ルール説明より手前のハードルは何か?
ボードゲーム作家のManaさんは、開催が近づいたゲームマーケットを前に、当日の接客よりも「もっと手前」の話として声掛けのコツを取り上げています。
Manaさんによると、ゲームマーケットではルール説明や接客の仕方が話題になりがちです。しかし会場には多くの来場者が訪れ、目的のブースへ足早に向かったり、全ブースを見て回ろうとしたりするため、1つのブースにかけられる時間は限られています。
ルール説明であって、接客をするためにですね、ブースに近づいてきてもらうっていうところが、まず一番初めのハードルになるわけなんですよ。
装飾やブースレイアウトの魅力で自然に人が寄ってくることもあります。それでもManaさんは、さらに近寄ってもらう方法として声掛けが重要だと考えています。
声を掛けると客が離れる、は本当か
声掛けについては「話しかけると人が離れてしまう」と心配する出展者も少なくありません。接客されるのが嫌な人は、「こんにちは」「見ていってください」と言われるだけで去ってしまう、という懸念です。
Manaさんはこの懸念を、突き詰めれば「興味のないものからは離れていく」ということだと捉えています。グイグイとルール説明を押しつければ引かれますが、問題は声掛けそのものではないという見方です。
さらっとその人が興味があるのかどうかっていったところを瞬時に判断してもらうっていうところが、やっぱり声掛けの基本というかコツになってくるのかなと思います。
歩いている来場者が長い説明を通りすがりに理解するのは不可能です。だからこそ声掛けは、相手が「自分に関係あるか」をすぐ判断できる材料を渡すためのものになります。
声掛けは基本的に興味のある人にしか刺さらないので、本来寄ってくれる人を遠ざけることはあまりない、とManaさんは考えています。よほど変なことをしない限り、声掛けはした方がいいというのがManaさんのスタンスです。
お客様の方を向いているか
声掛けの最初のポイントとしてManaさんが挙げるのは、来場者の方へ体を向けることです。ブースを回っていると、お客様に姿勢として向いている出展者が意外と少ないと感じるそうです。
スタッフが複数いるブースでは、スタッフ同士で話し込んでいることもあります。せめて体の向きだけでも通路側に向け、いつでも受け入れられる態勢を見せるべきだとManaさんは話します。
Manaさんはこれを洋服店にたとえています。店員にガンガン接客されるのは煩わしい一方で、店員同士が奥で喋っていると、聞きたいことがあっても聞きにくくなります。
そのバランス感覚なのかなと思います。
探し物があるときに「こういうお洋服ありますよ」と声を掛けられ、それが興味のあるものなら「それってどういうことですか?」と話が膨らみます。Manaさんは、同じことがゲームマーケットのブースでも起こると見ています。
店員がガンガン「どうですか?」と迫り、客はうっとうしく感じる
スタッフ同士が奥で喋っていて、聞きたいときに聞きにくい
座っているブースに人だかりができない理由
2つ目の基本としてManaさんが挙げるのは「立つこと」です。長時間立ち続けるのが疲れるのは理解しつつも、座っている出展者には話しかけにくいといいます。
Manaさんは、座ったまま「いらっしゃいませ」と言っているブースほど、人だかりができていないと感じています。立っているかどうかは、接客をするという態度の表れだと考えられています。
もういつでも駆けつけられますよっていうような態度、それがあるだけでも全然違うかなと思います。
周囲とのバランスも関係します。周りのブースが落ち着いた雰囲気なら座っていても人が来る可能性はありますが、最近のゲームマーケットは宣伝合戦の状態で、立ち上がって声高らかに呼び込むブースも多いそうです。
周りがそうした状況で自分だけ座っていれば、見向きもされないとManaさんは話します。声掛けが恥ずかしくても、立つだけで違いが出るので、そのうえで前を向くことがポイントになります。
チラシは会話のきっかけになる
次にManaさんが勧めるのは、話すきっかけとしてチラシを使うことです。チラシを何人が受け取るかより、「受け取ってください」というやり取りそのものがコミュニケーションの入口になる、という考え方です。
少しでも興味があれば、来場者はチラシを受け取ります。受け取るためには手が届く距離まで近づく必要があるので、遠巻きに見ていた人が会話できる距離に入ってくれるわけです。
受け取ってもらったらそこから会話につなげるチャンスが生まれるわけなんですね。
チラシは説明の場面でも役立ちます。手元に何もないと、来場者は出展者の目を見るべきか、動きのない作品を見るべきか迷い、緊張してしまうことがあります。
チラシがあれば、来場者はそれを見ながら話を聞けますし、出展者もチラシの内容を口頭で補えます。理解が深まり、伝えたいことも正確に伝わりやすくなります。
一度説明を聞いたうえでチラシを持ち帰った人は、後で読み返したときの理解度も高くなります。チラシ置き場から取っただけの人とは違い、「ああいうふうに言っていたな」と思い出せるからです。
Manaさん自身も、チラシを配った後に、そのチラシを持って「やっぱりください」と戻ってくる来場者が結構いたそうです。チラシに何を書くかは、また別の配信で取り上げる予定だと話しています。
声掛け+チラシ
少しでも興味がある人が受け取る
距離が縮まる
手が届く、会話できる距離まで近づく
チラシを見ながら説明
理解が深まり、伝えたいことが正確に伝わる
持ち帰り
後で読み返して戻ってくることもある
まず伝えるべきは「何人用か」
チラシを受け取ってもらうにも、それなりのハードルがあります。少し離れた人に「話を聞いてみよう」と思ってもらうための声掛けとして、Manaさんはまず検討に入るかどうかの条件を伝えることを挙げています。
代表的なのが、何人で遊べるかというスペック情報です。ゲームマーケットの作品は3〜4人用や4人からのものが多いため、その程度なら言う必要は薄いものの、2人用ならぜひ伝えた方がいいといいます。
Manaさんによると、2人用のゲームは数が少ない一方で、親子、カップル、夫婦で遊びたいという確かな需要があります。「2人用です」と言えば、探していた人は寄ってきてくれます。
逆に、大人数用を探している人は「すみません」と離れていきます。それでもManaさんは、それでいいと考えています。
求めているものが明確で、それに合うか合わないかっていったものが瞬時に判断していただける。そうやってお互いに時間が効率的なんですね。
ゲームのスタイルだけを伝えて近寄ってもらい、後から「4人用なんですね、2人用を探していたんです」となるのは双方にとって無駄です。近寄らずに多くのブースを見たい人もいるので、人数は早めに伝えるべき情報だとされています。
キャッチコピー「2人用の将棋やチェスのような頭脳戦ゲーム」
声掛けのもう1つの要素はキャッチコピーです。長く語っても話している間に通り過ぎられてしまうため、目の前に来た瞬間に「お、いいかも」とわかる短いフレーズを用意すべきだとManaさんは話します。
実例としてManaさんが紹介したのが、自作の『バーストオブマナ』を販売したときの声掛けです。Manaさんは「2人用の将棋やチェスのような頭脳戦ゲームです」と呼びかけていました。
最初の「2人用」は、人数で判断する人に向けた情報です。人数を気にしない人には、続く内容で判断してもらう狙いがあります。
次の「将棋やチェスのような」は、専門用語を避けるための言い方です。アブストラクトゲーム ── 運や隠し情報の要素がほとんどなく、純粋な読み合いで勝敗が決まる対戦ゲームの総称。将棋やチェス、囲碁などが代表例ですと言ってもわかりにくく、Manaさんが出展した日曜はボードゲームに詳しい人ばかりではないと考えたそうです。
将棋やチェスなら多くの人が知っていて、駒を動かす、相手の王を取るといったイメージが浮かびます。最後の「頭脳戦ゲーム」は、頭を使いたい人というターゲットに向けた言葉です。
この声掛けでは、ルールや面白さの特徴は一切伝えていません。特徴は、ジャンルが気になって近づいてきた人に説明すればいいと考えていたからです。
「2人用。お?」ってなるかもしれないですし、「将棋やチェス知ってるな」ってなるかもしれないですし、「頭脳戦ゲーム。ほお?」ってなるかもしれないですし。
興味のない人はこちらを向きもしません。少しでも振り向いた人には「詳細はチラシにも書いてあるのでどうぞ」とチラシを渡し、近づいてきたらコンポーネントを見せながら話を進めていきます。
近づいた客に「意外性」をどう伝えるか
会話できる距離まで来てもらったら、そこで初めて特徴を端的に伝えます。『バーストオブマナ』で伝えていた特徴は、盤を使わない「可変式フィールド」だという点です。
声掛けで「将棋やチェスのような」と伝えているため、来場者の頭には盤の上で駒を動かすイメージがあります。そこへ「盤は必要なく、フィールドがゲーム中にどんどん変わっていく」と説明すると、「え、そうなの?どういうこと?」と興味を持ってもらえるそうです。
Manaさんはさらに、将棋やチェスは駒ごとの動き方を覚えるのが大変で難しいイメージがある、という懸念にも触れます。そのうえで『バーストオブマナ』の駒は、動き方がわかりやすいように絵柄でデザインしていると説明していました。
『バーストオブマナ』の駒には幾何学模様が描かれ、尖っている向きが動ける方向を示しています。縦横に動ける駒は縦横に、8方向なら8方向に尖りが広がり、何マス進めるかは色の重さや尖りの形で表しているそうです。
「あ、わかりやすいのね。これだったら斜めってこと?」「あ、そうなんですよ。もう、もう完璧ですね」みたいな、そんな話をするわけなんですよ。
次は実際に触ってもらう段階です。『バーストオブマナ』は箱も駒もマットな印刷で、駒は「これって木ですか?」と聞かれるほど硬い厚紙を使っており、触った来場者から「これ印刷すごいね」という反応を得ていたといいます。
ルール説明まで進めば、ほぼ買ってもらえる
さらに詳しく知りたいと言われたら、そこで初めてルールを説明します。Manaさんは「最初は駒2つだけでスタートし、他には何もない」といった具体的な話に入っていくそうです。
Manaさんは、ここまでの一連の流れを次のようにまとめています。
手当たり次第にルールを説明するのではなく、興味が高まった状態で説明に進むため、Manaさんの場合、ルール説明までたどり着けば、ほぼ買ってもらえていたそうです。
一方で、前半の段階で「難しそうだな」と思って離れていく人もいます。Manaさんは、それはそれでいいと考えています。
声掛けは「面白いと思う人を探す作業」
離れていく人を追わない理由として、Manaさんは、求めていない人に無理やり売っても意味がないと話します。買った後に遊んで面白いと感じてもらえなければ、満足も口コミも生まれず、次の作品も買ってもらえないからです。
面白いって思ってもらえる人を作るっていうよりも探す作業だと思うんですよ。
そのためにManaさんは、刺さる人を見つける「罠」やヒントを散りばめると表現しています。来場者は1つずつ反応しながら、出展者のボードゲームのもとへたどり着いてくれるという考え方です。
大きく刺さるかどうかがわかるポイントから、少しずつ情報を出していくこと。売り込むのではなく選別するという姿勢が、声掛けにも必要だとManaさんは考えています。
ゲームマーケットの来場者数は増えており、今回の出展は1400サークルほどだったとManaさんは記憶しています。1ブースにかけられる時間や、1人の来場者が買う数をブース数で割れば、ごくわずかになります。
だからこそ、短く伝えて刺さる人に届ける工夫が欠かせません。Manaさんは、開催までの残りの時間で当日の接客の流れを計画しておけば、いい結果につながるのではないかと締めくくっています。
まとめ
ゲームマーケットでの声掛けは、興味のある人が瞬時に判断できる材料を渡し、少しずつ距離を縮めていく作業です。Manaさんは姿勢、チラシ、キャッチコピーを組み合わせ、「面白いと思ってくれる人を探す」視点で声掛けを組み立てることを勧めています。
- 来場者の方を向いて立ち、いつでも応対できる態勢を見せる
- チラシの受け渡しを、会話できる距離まで近づいてもらうきっかけにする
- 「2人用」などの条件と短いキャッチコピーで、合うかどうかを瞬時に判断してもらう
- 近づいた人には意外性のある特徴、コンポーネント、ルールの順で興味を深めてもらう
- 無理に売り込まず、刺さる人を選別することが満足や口コミ、次作の購入につながる


