そもそも年金事務所と社会保険はどうつながるのか
今回のテーマは、年金事務所が行う社会保険の調査です。吉田さんは、この仕事をしていると「年金事務所の調査イコール社会保険の調査」と当たり前に思っていたと話します。
ところが、社会保険に詳しくない方から思わぬ質問を受けたそうです。
年金事務所と社会保険って何が関係あるんですか、みたいなことを言われて、はっとしました
たしかに「年金事務所」と聞けば、年金の事務をしているところだと想像するのが一般的です。名前だけを見れば、社会保険と必ずしもつながっているようには見えません。
そこで吉田さんは、まず組織の関係を整理します。社会保険を管理している役所は日本年金機構 ── 公的年金や健康保険などの社会保険事務を運営する組織。全国の年金事務所を通じて実務を行っているで、その下の組織として年金事務所があります。
つまり、社会保険の調査は年金事務所が行います。厚生年金や年金の話だけでなく、健康保険の話も年金事務所から調査されると説明されています。
調査はどうやって始まり、どう対応すべきか
では、年金事務所の調査はどのように始まるのでしょうか。まず会社にお便りが届き、「いついつ調査をするので年金事務所に来てください」と呼び出されます。
年金事務所はエリアごとに管轄が決まっています。会社を横浜に置いているなら横浜の年金事務所から呼び出され、そこで調査を受けることになります。
当日は、賃金台帳や出勤簿など、会社が持っているはずの書類を一通り持参して調査を受けます。吉田さんは、労働基準監督署の調査と同じく、誠実に対応することを勧めています。
無視するとどうなるのか。最初はお便りだけですが、対応しないと年金事務所の担当者が会社を直接訪れることもあるといいます。
いきなり年金事務所の調査官が来たけれども、これどうするの、みたいな感じでザワザワすると不安に思うと思うので、誠実に対応することをお勧めします
調査で見られる3つのポイント
社会保険の調査では、社会保険に適正に加入しているかを一番に見られます。吉田さんは、確認されるポイントを大きく3つに整理します。
1つ目は、会社全体としてちゃんと社会保険に入っているかです。法人であれば、原則すべての法人が社会保険に入らなければなりません。
役員報酬も払わず、スタッフもいない法人であれば入らなくてよい場合もありますが、そうした会社は珍しいとされます。基本的には、法人であれば社会保険に入る必要があります。
個人事業主は一般的には加入しなくてよいとされます。ただし注意点があり、建設業など一部の業種では、一定人数以上のスタッフがいる場合は加入が必要です。
2つ目は、スタッフの中で加入すべき人がきちんと加入しているかです。稀に「優秀なスタッフは社会保険に入れるが、能力が低い人は入れない」といった不平等な扱いをする会社があるといいます。
調査では、法律の基準どおりに全員を平等に加入させているか、不正な未加入がないかが確認されます。
加入基準は企業規模によって違いますが、多くのリスナーが該当する規模を前提に説明されています。正社員などフルタイムの労働者の4分の3以上働く契約、または実態として4分の3以上働いている人は加入が必要です。
ここでよくある勘違いが、「パートは社会保険に入らなくてよい」という思い込みです。
3つ目は、加入後の届け出が正しく行われているかです。社会保険は入って終わりではなく、届け出が必要になります。
たとえば、社会保険料は毎年1回、決め直されます。新卒で入って給料が低かった人が、定年までずっと同じ社会保険料のままではおかしいためです。
そのため、昇給幅や実際にもらっている給与に合わせて、社会保険料を毎年7月に決め直します。調査では、この届け出に不正がないかが確認されます。
実際は50万の給料なのに「25万しかもらっていません」と届け出れば、社会保険料も半額になってしまいます。こうした不正がないか、また賞与支払届や昇給時の随時改定などの届け出漏れがないかも確認されます。
不正が見つかると、どんな指導になるのか
では、不正が見つかると、どのような指導になるのでしょうか。吉田さんはまず、最悪のケースから説明します。
社会保険の時効期間は2年です。そのため、2年間遡って社会保険に入らなければならない可能性があります。
たとえば給料30万の人であれば、社会保険料は月額9万円ほどになります。これを24ヶ月分払う必要が出てくるということです。
会社負担分は半分ですが、残りの半分は本人に負担してもらわなければなりません。ただ、これは現実的にとても難しいと指摘されています。
個人に負担してもらえるとなったとしても、スタッフさんの心証はすごく悪いですし、貯金があるとは限らないので、場合によっては物理的に払えませんみたいなことがあります
一方で、実務上はどうなるのか。全員を遡及で入れると会社が潰れる可能性もあるため、たとえば4月に調査があれば「4月1日からちゃんと入ってください」といった指導になることが多いといいます。
ただし、ここは年金事務所の裁量に任される部分があるようです。あくまで法律上は2年遡及される可能性があるという前提で考えておくのがよいと話されています。
「うちは社会保険に入れない」は経営者として失格か
この話をすると、「うちの会社はまだ儲かっていなくて、社会保険なんて入れない」という経営者もいるといいます。吉田さんはその気持ちは理解しつつも、はっきりと厳しい見方を示します。
社会保険料は、どんな会社でも入らなければならず、どんな会社でも負担しているものです。だからこそ、社会保険料は負担する前提でビジネスモデルを組むべきだと吉田さんは言います。
たとえば人件費が月30万かかるなら、社会保険料の会社負担分は月額4万5000円ほどかかります。そのうえで諸経費もかかります。
まともな経営者は、それらを踏まえて「これくらい利益がほしい」と考え、そこから売上目標や顧客単価、商品単価、販売個数を設定していきます。
一方で、一流ではない経営者は「今うちはこれしか儲かっていないから社会保険に入らなくていい」という考え方をする、と対比して説明されています。
社会保険料も含めて必要な経費を前提に、利益・売上目標・単価・販売個数を組み立てる
今これしか儲かっていないから社会保険に入らなくていい、と考える
吉田さんは、もし今の売上だと社会保険に入れないと感じるなら、ビジネスモデルや顧客単価、販売個数の設定そのものから見直すほうがうまくいくと勧めています。
未加入が招く、経営全体への不信
社会保険は法律上入らなければならないものであり、未加入だと2年遡及で莫大な負担が生じる可能性があります。それだけではなく、経営そのものへの影響もあると吉田さんは指摘します。
入っていないという事実は、スタッフからもわかります。入らなければならないのに入っていないと分かれば、会社への不信感につながるといいます。
そうなると、社内でルール違反をした人を指導しようとしても、説得力を失いかねません。
社長だって社会保険、不正してますよねって言われたら、何も言い返せないと思うんですね
だからこそ、ちゃんと社会保険に入る前提でビジネスモデルを組み、しっかりした会社経営をしていきましょう、というのが今回のポイントとして語られています。
まとめ
年金事務所の社会保険調査では、会社の加入・従業員の加入・届け出の正確さという3点が確認されます。不正があれば最大2年の遡及という重い負担が生じるため、社会保険料を前提にビジネスモデルを組むことが大切だと語られました。
- 社会保険を管理する日本年金機構の下部組織として、年金事務所が社会保険の調査を行う
- 調査では、会社の加入・従業員全員の平等な加入・給与額や届け出の正確さが見られる
- パートでも法律の要件を満たせば社会保険への加入が必要
- 不正があると最大2年遡って加入が必要になり、会社・本人ともに負担が大きい
- 社会保険料は負担する前提で、売上目標や単価設定などビジネスモデルを組むことが重要






