終電のあと、中央線でGMAT
番組冒頭、杉山さんが前回のふりかえりをしたあと、話はハーバード留学のきっかけへと進みます。
皆さんこんにちは。番組拠点思考へようこそ。パーソナリティを務めます、スケールアップソリューションズの杉山です。よろしくお願いします。
前回、第7回は山鹿ベース株式会社代表取締役の中原さんにお話を伺いました。一話だけではもったいないと思いまして、第8回もどうぞよろしくお願いします。
お願いします。
留学先を選ぶ時っていうのは、その直近のザ金融を業務として体験する中で、こんなことが勉強したいとか、何かそんなきっかけがあったんですか?
僕、農林中金に入って、金融非金融関係なく農業をどう変えていけるかみたいな思いを、1年目の時から持っていて。ただ最初は海外規制対応、その後に海外支店、その後にアセットマネジメント会社と、全く農業の農字もないみたいな。
海外留学候補生の選抜があってですね、そこに応募して。いかに日本の農業が抱える課題を解決していくかみたいな話を書いて、運良く社内選考で選ばれて。
受験できる学校は世界ランキングの上位に限られていたと、中原さんは振り返ります。
仕事しながらなんで、当時アベノミクス下のアセマネにいて、終電で毎日帰ったんですけど。四ツ谷0時03分の終電に何とか走って乗って、そこからGMATってテストがあるんですけど。
そこからGMATの勉強したの。
GMATを僕、中央線でですね、東小金井とか住んでたんで、勉強しながら帰ってみたいな話で。運良く合格をいただいて、2016年からハーバードに留学って感じですね。
同じスイカが、8000円にも500円にもなる
杉山さんが「農業を変えたい」という思いの原点を尋ねます。ここから、中原さんの原体験が語られます。
農業を変えたいっていう思いがあったと思うんですけども、それはどんなところでそう思ったのか。
僕、それこそ農業なんかもうやりたくないって思ってたんですよ。当時は特にメインはスイカだったんですけど、まず農業って価格決定権を持たないっていうのが構造的にあるわけですよね。
例えば時期がいいタイミングでJAを介して市場に出すと、2玉で8000円で売れた、1玉4000円ついたっていう話でですね。ただタイミングによっては、2玉で500円とかっていう時もあるんです、実際に。
たくさんみんなが出し始めるタイミングだと安くなる。これだけ汗水垂らしてやって、その500円とかで、もっとひどいやつも結構あったりするんですけど。
これは農家さんが手塩にかけて、やることは同じだけど、出すタイミングで(値段が変わる)。
タイミングとかで、結局、非対称な市場っていうところの中で出さざるを得ないっていうところが。
非対称っていうのは。
いわゆる買い手と売り手が、構造的に。株式市場は成熟していて、常に売り手と買い手がたくさんいる、流動性が高い状況を維持しているっていうところなので。
ただ、地方市場だと、バイヤーとセラーが、そのバイヤーが数名しか入ってないみたいなタイミングで、需要がないと、競りですごい安い価格で競られて終わりっていうのがあったりするわけですよね。
マーケティングの4Pを、農家は持てていない
話は、経営学のマーケティング理論から農業の構造へと進みます。杉山さんがMBAの中原さんに、4Pの説明を求めます。
ちょっとMBAの中原さんに4Pを説明してもらいましょう。
4Pって基本的に商品、プロダクトですね。で、プレース、販路みたいなところ。プロモーション、販促活動。最後にプライス、プライシングって話なんですけど。
農家って、JAに出していったら、どんなにこだわりを持ってるものでも、一緒くたにスイカとしてまとめて集められて売るんで、自分のこだわりを出せない。販路も基本的にJAや市場に丸投げ、プロモーションも丸投げ。
プライシング、価格決定権は、出した後に競りの結果、後から振り込まれて、あ、こんなに安かったんだっていうのが後からわかるんですよね。
JAの良さもすごいあるんです。全量買取だったりとか、クオリティコントロールも彼らがやってくれるとか、機能はあるんですけど。ただ、価格決定権を持たないと、事業計画なんか立てられないじゃないですか。
今のはすごい言語化してますけど、子供ながらにそういう現状を結構見てたんですよね。この値段みたいな。
親とか祖父母が笑いながらそんなの言ってるのを見て、これは大変だなっていうので、農家なんかつらんばいっていう話をしてたって感じだったんですけどね。
あんだけ頑張って働いて、それが8000円になると思えば500円にもならない時っていうのを見聞きしてたら、まあこれどういうビジネスってね。
もうめちゃくちゃ大変なんですよ。本当にもう灼熱のハウスの中でですね。
なぜこうなったのか ― 戦後の農地改革とJA
杉山さんが、アメリカの農業との違いを尋ねます。中原さんは、日本の農業が「社会主義的」な構造になった歴史的な経緯を説明します。
勉強されたアメリカの農業は、日本よりも農家さんが価格に対してコントロールを持ってるみたいなこと。
それも間違いないですね。日本って実は結構社会主義的な構造になってるんです、農業というのが。戦後の歴史を紐解くと、なんでJAがこういう存在になってるのかもよくわかるんですけど、資本主義から切り離されるような政策があったんですよね。
地主と小作人という制度って、ある意味もうザ資本主義なんですよ。地主が資本家で、労働者を雇用してオペレーションしてもらうっていう話じゃないですか。
農地改革で、地主から土地を取り上げて小作人に配布するみたいな政策があって。
土地のオーナーと働く人が一緒になったと。
経営体がものすごく増えたんですよ。スモール化したっていうかですね。
かつ経営の経験もない人間も含めて全員に割り振られる。手に負えないっていう話で、規模の経済を実現するために、JAという組合、小さい人たちが集まって、購入する時の規模の経済だったり、販路だったり。
そういった共通機能の役割が、どんどん拡張していったっていうのが背景にあるのかなと。
だから本当に必要な役割だったんだけども、資本主義とはすごい分断されていて。国土や食の安全保障を維持しないといけないから、交付金がどんどん出ていく。自立的な農業を単体で実現するのも難しくなっていって。
逆に言うと、優秀な人が自由競争の世界の方に流れていくことで、農業はどんどん弱体化していくみたいな。
食料自給率は、そこまで悲観しなくていい
アメリカやオランダの大規模農業と、日本の小規模な農業の違いに話が及びます。中原さんは、食料自給率についても独自の見方を示します。
アメリカはまさしく資本主義なんですよ。オランダとかももう本当に大規模で経営していて。米の種まきももう飛行機でやってるとか。
一経営体あたりの耕作面積で、日本ってだんだん拡大してきて、ようやく3ヘクタールとか4ヘクタール、アメリカ600ヘクタールとか。一経営体が経営する規模が全く違うみたいな。何百倍の世界だからですね。
私も仕事で、シカゴから南に3時間ぐらい行って、ディケーターって街なんですけど、見渡す限り大豆で、どこまで行ってもまっすぐな道みたいな。あの規模と、日本の中山間地域の米のサイズと、偉い違いですよね。
食料自給率、日本は低い低いって言ってるけども、日本って国土に対して人口が住みすぎていて。人口密度でいくと、アメリカとかオーストラリアと比較するともう比にならないぐらいなんで。
一人当たりの耕作可能面積でプロットしていくと、超正比例みたいな感じになっていて。日本はやっぱり国土に対して住みすぎだよねみたいなところは。
だからそこはあんまり悲観しないでいいのかなと思ってて。逆に言うと、今、人口減少が進むにつれて、食料自給率が改善する傾向もありうるみたいなですね。
熊本に戻るときに描いていた、二つの構想
2021年に熊本へ戻った中原さん。最初に描いていたビジネスプランについて語ります。
最初の熊本に帰ってくる時のビジネスプランとしては、どんなビジネスを描いてたんですか?
最初は、マーケットプレイスの構築みたいなのを考えてたんですよ。二つあって、BtoBの食のマーケットプレイスと、アグリテック、農業テックのグローバルなマーケットプレイスをちょっと考えたかったんですよね。
オランダとかアメリカって、そういった技術がものすごく進んでる部分がある。国内はそれをゼロからまた開発しようとしてるベンチャーがたくさんあるんですけど、海外で確立されてる技術なら、それを国内に持っていくみたいなところが重要じゃないかと。
ベンチャーってなると、スクラッチでゼロから作るみたいな話でイノベーションを起こす、みたいになるじゃないですか。でも世界に目を開くと、実はもうそこは誰かが取り組んでるかもしれないと。
こういうのに取り組む人たちってものすごい優秀な人たちなんですよね。ドローン市場とかって、今、中国とか、国家戦略として投下できる資本のサイズ感がもうバグってたりとかするじゃないですか。
海外の大企業もその技術革新にものすごいお金を突っ込んでいるから、日本の若い会社が素手で戦ってもなかなか厳しいかもしれないですね。
日本の農家も今困ってるから、いつか(技術が)出来上がるのを待つよりも、外に存在するんだったらそれを持って来るといいよねって話ですよね。
それがかっちゃんのビジネスにどう成り立つイメージ。
基本的にマーケットプレイスに近い話だったんで、ものやテクノロジーの売買が生じれば、一定程度マージンを取り得るって話だったりするんで。最初は商社みたいな動きから、マーケットプレイスでよりスケーラビリティを持てる形でやろうと。
会社が増えていった ―「本来やるべき農業が進んでいない」
熊本に戻って約5年。中原さんは、次々と会社が増えていった経緯を、正直に振り返ります。
僕はだから本当にやっぱ若干、多動気味なんで。
さすが天才かっちゃん。
コウサクっていう会社を2022年に作って、R&D拠点、研究開発拠点になるかなと。自分の実家の農園もどうするんだって、長男なんでずっと言われたんで。
コウサクを熊本に持って帰ろうとなった時に、本店所在地をどこにしようかと考えたら、自分が卒業した小学校が廃校になってて、非常に新しいのに廃校になっててもったいないなって思っちゃって。
その廃校活用を進める会社をまた作っちゃった。それがさっき山鹿ベース株式会社としてご紹介いただいたところですね。
一個思ってたのは、農業の衰退と地方の衰退ってもう不可分だなっていうのは結構思ってたんですよ。人口減少すると事業の継続が難しい、廃業すると雇用の受け皿がなくなって、人が減るっていう悪循環が存在してるなと。
あと人材がとにかくいないので、移住者の雇用の受け皿になる特定地域づくり事業協同組合っていうのも作ったり。海外法人作ったりとか、寄り道がひどくて。
昨年AI関係の会社も作ったりというところで、本来進めるべき農業系が全然進んでないっていうですね、今の僕の悩みですね。今ちょっと本当に整理し直そうと考えてるって感じ。
やっぱり学校自体、古さ元々なかったじゃないですか。建って何年ぐらいだっけ。
25年ぐらいで廃校になったんですよ。
っていう建物を廃校にしなきゃいけないほど、地方の人口減少のスピードが速いってことなんですよね。
なぜAIなのか ― 人が足りない地方こそ
話は、昨年設立したAI Strategy Partnersへと移ります。農業や地方という文脈から、なぜAIなのか。杉山さんが背景を尋ねます。
AIってもう最先端も最先端テクノロジーみたいな、領域がちょっと違うと思うんですけど、これはどんな背景ですか。
全然違うようで、まさしく救世主じゃないですけども、日本って労働生産性が明確に低いんですよね。人口減少が世界でもより早く進み始めている。その中でAIがもう本当に必要なソリューションだなという思いがあってですね。
今年に入ってからAIエージェントみたいなところは、今まで以上に自律的に動くようになってきた。人の課題を抱えている地方こそ、まさしく必要で。もう本当に社会のインフラみたいなところになるかなと。インターネットと同じようで。
もともと着目してるのは、その地方にこそ使いでがあるんじゃないかとか、そういう視点なんですか。
LLMみたいなのをゼロから作っていくのは、アンソロピックとかOpenAIとかが超絶巨大資本でやってる。そこをゼロからやるよりは、業種をちゃんと絞って、農業だったら農業に活用していくとか、そういう話になってくるかなと。
基本、ビジネスって誰かの課題を解決するものだと思ってるんで。日本っていうところが、今、活用できるような局面にあるし、本当に活用していかないと、なかなか大変な部分もあるなというところですね。
我々スケールアップソリューションズは地方とか若い会社さんの事業成長支援をしていると。人がいない、リソースが足りないという課題がある地方こそ、AIを入れたらグッと解決できるんじゃないかなという意味で、相性の良さがもともと気になってたんですよね。
本当に相性はいいと思いますね。人が余ってるところがAI入れたら、もっと人が余っちゃう。日本って労働基準法とかで、欧米と違って人材の流動化がすごい難しい部分も正直あるじゃないですか。
人が余ってるとこがAI活用すると課題がなかなか解決されないんですけど、逆に人が足りない地方はこれ活用しない手はないよねって話で。中小企業、ベンチャー、そういったところは活用していくのが一番いいよねと思いますね。
オランダ ― 九州ほどの面積で、輸出額は世界2位
最後に、これからの5年、10年についての問いから、中原さんのルーツである農業と、オランダの話へと展開します。
中原さんの次の5年、10年って、どんな形でご自身の膨大な知見を注がれていくのかなと。
まず一個は、ちゃんと整理して絞りたいなというのもあるんですけど、その中で農業っていうのは僕の中で大きいなと思っていて。ずっと道それながら、そこがルーツとしてもあるし、パッションとしてもあるなと。
今、家族がオランダに住んでたりするんですよね。オランダって九州と同じサイズぐらいなんですけども、貿易収支でいくと、アメリカに次いで輸出額世界2位みたいなところがあって。
九州ぐらいの面積で?
そうなんですよ。ただ、オランダの農業って日本が真似できるものじゃないでしょってよく言われるんですよ。一番はやっぱ地形。日本はいわゆる中山間地域がすごい多い。
オランダはネーデルランドで低い土地って意味で、一番高い山が300メーターぐらいなんですよ。だからもうめちゃくちゃフラットなんですよ。
ただ、農業に適してるかというと、そうでもなかったんです。風車のイメージあると思うんですけど、干拓地なんですよ、ほとんど。国土の4分の1はもう海水の下にあった。土地は全然肥えてなくて。
すごい合理主義で、いかにこの状況から農業をできるかっていう発想の中で、創意工夫を重ねて。今、オランダ農業ってほとんど土使わないんですよね。
まさにイノベーションですよね。
本当に。だから是々非々で生き残るために、それをいかに進めてきたか。無駄をとにかく嫌うとか。合理主義で物事を判断して、安楽死だったり、同性婚とか、世界で一番最初にどんどん進めてって。
グローバル水準でいろいろと物事を見つつ、日本に還元できることはしていきたいなっていうようなことと考えているって感じです。
今回のお話、いかがだったでしょうか。ご感想やご質問はXで拠点思考、ハッシュタグをつけて投稿いただくか、Apple PodcastやSpotifyのレビューコメント欄にお寄せください。
いや、中原さんも本当にいろんな拠点、国もそうだし、その経験を重ねてることによってこの思考ができたっていうのが、無理やり拠点思考につなげてますけれども、やっぱり拠点ってすごいなということを感じた回でした。
ありがとうございました。
まとめ
後編では、中原さんが農業を変えたいと思った原点が語られました。同じスイカが8000円にも500円にもなる価格決定権のなさは、戦後の農地改革以来の構造に根ざしています。マーケットプレイス構想から会社が次々と増え、いまはAIへとつながる活動が、いろいろな拠点での経験の上に成り立っていることが見えてきた回でした。
- 農業は価格決定権を持たない構造にあり、同じスイカが出すタイミングで8000円にも500円にもなる
- 戦後の農地改革で経営体が小規模化し、JAが規模の経済を担う社会主義的な構造ができあがった
- 食料自給率は、国土に対して人口が住みすぎている面もあり、必ずしも悲観しなくてよいという見方もある
- 人が足りない地方こそAIを活用しない手はなく、農業と地方の課題解決につながる
- 中原さんの思考は、熊本・アメリカ・オランダなど、いろいろな拠点での経験が重なって形づくられている


