労基署は本当にそんなに「怖い」のか
以前、労基署は怖くないと語っていた吉田さんに対し、安田さんは率直な疑問を投げかけます。それでも経営者にとって、労基署の存在は怖いのではないかという問いです。
吉田さんによれば、経営者は労基署が自社に来たらどうなるのかと、強く心配しているケースが多いといいます。
経営者の方はよく労働基準監督署のことをすごく怖がっているというか、うちの会社に来たらどうなるんだろうっていうのはすごく心配されているケースが多いんですね。
ただ吉田さんは、経営者が不安に思っている度合いからすると、そこまで厳しいことは言わないと考えています。
もちろん指導自体は厳しく言ってくるものの、監督署が言いすぎて会社が事業を続けられなくなれば、そこで働くスタッフ全員が職を失いかねません。
だからこそ、監督署は表立っては言わないものの、会社の実態に合わせた指導をしている、というのが吉田さんの実感です。
過去を罰するより、未来へ向けて直す指導
監督署のスタンスについて、吉田さんは過去の是正だけを求めるものではないと説明します。
もちろん過去の問題を指導したり是正勧告を出したりすることはありますが、基本は未来に向かって直していきましょうという指導が多いといいます。
スタンスとしては、未来に向かって直していきましょうっていう指導が多いです。
安田さんは、会社が存続していくことを第一に寄り添っている印象だと受け止めます。
労基署はどんなときに会社へ来るのか
続いて安田さんは、労基署が会社に来るパターンについて質問します。
労基署が会社に来るって、どういうパターンがあるんですか?
安田祥子 さんからの質問
会社側から見て、どういう理由で調査に来たのかは基本的にわからないことが多い、というのが吉田さんの答えです。
吉田さんが監督官から聞いた話では、いくつかパターンがあるといいます。たとえば、その会社のスタッフが監督署に相談に行った場合です。
残業代が払われていないといった相談が来ていれば、監督署としても動かざるを得ません。
なかには、自分の名前を出してもいいから調査してくださいと申し出る、非常に強気な人もいるそうです。
もう私の名前を出してもいいから、それで調査をしてくださいみたいな人もいます。
ただし、こうしたケースはほとんどないと吉田さんは補足します。
普通はある日突然、調査ですと文書を持って来られます。スタッフが垂れ込んだのか、無作為の調査なのかは、わからないことが大半だといいます。
指導される期間はどこまで?「直近」が中心
話は前後しますが、と断りつつ、吉田さんは指導できる範囲についても触れます。
未払い賃金であれば、時効の関係で最大3年分まで指導できるものの、その限界まで指導してくることはあまりないといいます。
実際には、過去半年分や3ヶ月分など、直近を中心に指導されることが多いという説明です。
ただしこれは、点検してみたら不備が見つかった、という普通の会社を前提とした話です。
人が亡くなっているようなケースでは、過去のことであっても経営者が書類送検される可能性があると、吉田さんは前提を明確にしています。
最初に見られるのは「命」、次に「お金と時間」
普段から気をつけるべき点について、吉田さんはまず監督署が最初に見てくるポイントから話すべきだといいます。
そもそも労働基準法は、従業員の命を守るための法律だという点が出発点です。
そのため、命が懸念される状態であれば、そこが最初に指導されます。月80時間以上の労働で過労死の恐れがある、安全が十分に担保されていない、といった状態です。
人が亡くなる可能性があるなら、自社の働かせ方が生命に危険を及ぼしていないか、まず専門家に相談しておくべきだと吉田さんは勧めます。
命の危険がないと判断された次に見られるのが、お金と時間です。具体的には、タイムカードを適切に記録しているか、その記録から正しく残業代を支払っているかです。
だからこそ、普段からスタッフにタイムカードを打つよう指導し、そこから正しく計算して残業代を払うことが重要になります。
安田さんは、一に命、二にお金と時間という優先順位は、人生で考えても同じではないかと受け止めます。
なお安田さんは、過労死だけでなく、パワハラなど精神的な苦痛による死も命の部分に含まれるのかと質問します。
吉田さんは、うつ病になって自殺してしまうケースなどもあるため、事実があれば監督署が指導する可能性はあると答えています。
上場準備中の会社にとっての是正勧告の重み
最後に吉田さんは、これだけは伝えておきたいというポイントを挙げます。
是正勧告は誠実に対応していれば大きな問題にはならない、というのはあくまでIPO準備中でない一般の事業会社の話だという注意です。
上場準備中の会社にとって、是正勧告が下りることは非常に重いといいます。
上場する会社は株式を公開してパブリックカンパニーになるため、法律は完璧に守っているのが前提だからです。
その状態で調査を受け、法律違反として是正勧告を指摘されると、上場スケジュールが延期になる可能性があるといいます。
上場準備中の会社は、是正勧告が下りるっていうのは非常に重いことなんですね。
だからこそ、自社がどういう状態にあるのかを踏まえて進めたほうが、調査対応も効率的に行えると吉田さんは話します。
突然来たら?やってはいけない対応
安田さんは、やましい部分があったときに逃げたり隠れたりするドラマのシーンを引き合いに、実際はどうかと尋ねます。
吉田さんの答えは明確で、どんな状態でもそれはやめたほうがいいというものです。
素人でも知っているようなドラマのシーンのような対応は、絶対に避けるべきだと締めくくられました。
まとめ
労基署は経営者が恐れるほど一方的な存在ではなく、会社の実態に合わせ、未来に向けた改善を促す姿勢が中心だと語られました。過度に恐れるのではなく、命・時間・お金の優先順位を理解し、日頃から誠実に対応することが重要だという回です。
- 監督署は事業継続を踏まえ、過去の是正より未来に向けた改善指導を重視する傾向がある
- 調査理由は会社側からはわからないことが多く、指導は直近期間が中心になりやすい
- 最初に見られるのは命、次にお金と時間。タイムカードの記録と正しい残業代支払いが基本
- 是正勧告は一般企業なら誠実対応で乗り切れるが、上場準備中の会社には重い影響が出る
- 嘘のデータ提出や調査の無視は最もやってはいけない対応




