妻に「すごいね」と言われた、ある声かけの正体
きっかけは、妻からの「なんかすごいね」という一言でした。でもハイエナさんからすると、工場にいた人間なら全員やっている当たり前のことでした。
その癖とは、家の中で誰かの後ろを通るとき、必ず「後ろ通ります」と声をかけることです。
たとえば台所で火や刃物を使っている妻の後ろを、冷蔵庫のものを取るために通るとき。もし刃物を持ったまま振り返られたら刺されてしまうし、鍋を持っていたらかかってしまう。だから必ず声をかけると話されています。
もし刃物を取ったまま振り返られたら私刺されちゃうし、もし鍋を持ってたらかかっちゃうんで、もう危ないじゃないですか。
同じ発想で、赤ちゃんがハイハイをするようになってからはコーナーガードを作り、指を突っ込みそうなところを塞ぐことも徹底しているそうです。
こうした習慣を続けるうちに、妻から「すごいよね」と言われた。でも本人としては、工場勤務経験から当たり前にやっていただけでした。会話を重ねるなかで、これは世の中の当たり前ではないと気づいたと言います。
従業員を守るためのルールだらけだった工場
ハイエナさんは大学院を卒業後、1社目のメーカーに勤務し、工場実習を経て、実際に工場でも勤務していました。
工場は危険がつきものなので、会社は従業員が怪我をしないよう、非常に厳しいルールで守ってくれると振り返ります。
たとえば安全靴は支給され、毎朝の朝礼で安全靴やジグ(ドライバーなどの道具)に破損がないか厳しくチェックされる。夏は熱中症対策の飲料が、冬はカイロが支給され、夜勤中も従業員が倒れていないか見に来てくれたそうです。
当時は「なんでこんなに細かくチェックするんだろう」と思っていたものの、そこで染みついた安全対策の知識が、いろいろと役に立っていると話されています。
家事育児に効く「KY活動」と「5S」
「後ろ通ります」以外にも、工場で覚えて今に生きていることがいくつかあると言います。その一つがKY活動です。
工場では月に1回、自分以外の職場をみんなで練り歩き、危険箇所を見つけて安全対策を提案する活動があったそうです。新しく異動した人や実習中の人ほど、興味津々で「これ危なくないですか」と指摘するといいます。
一方でベテランになるとマンネリ化しがちです。それでも工場は新しい製品を始めたり終盤の製品を閉じたりするため、使われなくなったラインが老朽化して危なくなることもある。だからこそ定期的なKY活動が大事だと教わったそうです。
この発想は家の中でも生きています。ハイエナさんは子どもがハイハイから捕まり立ちに移るタイミングだけでなく、寝返りの向き方まで毎日観察していると言います。
たとえば寝返りで下のシーツを巻き込んでしまわないか、と先回りして考える。何か起こった後に対策するのは誰でもできることで、危なそうなところを先回りして対策するのが大事だと話されています。
収録中に気づいた、KY活動の本当の価値
ここでハイエナさんは、収録しながらKY活動の本質に気づいてしまいます。
KY活動の本質は危ない場面を見た時じゃなくて、月に1回この日は安全対策について考えるみたいな時間を設けて、強制的にアイデアを出すことが多分優れた点だったんだな。
この気づきをきっかけに、自分の中でもルール化したいと考えたそうです。ポッドキャストで話すこと自体が思考の整理と備忘録になっている、と情報発信しながらやる良さにも触れています。
もう一つ、工場時代に習ってよかったと語るのが5Sです。
いるものといらないものを分け、いらないものを捨てる
いると決めたものの定位置を決め、使いやすい場所に置く
定位置のものを綺麗に保ち、壊れていないか点検も兼ねる
整理・整頓・清掃が維持されている状態
これらを習慣づけ、ルールとして根づかせる
なかでも「清掃」には点検の意味が入っている点がポイントです。掃除をしながら壊れていないかを確認する。この視点が、育児中の気づきにつながっていると考えられます。
ワンオペより難しい「ツーオペ」の落とし穴
家事育児では、よくワンオペの大変さが語られます。ハイエナさんもそれは大変だと認めつつ、ツーオペにはツーオペの難しさがあると指摘します。
理由は、オペレーターが妻と夫の2人いるからです。体格もやり方も違うのに、やっている業務は同じ。カレーも作るし、料理も家事も抱っこも、どちらか一方しかやらない業務がありません。
すると2人のやり方に微妙な違いが出て、「なんでこれがここにないんだっけ」「なんでこれ掃除してないんだ」といった行き違いが生まれてしまうそうです。
工場的に管理するなら、5Sでルールを決めることになります。トヨタ生産方式の「標準なくして改善なし」という言葉のように、家事のルール化をガチガチにやる必要もあるのかもしれない、と話されています。
仕事のルールを家庭に持ち込むと自殺行為になる
ただし、ここに大きな注意点があると強調します。
仕事のルールを家庭に持ち込むのは自殺行為なので、絶対にやめないといけない、というのがハイエナさんの結論です。
特に本人はズボラで、散らかすのはほとんど自分だと認めています。妻は家事も育児も得意で、足を引っ張っているのはむしろ自分だと振り返ります。
問題は職業病です。妻から「これを片付けて」と言われた瞬間に、なぜなぜスイッチが入ってしまうと言います。
なんでこれここにあるんだっけ?そもそもこれっているんだっけ?いらないんだっけ?いるんだったらここのどこにあるべきなんだ、とかを考え始めちゃって。
その結果、気づいたら新しい棚をポチってしまい、かえって散らかる。トヨタ生産方式では安易なライン再開を否定し、なぜを繰り返して根本対策に至るまで次の工程に進まないとされますが、それを家庭に持ち込むととんでもないことになるといいます。
ちょっとここ片付けてって言われたら、わかりました以外言っちゃいけない。
10年前に「うるせえな」と思っていたことが役立つ
とはいえ、工場勤務でよかったこともあると語ります。家事の中で感覚に頼ってやることが減り、「なんでこうなったの」と聞かれたときに説明できることが多いそうです。
ただし、それはあくまで自分の中の考えです。相手を言い負かす必要はなく、守っていればいい。最低限のルールを決めて運用していくのが今のところいい、と落ち着いていると話されています。
我が家のルールとしては、物の定位置は細かく決めず、どの部屋にあるものかだけをざっくり決めているそうです。そして妻も自分も、後ろを通るときは必ず「後ろ通ります」と声をかけることを意識していると言います。
この回で言いたかったのは、育児をしながらキャリア開発をしていくということ。ですが今回は逆に、キャリアで学んだことが育児に生きてくるという話でした。
その学びとは、5S、KY活動、そして「後ろ通ります」の声かけといった、工場実習で覚えた基本的なことです。
十年前とかに何かうるせえなと思ってやってたことが、また自然と染みついて出ちゃうっていうのがなんか面白いなと思った次第です。
まとめ
育休はキャリアの空白と言われがちですが、この回では逆に、10年前に工場で叩き込まれた安全のルールが、いま育児の現場で一番役立っているという気づきが語られました。ただし、そのやり方をそのまま家庭に持ち込むのは危険だという線引きも印象的です。
- 「後ろ通ります」の声かけは、刃物や火を扱う相手の背後を安全に通るための工場の習慣で、育児でも生きている
- KY活動の本質は危険を見つけることより、定期的に強制的に安全を考える時間を作ることにあると収録中に気づいている
- 5Sの「清掃」には点検の意味があり、掃除をしながら危険に気づく視点が育児に役立っている
- ツーオペは2人のやり方の違いから行き違いが生まれやすく、ルール化が助けになる一方で、仕事のルールをそのまま家庭に持ち込むのは避けるべきだとしている




