好きだった先生は何が違ったのか
今回のテーマを持ち込んだのは黒田さんです。教育には硬いイメージがありますが、それをエンタメの観点で崩し、やらされる教育ではなく、やりたくなる教育にするにはどうしたらいいのかを話したいと切り出します。
黒田さんが最初に投げかけたのは、学校や塾で出会った先生の中で、好きだった先生とそうでなかった先生は何が違ったのか、という問いでした。
(先生は)やっぱ子供っぽい感じが好きでしたね。なんかふざけてくれるというか。
子供に混じって一緒に遊んでくれるみたいな、そういう子供っぽさを持ってくれると人として受け入れられるなみたいな。
高村さんは逆に、授業を淡々と進めるだけの先生は苦手だったといいます。ロボットとまでは言わないものの、その人の人間性まで届かない感じがしたそうです。
黒田さんはこの話を、勉強を教える前に「そこにいてもいいんだよ」と認めてくれる人、一緒にいて楽しい人がいい、ということだと受け止めています。
『窓ぎわのトットちゃん』の読み聞かせが国語好きのきっかけに
高村さんには、教え方そのものが印象に残っている小学校の先生がいます。朝の時間には百マス計算やドリル、読書タイムをする先生が多い中、その先生は朝学の10分間を使って、黒柳徹子さんの『窓ぎわのトットちゃん』を毎日読み聞かせてくれたそうです。
高村さんは小説が今でも好きではなく、「映像で見せて」と思うタイプです。最初は「百マス計算をしなくていいからラッキー」くらいの気持ちで聞いていたといいます。
十分なんてすぐ、はい、今日はここまでみたいな感じで読んで。えーみたいな感じで。そういう体験ってすごい良かったなと思って。
高村さんは、興味がないことに向き合わせ、楽しみ方を教えてくれる先生がとても良かったと振り返ります。そこから国語が好きになり、教科書の物語を先に読んでしまうほどになったそうです。
高村さんは、良い先生の条件を「学ぶ楽しさ」と「学び方」の二面性にまとめています。
興味がないことにも向き合わせ、楽しみ方に出会わせてくれる
それをどう学べばいいかの、具体的なやり方を教えてくれる
先生を好きになると、話を聞きたくなる
黒田さんも、打ち合わせなしで高村さんとまったく同じ考えだったといいます。まず先生を好きになれば、その先生の話を聞こうという気持ちになるからです。
黒田さんが好きになりやすかったのは、一緒にいて面白い先生、一緒にいる時の自分が好きになれる先生、成功体験をきちんと見極めて褒めてくれる先生でした。
学校教育は一斉授業なので、一人ひとりに向き合うのは難しいのも事実です。それでも黒田さんは、以前の回で話したプレゼンの話と同じく、相手がどう思うかに寄り添って伝えることが大事だと話します。
相手がどう思うかって寄り添って伝えてあげたら、じゃあ比喩表現、例えとかも多くなるし、その中で分かりやすいってなったら、この人の話分かりやすってなると思うんで。
黒田さんにとっては、それが勉強を好きになるきっかけだったそうです。
数学が苦手だった理由と、ゲームとして解く工夫
一方で高村さんは、方法論だけを教わっても苦手は消えなかった経験を語ります。数学が苦手で、放課後の補習で方程式の仕組みや応用まで必死に覚えようとしたものの、苦手意識はずっと残ったそうです。
結局のところ、やっぱ数学を学ぶ楽しさがわからなかったんですよね、ずっと。今もそうですけど。
高村さんは、数学の楽しさを見つけられていれば、もっと自発的に取り組めたはずだと考えています。今振り返ると、それは大きな機会損失だったといいます。
黒田さんの数学体験は対照的です。タイムを測ると集中しやすいタイプで、「1分で何問解けるから、あと何問」と自分と勝手に戦っていたそうです。プレッシャーになる人もいる、と断ったうえでの話です。
さらに、同じ公式なら崩し方のパターンが見えてくるため、問題を解くこと自体がゲームのように感じられたといいます。黒田さんは塾講師や家庭教師をしていた時も、こうしてゲーム性を持たせる教え方をしていたそうです。
当時、数学を楽しくする工夫を考えなかったのかと聞かれた高村さんは、まったく考えなかったと答えます。野球が大好きで、ほかの教科は好きだったので、数学からは逃げたくなったそうです。
国語は「答え」が謎だった、正反対のゲーム感覚
黒田さんは逆に、国語がとても苦手でした。小説の問題を解くたびに「ほんまにその答えなん?」と思っていたといいます。
漢文の返り点のように、ゲーム性のある部分もありました。それでも解釈の仕方への疑問はずっと解けず、その疑問を解決してくれる先生にも出会えなかったかもしれない、と黒田さんは振り返ります。
話をするとか聞くとかいう楽しさを別の角度から知れれば、(自分は)国語好きになってたかもしれないですね。
高村さんにとっての国語は、わかりやすい正解を選べば正解になる、文脈が通っているかを確かめるゲームでした。数学と国語のどちらにゲーム性を感じるかが、二人でまったく逆だったわけです。
| 話者 | 苦手だった教科 | ゲームとして楽しめた教科 |
|---|---|---|
| 高村さん | 数学(楽しさがわからなかった) | 国語(正解を選ぶ文脈のゲーム) |
| 黒田さん | 国語(解釈の答えに納得できなかった) | 数学(タイム計測やパターンの崩し方) |
リズムで覚えると忘れない?語呂合わせからAI作曲まで
黒田さんは、やりたくなる教育のヒントとしてリズムを挙げます。鎌倉幕府の「いい国作ろう」は今では年号が変わっているものの、今でも覚えている人は多いはずです。元素記号の語呂合わせや、本能寺の変を覚える歌、芸人のリズムネタも同じだといいます。
今AIで曲も作れるじゃないですか。それがなんか今で言えばAIで曲作って、それをひたすら聞いて覚える人もおりそうやなと思ったりとか。
黒田さんは、音楽から学ぶことは多いと感じていて、AI作曲で覚えたい内容を曲にすることも、やりたくなる教育につながるかもしれないと考えています。
万博の誘導員に学ぶ、リズムで伝わる「ナッジ」
高村さんがリズムの話で思い出したのが、SNSで見かけた大阪・関西万博の交通誘導員です。万博では入場時間が9時か10時かで並ぶレーンが変わり、駅からぐるっと長い列ができます。
その誘導員は「9時は右、10時は左」とだけ、リズムに合わせて言い続けていたそうです。それだけで、全員がピシッと正しい列に並んでいたといいます。
誘導員本人もSNSで、アナウンスは聞き手がシャットアウトしてしまうため、正しく丁寧に伝えても届かないと書いていたそうです。リズムにすれば一気に耳に入り、それだけ伝われば十分だという考え方です。
高村さんは、これも仕掛け学 ── つい行動したくなる「仕掛け」で、人の行動を自然に変える工夫を研究する考え方。強制せずに望ましい行動を促す点が特徴ですやナッジ ── 行動経済学の言葉で「ひじで軽くつつく」の意味。選択の自由を残したまま、人をそっと望ましい行動へ導く工夫を指しますの一つだと話します。意識的に工夫されたものが、受け手には無意識のまま行動を変えていくわけです。
黒田さんは、学校教育にも教えるべき内容は決まっているものの、面白い教え方をする先生は増えていると見ています。仕掛け学やナッジの発想で向き合えば、学校がもっと好奇心をくすぐる場所になれるのでは、と期待を語ります。
高村さんは、マインクラフトやゲーミフィケーション ── ポイントや競争、達成感などゲームの要素を、遊び以外の分野に取り入れる手法。学習や仕事への意欲を高める目的で使われます、プログラミングでおもちゃを作る取り組みにも触れつつ、教育現場が実際にどうなっているのかを知りたいと話します。二人は、学校の先生など教育をエンタメ化している人をゲストに呼ぶのもいいかもしれない、と話していました。
高齢者ディスコで、座っていた人たちが汗だくになるまで
高村さんは、前日に開いた高齢者向けディスコイベントの話を始めます。参加したのは60〜80代の人たちで、昔はディスコに通っていたものの、何十年も踊っていない人が多かったそうです。
始まる前の参加者は、町内会の集まりのようにベタッと座っていたといいます。それが気づけば、部活や体育の後のように髪が汗で張りつくほど踊っていたそうです。
高村さんによると、最初の15分ほどは周りを見ながらの硬い雰囲気でした。変化を生んだのは、MCを務めたダンサーの声かけだったといいます。
そういう風にこうグルーヴ感が上がっていくと、もうあとはもう上がりきっていくしかないというか。
高村さんは、高齢者ディスコは一般にはまだでも、界隈ではかなりホットな話題で、これからさらに流行るのではと見ています。黒田さんも、ディスコ世代が年齢を重ねる中で、すぐに非日常を作れるディスコイベントは絶対に増えると応じます。
平日昼のディスコはしご?ライト層とガチ層の未来
高村さんは、平日の昼間に60歳を超えた人たちが「今日はこの箱に行こう」とディスコに向かう未来も十分ありうると話します。黒田さんも「ディスコのはしごはありますよね」と乗ります。
黒田さんは、ディスコには階層があると見ています。今も踊り続けるガッツリのディスコ世代と、昔やっていたけれどまだ抵抗感があるライト層です。高村さんも、マハラジャのような老舗の箱は今もあるものの、かなりコアだと話します。
面白いのは、ディスコで踊っている人たちが黒田さんのダンスレッスンに通っていることです。上達してディスコでかっこよく踊りたい、という人たちだそうです。
ライト層の踊って楽しいって人(のディスコ)にガチの人らが来ると思います。
黒田さんは、ライト層のイベントにガチ層が加わることで、その場のヒーローが生まれると予想しています。高村さんは、昔のクラブでのシャッフルダンスのような感じだとたとえました。
高村さんは別のイベントで、参加者が6時間ほど連続で踊っていたことも紹介します。黒田さんは、近所のコンビニに行くのは面倒でも、やりたいことなら人は足を運んで運動し続けると話します。やりたくなる場を作ることが大事だという、今回のテーマにもつながる話です。
漫画・ドラマは最強の教材?キングダムから銀の匙まで
黒田さんは話を学びに戻し、漫画や映画、アニメから学んだことはあるかと高村さんに尋ねます。
高村さんは、『キングダム』や『銀の匙』、『コウノドリ』を挙げます。昔の『美味しんぼ』もそうかもしれませんが、最近は『闇金ウシジマくん』のように現場に張り付いて描く作品も多いといいます。
本当に専門家が漫画で面白くその世界を教えてくれるっていう、こんな分かりやすいエンタメってないなと。
高村さんが特に好きなのは、知ってもらいたいという純粋な思いがある作品です。『銀の匙』なら一次産業、『コウノドリ』なら助産師や命の誕生に光が当たり、それを「チート」だと表現しています。『地面師たち』はエンタメに振り切りすぎている、とも話しています。
黒田さんは、Netflixのドラマ『ダウンタイム』を紹介します。美容整形を扱った作品で、きれいになりたい気持ちと命を天秤にかける場面もあり、何が生きがいなのか、命とどう向き合うのかを考えさせられたそうです。ダウンタイム
黒田さんは、勉強そのものを描いた例として『ドラゴン桜』も挙げます。体を動かしながら声に出して覚える、記憶をゲームのようにするなど、勉強法がそのまま伝わる作品だといいます。
キムタクで人気職業が変わる、エンタメの影響力
高村さんは、『宇宙兄弟』が宇宙産業を大きく押し上げたと感じています。漫画やアニメには、学びをみんなのものにする力があるといいます。
木村拓哉さんのドラマの時代には、キムタクが何を演じるかで翌年の人気職業が変わるほどでした。黒田さんの大学のサークルでは、アイスホッケーのドラマの頃、みんながアイスホッケーの話をしていたそうです。数年後にはまったく見なくなったといいます。
だから影響っていうのはやっぱ大きいんで、なんかこの興味なかったものに興味を持つ仕掛けを作れてるかなと思いますけどね。
高村さんは、興味のないものに人を引きつける専門家はいるのだろうかと問いかけます。コンサルや優秀なデザイナーがそうなのかもしれないものの、定義づけはないと話します。
黒田さんは、各論が多すぎて、すべてに通じる定義を作るのは難しいかもしれないと応じます。それでも、事例を並べるだけでも面白そうだと二人の意見は一致しました。黒田さんがいつも話す、掛け合わせが増えると新しい成果が生まれるという考えにもつながる話です。
学生団体での高村さんの指導は「やってみて」だけ
黒田さんは次に、学校教育と、学校の外で学ぶ社会教育の役割に話を移します。学校の中だけでは限界があるとして、学生団体を立ち上げた高村さんに、どう教えているのかを聞きました。
高村さんは前提として、教員は目指していなかったものの、大学時代の第一志望は大学職員だったと明かします。大学職員にも教育業界の大手にも落ち、そこから起業したそうです。
学生団体のメンバーに伝えているのは、まず「やってみたい」と思うことを探そう、ということだけだといいます。SNS運用でもフェスの出演者募集でも、運営管理でも、大人や同世代との交流でもかまいません。
そこに対してはスキルとか計画性とかいらんから、やりたいと思ったことをどうやったらじゃあ叶うかな、いい場になるかなっていうのをやってみてって。それだけしか言ってないです僕は。
高村さんは、相談されれば話し、初期には人をつなぐことはするといいます。ただ、それ以上やると自分がやっていることになってしまう、という考えです。
黒田さんは、営業をやりたいけれど全然しゃべらない学生がいたらどうするのかと尋ねます。高村さんの答えは「いいんじゃないですか」。メールを送りまくればいいし、アポを取れたことが嬉しい学生もいる、と話します。
一輪車に「まず乗ってみよう」と背中を押す
黒田さんは、高村さんの関わり方を、やらせているのではなく、本人がやりたいことをやってもらっているだけだと受け止めます。
高村さんは、一歩を踏み出せないと思っている子も、踏み出してみると意外にできることがあると話します。漕いでみたら意外と一輪車に乗れた、という感覚に近いそうです。
まず乗ってみる。まず足上げてみよう。で、怖いと思うんだったら、やりたくないと思うんだったら降りようみたいな。
高村さんにとって、漕ぎ方やバランスの取り方は、聞かれれば教えるものです。関わるのはそれより手前の段階、つまり乗ってみるかどうかの部分だといいます。
MBTIで人を分けると、分かった気になってしまう?
黒田さんは、最近の自分は高村さんと違って、人の適性を見るようになっていたと打ち明けます。MBTI ── 性格を16タイプに分類する診断。内向・外向などの指標で自分の傾向を知るツールとして、若い世代を中心に広く使われていますやストレングスファインダー ── 質問への回答から、その人の強みとなる資質を見つける診断ツール。上位の資質を知り、仕事や成長に活かす目的で使われます、動物占いなどで、どんなタイプの人かがある程度わかるからです。
黒田さんによると、名前とMBTIを胸元に書いて私服で参加し、企業の人がそれを見て声をかける就活もあるそうです。内向的なタイプには営業の会社が声をかけないなど、最初からズレを防ぐ使われ方をしているといいます。
ただ黒田さんは、話してみると内向的に見えて外向的な人もいると気づいています。ダンスでも、恥ずかしがり屋に見えて踊り出すと弾けまくる人がいるそうです。
そこで選んじゃうとバーンってその人にカテゴライズを張っちゃう感じがして、分かった気になるっていう自分が嫌っていうだけです。
黒田さんも、血液型の性格診断のように、当てはまる部分だけを見て「やっぱそうやん」となるだけだと話します。ちゃんと人と向き合わなければ、という反省もあったそうです。
高1から35歳まで、多様な出会いが学びを増やす
高村さんの学生団体には、高校1年生から35歳までが参加しています。最近は、34歳の高村さんより1つ年上の、中国出身の大学院生も加わったそうです。
高村さんは、どの地域でもどの年齢でもウェルカムという多様性をいちばん大事にしています。「この人は話しやすい」「合わない」で分けるだけで、学びが急激に減ってしまう気がするからです。
黒田さんは、学校と違って社会教育は自分で選べてしまうからこそ、いろんな人と話せる環境が必要だと応じます。狭いところに行けばもったいなく、新しいつながりや気づきが、やりたいことを見つけることにつながるからです。
最適化だけでは「おもんない人生」になる?
高村さんは、悩んでいる人ほど自分をカテゴライズし、一つの分野ばかりになりやすいと話します。道を極めるのもいいものの、いろんな世界を見る配分は残しておいたほうがいいと考えています。
そこ(いろんな世界を見ること)がないと多分これからめちゃくちゃ模範解答的な答えしか言えなくなるというか。
高村さんは、本人が幸せならそれでいいとしつつも、幸せになる確率は少し下がると思うと話します。
黒田さんはこれを受けて、AIが答えを出してくれる時代だからこそ、答えではなく自分なりの解釈ができるようになることが大切だと話します。
次回は、16年ほどインストラクターを続け、天職だと感じている黒田さんが、みんなが踊りたくなる、楽しいと思ってもらうための考えを話す予定です。
まとめ
今回の対話では、教育をやりたくなるものに変えるヒントとして、人として向き合ってくれる先生、学ぶ楽しさと学び方の両方、リズムやゲーム性、漫画やドラマの力、そして「まずやってみる」を後押しする関わり方が語られました。
- 高村さんは、良い先生は「学ぶ楽しさ・意義」と「学び方」の二面性を持つと話しています
- リズムや語呂合わせ、万博の誘導員の例のように、短くリズムにすると情報は届きやすくなるかもしれません
- 漫画やドラマは、興味のなかった世界に人を引き込む強力な教材になりえます
- 学生団体では、スキルや計画性より「やってみたい」を探し、まず一歩を踏み出すことを大事にしています
- 人をタイプで分けすぎず、多様な出会いや偶然から学ぶことが、AI時代の自分なりの解釈につながります





