自己紹介と、ラジオを始めた場所づくりの話
ウェブメディア「Sense of…」編集長の伏見香代子さんは、普段は株式会社しかくいまるという会社を経営しています。
伏見さんは「関係性編集業」というものを掲げ、編集を広く捉えながらコミュニケーションデザインの仕事をしていると話します。
一方、副編集長でデスクを務めるイトウウミさんは、普段は美容系のライターとして活動しています。「Sense of…」では記事の編集やライターとのやりとり、SNSの投稿などを担当しているそうです。
「Sense of…」は、暮らしのことや一人で過ごす時間のこと、好きなもの、苦手なものなど、誰かにとっては小さくても、その人にとっては大切な感覚を、2023年12月から記事の形で届けてきたメディアです。
このラジオでは、記事だけでは伝えきれないことや、書いた人の背景にある偏愛、編集部で話していることなどを、少しずつ話していきたいといいます。
お仕事帰りだったりとか、あと夜の一人時間とか、週末の朝なんかに、なんか気軽な感じでそっと流してもらえたら嬉しいなと思ってます。
「あなたの感性はあなたのもの」に込めた思い
メディアのメインメッセージとして掲げているのが「あなたの感性はあなたのもの」という言葉です。伏見さんは、感性は誰にでもあるものだと前提に置いています。
ところが話をしていると、感性は「センスがある人」や「芸術的な感覚がある人」だけのものと捉えられていることに気づいたと伏見さんは振り返ります。
私的な感覚にはみんなが持ってるものなのに、なんでちょっとそんな特別なものになっちゃったんだろうみたいな感じが、なんか少しあるんですよ。
伏見さんが考える感性とは、人に説明しづらい好きや嫌い、なんとなくいいなと思うもの、逆に感じる違和感、小さなこだわりのようなものです。
(イトウウミ)そもそも伏見さんは感性というものを、昔から大切にしているということですか?
伏見さんは、苦手なこともたくさんあるけれど、手探りで得意なことをできるようにやってきて、それを自分の感性に助けられたと感じることが多いと答えます。編集という仕事の特性もあるかもしれない、と付け加えています。
だからこそ、多くの人にも自分の感性に気づいたり大切にしてもらえたら、というメッセージがあるといいます。時々思い出せる場所のようなものができたら嬉しい、と伏見さんは話しました。
名前の末尾にある「三点リーダー」の意味
「Sense of…」という名前で伏見さんが最も思いを込めたのは、末尾についている三点リーダー(テンテンテン)だといいます。
アバウトページには「その後に何の感性を指しているか私たちは明示しません」と宣言しているそうです。あなたの感性を信じているから、あなたらしさのままに読み物を楽しんでほしい、という思いが込められています。
決めつけるようなことはしたくない、という気持ちが背景にあると伏見さんは説明します。それぞれの感性を大事にしたいのなら、強く言い切ることは避けたい、と考えたそうです。
だからこう、バシッと(何の)Sense ofなんだっけ?っていう感じじゃないよね。なんかちょっとニュアンスを含めたというか。
この姿勢はビジュアルにも表れています。キービジュアルはイラストレーターのヤマナカレナさんが手がけ、ニュアンスカラーを使用。記事内のマーカーや太字も、強い色ではなく柔らかい色を選んでいるといいます。
裏方稼業の編集者が、あえて表に出てみる
イトウウミさんは、ライターが書いてくれる記事を一記事ずつしっかり読んでいて、本当にいいと感じると話します。
伏見さんは、編集やライターの仕事は基本的に裏方稼業だと語ります。ポッドキャストを始めるのも腰が重かったと明かし、表に出たいタイプはそんなにいないと話します。
なんかこう、縁の下の力持ちみたいな。なんかそういう方がね、私たちのなんかやっぱ家業としてはあるかなと思うから。
それでも、いい記事を読んでもらえる機会を増やせたり、メディアをいい形で知ってもらえるなら、とラジオを始めたといいます。
一方で、届けたいことが届けたいように届けられない時代だという実感もあると伏見さんは話します。SNSのアルゴリズムが優先され、ショート動画に時間を使うのも仕方ないと理解を示します。
ただ、編集部でよく言っているのは、こういうものが好きな人もいなくならない、ということです。文章を読むとか書くとかって普遍的なものがある、と伏見さんは考えています。
「編集」とは、集めて編み直し、より良くすること
冒頭で伏見さんが口にした「関係性編集業」という言葉について、イトウウミさんが編集をどう捉えているのかを尋ねます。
(イトウウミ)伏見さんが考える編集って、大きく考えたときにどう捉えているんですか?一般の人だと編集がどういう作業なのかわからないと思うので。
伏見さんは、映画やドラマに出てくる編集者のイメージにも近い仕事をしたことはあると認めつつ、編集の本質を文字通りに説明します。
(編集は)文字の通りに何か集めて編む、集めて編み直すみたいなこと。なんかそれはすごい本当に読んで字のごとくって思うことはあるよね。
原稿、画像素材、デザイン素材などの材料を集めて、より良い形で世に放つ。そこが編集の肝であり、概念的に一番大事なところだといいます。
ウェブコンテンツの中には、予算や体制の問題で編集者がいないメディアも実際に多いと伏見さんは指摘します。だからこそ、自分がやる仕事なら編集は絶対にいるべきだと言っていきたい、と語ります。
より良くするところに価値を見出しているからこそ、編集者は知られているよりも裏方としていろいろ立ち回っている、ということも知ってもらってもいいかもしれない、と伏見さんは話しました。
「何を感じたってよくって、何も感じなくたっていい」
アバウトページには「何を感じたってよくって、何も感じなくたっていい」という言葉が書かれています。これはこのラジオの冒頭でも毎回言っていく予定だといいます。
伏見さんは、今はSNSで声が大きい人や強い意見に流されがちな雰囲気があり、失敗できない社会の空気や余裕のなさを強く感じていると話します。
だからこそ、自分が感じたことをもう少し信じてもいいのではないか、と伝える場所を作りたかったといいます。読者の感覚に任せ、委ねるという意味でこの言葉を書いたそうです。
ただ、この文章は照れ隠しも込めて編集部に見せたと伏見さんは明かします。夜に書いたため、少しポエティックなものになったといいます。
深夜に書いたラブレターは破り捨てるものだけど、これをあえてそう出すっていう。
ライターとして「書きたい」から始まった関わり
イトウウミさんが「Sense of…」に最初に関わったのは、1ライターとして「ここで書きたい」と伏見さんに連絡したことがきっかけでした。2人はもともと10年ほどの仕事仲間だったといいます。
13年ほどライターとして、人の言葉や企業の思いを文章にしてきたイトウウミさんは、その仕事の楽しさを感じつつも、自分の気持ちや言葉を届けたい思いが大きくなっていた時期だったと振り返ります。
このSense ofっていうメディアだったらなんか書きたいなというか、こういうとこで自分の気持ちをこうさらけ出すみたいなことができたらすごいいいな、幸せだなと思って。
だからこそ、読者が増えることに加えて、「自分もこういうところで書いてみたい」と思う人が増えることも嬉しい、とイトウウミさんは話します。
伏見さんによると、「Sense of…」ではライター募集も行っており、応募してきたライターと顔合わせをして起用することもあるといいます。
ライターが「企画を出す」ことが減った時代に
伏見さんは、ライターが自分で企画を出すこと自体が世の中的に減っている、と指摘します。
背景には、SEO記事のように企業が「こういう記事を書いてほしい」と最初から決めているメディアが増えたことがあると伏見さんは説明します。そのため、書きたいことの企画を出した経験があまりないライターも多いといいます。
ライター向けのイベントで登壇した際にアンケートをしてみると、ライターが企画を出すことにイメージが湧いていない場面があり、それを少し寂しく感じたと伏見さんは話します。
なんかやっぱ書きたい衝動みたいなので書いて、ちゃんと世に放たれる。そういうもののお手伝いをし続けたいなっていう気持ちはやっぱあったんだと思うんだよね。
今の「Sense of…」では、ライターから毎月企画を寄せてもらい、編集部で選定して記事を公開しています。ライターの思いが乗っているところが大事だと伏見さんは考えています。
文章でしか得られない何かを、そっと提供する立場でいたい
伏見さんは、自分がやっているメディアの記事に夜中に触れて、時々泣いてしまうことがあると明かします。ライターの感情を知れてよかった、自分もその気持ちがわかると感じる時間が唯一無二だといいます。
そうした文章に触れること自体が自分の人生にとって大事だから、そういう人が増えたらいいと伏見さんは話します。ウェブメディアがどんどんなくなっていく状況にも触れます。
「Sense of…」は今も広告を入れていないため、運営は簡単ではないと伏見さんは認めます。それでも続ける理由を、こう表現します。
こういうとこに触れる時間とかが、自分の人生からなくなっちゃダメな気がするっていうのが、衝動に駆られているというか。
ありがたいことに書いてくれる人がいて、読んでくれる人がいる。難しい時代だけれど、できる限り続けていきたいと伏見さんは語ります。
このメディアがもしなくなることがあったりとか、そんな世の中になっては絶対ダメって。
業界に長くいて時代の変化を見てきた伏見さんは、文章によって救われたり、自分の気持ちに気づいたりする時間を、そっと提供する立場でいたいと話します。
このポッドキャストも、記事とは少し違うアプローチながら、感性や言葉、文章を大切にしたい人に聞いてもらえたら、とイトウウミさんは話します。
配信は毎週金曜日を予定しており、自分の感性に戻る時間を週のどこかで作ってもらえたら、というのが2人の願いです。次回は、日記やメモなど「書く」ことをテーマにした記事を取り上げて話すそうです。
まとめ
初回は、感性と偏愛をテーマにしたウェブメディア「Sense of…」の2人が、メディアに込めた思いと、ラジオを始める理由を語り合いました。言い切らないこと、より良くすること、そして文章に触れる時間を大切にする姿勢が、番組の土台になっています。
- メインメッセージは「あなたの感性はあなたのもの」。感性は誰にでもあるものだと捉えている
- 名前の末尾の三点リーダーには、何のセンスかをあえて明示しないという思いが込められている
- 伏見さんにとって編集とは、材料を集めて編み直し、より良い形で世に放つこと
- ライターが自分の思いを乗せた企画を出す場を、「Sense of…」は大切にしている
- 文章に触れる時間をそっと提供する立場でいたい、という思いからラジオも始まった






