10年以上の現場で見えてきた「成長しない会社」の共通点
吉田さんはこの仕事を10年以上続ける中で、多くの会社の労務のお手伝いをしてきたと話します。その経験の中で「この会社は多分成長しないだろうな」と感じる瞬間が何度もあったといいます。
成長しない会社の最大の共通点として吉田さんが挙げるのが、事業計画がないことです。
吉田さんは初回の面談で必ず「この会社をどうしていきたいのか」を聞くそうです。そのゴールによって、必要な労務管理のレベルが変わってくるからだといいます。
会社のゴールとしては、一般的にIPOやM&A、事業承継などが挙げられます。たとえばIPOを目指すなら高いコンプライアンスが求められるため、社労士としてのアドバイスもレベルを上げる必要があると吉田さんは説明します。
そうでないケースであれば、顧客の顔色を見ながら、嫌にならない程度に押さえるべきポイントに優先順位をつけて進めていくといいます。
一方で、この質問に対してまったく回答が返ってこない会社は伸びないと吉田さんは感じています。ゴールがないということは志もなく、志がないから人もついてこないというわけです。
試用期間中の社会保険「ズル」が示すもの
ここから吉田さんは、成長しない会社がやりがちな各論に入っていきます。経営者には自社が当てはまっていないか、勤め人には自分の会社が該当していないかを問いかけます。もし該当しているなら、転職を検討したほうがいいとまで話します。
1つ目の特徴は、社会保険の「ズル」をしている会社です。吉田さんが社労士を始めた10年ほど前は、試用期間中に社会保険に入れない会社が珍しくなかったといいます。
たとえば、数日で辞めてしまうと社会保険料がもったいないという理由で、加入手続きをわざと遅らせるケースです。本来は入社日から5日以内に手続きしなければならないところを、あえて1ヶ月後にして、その間に社員が辞めてしまえば手続きをしないというやり方です。
吉田さんは、こうした行為ははっきりと不正であり、やめるべきだと述べます。そのうえで、経営者が本当に考えるべきは別のところにあると指摘します。
志高く新しい職場で頑張ろうと入ってきた人が数日で退職を決めるなら、会社側に何か問題があるはずだと吉田さんは話します。社会保険料を惜しむのではなく、その原因を考えるべきだというわけです。
労働時間を管理しない会社は、なぜ伸びないのか
2つ目の特徴は、労働時間の管理をしていない会社です。吉田さんは、これも成長しないと断言します。
その理由を吉田さんは、事業計画と利益のコントロールから説明します。会社を成長させるには、少なくとも今期どこまで売り上げたいか、最低これくらい稼がなければいけないかを計算する必要があるといいます。
事業は基本的に半永久的に続く前提で動くため、長い目で見て常に売上が費用を上回り、利益が出ている状態をコントロールし続けなければならないと吉田さんは述べます。
そのために、売上は営業先をリストアップして計画的に作り、費用は一定金額以下に抑えようという発想になるはずだといいます。そして費用の中には人件費が含まれます。
利益を出し続ける
売上が費用を上回る状態を長期的にコントロールする
費用を抑える
費用を一定金額以下に抑える発想になる
人件費を管理する
費用の中の人件費もきちんと管理しようとする
労働時間を管理する
日本の労働法では時間と給料がリンクするため、時間管理が必要になる
日本の労働法は突き詰めると時間と給料がリンクしているため、人件費を管理するには労働時間を管理する必要があると吉田さんは説明します。
だからこそ、労働時間を管理するつもりのない会社の経営者を見ると、そもそも原価や費用をコントロールするつもりがないのではないか、会社経営をするつもりがないのではないかと感じてしまうと吉田さんは話します。
「うちは労働時間を管理していない自由な会社だ」と言う会社もありますが、それは本質的に会社経営から逃げているだけで、いい会社とは言えないと吉田さんは指摘します。
必要のない「1年単位の変形労働時間制」が示す危うさ
3つ目の特徴は、必要のない特殊な労働時間制を導入している会社です。吉田さんは代表例として、1年単位の変形労働時間制を挙げます。
吉田さんは、変形労働時間制そのものを否定しているわけではないと前置きします。本来の制度の趣旨は、忙しい時期は一生懸命働き、暇な時期は早めに帰り、トータルで見れば健康管理上もよいという発想にあるといいます。
たとえば学校などの教育機関では、夏休みの時期は労働時間を減らして早めに帰り、卒業準備の3月や入学準備の4月は忙しいため労働時間を増やしておく、といった使い方が挙げられます。
このように会社側は人件費を増やさずに済み、労働者は閑散期に早く帰れる。こうした本来の目的で1年単位の変形労働時間制を使うのはよいと吉田さんは述べます。
一方で、必要のないところでこの制度を使っている会社は、極限まで少ない賃金で長く働かせたいという目的で使っているケースが多いと吉田さんは指摘します。
吉田さんによれば、最も少ない給料で最も長く働かせられる方法が、変形労働時間制をうまく使うことだといいます。基本給の中でたくさん働いてもらえるようになるためです。
繁忙期に働き閑散期に早く帰る。人件費を抑えつつ従業員の健康管理にもよい
少ない賃金で長く働かせる目的。従業員が定着せず見直しが望ましい
具体的には、1年単位の変形労働時間制では年間2085時間まで働いてもらえるといいます。これを目的に使うと、従業員もそんな会社にはいたくないと感じるようになると吉田さんは話します。
今はタイムパフォーマンスが重視され、いかに短い時間でいくら稼げるかが重要になっている時代です。だからこそ、必要のない1年単位の変形労働時間制は見直して通常のものに戻したほうがよいと吉田さんは述べます。
「儲かっていないから給料が低い」は甘えか
4つ目の特徴として吉田さんが挙げるのは、成長しなさそうな会社の社長が言いがちな「うちの会社はまだ儲かっていないから給料を低くしている」という言葉です。
吉田さん自身もスタートアップや小さな会社では給料を作っていくのが大変だと理解を示します。それでも、相手があることなので、満足いただける労働条件を作り提供しなければならないと話します。
その具体策として吉田さんは、儲かっていない状態でも、せめて世間相場を意識して給料を設定したほうがよいと述べます。
儲かっていないことを理由に世間相場より大幅に低い給料を出すのは単なる甘えであり、そういう人は会社経営に向かないかもしれないと吉田さんは話します。
手元にお金がないのであれば、銀行や政策金融公庫から資金調達をして、きちんとした給料を払うべきだと吉田さんは述べます。そうしないと人が離れ、最後に苦労するのは経営者だといいます。
労務管理が、成長する会社の条件になる
今回吉田さんが挙げた4つの事例に該当しているなら、考え直したほうがいいと吉田さんは呼びかけます。
- 社会保険のズルをしている
- 労働時間の管理をしていない
- 必要のない1年単位の変形労働時間制を導入している
- 世間相場を想定せずに給料を設定している
最後に吉田さんは、顧客に必ず伝えていることとして、プロダクトやサービスが良ければ必ず会社が伸びるわけではないと語ります。
いい商品やサービスは事業が伸びる絶対条件ではあるものの、それだけでは足りないと吉田さんは述べます。適切な労務管理体制や経理などのバックオフィス体制がないと、会社の状態を正しく把握できず、人の管理もできないからです。
労務管理の体制を立てて事業運営し、事業計画を作って計画通りに動かしていくことが、成長する会社の特徴だと吉田さんは締めくくります。
まとめ
社労士の吉田優一さんは、10年以上の現場経験から「成長しない会社」に共通するサインを、労務管理という切り口で4つ挙げました。その根底には、事業計画やゴールがないという問題があると指摘します。
- 成長しない会社の最大の共通点は、事業計画やゴールがないこと
- 試用期間中の社会保険の加入遅延は不正であり、短期離職の原因こそ考えるべき
- 労働時間の管理は人件費と利益をコントロールする経営の基本
- 必要のない1年単位の変形労働時間制は、少ない賃金で長く働かせる目的になりがち
- 世間相場を意識した給料設定と、労務管理体制の構築が成長の条件






