同じデザイナーの名前が、あちこちのブースに?
今回のテーマ「人気デザイナーがすごい」でいうデザイナーは、ルールを作るボードゲームデザイナーではありません。アートワーク、イラスト、プロダクトデザインを手がける人を指しています。
Manaさんがこの話をしようと思ったきっかけは、今回のゲームマーケット ── 国内最大規模のアナログゲームの展示・販売イベント。個人や小規模サークルが新作や旧作を頒布する場として知られ、略して「ゲムマ」とも呼ばれますでした。同じデザイナーが複数の作品を手がけていることが、とても目立っていたといいます。
特に目立っていたのは、「別府さい」さんや「かくざとう」さんです。ホールマップに「私がデザインした作品はここで売っています」と印を付けて公開する投稿もあり、販売場所はあちこちに広がっていました。
ゲームマーケットってみんながみんな新作出すわけじゃないじゃないですか。
ゲームマーケットでは新作だけでなく、過去に出た作品も販売されます。旧作まで含めると、一人のデザイナーが手がけた作品の数は驚くほど多く、Manaさんは「めちゃめちゃ作ってんじゃん」と驚愕したそうです。
その印象を強めたのが、ゲームマーケットの出展情報を連日発信しているVTuberの「きたこし」さんのライブ配信でした。配信の中でかくざとうさんの名前が何度も出てきて、コメント欄にも「またかくざとうさん出てきた」という声が上がっていたといいます。
かくざとうさんのデザインは、もうすごいスタイリッシュで洗練されていてかっこいいなーっていう風に日頃から思っていたわけなんですよ。
かくざとうさんのXでの発信は最近控えめに見えていたものの、新作情報の解禁が始まると急に活発になり、「これ出します」が次々と続いたそうです。しかもどの作品も魅力的でかっこいいことに、Manaさんは素直に感心しています。
かっこいいだけでは足りない、ボードゲーム独特のお作法
ボードゲームのデザインをしてみたいデザイナーは多いはずですが、ルールを作る人とどう連携すればいいのかは難しい問題です。Manaさんは、まず実績がないとルール制作者側も依頼しにくいと指摘します。
依頼しにくい理由の一つが、ボードゲームならではのお作法です。ボードゲームのデザインは、かっこいいだけ、かわいいだけでは微妙で、遊びやすさが求められます。
Manaさんが挙げた例はカードゲームの手札です。右利きの人はカードを左手で持つことが多く、手札として広げるとカードの左斜め上くらいしか見えません。
そのため、数字やマークなどプレイに必要な要素は、手札で持ったときにも見える位置に置く必要があります。場に出したときに相手からも見えるか、という配慮も欠かせません。
さらに印刷の段階では、トンボ ── 印刷物を裁断する位置を示すために、仕上がりサイズの外側に付ける目印のことや塗り足し ── 裁断のズレで白いフチが出ないよう、仕上がりサイズより外側まで背景や絵柄を広げておく部分の知識も必要になります。
ボードゲームに慣れていないデザイナーに発注すると、こうした点を度外視した、絵として綺麗なだけのものが上がってくることがあるといいます。
せっかく作り上げられた美しい絵がですね、どんどん汚されていくみたいな、そんな感覚にもなってしまうと思います。
綺麗に整った絵をあとからルールに合わせて直すと、歪みが出てしまいます。だからこそ、最初から遊びやすさありきでデザインしてもらうことが重要だとManaさんは考えています。
ボードゲームのデザインで意識すべき点と避けたい進め方を、Manaさんの説明に沿って整理すると次のようになります。
こうしたやり取りに不安を覚えるルール制作者は多いため、実績のあるデザイナーに依頼が殺到するのはよくわかる、とManaさんは話します。売れた作品を手がけた実績や、絵柄そのものの魅力も加わり、別府さいさんやかくざとうさんに人気が集中していると考えられます。
別府さいさんは商業出版のデザインも手がけており、Manaさんはそうした人気を、それまでの実績と信頼があってのものだと見ています。
偏る依頼と、テストプレイ会という出会いの場
人気デザイナーへの依頼の集中について、Manaさんは「ちょっと格差といいますか、偏りが出ちゃってる気はします」と話します。ボードゲームのデザインに関わり始めるには、きっかけがとても重要だというのです。
個人のボードゲーム制作者は、デザイナーに発注する予算を捻出できず、自分たちでデザインまで作ってしまう人が大半だといいます。一方で、限界を感じてプロに頼みたいと思っている人も多いはずです。
ゲームマーケットにはデザイナーの出展もありますが、Manaさんは、制作者とデザイナーの交流はなかなかうまくいっていないと見ています。費用がどれくらいかかるのか不安で、互いに簡単には声をかけられないからです。
(ルールを作る人と知り合える)タイミングといったものはですね、やっぱりテストプレイ会とかなんじゃないのかなっていうふうに思います。
Manaさんが勧めるテストプレイ会には、いくつかの利点があります。参加すれば、制作者がどこを意識しているのか、ボードゲームとはそもそもどういうものなのかを深く理解できます。
また、テストプレイの段階では、アートワークやデザインがまだ決まっていない場合がほとんどです。その段階から仲良くなれば、「こういうゲームならこういうデザインが作れます」と提案できます。
ちなみにいくらぐらいでできんの?みたいな、そういった話とかも軽い感じでできると思うんですね。
テストプレイ会での会話は、込み入ったビジネスの話というより、立ち話に近いフランクなものになります。正式な見積もり依頼のような堅苦しさなしに相場観を話し合えるので、そこから依頼につながる可能性も高まる、とManaさんは考えています。
Manaさんが描く、テストプレイ会から依頼が集まるまでの流れは次のとおりです。
テストプレイ会に参加
ルール制作者と知り合い、ボードゲームへの理解を深める
フランクに相談
デザインの提案や相場観を気軽に話す
1本手がける
実績として他の制作者にアピールできる
作品が売れる
「売れるデザインを描ける人」という印象になる
依頼が殺到
さらに多くの作品を手がけるようになる
イラストレーターやアートワーク担当者でボードゲームを手がけてみたい人に向けて、Manaさんはまずは実績作りとして交流の場に参加することを勧めています。
「イラストレーター買い」が生まれるほどの力
イラストにはデザイナーごとの特徴が出ます。そのため、特定のイラストやアートワーク担当者が好きだというボードゲームプレイヤーもたくさんいる、とManaさんは話します。
ボードゲームを選ぶとき、誰がルールを作ったかだけでなく、誰がイラストを描いたかで買う「イラストレーター買い」も頻繁に起きていると考えられます。「私がデザインした作品はこのブースで売られています」という告知が効くのは、そのためです。
あ、あくざとうさんが作ってるならちょっと欲しいなみたいな。
かくざとうさんが手がけた作品を全部買う、という人も出てきます。だからこそルールを作る側も、できる限り売れているデザイナーにアートワークをお願いしたいと思っているそうです。
ただ、制作者側には「いくらぐらいなんだろう」「さすがに畏れ多い」といった遠慮もあり、Manaさんは制作者とデザイナーがすれ違っていると見ています。フランクに交流できる場がもっと増えてほしい、というのがManaさんの願いです。
今回の話はイラストレーター向けの話題になったとしつつ、Manaさんはルールを作るボードゲーム作家の側からも、デザイナーに気軽に声をかけるような歩み寄りがあってもいいのではないか、と締めくくっています。
まとめ
ゲームマーケットで人気デザイナーの名前が並んだ背景には、ボードゲーム特有のデザイン知識と、それを裏付ける実績・信頼がありました。Manaさんは、偏りを解消するには制作者とデザイナーが気軽に出会える場が必要だと考えています。
- 人気デザイナーは新作・旧作を合わせて非常に多くのボードゲームを手がけ、依頼が集中している
- ボードゲームのデザインには、手札での見え方や印刷の知識など、遊びやすさありきの配慮が欠かせない
- 実績があるデザイナーほど依頼しやすく、売れるとさらに依頼が集まる循環が生まれている
- デザインに関わりたいイラストレーターには、テストプレイ会でのフランクな交流と実績作りが勧められている
- イラストレーター買いが起きるほどアートワークの力は大きく、制作者側からの歩み寄りも期待されている


