で磨かれた、アスリート的な走り方
常識を外した強化学習が生んだ、腕を横に振る走り方
速く走ることに意味はあるのか?市場を開くパフォーマンス
一方の佐野さんは、運動会のニュースをビジネスの観点から見ていました。正直、速く走れるかどうかは現場ではあまり意味がない、と前置きしたうえでの話です。
説明ゼロで、なんか一般人の方にバンってこう、ヒューマノイドのすごさをバンって出せるじゃないですか。
佐野さんによると、ロボット格闘技の大会でも日本人が優勝し、運動会では全力疾走で機体が割れて火花が散る場面もありました。Xで「AI生成では」と疑われるほど話題になったといいます。
僕らの業界からするとありがたい。もう市場が一気に何か開けたなって感じ。
樋口さんは将棋を例に、人間に勝ったかどうかが一番盛り上がると指摘しました。プロ棋士が負けたときに「AIすげえ」という評価に変わったように、「VS人間」は1つの転換点になるという見方です。
佐野さんも「ウサイン・ボルトより速く走った」は分かりやすく、記事を書く人にとってもパンチラインになると応じています。
はしご登りはなぜ難しい?Figure 03の挑戦
横山さんは、エンタメ寄りの話題に対して技術者目線のニュースを紹介しました。アメリカのFigureが、最新ヒューマノイドのFigure 03がはしごを登る動画を公開したというものです。
横山さんによると、はしご登りは地味に見えて高い技術力が必要です。通常の二足歩行なら両足の制御で済みますが、はしごでは両手両足の4点で体重を支え、登るときは3点に移り、足を替えるたびに別の重心の取り方が必要になります。
もう無意識に僕らやってますけど、体重移動とか腕まで使ってバランス取るとかって、めちゃくちゃ高度なことを人間って実はやってるんだなって。
樋口さんも、足を垂直に上げると段にぶつかるので一度引いてから突っ込む、といった動きに気づきます。横山さんは、普段の歩行ではやらないモーションのため、これまで知見が少なかったと補足しました。
横山さんがはしご登りを重視するのは、人間のインフラを変えずに作業できるようになるからです。工場や、電力会社が電柱に登る場面など、活用の幅が広がる事例だといいます。
ヒューマノイドがショベルカーを運転する時代
横山さんが関連して挙げたのは日本の事例です。安藤ハザマと神戸高専が共同で、ヒューマノイドに大型の油圧ショベルを操作させる研究を始めました。ショベルカーにUnitree G1が乗った画像も公開されているそうです。
横山さんによると、重機を操作・運転させることに注力した事例は、これまであまり出てきませんでした。人間のインフラを崩さずに自動化できれば、市場として大きなビジネスチャンスになるという見方です。
作業する機械そのものをロボットにする(車型ロボットなど)
既存の重機や車にヒューマノイドを乗せて操作させる
そうか、ロボット乗せたらいいんですよね。確かに。
樋口さんは、ロボットの中にさらに小さなロボットを乗せる「マトリョーシカ」構想まで飛ばして盛り上がりました。
ただし課題もあります。レバーの微妙な力加減に加え、運転にはリアルタイムで周囲を認識して避ける力が要り、ロボット自身の体だけでも難しかった制御を、車体を含めて考える必要があると話されています。
この先には、普通自動車やバイク、飛行機の運転も見えてきます。旧型の車も後付けで自動化でき、これまでの資産をそのまま流用できるという話に広がりました。
物流でも、ヒューマノイドがトラックを運転し、荷下ろしまでこなせれば、既存のトラックのまま自動化できます。樋口さんは、番組でずっと語ってきた「人間が作ったインフラに入っていく」ことが、技術的にも見え始めたと受け止めています。
Xiaomiのロボットは4ヶ月のインターンで何が変わった?
佐野さんが次に紹介したのは、スマートフォンや自動車の工場を持つ中国Xiaomiの事例です。ロボットに4ヶ月のインターンをさせた結果が、8月19日から23日に開かれた世界ロボット大会で公開されました。
インターン開始時の精度は90.2%
4ヶ月のインターン後は98%に向上
佐野さんが評価するのは、「最初からすごい動きができます」ではなく、「4ヶ月やらせたら精度が上がりました」という見せ方です。導入して終わりではなく、入れてから育てることが大事だと示した事例だといいます。
佐野さんは、1つずつ作業を完璧に覚えさせ、AとBができたら次はCもできそう、と掛け算で広げていけば、1台のロボットが多くのことをこなせるようになると話します。これは人材育成に似ている、という指摘です。
ロボットの成長は全機体で共有できる
Xiaomiの事例を受けて、樋口さんは人間との大きな違いを挙げました。ロボットAが学んだことを、ロボットBもまったく同じようにできるという点です。
佐野さんはこれを、漫画『NARUTO』の多重影分身の術 ── 『NARUTO -ナルト-』に登場する忍術。実体のある分身を大量に作り出し、分身が経験したことが術を解いたときに本体へ還元されるという設定ですが成立した、と表現します。分身の経験が本体に集約される設定を使い、何百体で修業すれば一気に技を覚えられる、と説明しました。
樋口さんは、人間がたくさんの人を育てて知見をまとめ、共有している社会も同じ構造かもしれないと応じます。さらにGitHubのような、データや知見をオープンに共有する文化にも話が及びました。
佐野さんによると、世界のロボットエンジニアはすでに活発に情報を共有しています。Play Roboticsが開発中のロボットも、オープンソースの掛け算で作っているそうです。
こっからの世界ほんとやばいですよね。だからもうこれでなんか指数関数的にデータが溜まっていっちゃうとやばいことが起きますよね。
米航空大手4社がヒューマノイドの客室持ち込みを禁止
横山さんは「個人的に悲しいニュース」として、アメリカの主要航空会社4社がヒューマノイドの客室持ち込みを禁止したことを紹介しました。前月の放送で「ヒューマノイドになる夢がある」と話していた横山さんにとっての悲報だそうです。
禁止したのは、アメリカン航空、ユナイテッド航空、デルタ航空、サウスウエスト航空の4社です。ヒューマノイドは精神的サポート動物に該当しないことに加え、最大の問題はバッテリーだといいます。
160ワットを超えるような、まあ何時間もあれだけ巨大なボディを動かすので、でかいバッテリー積んでるので、それが発火した時に客室乗務員じゃ対応できない。
樋口さんは、現状の法律ではやむを得ないとしつつ、社会実装には法改正が必要だという話だと抽象化しました。横山さんも、技術が新しすぎて制度が追いついていない場面が多発していると応じています。
いや、だって、じゃあ20年前にヒューマノイド社会実装だって言ってる人って、バッテリーを機内に持ち込んだ時の火災リスクのとこまで具体的に話できてなかったと思うんですよ。
横山さんによると、この議論は実際にヒューマノイドを隣の席に乗せようとした人がいたことから起きたそうです。ニーズが先に生まれている点で、ヒューマノイドがもう未来の話ではないと実感できるニュースだと話されています。
国産スタートアップATOMと日本精工が組む理由
最後に横山さんは、日本の動きとして国産ヒューマノイドのスタートアップATOMを取り上げました。2025年11月に設立され、シードで30億円ほどを調達した、国内最大級の資金調達をした会社です。
ATOMはヒューマノイドのボディを作る会社で、8月20日に日本精工とMOU ── Memorandum of Understanding(基本合意書)の略。正式契約の前に、提携の方向性や協力内容について当事者間で合意したことを示す文書を結びました。中国の部品を仕入れて作るのが一般的な中で、国産部品にこだわる姿勢が見えるといいます。
樋口さんが日本の部品の優位性に触れると、横山さんは「ギリギリですけどね」と応じました。数字の上では中国のシェアが上がり、安く大量生産しようと挑んでいるためです。
ここでもう一回日本がちゃんとした精密な機械を作れる、日本だからこそ作れる安全性とか機能性っていうものを実現していきながら、コストも抑えられたら、まあまだまだ勝ち目があるのかなとは思いますね。
番組の締めくくりに樋口さんは、毎月ニュースを追うことで肌感がついてきたと話しました。2年後に今のニュースを振り返ったら「はしごでこんなに驚いてたんだ」と思えて面白そうだ、という提案で回は終わります。
まとめ
今回のニュースからは、ヒューマノイドが「すごい機械」から、職場で育てられ、人間のインフラや制度と向き合う存在へと移りつつある様子が見えてきます。派手なパフォーマンスで市場が開く一方、はしご登りや重機操作、法整備、部品の国産化といった地道なテーマも具体的に語られる段階に来ています。
- カクイチはUnitree G1を「宮澤ノアさん」として新卒総合職で内定させ、人とロボットが共に育つ形を目指している
- 北京の運動会で生まれた独特の走法は、人間の常識が「極大値」にすぎない可能性を示している
- Figure 03のはしご登りや油圧ショベルの操作は、人間のインフラを変えずにヒューマノイドが働く道を開く
- Xiaomiの事例は、導入後に育てることの価値と、学習を全機体で共有できるロボットの強みを示した
- 米航空大手の持ち込み禁止やATOMと日本精工の提携は、制度や産業構造の課題が現実になってきたことを表している





