オンライン会議ではない、音響機器メーカーのZOOM
今回の主役は、オンライン会議のZoomではなく、日本の音響機器メーカーのZOOMです。
伊藤さんは、エレキギターを弾く人や、音楽系・動画系のクリエイターなら一度は手に取ったことがある、愛されるメーカーだと話します。
というか、僕自身がもうこのZOOM大好きなんですね。
創業42年、上場までのZOOMの歴史
ZOOMは1983年の創業で、収録時点で創業42年になります。伊藤さんは、変化の速い時代においては老舗企業と言っていいかもしれないと話します。
1990年に北米支社を設立し、初の自社製品である小型ギター用マルチエフェクター9002で世界的に知られるようになりました。
2000年代に入ると録音機器へ進出し、ハンディーレコーダーH4が宅録や映像制作者に爆発的に普及します。そして2017年に上場し、世界的なブランドへ成長しました。
ここで伊東さんは小ネタも紹介します。オンライン会議のZoomが一気に普及した時、音響機器メーカーのZOOMの株価が急騰し、間違って買われたのではという説もあったそうです。
両者は仲が良いわけではなく、ZOOMという商標権を巡った争いもあるとのことです。
「やばい」の正体は、商品の癖の強さ
伊藤さんが「やばい」と表現するのは、商品の個性、言い換えれば癖の強さです。
具体的には、やたらと小型化にこだわる点が挙げられます。持ち運びのしやすさは音響機器において正義だと話します。
さらに、妙に尖った機能を入れてくるところにも触れます。そこにある種の可愛げのようなものを感じ、惹かれる人が多いのではないかと考えられています。
エフェクターとは何か、そして小さな怪物9002
まず前提として、伊東さんはエフェクターの説明から始めます。エレキギターの音を加工する機械がエフェクターです。
コンサートでギタリストの足元に並ぶ、スイッチ付きの小さなお弁当箱のような機材がそれにあたります。
エレキギターはアンプにつないだだけだとペケペケした音が出ますが、そこに歪みやエコーを加えたり、音程そのものを変えたりする。この音の変化を加えるのがエフェクターです。
ただし、一つのエフェクターは基本的に一つの機能しか持ちません。そのため足元には歪み用、エコー用、音程変化用と、大量の機材が並ぶことになります。
これをデジタル化して一つにまとめたものが、マルチエフェクターです。マルチエフェクターは1980年代後半から各社で開発が活発になりました。
そこに1990年に登場したのが9002という小さな怪物でした。電池駆動する手のひらサイズの筐体に、12種類ものエフェクトを内蔵していた点が凄さだと語られます。
当時のマルチエフェクターは、床に置く性質上、お風呂のバスマットを一回り小さくしたようなサイズが一般的でした。
一方の9002は文庫本ぐらいのサイズで、ギターのストラップに引っ掛けて使えるレベルまで小型化していました。衝撃的でプロも使い、大ヒットしたそうです。
床置き前提で、お風呂のバスマットを一回り小さくしたようなサイズが一般的
9002は文庫本ぐらいのサイズになり、ギターのストラップに引っ掛けて使えるレベルまで小型化
多機能・お手頃・尖った機能というZOOMのポジション
その後、ZOOMは床置き型の標準サイズのマルチエフェクターも次々に発表します。標準サイズでも個性があり、独自のポジションを取りました。
そのポジションは、機能がてんこ盛りで、値段が絶妙にお手頃、音質やスペックはそこそこだが実用に耐えるというもの。伊藤さんはコンシューマー寄りの立ち位置だと表現します。
もともとデジタル処理に強いメーカーのため、ギターの音をシンセサイザーのようにしたり、ロボットボイスっぽくしたりと、聞いた瞬間に「おもろ」となるエフェクトを搭載していました。
冷静に考えると使いどころがわからないユニークな機能もありましたが、値段が安い。このユニークさと価格のバランスが、確実にファンをつかんだと考えられています。
録音機器への進出と、一貫したポジショニング
ZOOMは2000年代に録音機器へ手を広げ、ハンディオーディオレコーダーやハンディビデオレコーダーを発表します。
これも多機能・小型・そこそこの性能・お手頃価格という、ZOOMのフォーマットにドンピシャでした。
一般的なICレコーダーとの違いは、大音量の音も録れる点、つまり音楽用途に強い点です。ミュージシャンがライブや練習の記録用に使うようになりヒットしました。
大手のプロ用メーカーも競合機を出しましたが、ZOOMはここでも必要十分なスペック・多機能・絶妙に安い価格というスタンスを取りました。
厳密な音質ではハイエンドに引けを取ることもあるものの、そこまで求める人はほとんどいない、という線引きをしていると伊藤さんは分析します。
選択と集中、そして4つのZOOM流
その後もZOOMは録音・録画機器や配信用の音響機器を出し続け、YouTuberなどの配信者にもフォーカスして地位を築きました。ギター用マルチエフェクターも今なお最新機種を発売しています。
かつてはROLANDなど海外メーカーの方が音質面で優れているとされた時期もあり、ZOOMには安っぽいイメージがあったことも否めないと伊藤さんは振り返ります。
特にギターの歪みの音抜けの面で課題を指摘する人が多かった印象があるといいます。
ただ、デジタル技術全般の進化と、もともとのZOOMのデジタル信号処理の強みによって、今や音質・スペック面でも見劣りしない状況になっています。
現在はプロでも、用途によって当たり前のように現場でZOOMのエフェクターを使う様子が見られるようになったそうです。
伊藤さんはZOOMを、全部は取りにいかない選択と集中の会社だとまとめます。手がける領域はエフェクター・録音・配信まわりで、ROLANDやYAMAHAのように楽器全般へは広げません。
ただし、選択した領域の中に入ると話が変わります。その領域では全部やる、しかも全部ZOOM流でやるという方針が浮き彫りになると語られます。
そのZOOM流を、伊藤さんは4つに整理します。
ハイエンド競争をする海外勢の横で、ZOOMは機能をてんこ盛りにし、小さくし、ちょい安くして、独特のスパイスを振りかける。これが長く愛される理由だと考えられています。
まとめ
音響機器メーカーZOOMは、癖の強い商品づくりと一貫したポジショニングで、ギタリストやクリエイターに長く愛されてきました。その戦い方は、スモールビジネスにとっても示唆に富んでいます。
- ZOOMは1983年創業、9002の小型マルチエフェクターで世界に知られ、2017年に上場した
- 多機能・小型・そこそこのスペック・お手頃価格という一貫したフォーマットでファンをつかんだ
- 手がける領域を絞る選択と集中を徹底しつつ、その領域内では全部をZOOM流でやり切る
- 全部乗せ・尖った機能・小型化への執着・ちょい安価格という4つが、ZOOM流の核になっている
- 大企業の王道ではなく、ずらしによる総力戦で戦ってきた点が、スモールビジネスの参考になる




