5年後、社保手続きと給与計算はAIがやる時代になる
吉田さんは今回、2025年時点から見た5年後、つまり2030年頃の社労士業務がどうなるかを予測しています。
吉田さんの予測は明確で、5年後には社保手続きと給与計算をAIがやる時代が来るというものです。
ただし、社保手続きについては社労士法 ── 社会保険労務士の業務範囲を定めた法律。社会保険や労働保険の手続き代行などは、社労士の独占業務として位置づけられている。の関係もあり、AIが全部送信までやるかはわからないと言います。それでも、送信の一歩手前までは行くだろうという見立てです。
給与計算についても、AIがほとんど終わらせてくる状態にはなるのではないか、と話しています。
この予測を踏まえて、吉田さんは社労士法人や社労士の職場がどう変わっていくのかを考えていきます。
なくなる補助職と、残る補助職の違いはどこにあるか
吉田さんはまず、職場は採用戦略と密接に関係しているため、AIの登場は採用戦略に影響を与えると指摘します。そして、自身の社労士法人ONE HEARTでは、すでにAIを見据えた採用戦略をとっていると明かします。
吉田さんが考えているのは、社労士補助職と呼ばれる人が、AIの出現によってなくなるのではないかということです。ただし、補助職の中でも消える仕事と残る仕事があると整理しています。
まず残るのは、お客さんとやりとりをするフロント対応の職種です。お客さんの感情を理解しながらやりくりしたり、うまく言って期日までに資料を持ってきてもらったりするのは、AIには難しいスキルだからだと言います。
一方でなくなると見ているのは、預かったCSVデータを給与計算ソフトにインポートする作業や、賃金台帳を紙で預かって手入力する作業です。理由はシンプルで、AIができるからだと話しています。
そういう作業を担当している人というか、そういう仕事ってなくなっちゃうと思うんです。理由は簡単です。AIができるからです。
補助系の業務で残りそうなものとして、吉田さんは役所から来た郵送物を開けてPDFにするような物理的作業を挙げます。ロボットが士業事務所の中を歩いている状態はまだ想像できないため、物理的な作業は難しいだろうという見立てです。
CSVデータのインポート、賃金台帳の手入力など、データ加工・編集の作業職。AIができるため消えると予測
フロント対応と、郵送物の開封やPDF化などの物理的作業職。感情理解や物理作業はAIに難しいため残る
正社員と週1〜2日の人、ONE HEARTが二極化を選ぶ理由
吉田さんは、フロント対応できる正社員と、週に1〜2回来て郵送物の処理をしてくれる人という形で、士業事務所の人材が二極化するのではないかと予測します。
この予測を踏まえ、ONE HEARTの採用戦略では、正社員か、それに近い月間130時間ほど働く人しか雇っていないと明かします。時給で働くいわゆるパートタイマーは採用していないという方針です。
ただ吉田さんは、この収録の台本をとある会社の方と壁打ちしながら作っているそうで、その相手から出た別の見方も面白いと紹介します。
上司の機能の一部をAIが代行するんじゃないか、だからパートタイマーは残っていくんじゃないかって言ってました。
壁打ち相手が言うのは、上司の仕事である部下の管理の一部をAIが代行できるようになる、という見方です。たとえば、部下からの質問をまずAIが回答し、AIが答えられなければ人間の上司が答えるという業務フローが組めるはずだと言います。
そうなると、AIが上司の管理能力を補うことで、パートタイマーが残り続け、場合によっては今より多くのパートタイマーを管理する時代が来るのではないか、という予測になります。
吉田さん自身はこの方針をとっていません。理由は、士業事務所は教育が大変なため、人数を絞って正社員に集中的に教育したほうが生産性が上がると考えているからだと説明します。
一方で、高度に仕組み化された士業事務所なら、AI上司のような仕組みでパートタイマーを管理していく戦略もあり得ると、吉田さんは両方の可能性を認めています。
AI時代の士業で活躍する人が持つ「信頼」という視点
吉田さんは続けて、AI時代の士業事務所でどういう人が活躍できるのかを話していきます。
吉田さんが一番重要だと言うのは、お客さんと信頼関係を作れる人です。士業の仕事は作業に対してお金をもらっているのではなく、信頼に対してお金をもらっているという考え方が前提にあります。
たとえば、この人に相談して回答が返ってきたから大丈夫だ、というところにお金が支払われている、というのが吉田さんの見方です。
逆に、士業側もお客様側も「作業に対してお金をもらっている」という認知になってしまうと、価格競争に巻き込まれて安売りになり、士業事務所の経営が厳しくなると警告します。
だからこそ、信頼にお金をもらっているのだと理解したうえでお客さんと信頼関係を作れる人は、社労士事務所でも他の士業事務所でも残っていくはずだと吉田さんは話します。
変わっていくのは裏側だとも言います。フロント対応は人間のままですが、裏側の一次作業はAIが担うようになり、社労士事務所では社保手続きや給与計算をAIがやる時代になるという整理です。
即レスと愛嬌、フロントで選ばれる人の意外な条件
吉田さんは、フロントでどういう人が選ばれるのかについて、壁打ち相手から聞いた話を紹介します。
コンサルタントとして、お客さんの満足度が高い人っていうのは、決してそのお客さんに対して貢献している人ではなく、その即レスとか愛嬌がいい人っていうのがお客さんの満足度が高いって言ってました。
吉田さんは、統計的な根拠があるわけではないと断りつつも、言われてみれば確かにそうだと納得しています。
即レスや愛嬌、笑顔、電話で感じよく対応してくれること。実際には人間なので、正解よりもそういうところで判断してしまうものだ、と吉田さんは話します。
とはいえ、ニコニコして即レスしていればそれで士業の仕事を生きていけるかというと、そんなに簡単ではないとも付け加えています。
「シフト作るのめんどくさい」から経営の本質を見抜く洞察力
吉田さんは、AI時代に生き残れる人として、少ない事象から洞察を導き出せる人を挙げます。ここでは具体例として、お客さんが「シフト作るのめんどくさい」と言っているケースを取り上げます。
小売や飲食店では、雇用契約書に労働時間が「シフトによる」と書かれていることが多く、確かにシフト管理は大変そうだと吉田さんは言います。
この相談をAIに聞くと、シフトを効率よく作る方法までは答えてくれるだろうと吉田さんは見ています。しかし、経営がわかっている洞察力のあるコンサルタントなら、別の見方を示すはずだと言います。
吉田さんが示すのは、会社経営は売上と費用を長期的にプラスに保たないと潰れるという前提です。勝ち続けるには売上や費用をコントロールしようと考えるはずで、費用の中には必ず人件費が含まれます。
その人件費をコントロールするには、雇用契約書の内容を明確に定めることが必要になります。この人は週3勤務、この人は1日何時間、と決めることで費用をコントロールしようとするはずだ、というのが吉田さんの論理です。
相談
お客さんが「シフト作るのめんどくさい」と話す
AIの回答
シフトを効率よく作る方法までは答えてくれる
経営の前提
会社は売上と費用を長期的にプラスに保たないと潰れる
費用のコントロール
費用に含まれる人件費をコントロールする発想が必要
洞察
雇用契約書を明確に定める。それをしない人は本質的に経営する気がないのかもしれない
吉田さんは、本当に経営の執念がある人はこう考えるといい、シフトがめんどくさいと言っている人は本質的に経営する気がないのかもしれない、という洞察が導き出せると話します。
こうした話をしてあげると、お客さんは「自分の経営は浅かった」と気づくはずだと言います。AIは「大変ですよね、こういう方法がいいんじゃないですか」までしか答えてくれないため、一歩上をいく洞察を出せる人はAI時代も残っていくはずだと締めくくります。
まとめ
吉田さんは、5年後にはさすがに社保手続きと給与計算をAIがやる時代が来ると予測しつつ、お客さんと信頼関係を作り、深い洞察を提供できる事業を目指したいと話して回を締めています。
- 5年後の2030年頃には、社保手続きと給与計算をAIが担う時代が来ると予測している
- 補助職はデータ加工などの作業職が消え、フロント対応と物理的作業職が残ると見ている
- ONE HEARTは正社員中心の採用戦略をとる一方、AIが上司機能を代行しパートタイマーが残る見方もある
- 士業は作業ではなく信頼に対してお金をもらっているため、信頼関係を作れる人が残る
- 少ない事象から経営の本質を見抜く洞察力を持つ人は、AI時代でも必要とされる





