そもそも生命保険で退職金は準備できるのか
今回のテーマは、生命保険を使って退職金を準備するときのメリットとデメリットです。前週の中退共の話に続くシリーズ第3弾にあたります。
吉田さんは社労士の仕事を10年近く続けるなかで、退職金の準備といえば生命保険が定番だと感じてきたと話します。
ところが、社労士業界や生命保険業界の外にいる人と話すと、意外な反応があったといいます。
そもそも生命保険を使って退職金の準備ができるっていうのが意外でしたって言われました。これすごいハッとしましたね。
生命保険は、その名の通り生命にかける保険です。事故で亡くなったり重い障害が残ったときに、遺族や本人へ多額の金銭が給付されるのが本来の役割です。
ただし生命保険にはいろいろなタイプがあり、退職金の準備に充てられる生命保険のタイプもあるというのが今回の出発点です。
コツコツ貯金より生命保険が有利といわれる理由
メリットの話に入る前に、吉田さんはまず「何と比較して生命保険がいいのか」を押さえたほうがよいと言います。
退職金を準備するとは、従業員の誰かが辞めたときに、まとまったお金が必要になるということです。予備知識がなければ、普通は貯金で備えようと考えるはずです。
ところが会社経営では、コツコツ貯金することが必ずしも有利ではないと吉田さんは指摘します。会社は毎年決算を組み、法人税 ── 会社などの法人が得た所得(利益)に対してかかる税金。会社は毎年の決算をもとに納税額を計算して納める。を納めなければならないからです。
貯金で備える場合、利益から法人税を引いた後のお金を積み立てていく流れになります。つまり税金を取られた後のお金から貯金することになり、少しもったいないというわけです。
一方、生命保険を使うと違うことが起こります。全額ではありませんが、掛金の半額を法人税の計算のときに損金 ── 法人税の計算上、収益から差し引ける費用のこと。損金が増えるとその分だけ課税対象の利益が減り、税負担が軽くなる。として組み込めるといいます。
その結果、法人税の計算では税金が安くなります。税金を安くしつつ、将来の退職金の準備ができるという点で、オーソドックスな貯金よりも有利だと言われているのです。
経営者自身も入れる、生命保険5つのメリット
ここから本題として、生命保険のメリットが順番に挙げられます。
1つ目は、中退共と違って経営者自身が加入できる点です。前週の話では中退共に経営者本人は入れないと説明されましたが、生命保険なら経営者も加入できます。
そのため、経営者が万が一亡くなったときや、将来勇退するときも、退職金の準備として生命保険を活用できます。
2つ目は、柔軟な制度設計が可能なことです。生命保険には多くの商品があり、選ぶのは大変な面もありますが、裏を返せば状況に合わせた設計ができるということです。
3つ目は、経営がピンチのときに解約できることです。長く経営していれば、来月の支払いのお金が足りない場面もあるかもしれません。
そうしたときは早めに生命保険会社へ連絡し、解約すると解約返戻金 ── 生命保険を途中で解約したときに契約者へ払い戻されるお金。それまで払い込んだ保険料の一定額が戻ってくる。が戻ってきます。それを翌月や再来月の支払いに充てられるのです。
4つ目は、退職や死亡だけでなく、障害のときも給付の可能性があることです。生命保険には障害時にも給付が出るタイプがあります。
この点について、吉田さんはある生命保険の営業担当者とのやり取りが印象に残っていると話します。法人税を納められないNPO法人などでも、生命保険で退職金を準備する意味があるのか尋ねたときのことです。
障害が残った時でも生命保険だったら、その貯金と比較して給付が出るからだと。
死亡や障害への補償がつくところが、単なる貯金とは違うというわけです。
5つ目は、コツコツ貯金するよりも、法人税の計算のときに掛金の半額を損金に入れられる点です。ただしこれは、半額も入れられると見るか、半額しか入れられないと見るかで評価が分かれる部分でもあります。
貯金の場合
法人税を納めた後の利益から積み立てる
生命保険の場合
掛金の半額を損金に入れて税負担を抑えつつ準備
さらに
死亡・障害時の給付や、解約返戻金による資金繰りも可能
信頼できる担当者探しから始まる、4つのデメリット
続いてデメリットが挙げられます。
1つ目は、信頼できる保険営業の担当者を探すのが大変なことです。生命保険の営業にはさまざまな人がおり、なかには押し売りのような対応をする人も現実にはいると吉田さんは話します。
一部の人ではあるものの、信用できる担当者を自分で探さなければならない点は負担だといいます。一般的には、紹介で知り合った人のほうが信頼できるケースが多いと考えられると添えています。
2つ目は、退職金規定を準備する必要があることです。役員の場合などは特に、税務署や税理士に確認しながら進めてほしいとしています。
退職金をきちんと準備したうえで生命保険を契約しないと、税金の計算で不利になる場合があると吉田さんは聞いたことがあるそうです。またスタッフにいくら払うのかを明確にする意味でも、退職金規定の準備は必須だと考えています。
3つ目は、掛金が半額しか損金にならない点です。全額損金になる中退共や確定拠出年金と比べると、この点は物足りないといいます。
4つ目は、生命保険を特定の人にかけることに関わる注意点です。たとえばスタッフAさんに生命保険をかける場合があります。
もしそのスタッフが契約内容を知っていると、「自分にはこれだけ保険がかかっているから、退職のときにこれくらい受け取れるはずだ」と思い込んでしまう可能性があります。
しかし、生命保険から出るお金と、スタッフに支払う退職金は必ずしも一致しません。
スタッフさんにお支払いするお金っていうのは、あくまで退職金規定で定めた金額をお支払いするとか、退職金規定で定めたルールにのっとって、増額したり減額したり、不支給にしたりするっていうのが正しいプロセスなんです。
そのため、まず退職金規定をスタッフに周知することが重要だと吉田さんは強調します。そのうえで実務的なテクニックとして、誰にいくらの生命保険がかかっているかは口外しないほうが会社経営上は楽だと話しています。
中退共・生命保険・確定拠出年金、迷ったらどれか
最後に、退職金準備の全体像として吉田さんは総括を示します。中小企業の退職金準備は、大きく3択だといいます。
その3つは中退共、生命保険、確定拠出年金です。それぞれに向き不向きがあると整理しています。
中退共は経営者自身が入れないため、吉田さんはあまり勧めていません。次週に取り上げる確定拠出年金は、いい制度だとしつつも手続きが大変で、やるなら覚悟が必要だと話します。
これらに比べると生命保険は、よい営業担当者がサポートしてくれれば手続きが楽で、何かあったときも相談に乗ってもらいやすいケースが多いといいます。
| 選択肢 | 経営者の加入 | 吉田さんの見解 |
|---|---|---|
| 中退共 | 入れない | あまり勧めていない |
| 生命保険 | 入れる | 迷ったらまず検討 |
| 確定拠出年金 | 番組内で言及なし | いい制度だが手続きが大変で覚悟が必要 |
まとめ
生命保険は、税負担を抑えつつ退職金を準備でき、経営者自身も加入できる柔軟な手段です。一方で信頼できる担当者探しや退職金規定の整備といった手間もあり、迷ったときの入口として吉田さんは生命保険を勧めています。
- 生命保険は掛金の半額を損金にでき、貯金より有利に退職金を準備できると言われる
- 経営者自身も加入でき、死亡や障害時の給付、解約返戻金による資金繰りにも使える
- 信頼できる保険営業探しや退職金規定の準備が前提となり、損金は半額どまりという弱点もある
- 退職金はあくまで退職金規定に沿って支払い、誰にいくら保険がかかっているかは口外しないのが無難
- 退職金準備は中退共・生命保険・確定拠出年金の3択で、迷うなら生命保険からの検討が勧められている






