正社員なのに「最初の3ヶ月は有期雇用」という契約書のリスク
吉田さんが社労士業務の中で時々目にするのが、正社員として採用しているのに、契約書をよく見ると最初の3ヶ月だけ有期雇用契約と書かれている会社です。
たとえば正社員の雇用契約書なのに、最初の3ヶ月は4月1日から6月30日までといった契約期間があり、更新条件まで書かれているケースがあると言います。
なぜこうした契約書を作るのか。吉田さんによると、経営者の考えは大体共通しているそうです。雇ってみて自社に合わないと感じたら、最初の有期雇用契約の期間満了で辞めてもらいたい、という発想です。
一方で、最初から3ヶ月の有期雇用と言って募集すると人が集まりにくい。そこで正社員として募集し、契約書も正社員のような形にしておきたい、という事情があると説明されています。
正社員の求人力と有期雇用契約の、その万が一自社にフィットしない場合に、いつでも契約期間満了で解約できるっていう、両方の権利を会社側で保持しておきたいっていうニーズでやるみたいなんですけれども、それは良くないです。
吉田さんは、この両取りは良くないと明確に述べています。理由は、裁判になったときの判定にあります。
正社員の雇用契約書に「最初の3ヶ月は有期雇用契約」と書いてあっても、3ヶ月で合わないから辞めさせようとした場合、裁判所の判断は会社の意図とは逆になりやすいと言います。
いや、これ有期雇用契約じゃなくて、単なる試用期間だから、そんな簡単に辞めさせることはできないですよっていう判定になって、いわゆる不当解雇っていう形になるケースが非常に多いんです。
試用期間とは何か、有期雇用契約と何が違うのか
そもそも試用期間とは何か。吉田さんは、これは主に正社員向け、つまり無期雇用契約の人に向けた制度だと説明します。
日本の雇用慣行は正社員を中心とした長期雇用前提で組まれているため、長くやっていけるかを会社もスタッフも見極める必要があります。そのお試し期間として試用期間を設けるという考え方です。
ただし労務の実務を知る立場からすると、試用期間はイメージほど「合っていない」制度ではないと吉田さんは指摘します。
経営者は試用期間中ならすぐ辞めさせてよいと考えがちですが、実際は裁判所の扱いでも、試用期間中のほうが会社から辞めさせるのがほんの少し楽になる程度で、ほとんど変わらないと言います。
富士山が10合まであったとしたら、10合登るも大変だと思うんですけど、9合登るも大して変わらないぐらい大変じゃないですか。それくらいの差ぐらいしかないんです。
一方の有期雇用契約は、その名の通り雇用契約に期間の定めがある契約です。原則論では、3ヶ月の有期雇用契約なら3ヶ月で契約終了になります。
3ヶ月の翌日から次の契約があるかどうかは双方の合意次第で、実際には契約書の書き方によって変わると吉田さんは説明します。
当然次があると読める書き方、今回で終わりと定めた書き方などがありますが、更新するときもあればしないときもあるという書き方が実務では一番多いそうです。
主に正社員(無期雇用)向けの制度。長く続けられるかを双方が見極めるお試し期間で、期間中でも解雇のハードルはほとんど下がらない。
期間の定めがある契約。原則は定めた期間で終了し、次の契約があるかは契約書の書き方と双方の合意次第。
意味がないようで意味がある、試用期間の実務的な役割
ここまで聞くと「試用期間には意味がないのでは」と感じる人が多いはずです。吉田さん自身も、その指摘は一定その通りだと認めます。
ただし、実務的に全く無意味かというとそうではないと続けます。試用期間があると、退職勧奨で合意退職してもらう場面で、本人も同意しやすくなる効果があると言います。
試用期間だから、まあじゃあすいません、うちの会社合わないんで辞めてもらえませんか?みたいなことを言った時に、退職勧奨で合意で退職していただく時もなぜか同意しやすいっていうのはあります。
入社した本人も試用期間という前提があると諦めがつきやすいこと、裁判になったときにも解雇のハードルがほんの少し下がることから、試用期間はきちんと設定しておいたほうがよいと吉田さんは述べています。
試用期間の本当の価値は「延長」にある
吉田さんが最も伝えたいのは、試用期間の本当の価値は延長にあるという点です。ここをうまく使えていない会社が非常に多いと言います。
試用期間の本当の価値っていうのは、延長にあります。ここがなんかうまく使えてない会社が非常に多いんですよ。
試用期間は3ヶ月に設定する会社が多く、そこから最大6ヶ月まで延長できる建て付けが多いと説明されています。
まず入社時に期待成果を伝えます。営業なら何件取ってこないと正社員は難しい、事務なら1時間あたりこれくらい処理してほしい、といった具体的な基準です。
そのうえで、たとえば2ヶ月やってみて合格ラインに届きそうにないスタッフがいた場合、そのスタッフと面談し、パフォーマンスが出ていないので試用期間を延長させてほしいと伝えます。
延長するときは、ただ頑張ろうと言うだけでなく、面談や教育プログラムを用意し、6ヶ月後に本採用できるよう一緒に取り組むコミュニケーションを取ることが重要だと吉田さんは強調します。
このコミュニケーション自体に大きな意味があると吉田さんは言います。うまくいけば、本人がそれをバネに頑張り、本当に正社員として適性がある状態になれる可能性があります。
本採用に至らない場合の落とし穴と円滑な労使関係
一方で、残念ながら本採用できないと判断せざるを得ない場合もあります。ここで吉田さんが注意を促すのが、やはり解雇のハードルの高さです。
6ヶ月後に本採用拒否という形で解雇したとしても、解雇のハードルは高く、裁判沙汰になると会社は非常に不利になると説明されています。
そのため、うまくいかない場合は合意による退職に持っていくことになります。このとき、試用期間と延長を丁寧に運用していたことが効いてくると言います。
3ヶ月の試用期間があり、会社も期待を込めて一緒にやってきたうえで難しいと伝えると、スタッフ側も諦めがつき、会社が一歩譲歩したのだから自分も一歩譲歩するか、という形で合意退職に至りやすくなります。
会社も一歩譲歩してくれたんだし、私も一歩譲歩するかみたいな形で合意退職に至りやすいんです。こうすると、会社の労務管理のリスクっていうのは大幅に減るんです。
解雇の論点だけで見ると試用期間はあまり関係ないものの、実務では試用期間とその延長が非常に重要だと吉田さんは締めくくります。うまく使って円滑な労使関係を作ってほしいという点が、この回の結論です。
まとめ
正社員の求人力と有期雇用契約の解約しやすさを両取りしようと契約書を混ぜると、裁判で「単なる試用期間」と判断され不当解雇になりやすいと吉田さんは指摘します。試用期間は解雇のハードルを大きくは下げませんが、退職の合意形成や延長という運用で実務的な価値を発揮します。
- 正社員の契約書に「最初の3ヶ月は有期雇用」と書く両取りは、不当解雇と判断されやすく危険
- 試用期間は主に正社員向けの制度で、期間中でも解雇のハードルはほとんど下がらない
- 有期雇用契約は期間の定めがある契約で、次の契約の有無は契約書の書き方と双方の合意次第
- 試用期間の本当の価値は延長にあり、期待成果の共有と面談・教育で本採用を目指す運用が鍵
- 本採用できない場合も、丁寧に運用していれば合意退職に至りやすく、労務リスクを大幅に減らせる




