なぜ予約数のアピールが増えているのか
ボードゲームの即売会であるゲムマ(ゲームマーケット)では、予約数がどれだけ入ったかを告知や宣伝として発信する出展者が増えてきた、とManaさんは感じています。今回のゲムマでも、予約数が大きく伸びたところは目立っていたそうです。
Manaさんは予約数のアピールを、マーケティングとしては理にかなったものと見ています。人気のところに人が集まるのと同じで、「すでに予約がたくさん入っている」という告知が、面白そうだという期待を生み、さらに予約を呼び込むからです。
家電でもですね、何万台出荷とか、あと健康食品とかでもまあ愛用してる人が何万人であったりだとか、そういったものって結構広告とかランディングページでよく見かけると思うんですね。
Manaさんによれば、定量的な数字は周りからの評価や信頼の証になります。予約が伸びたならそれを宣伝に使わない手はない、というのがビジネス視点での見方です。
同人イベントに流れ込むビジネスの空気と「ゲムマブルー」
一方でゲムマは、もともと同人やインディーズとして、作りたいものを作って頒布する側面が強いイベントです。Manaさんは、昔より今のほうが物を売ろうとするビジネス的な思考の人が増えたのではないかと話します。
作った分だけ売れればいい、仲間内で作品を交換するように買い合う、という楽しみ方をしてきた人にとって、予約数の話題が次々に来るのは戸惑いのもとになり得ます。自分の予約が数十件なのに数百件の投稿を見れば、へこむ人も多いだろうとManaさんは考えています。
Xにいるとやっぱりタイムラインで流れてくるわけなんですよ。何百個とバーンとか。景気のいい話がですね、たくさん飛び交うわけなんですね。
宣伝のためにXで活動していると、こうした投稿を避けにくくなります。自分も宣伝を頑張っているのに予約が入らない、面白さで負けているのでは、とマイナス思考に陥りやすく、Manaさんは最近話題になった「ゲムマブルー」という言葉にも触れました。
そもそもゲムマ当日までは、本当に売れるのか、人が来なかったらどうしようと不安が尽きない時期です。そこに景気のいい話が重なると、メンタルを保つのが大変になる、とManaさんは整理しています。
予約数はボードゲームの面白さと連動するのか?
Manaさんがまず挙げるのは、予約数が伸びていないからといって、自分のボードゲームが劣っているとは限らないという点です。予約数は前評判や宣伝のうまさ、多くの人に情報を届ける力がうまく働いた結果だと見ています。
その根拠として、Manaさんは以前配信した人気アンケートの話を引きます。アンケートでは、オフラインで実際に遊ばれたことからの認知が大きいことが見えていました。
予約の段階で話題にならなかった作品がアークライト ── ボードゲームの出版・販売を手がける日本の企業。同社によるボードゲーム関連の賞も設けられています賞を取ることもあります。逆に予約が大きく伸びた作品が、有識者による「面白そう」「遊んで面白かった」というアンケートに名前が入らないこともあるといいます。
なので、実際の売れ行きと面白さといったものは連動しないっていったところはあるのかなとは思います。
予約数と面白さのずれについて、Manaさんは昔からあるアンバランスだと見ており、自分の作品を卑下しないでほしいと話しています。
たくさん売れることで起きるミスマッチ
予約で一気に売れるということは、そのゲームシステムと好みが合わない人も多く買うということでもある、とManaさんは指摘します。人気そうだから買ってみたけれど面白くない、というミスマッチが起こり得るわけです。
Manaさんは、好みが合う人にだけ届けるやり方と、合わない人にまで広く届けるやり方の違いにすぎないと整理しています。
ゲームシステムと好みがマッチする人に絞って届く。ミスマッチは起きにくい
合わない人にも届き販売数は伸びるが、遊んで面白くないと感じる人も出る
とはいえ商売としては、多くの人に届けるのが正解だとManaさんは認めます。遊んでもらわなければ面白さを判断してもらえず、知ってもらわなければ遊んでもらえないからです。そのうえで、売れた数は作品の品質とは連動しない、という点を改めて強調しました。
ビジネスの成功は売上ではなく利益で測る
ビジネス視点の話の流れで、Manaさんは成功・失敗を何で測るかに触れます。答えは売上の高さではなく、最終的に手元に残る利益だといいます。
Manaさんが挙げたのは、売上10億円で利益1億の会社と、売上5億円で利益2億円の会社の比較です。素晴らしいのは後者だとし、売上を高めるには相応の経費を使っているため、見た目のよい売上だけでは判断できないと話します。
見た目はよいが、売上を高めるために経費も多く使い、経費を使わないと売上を保てないこともある
売上がそこまで高くなくても経費をコントロールし、次の作品へ安定して利益を出していける
Manaさんは、一撃で大きく売った企業は次がどうなるのか、一発屋になる恐れもあると見ています。顧客とフィットして満足度が高い商品は、次の作品でも安定して利益を出しやすいという考えです。
利益を下支えするのは商品本来の良さで、ボードゲームでいえば面白さだとManaさんは話します。面白さを突き詰めつつ、どう宣伝するかが重要だという結論です。
予約1000個の裏にある製造数という盲点
予約が何百個、1000個入ったという投稿の裏側について、Manaさんは盲点を指摘します。1000個売れたなら、少なくとも1000個以上は作っているはずで、海外印刷なら3000個ほど作っているかもしれない、という推測です。
(予約が入らないと落ち込む人は)そんな3000とかいう数、そもそも刷ってますか?っていうところなんですよ。
Manaさんは、作った数に対してどれだけ売れたかという割合で見ると、印象が変わると話します。損益分岐点は人によるため一概には言えないとしつつ、次のような比較を示しました。
| ケース | 製造数 | 予約・販売数 | 割合 |
|---|---|---|---|
| 大量に作った場合 | 3000個 | 1000個 | 3分の1 |
| 少なめに作った場合 | 100個 | 30件 | 30パーセント |
大量に作ったほうが単価が下がって利益を残しやすい面はあるものの、自分の中の成功・失敗は作った数に対する売れた割合で考えるのがポイントだ、とManaさんは話します。
語られない経費と、赤字の可能性
3000個も作れば、その初期ロットの分だけ大きな初期投資をしていることになります。Manaさんは、言い方に語弊はあるとしつつ、初期製造分のマイナスからスタートしていると考えると実情は厳しい場合もあると話します。
こうした厳しさは、予約が多く入った人もわざわざ発信しません。予約数や販売数はプロモーションになりますが、経費をどれだけ使ったかを出しても売上は伸びないからだとManaさんは説明します。
Manaさんによれば、コンポーネントにお金をかけた品質のアピールとして使われる例外はあるものの、経費は基本的に秘匿されます。経費がわかると利益が計算されてしまい、利益はどこにとってもセンシティブな情報だからです。
販売が大きく伸びる出展者には、利益を削りうる経費も積み重なります。Manaさんが挙げた例を順に見ると、次のようになります。
認知拡大の活動
地方を含むイベントへ積極的に出展し、渡航費・移動費・宿泊費がかかる
体制の拡大
販売が伸びるぶんスタッフを用意し、人件費がかかる
出展形態
一般出展ではなくエリア出展になり、出展料が大きく変わる
結果
予約が何百個あっても、赤字の可能性もある
ただしManaさんは、さすがにそこまでは使っていないとは思う、とも添えています。あくまで可能性の話として語られています。
身の丈に合った製造と、届けたい人に届いたか
こうした点を踏まえ、Manaさんは身の丈に合った製造に対して目標どおり予約や販売が伸び、続けられるだけの利益を確保できていれば、それだけで素晴らしいと話します。
Manaさんが重要だと考える点は、作品の品質を高めること、身の丈に合ったコストに対して合理的に商品をさばけたか、面白いと思ってくれる人に適切に届けられたか、そして届いた人が実際に面白いと感じたか、です。
そのうえで、大量に売れること自体には素直にリスペクトしているとManaさんは話します。たくさんの人の手に渡らなければ作品は広がらないからです。
製造ロットを少しずつ上げ、勝負どころで蛇口をひねる
身の丈に合ったやり方でも、顧客満足を高めていけば販売は着実に増えていく、とManaさんは考えます。利益を適切に確保すれば次の作品のコストに充てられ、キャッシュフローも少しずつ楽になるはずだといいます。
予約数が急に跳ねるのは、時代や世の中のニーズと、守り続けた品質がかみ合ったタイミングだとManaさんは見ています。その時に作っていなければ大きな機会損失になる、とも指摘しました。
そこでManaさんが勧めるのが、自身がプロセスエコノミー ── 完成品だけでなく、制作の過程そのものを発信して価値やファンを生み出す考え方と呼ぶやり方です。制作段階から少しずつ告知し、市場の反応を見ていきます。
今回のいけそうだなあだとか、今回はいつも通りだなあだとか、今回ちょっと外したかなあだとか、そういったものあると思います。
こうした手応えから製造数を見極めるのが一番重要で、難しいポイントだとManaさんは話します。これはいけると思えたら、製造数という蛇口をガッとひねり、宣伝も全力でやればいいという考えです。
売れている人の努力をどう受け止めるか
一方でManaさんは、予約が大きく伸びている人も「マウント」と言われていい気はしていないだろうと話します。その人たちも作品作りや宣伝を頑張っていて、宣伝に使える面もありつつ、単純に嬉しくて発信している面もあるからです。
予約数アピールを「下品だ」と批判する投稿も見かけるといいますが、Manaさんは、売れた人が頑張って勝ち取った結果として、単純にすごいねと思うことが大事だとしています。
大ヒットや企業出版、海外出版を目指す人も、目指していない人も、それが来たら嬉しいはずだとManaさんは話します。そこに近づく作家はボードゲーム業界全体を引っ張る存在にもなり得るので、素直に応援し喜べばいいという考えです。
お金がなくても工夫でヒットを生む人たち
大量に売れる人は、予約が入る前に何千個も作っているわけで、いきなりそれだけ作れるかというと簡単ではありません。しかもボードゲーム業界には、社会人で資金に余裕のある人だけでなく、学生もいるとManaさんは指摘します。
学生の中にもヒットを飛ばしている人がいて、資金がない中で頑張り、売れた結果を次につなげています。Manaさんはクラウドファンディング ── インターネットで多くの人から少額ずつ資金を集める仕組み。製造前に資金を確保する手段として使われますの活用など、さまざまな手法があると紹介しました。
皆それぞれ考えて取り組んでいるので、自分たちも頑張っていこう、というのがManaさんの締めくくりです。
まとめ
Manaさんは、予約数アピールはマーケティングとして合理的だと認めつつ、その数字は作品の面白さや事業の成否をそのまま表すものではないと話しました。比べるべきは他人の数字ではなく、自分の身の丈に合った製造と利益、そして届けたい人に届いたかどうかです。
- 予約数は前評判や宣伝力の結果で、ボードゲームの面白さとは必ずしも連動しない
- ビジネスの成否は売上ではなく利益で測り、予約数の裏にある製造数や経費は語られない
- 作った数に対する売れた割合で見れば、少量生産でも大量生産と変わらない成果になり得る
- 制作過程から告知して手応えを見極め、いけると思えたら製造数と宣伝で勝負をかける
- 売れている人の努力は素直に称え、「自分は自分、よそはよそ」で比較しすぎない


