そもそも起業直後に社労士へ相談するのは珍しい
この回のテーマは「起業したらすぐに社労士と契約したほうがいい人」です。本題に入る前に、吉田さんは社労士との契約タイミングの一般論から話し始めます。
吉田さんによると、起業してすぐに社労士へ依頼するケースは、実は珍しいそうです。
では、これから起業する人が最初に相談を持っていくべき相手は誰なのか。吉田さんは、大体のケースで税理士だと話します。
理由は、会社を起業して最初に出てくる悩みが、大体お金の悩みだからです。どこから資金を調達し、どこに使うか。そしてお金を使えば会社として記録を残す必要があり、その方法をどうするかといった悩みが出てきます。
社労士が登場するのは、その後です。ビジネスが発展してスタッフを雇い、それが5人、10人ぐらいになったときに社労士と契約するケースが多いといいます。
つまり原理原則でいくと、起業してすぐに社労士のお世話になるのは珍しいというのが吉田さんの整理です。ただし業種や事業展開の考え方によっては、起業してすぐ契約したほうがいいパターンがあると続けます。
箱物ビジネスと資格商売で最初から社労士が必要な理由
最初に挙げられたのは、箱物ビジネスをやっているケースです。飲食店やクリニック、福祉系施設など、不動産の中でビジネスをしている業種を指します。
箱があるということは、その中に人がいるという前提になります。最初からスタッフがいる状態なので、人の専門家である社労士とある程度の契約を結んでおいたほうがいい、と吉田さんは話します。
特に注意が必要なのが、クリニックのような資格商売です。開業医が独立開業する場合、看護師など資格を持つ人を雇用することになります。
資格を持つ人は転職が容易で、いろいろな職場環境のルールを知っています。そのため「前の職場ではこういうルールがあったんですけど」と聞かれることがあると吉田さんは説明します。
前の職場だったら入社初日から有給休暇が使えたんですけど、この職場って有給初日から使えないんですか、とか聞かれたりするわけです。
吉田さんによると、前の職場で入社初日から有給が使えたのは良いことですが、法律上の最低基準では有給休暇は入社してから半年後に使えるようになります。そのため、自社は半年後から有給が使えると言って問題ありません。
問題は、相談する相手がいないケースです。前の職場に合わせて有給を与えなければいけないのかと思い込み、それが後々ルールの不平等につながって大変な思いをする可能性があると吉田さんは指摘します。
だからこそ、どういうものが客観的な基準なのか、世の中の相場なのかを相談できる相手がいるといい、というのが吉田さんの考えです。箱物ビジネスで人をたくさん雇う人は、最初から社労士と契約したほうがいいと話します。
急拡大やルール違反が命取りになる業種の備え
吉田さんは、急拡大が見込まれる業種も最初から社労士と契約したほうがいいと挙げます。例えば数年後に上場を目指すような志の高い経営者のケースです。
そうした場合、急拡大の時に組織が崩壊しないようなルール作りを、起業の時から進めておいたほうがいいといいます。
もう一つが、ルール違反があると困る業種です。クリニックのように医療は細かくルールが決まっていて、逸脱すると営業ができなくなることもあります。
飲食店も同じです。吉田さんは、ルール通りに調理をせず食中毒が起きたら、飲食店の場合は会社が潰れてしまうと話します。
だからこそ、就業規則や雇用契約書で「こういうことは守ってください」とちゃんと伝えたほうがいい、というのが吉田さんの主張です。ルール違反で一気に傾くような業種も、最初から社労士と契約したほうがいいとまとめます。
大企業出身者がつまずく社会保険の勘違い
ここから吉田さんは、起業あるあるとして「これって実は間違いですよ」という話に移ります。今まで社労士として起業時から手伝ってきた経験がもとになっています。
例えば大企業にいた人がいきなり独立開業した場合、社長として何をしなければいけないのかを、あまり理解していないケースも多いと吉田さんは話します。
会計や税務は税理士に頼ることが多い一方、労務関係には社会保険の手続きや労災保険の手続きがあります。ここに誤解が起きやすいといいます。
まず、スタートから法人で起業した場合、役員報酬が最初から出ていれば社会保険に入らなければいけません。ところがサラリーマンの感覚だと、社会保険は入社すれば会社が勝手に健康保険証を作ってくれる、自動的に入れるものだと思い込んでいる人がいると吉田さんは指摘します。
実際にはそうではありません。法人登記して1か月待てば健康保険証が勝手に届くわけではないのです。
日本年金機構に対して、法人としてこの場所でいくら給料を受け取っているので健康保険証の発行手続きをお願いします、といった各種の届け出をしないと、健康保険証はいつまでも発行されないと吉田さんは説明します。自分でやらなければいけないので、法人で起業した人は社労士に相談したほうがいいと話します。
2社から役員報酬を受け取る人が陥る社会保険の落とし穴
もう一つの社会保険の勘違いとして、吉田さんは、他の会社で社会保険に入っているから新たに入らなくていいと考えるケースを挙げます。これは間違いだといいます。
A社から役員報酬を受け取っていて、B社からも役員報酬を受け取っている場合、それぞれで社会保険に入らなければいけません。健康保険証はどちらから発行するかを選ぶ必要があると吉田さんは説明します。
もし片方の会社で入っているからもう片方は入らなくていいと思い込んでいると、年金事務所の調査に当たったときに問題になります。
片方の会社で社会保険に入ってるから、もう片方入らなくていいやって思い込んでた人が、ある日、年金事務所の調査に当たったら「入らないのおかしいですよね」っていうことになる。
その場合、2年間分の保険料を払ってくださいと言われることになります。吉田さんは、何十万、場合によっては何百万という金額を請求される可能性もあると注意を促します。
人を雇うなら必ず社労士に相談すべき労災・雇用保険の話
最後に吉田さんが取り上げたのは、スタートから人を雇うケースです。珍しいとしつつ、そういう人は必ず社労士に相談したほうがいいと話します。
理由は、社会保険だけでなく、労災保険や雇用保険もちゃんと手続きをしないといけないからです。
仮に労災保険や雇用保険の手続きをしていない状態で労災事故が起こったとします。多くは軽いものですが、場合によっては人が亡くなったり後遺障害が残ったりすることもあると吉田さんは述べます。
そうしたケースで労災保険の手続きをしていなければ、会社の経営者は責任を問われます。さらに従業員から「なんで手続きしてないんですか」と信頼を失うリスクもあると指摘します。
以上が、この回で語られた「起業したらすぐに社労士と契約すべき人」の内容です。吉田さんは番組の最後に、TwitterやDM、社会保険労務士法人ワンハートのホームページからの相談も受け付けていると案内しています。
まとめ
起業してすぐに社労士と契約するのは一般的には珍しく、最初は税理士に相談するケースが多いものの、業種や事業展開によっては起業直後の契約が有効です。特に社会保険や労災保険の手続きには勘違いが起きやすいと吉田さんは注意を促しています。
- 最初に相談するのは多くの場合税理士で、社労士はスタッフが5人〜10人になった頃に契約するケースが多い
- 箱物ビジネスや資格商売、急拡大が見込まれる業種、ルール違反が命取りになる業種は起業直後の契約が有効
- 法人で役員報酬が出ていれば社会保険加入が必要で、健康保険証は届け出をしないと発行されない
- 2社から役員報酬を受け取る場合はそれぞれ社会保険に入る必要があり、放置すると多額の保険料を請求される恐れがある
- スタートから人を雇うなら、労災・雇用保険の手続きのためにも社労士へ相談したほうがよい



