「どこでも仕事ができる」は半分間違いだった
移住のきっかけの一つは、独立すればどこでも仕事ができるだろうという見込みでした。ネットさえあれば仕事そのものはできる。それは確かに正しい部分でした。
ただ、伊東さんは半分正しく半分間違っていたと振り返ります。仕事をすることと、仕事をつないでいくことは、実際にはかなり別の話だったといいます。
伊東さんは関西生まれですが、子供時代からずっと関東で育ち、二十代の頭から三十代半ばまで東京に住んでいました。
そのため大阪に来た時点で土地勘はほとんどなく、関西の取引先はゼロ。人間関係も、たまたま転勤で来ていた東京時代の友人が一人いるだけでした。
つまり、仕事の土台になるものが関西にはない状態で来てしまったんですよね。今振り返るとアホだったなと思います。もうだいぶ危ない橋を渡ったと思います。
しかも当時はリモートワークが今ほど当たり前ではなく、オンライン会議もZOOMではなくSKYPEの時代でした。オンラインで全部完結するという感覚も、今よりずっと弱かったといいます。
新規開拓より「既にある仕事をつなぐ」
では、どうやって生き延びたのか。ここは一つはっきりしていると伊東さんは話します。
新しい出会いを増やすことよりも、既にある仕事をちゃんとつないで続けていくこと。これをかなり意識したそうです。
具体的には、東京時代からお付き合いのあったクライアントと、より真剣に丁寧に向き合うことを強く意識しました。
大阪に移った後も変わらず仕事を発注してくれることが、売り上げの話を超えた心情的な支えになったといいます。だからこそ、より踏み込んで仕事をするようになりました。
必要なタイミングでは、実際に東京にも足を運びました。独立したばかりの頃は新幹線代がしんどくても、そこは考えないようにしたそうです。
結果として仕事を継続してもらえ、そこから少しずつ紹介も増えていく流れが取れました。
逆に、つながりがゼロの土地でオンライン中心に新規開拓をしていく考えだと、難易度はかなり高いだろうと予想しています。
特にスモールビジネスでは、最終的に誰と仕事をするかが重要になり、能力や価格やプレゼンだけで決まるわけではないと伊東さんは考えています。
関西での縁の増やし方と、交流会の見極め
一方で、関西で新しいつながりをどう増やしたかは、今でも手探りな部分があるといいます。ただ、良かったことも挙げています。
それは、同業者、伊東さんの場合はクリエイティブ業界寄りの集まりに参加したことです。大阪には公の機関であるMEBICのような場もあります。
そうした場ではバックグラウンドが近いためか、友達になってくれる人とも出会えました。少数でも馬の合う人ができると、緩やかな仕事の紹介が生まれることがあるといいます。
ふとした会話で、誰々さんのところでディレクターが必要みたいなんだけど、伊藤くん入れますか、みたいな感じで声をかけてもらったりします。
逆に、自分が受注しそうな案件で信頼できるエンジニアがもう一人必要なとき、こちらから声をかけてチームに入ってもらう。そうした人のつながりも増えてきました。
一方で、いろんな業界の人が来る異業種交流会は、個人的にはピンとこないことが多めだったといいます。
行政書士や社労士などの士業、店を営む人、保険関係の人にとっては良い場だと思うものの、伊東さん自身はその業界ではないため、一方的にセールスを受ける側に立つことが多かったそうです。
変わったところでは霊能者の方ですかね。かなりスピリチュアル寄りの方も来られていて、あんまりお話が噛み合わなかったりする経験もありました。今となっては良い思い出なんですけど。
人との縁には運ゲーの要素もある。だからこそ、独立や移住の前にそれなりの貯金を確保しておくことが非常に大事だと、身に染みて感じたといいます。
伊東さん自身も最初の二年間は仕事が少なく、生活費がどんどん溶けていくヒリヒリする記憶があるそうです。
大阪のビジネスの空気と、市場の特徴
大阪のビジネス上のコミュニケーションの空気にも触れています。個人差も業界差もある話なので一般化は危険と前置きしつつ、体感を語りました。
大阪の方が東京より人と人との距離がフランクで近いと感じるといいます。
東京よりよりドライではなくて、二十パーセントぐらいウェットかなという感じで、まず人として合うかを見る感じが少し強い気はしますね。
そのためチャットよりも、口頭や通話でのやりとりの比率が東京より少し多い印象があるそうです。
とはいえ特殊ルールがあるわけではなく、普通に真面目にやるしかない点は東京も大阪も同じだといいます。人が好きな人には関西は合うのではないか、との印象を持っています。
芸人のようなリアクションや巧みな話芸の人がそうそういるわけではないので、東京から急に大阪に来てもしんどいことはないだろうと話します。
案件規模でいえば、平均すると東京の方が大きく単価も高い。これは市場規模の差だと考えています。
ただ大阪も万博があり、大きな仕事をした人も周りにいます。今後はIR ── カジノを含む統合型リゾート。ここでは大阪への誘致の動きとして言及されています。、いわゆるカジノを含む統合型リゾートも予定されています。
大阪が副首都になるといった動きもあるらしく、その辺に強いビジネスパーソンなら大阪は刺激的ではないかといいます。
「逆張り」としての大阪と、二拠点の視点
伊東さんは投資でいう逆張りの発想を持ち出します。大阪は東京に対して一応逆張りだといいます。
ただ経済規模自体は大きいので、極端なものではなく、勝率を期待できる範囲での逆張りが成立するのではないかと考えています。
さらに、東京と関西の両方に住んだ経験がある人はそこまで多くなく、その視点を活用できるタイミングもあると感じています。
分かりやすい例として、仕事で東京の地名が出てきたときにピンとくるかどうか。小さなことですが役立つことがあるといいます。
これは移住したからこそ見えてきた利点だと振り返ります。
もし東京から離れて、土地勘のない関西で独立して頑張ってみようと、でも躊躇している方がおられましたら、ぜひ踏み出していただければなと思っています。
まとめ
フリーランスの移住で効いたのは、新規開拓よりも既存の関係を丁寧につなぎ続けることでした。合う場を見極め、合わない場から離脱する判断力と、独立前の貯金の確保が土台になります。大阪は距離が近くウェットな空気があり、逆張りと二拠点の視点を活かせる余地があると語られました。
- どこでも仕事はできても、仕事をつなぐことは別問題
- 移住後はまず既存クライアントとより真剣に向き合う
- 同業者の集まりは有効、異業種交流会は見極めが必要
- 運の要素があるからこそ、独立・移住前の貯金が重要
- 大阪は距離が近くウェット、逆張りと二拠点の視点が活きる







