頼ったら、自立ではなくなるのか?
長老大学の澤本洋介さんは現在、ケアマネージャーの研修を受けています。研修を通じて「自立支援とは何か」という介護の基本に久しぶりに立ち返る機会を得たことが、今回のテーマのきっかけです。
澤本さんはまず、「そもそも自立とは何か」と問いかけます。介護がいらない状態や、誰にも頼らずに暮らしていける状態を思い浮かべる人は多いだろう、と澤本さんは話します。
ただ、自立をそう定義すると、年を重ねた人の多くが自立から外れてしまいます。年齢とともに介護が必要になることも、たくさんの人や物に頼らなければならないことも当然あるからです。
当然あるわけです。では(頼ることは)自立とは言えないのかというとですね、決してそうではないと思っておりまして。
澤本さんは、頼ることと自立を対立させる考え方に疑問を投げかけます。高齢者の自立をどう考えるかが、この回の出発点です。
六車さんのコラムが示す「高齢者にとっての自立」
長老大学は開所当時から、六車由美さんが提唱する聞き書き介護 ── 利用者の人生の歩みや記憶を、介護者が聞き手となって丁寧に聞き取り、記録していく介護のあり方。民俗学の聞き書きの手法を介護現場に取り入れたものですを参考にしてきました。澤本さんは、六車さんが自立支援についても発信しており、その内容に感銘を受けたと話します。
澤本さんが紹介したのは、六車さんが2017年に地元の静岡県沼津市の新聞に書いたコラム「高齢者の自立支援とは何か」です。澤本さんはその一部を読み上げました。
コラムの中で六車さんは、介護の現場で向き合うお年寄りたちは「老いと病を背負い、皆死に向かって下降しながら生きている」と書いています。リハビリで一時的に身体機能が改善しても、その下降するベクトルは変わらないという認識です。
そのうえで六車さんは、必要な支援があればお年寄りも地域の中で暮らし、社会とつながりを持ち続けられると続けます。コラムの結論は、高齢者にとっての自立とは「健康で介護の必要のない状態のことではなく、必要な支援を受けながら最後まで希望を持って生き続けること」だというものです。
一般的な自立のイメージと、六車さんのコラムが示す自立の考え方は、次のように整理できます。
介護がいらない状態、誰にも頼らずに暮らしていける状態
必要な支援を受けながら、最後まで希望を持って生き続けること
六車さんのコラムはさらに、希望を持って生き続けるための支援とは何かを問います。歩けるようにするリハビリも必要だとしたうえで、一番大切なのは「その人の心と生きる意欲を支えるつながりの回復の支援ではないか」と書いています。
コラムでは、老いと病と死への恐怖を一人で抱える孤独にも触れています。その思いを共有し、これまでの人生を共に振り返って良かったと思える仲間との対話の場があること、そうしたつながりの回復こそが最大の支えになるのではないか、という内容です。
澤本さんはこのコラムに共感し、長老大学でも同じ考えを掲げて、つながりの回復の場所をつくるためにリアルのデイサービスを運営しています。リハビリや機能訓練に関わる職員には、歩けるようにする訓練の大切さに加えて、この視点まで意識してもらうため、コラムを必ず読んでもらっているそうです。
オンラインだからこそ届く「つながりの回復」
長老大学では、オンラインデイサービスでもつながりの回復を大切にしています。澤本さんは、つながりの回復という点では、オンラインデイサービスがある面でリアルのデイサービスを超える力を持つとわかってきたと話します。
澤本さんが例に挙げるのは、様々な事情で外に出られない人や、施設に入所する人です。同じ町内に暮らしていても、施設に入った途端にそれまでの人とのつながりが切れてしまうことは少なくないといいます。
オンラインデイサービスなら、施設に入所してからも参加を続けられます。距離を超えられることも、オンラインならではの強みです。
実際に長老大学のオンラインデイサービスには、高知と大阪に離れて暮らす高校の同級生同士が参加しています。二人は毎週顔を合わせ、声を掛け合っているそうです。
「どうしゆうかよ」というふうなことでですね、声を掛け合うようなね。
そしてまあ「お互い頑張らんといかんね」というようなね、「まあこうやって話せたら上等よ」というようなね、まあそういうような励まし合いというようなことが行われている。
高知と大阪の同級生同士の励まし合いは、オンラインだからこそ実現できたつながりの回復だと澤本さんは捉えています。
年を重ねてできることが減っていくこと自体は、避けられない部分があります。一方で、人とのつながりは、サービスや支援を活用することで回復させたり、増やしたりできる、と澤本さんは強調します。
澤本さんは、こうした自立の考え方を大切にしながら活動を続けていきたいと語り、いつも参考にしている六車さんへの感謝で回を締めくくりました。
まとめ
高齢者にとっての自立は、誰にも頼らないことではありません。長老大学の澤本さんは六車さんのコラムを手がかりに、支えを受けながら最後まで希望を持って生きることこそが自立であり、その支えの中心に「つながりの回復」があると語りました。
- 一般的な「介護がいらない・誰にも頼らない」という自立像では、多くの高齢者が自立から外れてしまう
- 六車さんのコラムは、高齢者の自立を「必要な支援を受けながら最後まで希望を持って生き続けること」と捉えている
- 希望を支える最大の支えは、仲間との対話の場などを通じた「つながりの回復」だとされている
- オンラインデイサービスは、施設入所や距離によって切れがちなつながりを保つ点で、リアルのデイサービスを超える力もある





