労基署の調査は、年間どれくらい行われているのか
今回のテーマは労働基準監督署の調査です。経営者と話していると、労基署を恐れている人は実は多いと吉田さんは話します。
では、どれくらいの頻度で調査が行われているのでしょうか。厚生労働省のデータでは、年間おおよそ15万件から17万件ほどの調査が毎年行われているそうです。
吉田さんの事務所でも、この回を収録している2023年4月の時点で、1月から4月までの4ヶ月ですでに2件の立ち会いと改善報告を行っているといいます。
調査はどう始まる?書面が来たときにやってはいけないこと
調査はどのように始まるのでしょうか。大体のパターンは、会社に労働基準監督署から書面が届くところからです。
その後の流れには2種類あります。労働基準監督官が会社に来社するパターンと、指定された日に労働基準監督署へ来てくださいと呼び出されるパターンです。
労働基準監督官が会社を訪れて調査を行う
指定された日に会社側が労働基準監督署へ出向く
書面が届くと、経営者は不安になったり、どうすればいいかわからなくなったりするかもしれません。ですが、まず日程を確認することが大切だと吉田さんは言います。
指定された日程で対応できるなら、そのまま受けるのが一番よいとのことです。都合がつかない場合も、きちんと説明すれば日程は変更できます。
一方で、予定があるからと無視したり、雑な対応をしたりするのは、労働基準監督署の心証を悪くするため避けるべきだと話します。
やってはいけないことは他にもあります。呼び出しをもらっているのに行かない、監督官が来ているのに外で長時間待たせるといった対応です。
理由は、監督官も人だからです。誠実に対応している会社には適正な範囲で指導しようとし、いい加減だと感じられれば厳しい指導が入る可能性が高くなります。
なお、必ず書面から始まるとは限らない点にも注意が必要です。悪質なケースだと、突然訪問されることもあるといいます。
労基署がまず確認する「労働者の命と安全」
ここからは調査で見られるポイントの話です。業種ごとに論点はありますが、大きく3つに整理できると吉田さんは言います。
1つ目は、労働者の命や安全が危険にさらされていないかという点です。労働基準法は、そもそも労働者の健康や命を守るための法律だからです。
仕事やオフィスと聞くと、スーツを着たホワイトカラーを思い浮かべる人が多いかもしれません。ですが、そうではない職種も多くあります。
たとえば建設業や製造業の現場では、操作を誤れば人が亡くなることもあります。実際に労災事故で人が亡くなる事例は毎年あると話します。
そのため、労基署の調査ではまず人の命や安全が侵されていないかを確認します。ただし、ホワイトカラー中心の職場ではこの点はほとんど見られないケースが多いようです。
一番見られる「時間とお金の管理」とは
ホワイトカラーの職場で最も見られるのが、2つ目のポイントである時間とお金の管理です。
最初に見られるのは労働時間です。タイムカードを確認し、過労死につながるような長時間労働がないかをチェックします。
たとえば、月80時間以上働いている人がいないかといった見方をします。あわせて、36協定など法律で定められた上限に違反していないかも確認されます。
労働時間は管理して終わりではありません。労働基準法は、時間に応じて給料を払いなさいというルールだからです。
そのため、計測した時間に対して給料が1分単位で支払われているかが確認されます。給与の未払いがないかを見るということです。
お金の部分は、雇用契約書や就業規則によって、時間に応じて払われる給料もあれば、そうでない給料もあります。それらが約束通りに支払われているかも見られます。
見落とされがちな「書類の整備状況」
3つ目は細かい点ですが、書類の整備状況です。
たとえば就業規則は、1つの事業所に10人以上のスタッフがいると労働基準監督署に提出しなければなりません。これをきちんと提出しているかが問われます。
また、残業をさせる場合に必要な36協定を作っているかどうかも確認されます。
3つのポイントを整理すると、次のようになります。
調査の最後に出る「是正勧告書」と「指導票」
こうして調査が進むと、最後にどうなるのでしょうか。会社の労務管理を点検し終えると、2種類の文書が出ます。
1つは是正勧告書です。こことここが法律違反ですよと指摘する文書です。もう1つは指導票で、法律違反ではないものの、こう直した方がよいというアドバイスの文書です。
法律違反を指摘する文書
法律違反ではないが、改善を勧めるアドバイスの文書
中小企業の場合、この両方が出てくるケースが多いといいます。何も指摘されないことはほとんどないため、何かしらの指導が下る前提で考えるようにと話します。
指導が出た後にすべき対応と、再調査を避けるコツ
指導が出たら、それで終わりではありません。会社は、指導に対してどう改善したかをまとめた報告書を作る必要があります。
指導の内容には、たとえば1ヶ月後の何月何日までに改善報告書を提出してくださいと期限が書かれています。その期限に従って改善を報告すれば、調査は終了します。
ただし、どんな報告書でも終わるわけではありません。改善報告書の内容が不十分だと判定されると、もう一度再調査させてくださいという流れになることもあります。
報告書を一度受け取られても、内容が疑わしいと感じられた場合、3ヶ月後や6ヶ月後など近いタイミングで再調査が行われることも珍しくないといいます。
だからこそ、調査があったら1回の報告で完璧に直した方がよいと吉田さんは勧めます。心理的にも物理的にも負担が大きいからこそ、繰り返さないことが大切です。
労務管理は相手があることなので、うまく直せば採用面で有利になったり、離職率が改善したりするはずだと話します。最終的には会社の業績にもプラスになるという見方です。
まとめ
労基署の調査はいつ起こってもおかしくないものです。恐れて雑に対応するより、始まり方と見られるポイントを理解し、誠実に対応することが結果的に会社のためになる、というのがこの回の要点です。
- 調査は年間15万〜17万件行われ、いつ自社に当たるかはわからない
- 書面が来たら日程を確認し、無視や雑な対応は避ける。都合が悪ければ変更を相談する
- 見られるのは「命と安全」「時間とお金の管理」「書類の整備状況」の3つ
- 調査後は是正勧告書と指導票が出ることが多く、中小企業では何かしらの指導が下る前提で考える
- 指導が出たら期限内に改善報告を行い、再調査を避けるため1回で完璧に直すのが望ましい






