そもそも社保加入は「選べる」ものではない
今回のテーマは「社会保険に入らないとどうなるのか」です。吉田さんは、会社経営者の視点と従業員の視点という2つの視点で話を進めています。
まず前提として押さえたいのが、社会保険への加入は会社が自由に選べるものではないという点です。
吉田さんによれば、法人で役員報酬を出している場合や、個人事業主でも建設業やクリニックなどで一定の人数がいる場合には、加入義務が発生します。
つまり、儲かってから入るとか、うちはやっていない、といった言い分は通用しないと吉田さんは強調します。
調査で2年分を遡られると会社が詰む
では、加入義務があるのにサボって入っていない場合、会社にはどんなリスクがあるのでしょうか。吉田さんはまず、年金事務所の調査を挙げます。
日本年金機構の下部組織である年金事務所は、定期的に各社へ通知を出し、社会保険にきちんと加入しているかを調査していると吉田さんは説明します。
この調査にあたると、時効期間である2年分を遡って加入するよう指導が出ることがあります。
そうなると、何百万、場合によっては何千万という社会保険料を一気に納めなければならない事態になると吉田さんは話します。
そうすると、まあ何百万、場合によっては何千万という社会保険料を一気に納めなきゃいけないって話になるんですよ。
会社としては払えず、対処に困って詰んでしまう可能性がある。これが未加入の1つ目のリスクだと吉田さんは整理します。
「お金で解決できる」でも残る損害賠償リスク
お金があるから最悪払えば解決する、と考える会社もあるかもしれません。しかし吉田さんは、それでもリスクは大きいと指摘します。
そもそも社会保険には多くの特典があります。医療機関を受診したときの治療費が3割負担になることや、厚生年金による老後の資金準備などです。
さらに、あまり知られていない給付として、遺族年金や障害年金といった予想外の出来事に対する給付もあると吉田さんは補足します。
吉田さんが問題にするのは、若いから病院に行かない、老後はまだ先だ、といった理由で従業員を社会保険に入れないケースです。
若い人であっても、いつ亡くなるか、いつ重い障害を負うかはわかりません。本来なら遺族年金や障害年金を受け取れたはずの給付が失われます。
その場合、本人や遺族が「社会保険に入っていれば受け取れたはずだ」という理由で会社を訴える可能性があると吉田さんは話します。
遺族年金や障害年金は長い期間にわたって支給されるため、損害賠償が何千万円に及ぶこともある。可能性は低いものの、実は大きなリスクだと吉田さんは注意を促します。
「社保なし」を売りにする会社に人は集まらない
こうした話をしても心に響かない経営者もいると吉田さんは言います。中には「社会保険に入らないのはwin-winだ」と主張する人もいるそうです。
誰と誰のwin-winかというと、会社と従業員です。一昔前には、社会保険に入っていないことを求人の売りにする会社もあったと吉田さんは振り返ります。
手取りが1円でも多いほうがよい若者や、帰国を前提とした外国人を数多く雇うようなケースが例として挙げられました。
ただし吉田さんは、帰国前提の人にも脱退一時金による救済があるため、社会保険に入れるべきであり、加入したからといって必ず損になるわけではないと述べています。
そのうえで、社保なしを売りにして人を集めると何が起こるかを、吉田さんは経営者に強く伝えたいと言います。
そうした会社に集まる人はトラブルを起こす可能性が高く、最後に苦しむのは経営者自身だという指摘です。
そういう変な会社に集まってくる人っていうのは、やっぱりトラブルを起こす可能性が高いんです。なので、最後苦しむのは経営者の人ご自身だと思います。
むしろ法律どおりに社会保険へ加入し、しっかりした会社だとアピールしてまともな人を採用するほうが、経営者自身のためになると吉田さんはまとめます。
業務委託にすれば逃げられる、は通用しない
吉田さんは、労働者を意図的に個人事業主扱いにして社会保険から免れているケースにも触れます。これもおすすめできないという立場です。
労働法の世界では、業務委託か労働者かは契約の名称ではなく実体で判断されると吉田さんは説明します。
実体として労働者であれば、当然、社会保険の加入義務が付いてきます。
本来は労働者である人を業務委託扱いにして未加入にするのは、未払いの社保料が溜まっていっている状態だと吉田さんは表現します。
社保調査で指摘される可能性があるだけでなく、会社がM&AやIPOのフェーズに進んだとき、この取り扱いが問題になることもあると言います。
その結果、M&Aの売却が不成立になったり、IPOで大変な思いをしたりするおそれがある。だからこそ適正に加入すべきだと吉田さんは経営者に伝えています。
社保のない会社に入ってしまった従業員はどうする
最後に、吉田さんは従業員の視点に話を移します。入社した会社が社会保険に入っていなかったらどうなるのか、という問いです。
加入義務のある会社、たとえば法人で社会保険に入っていないところに就職してしまった場合、吉田さんはまず退職したほうがよいと述べます。
社労士歴10年の吉田さんの実感として、社会保険に入らずにやっていこうという会社にはまともな会社がなく、得られるものも少ないという判断です。
仮にそのまま社保なしで働き続けると、どうなるのでしょうか。まず、病気で受診したときの治療費が10割負担になります。本来の3倍以上の金額です。
年金についても、本来は厚生年金に入るべきところが国民年金になります。保険料を納めていなければ将来の年金が受け取れないことや、金額が厚生年金より減ることがデメリットです。
さらに、前半で触れた遺族年金や障害年金についても従業員は受け取る側になります。万が一のときに遺族が困る、あるいは自分が障害を負って金銭的にも困る状況になりかねません。
だからこそ、就職や転職した会社が社会保険をやっていないのであれば、その会社を退職して別の会社に移ることをおすすめしたいと吉田さんは話しています。
本来3割負担のところ、10割負担になり本来の3倍以上に
厚生年金ではなく国民年金となり、将来の受給額が減る場合がある
まとめ
社会保険への加入は要件を満たせば選択の余地がなく、サボると会社にも従業員にも大きなリスクが及びます。吉田さんは、会社側の調査・損害賠償リスクと、従業員側の医療費・年金の不利を挙げ、適正な加入を強く勧めています。
- 法人などで要件を満たすと社会保険は加入必須で、儲かってから入るという選択はできない
- 未加入だと調査で2年分を遡られ、多額の保険料を一括で求められて会社が詰む可能性がある
- 遺族年金や障害年金が受け取れなかったとして、会社が損害賠償を請求されるリスクもある
- 労働者を業務委託扱いにしても実体で判断され、M&AやIPOの場面で問題になりうる
- 従業員側は、社保のない会社では医療費10割負担や年金の不利が生じるため、退職・転職が勧められている




