そもそも「ジャズって何種類?」という疑問の入り口
今回のゲストは、関西のジャズシーンで単独ソロ公演やコンテストを通じて活動し、昨年から踊り場cueとコラボしてTENダンサーワードの共同主催も担うMIKIHOさんです。
番組はTENの内覧を終えた直後の収録で、去年のTENを思い出すような、ソワソワした空気の中で始まりました。
パンチしょーへーとMIKIHOさんは十数年来の関係で、当時は同じ現場で踊るダンサー同士でした。今はイベントを主催する立場から、出演するダンサーのために何かできないかを考えています。
前編のテーマは、パンチしょーへーの個人的な興味そのものです。ジャズをやっていない立場から見ると、ジャズダンスは種類がとても多く見えるという疑問でした。
ロックダンスだと、ロックかソウルアンドロックくらい。ポップならポップ、ブレイキンならブレイキン。なぜジャズはあんなにも種類がたくさんあるんだ、と。
ダンススクールのオーナーやインストラクターでも、種類を分からないままジャズダンサーにオファーをかけることがあるかもしれない。だからこそ、この機会に知識として整理したいという狙いでした。
そもそも「これはジャズダンスではない」という根っこの話
最初の質問は、ジャズダンスは何種類あってどう違うのか、というものでした。ところがMIKIHOさんの答えは、その前提を覆すところから始まります。
今語られてるジャズダンスは、昔からの歴史を辿ると呼び方が違うんですよ。本当はこれをジャズダンスではないんですよ。
MIKIHOさんが踊っているスタイルは、歴史の大枠で言えばモダンやコンテンポラリーに近いものです。モダンダンス ── バレエの窮屈さから離れ、より自由な身体表現を目指して生まれたダンスの流れ。さらに自由さを求めてコンテンポラリーへと発展したとされる
それでも大阪などでは、ジャズダンスと表記したほうが生徒に分かりやすく、見つけてもらいやすい。だからクラス名としてはジャズダンスにしている、という事情があると話します。
ジャズダンスって言ったほうが生徒さんが分かりやすいとか、見つけやすいから、私自身はクラスの表記としてはそうしておこうかなと思ってるんですけれど。
奴隷の踊りから始まった、ジャズダンスの意外なルーツ
MIKIHOさんは、諸説あることを前置きしたうえで、ジャズダンスの生まれをたどります。パンチしょーへーはバレエに近いのかと予想していましたが、話はまったく別の方向へ進みました。
ジャズダンスの生まれは、アフリカからアメリカに奴隷が連れてこられたじゃないですか。その方々が息抜きに踊りを踊ってたんですね。
床を踏み鳴らしたり、動物のように躍る動きが、最初の始まりだったといいます。その当時から、コンテストのようなものやサークルのようなシーンがあったと話します。
そこからショーケースのような場が生まれ、後にブロードウェイのシアターやフォッシーといった流れの中でバレエと結びつき、シアターのダンスとして発展していきました。フォッシー ── アメリカの振付家ボブ・フォッシーを指すとみられる。独特のポーズやハットを使うスタイルで、ブロードウェイのミュージカルに大きな影響を与えた
ジャネットのバックとかマイケルのバックダンサーとか、そういうのを見て、そこからまたいろんなジャンルとくっついて、今のダンスになってきてるので。
つまり、ジャズミュージックで踊るものがジャズダンスと呼ばれてきた一方で、その源流には民族舞踊や奴隷の踊りまで遡る長い歴史がある、という整理です。
バレエ・モダン・コンテンポラリー、窮屈さから生まれた系譜
MIKIHOさん自身のダンスの源流をたどると、行き着くのはバレエです。ただし、そこからの流れが今のスタイルにつながっています。
バレエが窮屈だとしてモダンダンスが生まれ、そのモダンにも形ができて窮屈になったことでコンテンポラリーが生まれた、という系譜です。
コルセットとかトウシューズを履いて踊るのも、規則正しくて苦しいから取っぱらって。ドレスみたいなのを着て、流れるようにセボネを使って踊るのがモダンとして生まれたので。
だからMIKIHOさんのダンスは、どちらかといえばモダンに近いといいます。ジャズダンスと呼ばれる種類も、本当に根本のものは一個という言葉が、この回の核心です。
バレエ
窮屈さへの反発からモダンダンスが生まれ、さらにコンテンポラリーへ
ジャズミュージック
ジャズ音楽と合わさった踊りがジャズダンスと呼ばれるように
現在
モダン寄りの流れも、音楽由来の流れも「ジャズ」の名で呼ばれる
なぜ種類が増える?「呼びたいように呼んでいる」という答え
チャールストンのようなステップも、ジャズダンスに取り込まれてきました。MIKIHOさんは席を立って動きを再現しながら説明します。
ジャズという言葉には、流れるような動きや女性らしい動きという印象があります。人々がそれを自分に反映させ、好きなジャンルとくっつけて、呼びたいように呼んできた、というのがMIKIHOさんの見方です。
自分が好きなジャンルとくっつけて、自分が呼びたいように呼んでいる。なんで種類はないんですよ。
パンチしょーへーは、この説明をこう受け止めます。ジャズという言葉は一つだけれど、それぞれが自分らしさを突き詰めた結果、いろいろな呼び名が増えていった、という理解です。
ロックやポップのようにジャンルとして確立されたストリートダンスとは、感覚がまた違います。むしろMIKIHOさんは、バトルやシーンから発展したヒップホップやブレイキンに近い流れがある、と指摘しました。
フリースタイル、ジャズヒップホップ、ファンクジャズの正体
概念の話を踏まえたうえで、パンチしょーへーは具体的な呼び名を一つずつ挙げていきます。まずフリースタイルジャズについて尋ねました。
もしフリースタイルジャズのレッスンを受けに行くなら、まず先生の動画を見てから行った方がいいです。
スニーカーを履く人もいれば裸足の人もいる。つまり、その先生自身のジャズがフリースタイルジャズだ、という説明でした。
ジャズヒップホップは、MIKIHOさんの主観ではアイソレーションが強いジャズダンスです。アイソレーション ── 首や胸、腰など体の一部だけを独立して動かす技術。ヒップホップ系のダンスで基礎として重視されるリズムやビートをしっかり取る印象があると、パンチしょーへーも付け加えます。
ファンクジャズは、MIKIHOさんが小さい頃に流行っていて、最近また復活してきた印象があるといいます。安室奈美恵さんやジャネットのバックダンサーのようなイメージで、タイトでセクシーな衣装にスニーカーという姿が思い浮かぶスタイルです。
ジャズって言いながらジャズミュージックでは踊らないとか、ファンクと言いながらとか、ヒップホップと言いながらとか、なんかぽいものみたいな感じなんですかね。
何にも囚われず、先生自身の感覚で生み出すジャズ。まず先生の動画を見るのが安全
アイソレーションが強く、ビートをしっかり取る印象のジャズ
安室奈美恵やジャネットのバックダンサー的な、タイトでセクシーな衣装のスタイル
ブロードウェイミュージカル的で、ハットや黒レオタード、バレエの基礎が土台にある
シアタージャズと「浸る時間」としてのジャズの魅力
シアタージャズは、ブロードウェイミュージカルで踊られるスタイルです。ハットや、ぴちっとした黒のレオタード、はっきりしたポージング、そしてバレエの基礎が土台にあります。
ここでパンチしょーへーは、ジャズには見せるエンターテインメント寄りのものと、自己表現に寄り添ったものがあり、服装も曲も同じ「ジャズ」でありながら全く違うと整理します。それに対してMIKIHOさんは、自己表現に寄るとやはりモダンダンスになる、と応じます。
モダンと名づけるとクラス名として敷居が高く感じられる。だからジャズダンスと名づける人が増えたのではないか、という見立ても語られました。
話は、ジャズを見る側の感覚へと移ります。パンチしょーへーは30歳を超えてから、ジャズが素敵だと思うようになったと打ち明けます。
ストリートダンスのエネルギーを浴びて「私も踊りたい」ってなるよりかは、その空間に浸るみたいなのがジャズの良さかな。
パンチしょーへーは、これに強く共感します。ダンスと音楽と、見ている自分がその空間に浸れる感覚こそが、ジャズの魅力だと語り合いました。
3歳のバレエから始まった、MIKIHOのダンスの原点
MIKIHOさんがダンスを始めたのは3歳のときでした。体のラインがきれいな方がいいという両親の願いから、バレエを習わせてもらったといいます。ただ本人は、最初はバーにぶら下がって遊んでいたそうです。
遊びすぎて3年ほどでバレエは辞めることになり、そこからジャズダンス、あるいはモダンダンスを始めました。以来ずっと同じ畑を歩んできました。
田舎の出身で周りにダンススタジオがなく、友人が通うモダンダンスの先生のレッスンに行かせてもらったのが続いた理由です。他ジャンルにはあまり触れてこなかったといいます。
20歳近くまで、ハウスダンスがロックだと思ってたり、そういうジャンルがこんなにあるのも知らないみたいな。
3歳から始めた人はいろいろなジャンルを経験して行き着くことが多い中、MIKIHOさんは一つの道を歩み続けてきた珍しいタイプだと、パンチしょーへーは振り返ります。
双子のきょうだいと、いつか実現したい共演の夢
MIKIHOさんには双子のきょうだいがいます。パンチしょーへーもTENの準備の中で初めて知ったといいます。二人とも同じようにバレエから始め、モダンへと進みました。
高校卒業のタイミングで、MIKIHOさんはダンサーになる専門学校へ、きょうだいは舞踏のある大学へ進み、道が分かれました。今は価値観も世界観も大きく違うといいます。
私はできるだけ多くの人に届けたいとか、エンターテインメントとしての消化の仕方を考える。向こうは自分の奥底から生まれる感覚をもっと大事にする。全然違って。
発信する感覚とダンスの届け方が全く違い、どちらが良い悪いではないと話します。だからこそ、まだ共演には踏み込めていないといいます。
それでも、いつか一緒に踊るなら踊り場cueで、という言葉も飛び出しました。似たシルエットの双子が、違う世界観のダンスをぶつける。パンチしょーへーは、その共演をぜひ見たいと語ります。
できるだけ多くの人に届け、認めてもらう。エンターテインメントとしての消化を考える
舞踏やコンテンポラリーの世界で、自分の奥底から生まれる感覚や精神性を大事にする
TENと今後の活動、次回への橋渡し
MIKIHOさんの近々の活動には、JAPAN DANCE DELIGHTの本戦があります。その前にTENが控えています。この日はTENの下見を終えたばかりで、その空気にワクワクしたと二人は話します。
TENはコンテストともショーケースとも違い、自分の持っているものをどう出すかに頭を巡らせる場です。ジャンルも出演者によって様々で、創作に悩みながらも楽しみにしている雰囲気が伝わってきたといいます。
自分の持ってるものをどう出そうかっていう、頭を巡らしてる感じが横から見てて感じたので。しかもジャンルも皆さん色々あるし。
MIKIHOさんが予定していたソロダンスプロジェクトは、当初今年の12月開催を目指していましたが、求めるサイズ感の会場が押さえられず苦戦中だといいます。情報が固まれば改めて告知される予定です。
TENの詳細については、次の後編で語られることになりました。
まとめ
ジャズダンスは一つの型ではなく、奴隷の踊りやバレエまで遡る長い歴史の中で、様々なジャンルと交わりながら発展してきた広い世界です。MIKIHOさんは「呼びたいように呼んでいるだけで種類はない」と語り、その魅力を「空間に浸る時間」だと表現しました。
- 今語られるジャズダンスは、歴史をたどると呼び方が異なり、MIKIHOのスタイルはモダンに近い
- ジャズダンスのルーツは奴隷の踊りにあり、バレエやブロードウェイと交わって発展してきた
- フリースタイルやファンクジャズなど呼び名が多いのは、各自が好きなジャンルと組み合わせて呼ぶため
- ジャズの魅力は、踊りたくなるより「その空間に浸る」感覚にあると二人は共感し合った
- 3歳のバレエから一つの道を歩んだMIKIHOには双子がおり、いつかの共演が語られた


