なぜ「作るだけではダメ」と言われるのか?
マナブさんは、Xでよく流れてくる「頼まれたものを作っているだけではまずい」という注意喚起のポストが、デザイナーとして気になるといいます。AIの進化で、この話題は現実的な問題になってきたと感じています。
マナブさん自身も、デザイン制作だけでなく、クライアントの事業を理解して必要なことを提案できるようになりたいと考えています。一方で、言われたものを作ること自体がそれほど悪いことなのか、という違和感も持っています。
背景として一番大きいのはAIの存在です。これまでデザインには、Adobe系のツールやFigma、Canvaなどを使えることが前提でした。
ところがAIにバナーのイメージをプロンプトで伝えれば、ある程度形になったものが出てきます。出てきたものが適切か、使える品質かは別問題としても、形にするハードルは大きく下がったとワナブさんは感じています。
そのため、デザイナーに依頼していた仕事の一部がAIに代替され、「言われたものだけ作っているとAIに仕事を取られる」「企画や戦略の段階から関わるべきだ」という話につながっていきます。受注して収入を維持・向上させることは切実な問題なので、受託側からは自然な意見だと受け止めています。
ツールの壁が低下
AIにプロンプトを入力すれば、ある程度の形が出てくる
依頼の一部をAIが代替
これまでデザイナーに頼んでいた仕事が置き換わる
上流工程への関心
企画や戦略から関わらないとまずい、という意見になる
発注者から見ると、AIの進化はどう映るのか?
ここまでの議論は、仕事を受ける側の視点だとマナブさんは指摘します。デザインの仕事は受託側だけで成り立つものではなく、必ず発注者がいます。
発注者がバナーを必要とした場合、これまではデザイナーを探し、内容を伝え、見積もりを確認し、上がってきたデザインに修正を依頼する、という流れで時間と費用がかかりました。AIなら、欲しいと思ったものを秒で形にできる可能性があります。
AIで作ったものがそのまま使えるかは分かりません。デザインの知識がなければ、使ってよいかの判断も難しいとワナブさんは述べています。それでも、欲しいと思った瞬間に形にできる環境は発注者にとってありがたい状況だといいます。
外注していた仕事を社内で対応できれば予算を別に使えますし、外注するほどでもなかった小さな制作物も気軽に作れるようになるかもしれません。制作のハードルが下がることは、発注者にはよい変化で、デザイナーには仕事が減るかもしれない変化です。
制作のハードルが下がり、時間や費用を抑えられ、小さな制作物も気軽に作れる
これまで依頼されていた仕事が減るかもしれない
もう一つ重要なのは、発注者は必ずしもデザインそのものを欲しいわけではないという点です。バナーを依頼する背景には、商品を認知させたい、問い合わせをしてほしいといった目的があります。
その目的が達成できるなら、AIで出したもので十分な場合もありますし、バナー以外のマーケティング施策で達成できるかもしれません。だからこそ制作者側も、発注者が何を実現したいのかを考える必要があるとワナブさんは話しています。
事業に踏み込みたい理由は何か?
マナブさんは制作を続けたいと考えつつ、クライアントの事業にも踏み込んでいきたいと話します。理由は2つあります。
1つ目は、事業に貢献すること自体が面白いからです。納品して終わりではなく、制作物が使われ、問い合わせやユーザーが増えるといった成果まで関われると、やりがいが大きいといいます。
自分が作ったホームページをきっかけに利用者が増えたという声を聞くと、作ってよかったと思い、自分のスキルが事業に貢献できていると感じるそうです。自分から提案してクライアントの役に立てることにも魅力を感じています。
2つ目は、収入を増やすうえで重要だからです。ワナブさんは、事業にどこまで踏み込めるかで、提供できる価値も報酬も変わると考えています。
たとえばLPのデザインを依頼された場合、通常はLP制作の報酬になります。その前の設計や訴求まで担当できれば、それ自体が仕事になります。
さらに事業を理解することで、ホワイトペーパーを置くことや、提案資料の見直しといった別の課題も見えてくるかもしれません。提供する価値が広がれば、1件の単価が上がり、新しい仕事や継続的な関係にもつながると考えています。
ただし何でも提案すればいいわけではなく、まず相手の事業をしっかり理解し、本当に必要なことを提案する必要があるとも述べています。
事業の理解
クライアントの事業をしっかり理解する
提供価値の拡大
設計や訴求など、制作の前段階も担当する
新しい仕事
別の課題が見え、提案が新しい仕事になる
収入の増加
単価が上がり、継続的な関係も作れる
そもそも提案できない案件があるのでは?
提案したほうがいいというのはその通りだとしつつ、マナブさんは、実際には提案できない構造の案件も多いと指摘します。デザインの仕事は、クライアントから直接依頼されるものばかりではないからです。
制作会社から依頼されるケースや、事業会社の担当者からすでに内容が決まった制作物を依頼されるケースがあります。声がかかった時点で、多くのことが決まっているのがほとんどです。
たとえば制作会社の案件では、事業会社から制作会社に依頼が入り、営業担当やディレクターがクライアントとやり取りして方針や構成などの要件を決めます。その後、デザイン制作が外部のデザイナーに依頼されます。
この段階で外部のデザイナーに求められるのは、要件の決まった内容をデザインとして形にすることだとマナブさんは考えています。
そこで突然「この制作物の目的はどうなんですか」「ターゲットを見直したほうがいいのでは」と言い出したら、制作会社は困るだろうといいます。何度も打ち合わせをして社内承認も取った段階なら、プロジェクト自体が止まりかねません。
事業会社のマーケ担当や企画担当が検討を重ねたうえで、最終的なアウトプットとしてデザインを依頼する場合も同じです。求められているのは、決まったものをしっかり形にすることです。
マナブさんが言いたいのは、提案が悪いという話ではなく、受注している案件で自分が何を求められているのかを見ることだといいます。だからといって、すべての案件で上流への提案を積極的にすればいいわけではないという考えです。
提案すれば必ず喜ばれるのか?
提案を重ねて単価を上げていく流れがあり、マナブさん自身もそうしたいと考えています。ただ、提案すれば必ず喜ばれるわけではありません。
クライアントが求めているのは、決まった期限までに完成したものを納品してもらうことだと考えられます。そこでマーケティング的な提案をしても、「今そんな話をしている場合ではない」「早く作ってくれ」と思われるかもしれません。
クライアントには予算も納期も社内の承認フローもあり、関係者が多い場合もあります。それらを無視してデザイナーのエゴで提案しても、クライアントのためにならない可能性があります。
そのためマナブさんは、提案したいか、上流に関わりたいかも大切だが、それ以上に目の前のプロジェクトに何が必要かを考えるべきだと述べています。制作中に明らかなまずい点があれば、連絡共有で済む範囲として伝えればよく、それは提案とは別の話だそうです。
実際に関わった案件には、制作会社がさらに別の制作会社から受け、その元の会社も広告代理店を挟んでクライアントとやり取りしているケースもありました。関係者が多く、各フローに細かなスケジュールもあるため、そうした構造で提案するのはほぼノイズにしかならないとマナブさんは考えています。
事業会社
最初の依頼元
広告代理店
間に入って確認や承認のフローがある
制作会社
さらに別の制作会社へ依頼する場合もある
外部デザイナー
決まった内容の制作を担当する
内容そのものというより、状況に合った提案ができるのが一番いいとマナブさんは話しています。
言われたものを作る仕事にも価値があるのでは?
マナブさんは、言われたものをしっかり作る仕事には、もっと誇りを持っていいと考えています。「作るだけではダメ」という話を聞くと、制作だけをしている人の価値が低いような印象を受けることがあり、見え方として違和感があるといいます。発信者にそういう意図があるとは思っていないそうです。
企画や構成がすでに決まっている案件で求められるのは、制作物そのものです。制作を担当する人がいなければ成果物は完成せず、プロジェクトも完了しません。
たとえばスライド制作で、原稿も構成もデザインの方向性も決まっているとします。デザイナーは決められた内容を適切な形に落とし込みますが、これも簡単ではありません。
- 文字の大きさや余白
- 情報の優先順位
- 視線の流れ
- 図解の方法
こうした点を踏まえて読み手に伝わる形にするため、専門性が求められる仕事だとマナブさんは考えています。この部分もAIができるようになる可能性は高く、実際になりつつあるとしつつ、仕事に価値があるかどうかは別の話だといいます。
レイアウトや素材まで指定された細かな指示の案件もあります。それでもミスなく安定した品質で期日までに納品することは、プロジェクトの成立に必要な仕事です。
価値と収入は同じなのか?どんな働き方があるのか?
マナブさんは、仕事として価値があることと、その仕事で十分な収入を得られることは必ずしも同じではないと考えています。AIによって制作できる人や手段が増えれば、同じ仕事でも以前ほど高い報酬が得られなくなる可能性はあります。ただ、それは仕事の価値がなくなったこととは別の話だといいます。
必要な仕事であっても、より安く、より早く対応できる選択肢が増えれば価格競争になります。そのため、今後の収入を考えて制作以外の価値を身につけようという意見には、マナブさんも賛成する部分があるそうです。
ただ、デザイナー全員が上流工程に行くべきだとは考えていません。制作技術を磨いて専門性の高い仕事をする方向もありますし、制作のスピードや品質の安定性を高めて、安価なものを大量に受ける方向もあります。
どちらにも難しさがあり、どちらを選んでも必ず収入が増えるわけではありません。働き方の選択肢は1つではないというのがマナブさんの見方です。
そのうえで、今の仕事で求められている役割と、これから自分が目指す働き方は分けて考えたほうがいいと述べています。制作だけを担当する案件ではその役割をきっちり果たし、事業に踏み込みたいなら別の機会に提案を増やしたり、スキルを磨いたりする、という考え方です。
| 方向性 | 内容 | マナブさんの見方 |
|---|---|---|
| 上流工程へ | 事業に踏み込み、提案する | 自身も目指したい方向 |
| 制作技術を磨く | 専門性の高い仕事をする | 上位を目指す難しさがある |
| スピードと安定性を高める | 安価なものを大量に受ける | 難しさがあり、必ず収入が増えるとは限らない |
結局、どう考えればいいのか?
マナブさんは最後に整理しています。AIによって、指示されたものを形にする仕事のあり方は変わりつつあり、デザイナーが今後の働き方を考える必要があることには賛成です。
一方、発注者視点では、AIで制作の選択肢が増えたことは歓迎すべき変化です。制作現場には、最初から事業の相談を受けて関われる仕事もあれば、要件が決まった状態で制作だけを担当する仕事もあります。
そのため、どんな案件でも積極的に提案することが正解ではなく、決められたものをしっかり形にすることが重要な場合もあるといいます。
マナブさんは、Xなどで見かける意見も視点を変えて考えると、いろいろな捉え方ができると話します。デザインの話題はデザイナー側の視点が多いように感じるが、発注側の事情やプロジェクト全体の構造も含めて考えることが大切だとしています。
この回は何かを断定したいわけではなく、今の自分が考えていることの一つだと位置づけられています。
まとめ
「頼まれたものを作るだけではダメなのか」という問いに対して、マナブさんは、提案を目指しつつも、制作に専念する仕事の価値は否定しないという考えを示しました。案件の構造や発注者の視点を踏まえて、目の前のプロジェクトに何が必要かを見ることが大切だといいます。
- AIで制作のハードルが下がり、デザイナーが働き方を考える必要があることにはワナブさんも賛成している
- 発注者にとって、AIで制作の選択肢が増えることは歓迎すべき変化である
- 要件がすでに決まった案件では、提案が進行の妨げやノイズになることもある
- 言われたものを形にする仕事にも専門性があり、プロジェクト成立に必要な価値がある
- 仕事の価値と収入は別の問題であり、今の役割と目指す働き方は分けて考えるとよい






